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シャドウテイカー フェイクアウト19

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:第四章 「嘘つき」1 葉《よう》が目を覚ましたのは、朝の十時を回ってからだった。昨晩《ゆうべ》に比べるとだいぶ具合はよく
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第四章 「嘘つき」

 葉《よう》が目を覚ましたのは、朝の十時を回ってからだった。
昨晩《ゆうべ》に比べるとだいぶ具合はよくなっているし、ひとまず立ち上がることもできた。食欲は感じなかったが、なにか体に入れておかなければならない。
彼女はパジャマ姿のまま部屋を出た。家の中はしんと静まりかえっている。雄一《ゆういち》は今日も出かけたのだろうし、裕生は自分の部屋にいるのだろう。彼女は廊下の斜《なな》め前にあるキッチンへ入っていった。
「あ」
不意に頭の左側がずきりと痛んだ。彼女は頭を押さえたまま、どうにかキッチンの椅子《いす》に腰を下ろす。そして、そのまま頭痛が治まるのを待った。
蜥蜴《とかげ》のカゲヌシに遭遇《そうぐう》した時の記憶《きおく》は、「黒の彼方《かなた》」を呼び出した瞬間《しゅんかん》に途切《とぎ》れている。次に気がついた時には夜になっていて、団地の布団に寝ていた。みちるが無事かどうかがなによりも心配だったが、裕生《ひろお》の話では大丈夫だという。ただ、「黒の彼方《かなた》」の「眠り首」が敵のカゲヌシに食われてしまったらしい。「黒の彼方」は倒れ、傷ついていた蜥蜴《とかげ》の方は逃げ出したという。その後で裕生が葉《よう》を連れ帰ったと聞いた。
みちるがカゲヌシを見てしまったことを話すと、裕生はそのことは大丈夫だから心配しなくていい、と言った。みちるは詳しい事情を聞かずに、とにかく黙《だま》っていてくれると約束してくれたそうだ。
「あの……本当に大丈夫なんですか?」
「うん。大丈夫だよ」
裕生はきっぱり言い切ったが、葉は不思議《ふしぎ》に思った。見間違いだと思ってくれる状況ではなかったし、みちるなら裕生を心配して色々|尋《たず》ねるのではないだろうか。なにか葉には話していないことがある気がしてならなかった。
そう言えば、数日前から裕生の様子《ようす》がおかしい。急に神社のバイトにいけと言い出したのもそうだったし、昨日の夜も彼女が目を覚ました時はどこかへ出かけていて、何時間も戻って来なかった。
(ひょっとして、忘れてしまったのかも)
昨日のことも本当はもっと知っているはずなのかもしれない。そう思うと、とたんに知りたいと思う気持ちが萎《な》えた。記憶《きおく》が失われたかどうか確《たし》かめるのが恐ろしかった。
その時、裕生がキッチンへ入って来た。
「もう起きて大丈夫?」
「昨日よりは平気です」
「無理しちゃ駄目《だめ》だよ」
裕生は冷蔵庫《れいぞうこ》を開けて、牛乳のパックを出した。それからコップに注《そそ》ぎ、立ったまま飲み始める。一緒《いっしょ》に暮らし始めて分かったのだが、時間がない時の裕生の習慣《しゅうかん》だった。
「あ、朝ごはん」
慌《あわ》てて葉は腰を浮かしかけた。朝食は彼女が作ることになっている。
「ん? 兄さんたちにはぼくが適当に食べさせたよ」
「……すいません」
「なに謝《あやま》ってんの。具合の悪い人にそんなことさせられないよ」
裕生は笑いながら牛乳の残りを一気に飲んだ。
「あの、神社の方って結局どうなったんですか?」
バイトは一日も経《た》たずに終わってしまった。
「昨日、ぼくと西尾《にしお》で神主《かんぬし》さんに話しといたよ。すごく心配してくれて、こっちのことはどうにでもなるから、すぐに連れて帰りなさいってタクシー呼んでくれた。いい人だね、あそこの神主《かんぬし》さん」
ぼくと西尾《にしお》で、という言葉に、胸のあたりがかすかにうずいた。
「……ごめんなさい」
「別にいいよ、謝《あやま》らなくて。ぼくがバイトしなよって言わなかったら、あんなことにならなかったし」
裕生《ひろお》はコップをゆすぐと、水切りラックの上に置いた。
「じゃ、いってくるから」
「……え?」
葉《よう》は思わず聞きかえした。
「どこにいくんですか?」
「だって、鶴亀《つるき》にカゲヌシがいることが分かったんだし、調《しら》べにいかないと」
「わたしもいきます」
葉は立ち上がったが、頭に鈍《にぶ》い痛みが蘇《よみがえ》った。
「それじゃ無理だよ。まだ休んでないと」
と、裕生は言った。葉は口をつぐんだ。一緒《いっしょ》にいて、と言いたかったが、裕生が出かけるのは当たり前だということも分かっていた。
「あの神社とは離《はな》れてるから大丈夫だと思うけど、一応気をつけて。ちゃんと戸締《とじ》まりして、なにかあったら必ず携帯に電話して」
裕生は軽く葉の頭を撫《な》でてから、ふと時間を確《たし》かめるように携帯を見た。ふと、葉は裕生が誰《だれ》かと待ち合わせをしている気がした。
「あの……」
キッチンを出ていこうとする裕生に、葉は声をかけた。誰かと会うんですか、という質問が唇《くちびる》まで上りかけたが、口から出て来たのはまったく別の質問だった。
「なに?」
「昨日、どうして先輩《せんぱい》は神社にいたんですか」
カゲヌシがいなくなった後で、たままた神社にやって来た、という説明だったと思う。一瞬《いっしゅん》、なぜか裕生は返答に詰まった気がした。
「ちょっと西尾に用があったんだよ」
なんの用ですか、とまでは尋《たず》ねる勇気がなかった。
「じゃ、いってくるから」
裕生はキッチンを出ていった。彼が玄関のドアを開けて出ていくまで、葉はじっと耳を澄《す》ませていた。
一人になると部屋の中が急に広くなった気がした。
ふと、葉は昨日のみちるの話を思い出した。裕生のことは「前は好きだったけれど、今はただの友達」だと言っていた。
葉《よう》は前から西尾《にしお》みちるが気になっていた。初めて知り合った時はあまり好感は持てなかったが、中学に入ってから見方を変えた。みちるは学年や性別を問わず誰《だれ》からも好かれていたし、誰とでも仲がよかった。遠くから見ていても裕生《ひろお》とみちるの関係は自然で羨《うらや》ましかった。それでも、時々みちるが裕生から困ったように目を逸《そ》らすのを何度か見たことがある。
葉自身は裕生と付き合いたい、などと考えているわけではなかった。そもそも裕生のことが好きなのかどうか、きちんと自分に問いかけたことはない。そのことはなるべく考えないようにして来た。
しかし、葉が「黒の彼方《かなた》」に取りつかれ、それを裕生に知られた日から二人の関係は変わった。彼女の気持ちには関係なく、葉にとって裕生は唯一《ゆいいつ》の理解者であり、欠くことのできない存在になっていた。
もし、みちるが今も裕生のことを好きなのだとしたら、みちるにとって葉は目障《めざわ》りに違いない。葉が欲しかったのはみちるの許しだった——別に裕生に対してなにかを望んでいるわけではないので、一緒《いっしょ》にいることを許して欲しいということ。
それに、このままいけば近いうちに葉は葉でなくなる。
多分、それほど長い時間ではないから、と言うつもりだった。
(藤牧《ふじまき》裕生が神社にいたのは、偶然だと思いますか)
不意に「黒の彼方」の声が聞こえて、彼女は我に返る。話しかけてくるのは久しぶりだった。深い傷を負ったせいか、どことなく苦しげな声だった。
「え?」
(西尾みちるは藤牧裕生を唆《そそのか》して、私たちを陥《おとしい》れようとしています)
「うそ。そんなはずない」
と、葉はつぶやいた。カゲヌシの前に立ちはだかったみちるの姿がありありと蘇《よみがえ》った。
(そう。確《たし》かに彼女はあなたを守った。ですが、彼女があのカゲヌシの契約者だとしたら、あの行為にはなんの勇気も必要ありません)
「……そんな」
(可能性の一つですよ。ただ、あの二人は信用すべきではない。陰であなたをあざ笑っているかもしれない)
それは馬鹿《ばか》げた考えだと分かっていた。絶対にそんなはずはない——しかしそれを想像すると、涙がこぼれ落ちそうなほど悲しかった。
(彼らはなにかを企《たくら》んでいる。いつもあなたと一緒にいるのが、わたしであることをお忘れなく)
その言葉を最後に、「黒の彼方」も話すのをやめた。
今度こそ彼女は一人になった。キッチンの椅子《いす》に腰掛けたまま、彼女は沈黙《ちんもく》に耳を傾けていた。じっとしていると、この世界に自分一人だけが残ったような気がした。
(この世界がぜんぶ消えて、わたしだけが残る)
心の中で葉《よう》はつぶやいた。
(それはこの世界から、わたしが消えるのと同じ)
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