□遠野家居間
【琥珀】
「ですから、ホタテのバターソテーにはブルゴーニュ産がよろしいのではないでしょうか」
「ですから、ホタテのバターソテーにはブルゴーニュ産がよろしいのではないでしょうか」
【秋葉】
「そんな事はありません。同じフランスでもボルドーの方が向いているんじゃなくて? ピュリニーは少し舌に辛いわ」
「そんな事はありません。同じフランスでもボルドーの方が向いているんじゃなくて? ピュリニーは少し舌に辛いわ」
【翡翠】
「……そうでしょうか。わたしは白ワインよりは赤ワインが適していると思うのですが」
【琥珀】
【秋葉】
「……………………」
「———————まあ、翡翠の味覚は特別だから」
それきり無言で見詰め合う三人。
まったく、朝のお茶会だっていうのになんともいえない緊張感が漂っている。
「ああもう、いいじゃないかそんな話! 味の好みなんて人それぞれだろ。ようはおいしければそれで幸せだっていうのに」
【琥珀】
【翡翠】
【秋葉】
……う。こと料理の味つけに関しては三人とも譲れないものがあるらしい。こっちからしてみれば三人が言っている事なんて呪文みたいなものだからてんで興味が湧かないのだが。
……う。こと料理の味つけに関しては三人とも譲れないものがあるらしい。こっちからしてみれば三人が言っている事なんて呪文みたいなものだからてんで興味が湧かないのだが。
「ったく。まともに調理ができないくせに注文だけはうるさいんだからな、秋葉は」
【秋葉】
「なっ————! 失礼ですね、近頃は私だって少しは———」
【琥珀】
「なにをおっしゃるんですか志貴さん! 秋葉さまは厨房になんてたたれなくていいんです。秋葉さまは遠野家のご当主なのですから、そのような事をなされては他に示しがつきません」
【秋葉】
「…………そうね。まあ、琥珀の言うとおりだわ」
何か複雑なしかめっ面をして黙り込む秋葉。
きっと少しは料理が出来るようになった、と言いかけたのだが、今は琥珀さんの言葉に合わせたほうが有利だと判断したんだろう。
「…………そうね。まあ、琥珀の言うとおりだわ」
何か複雑なしかめっ面をして黙り込む秋葉。
きっと少しは料理が出来るようになった、と言いかけたのだが、今は琥珀さんの言葉に合わせたほうが有利だと判断したんだろう。
……まったく、ホントにプライドが高いというかなんというか。秋葉が琥珀さんをうならせるぐらいの腕前になるまで、秋葉の手料理というものにはお目にかかれないに違いない。
「……まあいいけど。ところでどうしてワインの話になんかなったんだ? まさか、また宴会をしようっていうんじゃないだろうな。秋葉みたいなザルにお酒を飲ませるぐらいなら、琥珀さんたちの給料をアップさせたほうがマシだぞ」
【翡翠】
【琥珀】
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
二人は無言でよく分からない合図を交わしている。……最近、琥珀さんと翡翠の意思疎通はテレパスじみていて困る。いくら何を言いたいか解るからって、周りに人がいる時ぐらいは会話をしてほしい。
【秋葉】
「ご自分の不甲斐なさを棚にあげないでください。それにですね、ざるではなく酒豪と言ってくださいません? 少なくとも私はお酒を楽しんで飲みますから」
「いえいえ、未成年の飲酒は法律で禁止されています」
「ご自分の不甲斐なさを棚にあげないでください。それにですね、ざるではなく酒豪と言ってくださいません? 少なくとも私はお酒を楽しんで飲みますから」
「いえいえ、未成年の飲酒は法律で禁止されています」
【秋葉】
「……。ひとつ訊きますけど、兄さんは私を馬鹿にしているんでしょうか?」
「まさか。君たちが自分の年齢を解っていないようだから、老婆心ながらも忠告しただけだって。
で、どうしてワインなんだってば。今夜は宴会だー、なんて言うんなら有彦んところに逃げ込むからな」
「……。ひとつ訊きますけど、兄さんは私を馬鹿にしているんでしょうか?」
「まさか。君たちが自分の年齢を解っていないようだから、老婆心ながらも忠告しただけだって。
で、どうしてワインなんだってば。今夜は宴会だー、なんて言うんなら有彦んところに逃げ込むからな」
【琥珀】
「あら、それでしたら乾さんをお呼びして一席設けるだけですね」
にっこりととんでもないコトを言う琥珀さん。
にっこりととんでもないコトを言う琥珀さん。
「……やめれ。そんなコトをしたらいつのまにかアルクェイドやシエル先輩が混ざっていて、翌朝とんでもない事になっちゃうぞ」
っていうか、そんな夢を見たような見ないような。
個人的に気に入っていたので是非パノラマで見たかったけどこればかりは仕方がないのです。
【翡翠】
「志貴さま、そのような事はありません。アルコールの話になったのは、中庭に住み着いた猫がお酒を飲むようだからです」
「……へ? なにそれ、初耳。中庭に猫なんて住み着いたのか?」
「はい、先日から住み着いているようです。以前お屋敷で飼われていた猫はみなアルコールを好んでいましたので、小皿で与えたところいたくお気に召したようです」
「……へ? なにそれ、初耳。中庭に猫なんて住み着いたのか?」
「はい、先日から住み着いているようです。以前お屋敷で飼われていた猫はみなアルコールを好んでいましたので、小皿で与えたところいたくお気に召したようです」
【琥珀】
「そうなんですよー。なんか翡翠ちゃんは気に入られてるようなんです。わたしや秋葉さまが近寄ると逃げてしまうんですけどね」
「……ふうん。さすが野生動物、直感的に恐い人が分かるってコトだね」
なるほど、と心底頷く。
【秋葉】
「へえ。兄さん、今のはどういう意味合いで口に出た言葉なんでしょうか?」
「へえ。兄さん、今のはどういう意味合いで口に出た言葉なんでしょうか?」
【琥珀】
「同感です。今のは少し、聞き流せる言葉ではありません」
二人は結託して睨みつけてきた。
「同感です。今のは少し、聞き流せる言葉ではありません」
二人は結託して睨みつけてきた。
「ぁ———いや、つまり」
……まいった。
つい口を滑らせたってコトもあるけど、どうして朝のお茶会だとこう秋葉たちに負かされる風になってしまうんだろう———?