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シャドウテイカー フェイクアウト02

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:第一章 「亡失」    1 藤牧《ふじまき》裕生《ひろお》は、どうにか島まで泳ぎ着いた。突然、水をかいていた手足に砂が触
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第一章 「亡失」
    1
 藤牧《ふじまき》裕生《ひろお》は、どうにか島まで泳ぎ着いた。
突然、水をかいていた手足に砂が触れた。ざあっと音を立てて波が引いていくと、彼は濡《ぬ》れた砂の中に四つんばいになっていた。
裕生はよろめきながら立ち上がる。水の中にいたせいか、体がひどく重かった。
(ここまで来るの、最近では珍《めずら》しいな)
聞こえるのは波の音だけだった。彼は人気《ひとけ》のない夜の海岸に一人で立っている。目をこらすと、星も月もない夜空の下に、真っ黒な陸地のシルエットがぼんやり見えた。
ここは夢の中だった。
子供の頃《ころ》から何度も繰《く》り返し見て来た夢だ。途中《とちゅう》で目が覚めてしまうこともあるが、いつも暗い波間を漂《ただよ》うところから始まり、やがてこの島へ流れ着く。
裕生はひどく傾斜した砂浜を登り始めた。数歩も歩かないうちに、彼は自分が前へ進めないことに気づいた。足を踏み出すと、そのたびにきめの細かい砂が崩《くず》れてずるりと足が滑《すべ》る。砂を蹴散《けち》らすように足の動きを早めてみたが、やはり同じことだった。
(……やっぱりここまでか)
裕生は諦《あきら》めて膝《ひざ》をついた。ここから先へはいけたためしがない。彼は目の前の急な傾斜を見上げる。砂の坂の一番上に、誰《だれ》か腰かけているのが見えた。かろうじて輪郭《りんかく》が見えるだけで、顔かたちまでは見分けることはできない。
これもいつも通りだった。砂浜で誰かを見かけるところで終わる——ただ、相手はその時々で違う気がする。髪を長く垂らした女のように見えることもあれば、背の高い男のように見えることもある。
今、彼を見下ろしているのは子供らしい。疲れ切っているのか、首をがくりと傾けている。まるで置物のようにぴくりとも動かなかった。なんとなく子供の頃の自分に似ているような気がした。長い間入院していた頃の自分。そういえば、着ているのも病院の寝間着《ねまき》のように見える。
ふと波の音に混じって、この場所に似つかわしくない耳障《みみざわ》りなアラームが聞こえ始めた。
(そろそろ目が覚める頃かな)
と、冷静に彼は思った。もう、この夢の中ではなにも起こらない。そう思いかけた時、
「……して」
「えっ?」
裕生《ひろお》は傾斜を見上げる。確《たし》かに目の前の少年が喋《しゃべ》ったような気がした。
「今、なにか言った?」
「あいつをたおして」
囁《ささや》くような小さな声だが、今度は聞き取ることができた。しかし、背後《はいご》のアラームの音は徐徐に大きくなっている。
「あいつって誰《だれ》?」
「あいつはうそをつくんだ。いまたおさないと、もうじかんがないよ」
裕生ははっと息を呑《の》んだ。これがもし彼自身の分身だとしたら、「あいつ」というのがなんなのかははっきりしている。彼の幼なじみにとりついている「もの」——決して油断《ゆだん》してはならない相手。
「人間が『あいつ』と戦うにはどうしたらいいと思う?」
一瞬《いっしゅん》の間。今やアラームの音は耳を聾《ろう》せんばかりになっていた。裕生は耳を澄《す》ませる。少年の言葉がはっきりと聞こえた。
「ちからがなければ、だましてたおすんだ」
 目を開けた時には、裕生は自分の部屋のベッドの中にいた。
(……ああいうの、今まであったっけ)
夢の中とはいえ、妙な会話だったと思う。
ふと、裕生は部屋の中に他《ほか》の人間の気配《けはい》を感じた。そう言えば、目覚まし時計のアラームもいつのまにか止まっている。
机の上に置いてあったはずの時計を見ようとすると、Tシャツの上にエプロンをつけた背の低い少女が立っていた。髪は肩よりも少し長め、整った目鼻立ちと白い肌。ちょっと無表情なことをのぞけば、文句なしにかわいい女の子だった。裕生の目覚まし時計を手に持っている。
「……アラーム、鳴ってましたから」
言《い》い訳《わけ》をするように雛咲《ひなさき》葉《よう》は言った。普段《ふだん》、彼女はこの部屋に入ろうとしない。裕生がなかなか起きないので、仕方なくアラームを止めに来たと言いたいのだろう。
「あ、ごめん。昨日、目覚まし止めとくの忘れてた」
八月に入ったばかりだった。夏休みの最中に目覚ましをかける必要はないのだが、昨日はたまたま高校の登校日で早く起きる必要があった。アラームの設定を解除するつもりで、そのまま忘れてしまったのだった。
「朝ごはん、できてます」
そう言い残して葉は部屋を出ていった。ここに住み始めた時から朝食と昼食は葉が作ることになっている。いちいちエプロンをつける必要はない気もするのだが、形から入らなければならないと思っているらしい。今ひとつ似合わないのは、真剣に料理を始めてからまだ日が浅いせいかもしれない。
団地の最上階にある藤牧《ふじまき》家に葉《よう》は身を寄せている。彼女が一人で住んでいた部屋も同じ棟《むね》の一階にある。もし、彼女の身に異変が起こらなければ、きっとそのまま一人暮らしを続けただろうと裕生《ひろお》は思う。
雛咲《ひなさき》葉は「カゲヌシ」と呼ばれる怪物に取りつかれている。カゲヌシとは異世界からやって来た「生物」であり、人間に寄生しなければ存在することができない。その人間の抱えている秘めた願望《がんぼう》——「ねがい」がカゲヌシを引き寄せ、無意識《むいしき》のうちにカゲヌシに名を与えた人間は「契約者」となる。
カゲヌシは契約者が名を呼ぶことによって具現化し、彼らの秘めた「ねがい」をかなえるかわりに、人間を捕食していく。カゲヌシはやがて成長し、契約者をも完全に支配してしまう。
葉に取りついているカゲヌシの名は「黒の彼方《かなた》」——双頭《そうとう》の黒犬の姿をしている。このカゲヌシだけは人間ではなく他《ほか》の同族をエサとしている。そのため「同族食い」として敵視され、同時に恐れられる存在でもあった。
さっきの夢の内容を思い出しながら、裕生はベッドから立ち上がる。裕生は葉が「黒の彼方」に取りつかれていることを知っている数少ない人間だった。どのような形でかは分からないが、いつかは葉《よう》は自我を失うはずだった。

「黒の彼方《かなた》」から葉を解放するのが裕生《ひろお》の目的だったが、そのためにはあのカゲヌシを倒さなければならない。しかし、人間にはカゲヌシを倒すような力はない。それが裕生の悩みだった。あの夢はそれを反映しているのかもしれない。
「……騙《だま》して倒す、か」
と、裕生は口の中でつぶやいた。
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