日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

海嶺108

时间: 2020-03-18    进入日语论坛
核心提示:鴎     四 岩松、久吉、音吉の三人は、もう長いこと黙りこくって、死んで行った水主《かこ》たちの柳行李《やなぎごうり》
(单词翻译:双击或拖选)

     四
 岩松、久吉、音吉の三人は、もう長いこと黙りこくって、死んで行った水主《かこ》たちの柳行李《やなぎごうり》を一つ一つあらためていた。今までは、たとえ死者の行李とはいえ、他の者の行李に手をふれることはためらわれた。だが、やがて上陸する時のために、三人は、遺族に持ち帰る遺品を選びはじめたのだ。音吉は、兄の吉治郎の行李をひらいていた。紺の刺し子、膝《ひざ》のあたりの少し擦《す》り切れた股引《ももひ》き、木綿縞《もめんじま》の着更《きが》え、一つ一つ見馴《みな》れたものばかりだ。これを着、これをはき、胴の間で、大きな声で何か言っていた姿が目に浮かぶ。
(兄さ、陸が見えてきたで)
音吉は心の中で呼びかける。行李の隅《すみ》には、思いがけなく鳩笛があった。いつ、どこで買ったものか、音吉にはわからない。鳩笛は、裸のままころがっていた。その鳩笛を、音吉はそっと口に当てて吹いた。もの悲しい音色がひびいた。岩松と久吉が音吉をふりかえった。
「何や、鳩笛やないか」
尋《たず》ねる久吉に音吉がうなずいた。
「ああ、兄さのや」
岩松も久吉も黙ってうなずいた。
(この鳩笛を、兄さは吹いたことがあるのやろうか)
吉治郎の唇《くちびる》がこの鳩笛にふれたことがあるのかと思うと、音吉は懐かしさに胸が迫った。
(きっと、八幡社の祭りで買ったんやなあ)
一瞬、小野浦の祭りが目に浮かぶ。音吉はその鳩笛を、形見に持って帰ろうと思った。形見に持って帰る物は、肌身《はだみ》離さず持ち歩ける小さなものでなければならない。
吉治郎の行李《こうり》の中をきちんと整理し、次に開いたのは仁右衛門の行李だった。吉治郎の行李とちがって、少し大型の行李であった。
(おやじさん)
音吉は唇《くちびる》を噛《か》んだ。
(あんなに……喜んでいたのに)
昨日の昼のことを、音吉は思い返した。
岩松、久吉、音吉の三人は、昨日、櫓《やぐら》の上で彼方の山脈を見つめていたが、やがて水主《かこ》部屋に降りて来た。と、仁右衛門が眠りから目をさまして、
「何かあったんか」
と、三人の顔を見上げた。三人の顔に浮かぶ興奮の色を、いち早く見て取ったのだ。岩松が言った。
「水主頭《かこがしら》! 驚いちゃいけねえ。とうとう陸《おか》が見えたんや」
枕《まくら》もとに膝《ひざ》をつき、岩松は声をふるわせた。
「な、なに!? 陸が見えたと? 陸が?」
水主頭の歯ががちがちと音を立てた。黄色くむくんだ顔に血の色がのぼった。
「うん。陸だ。確かに陸だ」
岩松は立ち上がって開《かい》の口の引き戸をあけ、そこに坐《すわ》って、遥《はる》か彼方《かなた》に目を凝らした。が、すぐさま立ち上がると、
「水主頭《かこがしら》! ここからでも見えるで、音、久公、さ、おやじさんの布団を、ここまで運ぶんだ」
と促した。音吉と久吉は、静かに仁右衛門を、布団のまま開《かい》の口まで引きずって行った。
「いいか、水主頭」
岩松はそっと仁右衛門の肩を抱き起こし、うしろから支えた。音吉が素早くかいまきで仁右衛門の体を包んだ。
「ほら、白く見えるだろう。あれが陸や」
岩松が指さす。
「おう! あれが陸か」
仁右衛門の声もふるえた。
「そうや、あれが陸や、あれが……待って待って、待ちくたびれていた陸や」
「そうかあ、とうとう、陸が見えたかあ」
「うん、見えた。あとひと息で、あの陸に上がるんや」
「…………」
仁右衛門は何も言わずに、幾度も幾度も只《ただ》うなずいた。目尻から涙がひと筋流れている。音吉も久吉も、たまらなくなって再び泣いた。
「よかったのう」
元の場所に布団を戻《もど》した時、仁右衛門はしみじみと言った。ひどく優しい声であった。
その時の声が、今もまだ、まざまざと音吉の耳にある。
だが、それから半刻も経たぬうちに、仁右衛門の容体が急変した。激しい感動が、衰弱していた心臓を悪化させたのかも知れない。まともに受けた冷たい風も、死を早めたのかも知れない。安堵《あんど》が、かえって生きる力を奪ったのかも知れない。何《いず》れにしても、音吉たち三人にとって、それは余りにも早過ぎる死であった。
(おやじさん、何で陸に上がるまで、生きていられせんかった)
仁右衛門の行李《こうり》を整理しながら、音吉は歎《なげ》いた。仁右衛門の持ち物は、吉治郎とは比較にならぬほど多い。着更《きが》えは三枚も入っており、下帯《したおび》の数も多い。剃刀《かみそり》、小刀、手拭《てぬぐ》い、そして縞《しま》の財布もあった。博打《ばくち》に強い仁右衛門は、財布の金も多かった。片膝《かたひざ》を立て、よく透《とお》る声で、
「丁《ちよう》!」
「半!」
と叫んでいた姿が思い出される。
「いい人やったなあ」
死なれてみると、その親しみやすい性格が改めて思い出される。
(もう一度、元気になってくれたらよかったのに)
今は、岩松と久吉と自分の、たった三人になったのかと、やりきれない思いがする。体の頑丈《がんじよう》な水主頭《かこがしら》が生きていてくれたら、どれほど心強かったことかと思う。
(さぞ陸に上がりたかったろうに……)
そう思いながら、手は仁右衛門の残した品々をまとめていく。と、音吉ははっとした。行李の底に赤子の涎《よだれ》かけがあったのだ。幾度か洗ったらしい、しかし白い涎かけだった。
(おやじさん!)
豪快《ごうかい》そうに見えた仁右衛門も、己《おの》が乳呑《ちの》み子のことをいつも心にかけていたのだと、初めて音吉は知った。その涎かけを音吉はくるくると小さく巻いた。これを持って帰ろうと思ったのだ。
音吉は岩松と久吉のほうを見た。二人共それぞれ黙りこくって行李《こうり》の整理をしている。ふっと岩松の手がとまった。何を見たのか、岩松の背が動かない。音吉はその岩松の背をじっとみつめていた。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%