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シャドウテイカー フェイクアウト08

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:3 裕生《ひろお》は加賀見《かがみ》団地の公園のベンチに座っている。(やっぱり来ないな)彼はこのあたりから、自分の住んで
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 裕生《ひろお》は加賀見《かがみ》団地の公園のベンチに座っている。
(やっぱり来ないな)
彼はこのあたりから、自分の住んでいる棟《むね》の入り口をずっと見ている。かろうじて今いる場所は木陰《こかげ》になっているが、それでも座っているだけで汗が噴《ふ》き出してくる。あたりの景色は日射《ひざ》しで白くかすんでいるようだった。
三日前に裕生《ひろお》は雛咲家《ひなさきけ》のドアに描《えが》かれていた×印の落書《らくが》きを消した。ほとんどの人間は知らないことだったが、あの落書きには意味がある。「黒の彼方《かなた》」の肉体に刻まれた「サイン」——カゲヌシの個体を識別《しきべつ》するためのしるしと同じものだった。カゲヌシがそこにいることを示すかのように、何者かがカゲヌシの居場所を回っては、その建物に「サイン」を描いていく。
裕生は雄一《ゆういち》の調《しら》べている「黄色《きいろ》いレインコートの男」が、その落書きの犯人ではないかと疑っていた。一ヶ月前、初めて雛咲家のドアにサインを見つけた日、裕生は黄色いレインコートを着た人影《ひとかげ》が立ち去っていくのを見ている。
「カゲヌシ」の居場所を示して回るのは、人間に対する警告《けいこく》としか考えられない。兄の書きかけのレポートには、レインコートの男は「人間にカゲヌシの居場所を教えてくれる」存在と書かれている。真実が噂話《うわさばなし》の形で流れているのではないかという気がした。
「黒の彼方」を倒すには、まずこの男と会わなければならない、というのが裕生の結論であり、あの落書きを消したのもそのためだった。
あの「サイン」は何度消してもいつのまにか描《か》かれてしまう——つまり逆に言えば、レインコートの男を呼ぶには落書きを消せばいい[#「レインコートの男を呼ぶには落書きを消せばいい」に傍点]。
この三日、裕生はずっと待ち続けていた。むろん、「サイン」を知ることができる相手が、ただの人間ではありえないことは承知している。カゲヌシとの契約者か、あるいはもっと危険な存在かもしれない。しかし、葉《よう》のことを思えばなりふりかまってはいられない。覚悟を決めたつもりだったのだが。
今日に至るまで何事も起こっていない。
裕生はコンクリートの建物を見上げる。最上階のベランダに、干《ほ》した洗濯物《せんたくもの》を取りこんでいる葉の姿がある。ふと、彼女が裕生の方を見た——軽く手を振ると、怪訝《けげん》そうな顔をしながら部屋の中に戻っていった。
(……「黒の彼方」のせいかな、やっぱり)
男が現れない理由は、それ以外に考えられない。同じように「サイン」に遭遇《そうぐう》した二人のカゲヌシの契約者は、落書きを消しても「気がつくと」また元のよう描かれていると言っていた。つまり、その付近にカゲヌシがいる時は、相手は決して「サイン」を描きに来ないということだ。
裕生はこめかみのあたりに指をあてて考え始めた。ということは、「黄色いレインコートの男」と会うには、葉を遠ざけて裕生自身はここに残らなければならない。問題は葉がまったく加賀見《かがみ》団地を離《はな》れようとしないことだった。外出するような気分になれないことぐらい裕生にも察しはついているが、それでもなにか手を打たなければならない。
ふと、足音が公園のベンチに近づいてきた。顔を上げると、目の前に葉が立っていた。
「なにしてるんですか」
あの「黒の彼方《かなた》」を倒す方法を探してるんだ。もう時間がないから。
「ううん。別に。ちょっと考えごと」
「……」
裕生《ひろお》は「黒の彼方」を倒すと決めた時から、自分がなにをしようとしているのか彼女に説明するのをやめた。彼女に伝えるということは、「黒の彼方」にも伝えるのと同じだ。こちらの動きを悟られてはならない。
本気で戦うつもりであれば。
本気で彼女を救うつもりであれば。
「どこかに出かけるの」
「団地のスーパーに」
最近では彼女の唯一《ゆいいつ》の外出先だったが、その程度|離《はな》れたぐらいでは「レインコートの男」は現れないらしい。
「そう」
裕生は彼女の目を見ずにつぶやいた。
葉《よう》はなにか言いたげにその場でもじもじしていた。彼女が不審《ふしん》に思っているのは分かっている。しかし、こちらの意図を説明するわけにはいかない——なにかうまい方法があればいいのだけど。
「スーパー、いかないの」
一瞬《いっしゅん》、葉はなにかを言いかけて、結局その言葉を呑《の》みこんだらしかった。
「……いってきます」
葉は踵《きびす》を返して歩き始めた。少しうつむき加減の彼女の背中を見送りながら、裕生は唇《くちびる》を噛《か》んだ——あまり時間がない。
彼女の姿が見えなくなってから、裕生はベンチから立ち上がった。少し離れたところに、二人乗りの錆《さ》びたブランコがある。なんとなく歩いていって、誰《だれ》も乗っていない箱《はこ》を指先で押す。このブランコにも葉と裕生には思い出がある。
(まだ、あのこと憶《おぼ》えてるのかな)
金属の軋《きし》むかすかな音に耳を傾けていると、
「藤牧《ふじまき》!」
葉とは違う女の子の声が聞こえた。はっと振り向くと、公園の外にみちると佐貫《さぬき》が立っている。裕生は二人の方へ走っていった。
「二人ともどうしたの」
と、裕生は言った。佐貫もみちるも、普段《ふだん》学校へ持っていくバッグを肩に下《さ》げている。
「はあ?」
佐貫《さぬき》はあきれたように眉《まゆ》をしかめた。
「お前ボケてんのか。夏休みの課題《かだい》、みんなで協力してやるって話だったろ。うちでやろうって言ったのお前じゃないか」
そう言えば、この前の登校日にそんな約束をした気がする。この数日、それどころではなかったのですっかり忘れていた。
「……今日だっけ」
「今日だろ。上がっても大丈夫か?」
「別にそれは平気だけど……」
裕生《ひろお》は言《い》い淀《よど》む。この場所を離《はな》れるのにためらいはあるが、どうせこのまま見張っていても何も起こらないだろう。
「なんでもない。いこう」
裕生は二人と並んで歩き始めた。ふと、みちるがいたずらっぽい顔で裕生を肘《ひじ》でつつく。
「さっきブランコでなにしてたの? なんかすごく真剣な顔してたけど」
裕生はあいまいに笑って答えなかった。
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