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シャドウテイカー ドッグヘッド05

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:4 止める間もなく兄が出て行ってから、裕生はおそるおそる葉の部屋へ向かった。廊下から覗《のぞ》き込むと、彼女は膝《ひざ》
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 止める間もなく兄が出て行ってから、裕生はおそるおそる葉の部屋へ向かった。
廊下から覗《のぞ》き込むと、彼女は膝《ひざ》の上に置いた目覚まし時計を真剣な眼差《まなざ》しで見下ろしていた。
「なにしてるの?」
葉ははっと顔を上げて、困ったように微笑《ほほえ》んだ。
「……なんでもないです」
沈黙《ちんもく》が流れる。
「あの、雄一……さんは?」
と、葉が言った。雄一が出て行くのには気づいていたらしい。
「出かけたよ」
今日《きょう》は帰らないと言った方がいいのか悪いのか、裕生は迷った。そうしたら彼女はどんな顔をするだろう。にわかに裕生の緊張《きんちょう》が増した。
その時、葉が立ち上がった。裕生はぎょっとして思わず一歩下がる。葉はドレッサーの上に目覚まし時計を置いてから、怪訝《けげん》そうに裕生の様子《ようす》を見つめる。
急に家の中が息苦しくなったような気がした。家の中に二人っきりでいるのはまずい。
「ちょっと散歩しない?」
言った瞬間《しゅんかん》に後悔した。こんな時間にどこに行くんですか、と質問されたら答えようがない。しかし、葉《よう》は無言でドレッサーのそばにかかっていたカーディガンを羽織《はお》った。
出かけるつもりらしい。
「あの……ほんとに行く?」
自分から誘っておいてと思ったが、つい確認《かくにん》してしまった。彼女はこくりとうなずいて、それから口を開いた。
「わたし、行きたいところがあるんですけど」
 どこに行きたいのか尋《たず》ねても、葉ははっきり答えなかった。何度目かの質問で諦《あきら》めて、なにも考えずに彼女の後について行くことにした。
夜更《よふ》けの道ではすれ違う人もまばらだった。曲がり角で時々自信なさそうに考え込むが、すぐにまた歩き出す。十五分ほど歩き続けて、葉は不意に立ち止まった。
「……ここ?」
裕生《ひろお》が尋ねると、彼女はうなずいた。
目の前には加賀見《かがみ》高校の校門があった。
「どうしてここに来たかったの?」
意外な行き先だった。葉が学校という場所を特別に気に入っているようには見えなかったからだ。
「まだ、憶《おぼ》えてるかどうか確《たし》かめたかったの」
裕生は胸を衝《つ》かれる思いがした。葉にとっても通い慣《な》れた場所のはずなのに、辿《たど》り着くまでに何度か迷うそぶりを見せていた。通学路も忘れかけているのだ。
彼女は鉄の門の隙間《すきま》に顔を近づけて、校庭を覗《のぞ》き込んだ。ところどころに立っている水銀灯が、人気《ひとけ》のない校舎を青白く照らしていた。校舎の時計を見ると、夜の十時を回ったところだった。
「中に入ろうか」
と、裕生は言った。
 校門の高さは葉の身長と同じぐらいだが、肩の傷が治りきらない葉が乗り越えるには裕生の助けが必要だった。門の上にまたがった裕生が、手を引いて引っ張り上げる。それから裕生は門の内側に降り、後に続く葉の体を支えた。
葉は裕生の手をずっと握りしめたままだった。二人はそのままで校舎に向かって歩き出した。校庭の固い土を踏みしめるたびに足音が響《ひび》く。
裕生はちらりと葉の横顔を見た。
(兄さんが言ってたこと、本当かな)
葉《よう》は裕生《ひろお》を好きで、ずっと待っていた——正直なところピンと来ない。小学生の頃《ころ》はよく一緒《いっしょ》に過ごしていたが、中学に入った頃から葉の態度はよそよそしくなった。避けられている気がして、それ以来裕生も距離《きょり》を置くようになった。
校舎の窓の明かりはすべて消えている。中に入ることは出来そうもなかった。裕生たちは渡り廊下をくぐって、新校舎と旧校舎の間にある中庭に入った。背の高い水銀灯が庭の真ん中にぽつんと立っている。あまり手入れのされていない植木のシルエットがぼんやりと見える。
彼らを取り囲んでいる暗がりからはなんの物音も聞こえなかった。こうして人気《ひとけ》のない学校の中を歩いていると、この世界に二人っきりになってしまったような気がした。
明かりの下を通り過ぎようとした時、
「裕生ちゃん」
と、不意に葉が言った。裕生ははっとして思わず足を止める。
驚《おどろ》いたのは急に呼びかけられたせいではなく、葉が自分を名前で呼んだからだった。ここ何年かはずっと「先輩《せんぱい》」で通してきたのに。
葉はポケットを探る。なにかを探しているらしい。
「……ちょって待ってて」
彼女は照れたように笑った。
そういえば、最近は葉の言葉遣《ことばづか》いも変わってきている。記憶《きおく》をなくし始める前と違って、敬語をあまり使わなくなってきていた。それも子供の頃に戻ったようだった。
やがて、彼女は小さな手帳とボールペンを取り出した。そこに記憶代わりに大事なことを書《か》き留《と》めている。彼女は一番新しいページを開き、不自由そうに右手のペンを動かし始めた。
隠しているわけではなかったので、手帳の中身がはっきり見えた。
裕生ちゃんと学校に来る、とゆっくり丁寧《ていねい》に書き込んでいた。それから、ふと顔を上げた。
「今、何時ですか?」
裕生は自分の腕時計を見た。
「十時十分」
葉はうなずいてまたペンを走らせる。たった今書いた文章の後ろに、日付と時間も付け加えていた。
「時間まで書いてるんだ」
以前はそこまで細かく書いていなかった気がする。葉はなにも言わなかった。
再び歩き出そうとした途端《とたん》、ふらりと彼女の体が傾いた。
「疲れた?」
「ううん……大したことないんですけど」
水銀灯の光では顔色はよく分からなかったが、退院したばかりで疲れやすいのかもしれない。すぐそばのベンチへ連れて行って彼女を座らせた。隣《となり》に腰を下ろした裕生《ひろお》の肩に、葉《よう》はぐったりと頭を預けてきた。
緊張《きんちょう》のあまり裕生の体が固まる。意味もなく空を見上げると、月も星も出ていなかった。二人はしばらくそのままじっとしていた。
「もうすぐ、ここもわたしの知らない場所になる」
ふと、葉は独り言のようにつぶやいた。
「知らない人、知らない場所……どんどん増えていくんです。もう一度|憶《おぼ》えようとしてもうまく行かなくて。何時間かで元に戻るんです」
「……え?」
「わたし、今日《きょう》の昼間にあったことをよく憶えてないの」
裕生はぶるっと体を震《ふる》わせた。さっき団地の部屋で時計を見ていたのはそういう意味だったのだ。そういえば、雄一《ゆういち》も葉は時間の感覚が分からなくなりつつあると言っていた。
「コンビニの前まで、ぼくを迎えにきたのも憶えてない?」
葉はうなずいた。
「今は何時間かだけど、そのうちもっと短くなると思う。ここに来たことも、明日《あした》には忘れちゃうんです。手帳に書いておかないと」
葉はまだ手に持ったままの手帳を握りしめた。
「遠くへももう行けないかも。行き先も帰り道も分からなくなっちゃうから」
淡々《たんたん》とした声からは、不思議《ふしぎ》と悲しみや恐れは感じられなかった。かえって裕生は不安になった。
「わたし、昔のことももうあまり憶えてない。もともと憶えていたこともどんどん消えていってるんです。はっきり分かるのは、あのカゲヌシのこと。それに、裕生ちゃんのこと」
「黒の彼方《かなた》」にまつわる記憶《きおく》だけは残っているらしい。それ以外の記憶が消え続ければ、それだけ葉の中で「黒の彼方」の存在は大きくなっていくだろう。
「それから、書いてくれたあのお話のこと」
「『くろのかなた』?」
頭をもたせかけたまま、葉はうなずいた。
「忘れないように、いつも読み返してるの」
「黒の彼方」の名前の由来は、裕生の書いたその物語だった。無人島にいた女の子が男の子と旅に出る。とある王国に流れついた二人は、女の子の父親《ちちおや》と出会う。そこで筆が止まっていた。
「どうなるんですか、あの後」
「まだ最後まで書いてないんだけど……」
裕生は今まで書いたところを、頭の中で整理《せいり》した。
「……あの二人は王国を離《はな》れて旅を続けるんだ。王さまは二人を見送ってくれる。女の子は色々な人に出会って、どんどん賢《かしこ》くなっていくんだけど……」
葉《よう》身動き一つしなかった。眠っているのでなければ、真剣に耳を傾けているらしい。裕生《ひろお》は申《もう》し訳《わけ》ない気持ちになった。結末はハッピーエンドにするつもりだったが、どうしてもその後を続けることが出来ない。今の裕生が抱えている不安と関係しているのかもしれない。
「ごめん。そこで止まってるんだ」
と、彼は言った。葉は口をつぐんだままだった。
ふと、ひやりとした風が吹いた。彼の腕を握りしめている葉の力が、痛いほど強くなった。腕越しに彼女の心臓《しんぞう》の鼓動がはっきりと伝わってくる。
「……葉?」
覗《のぞ》き込もうとすると、彼女はぎこちなく顔を上げた。どんな表情をしているのか、近すぎて見ることが出来ない。かすかに開いた唇から温かい息が洩《も》れて、裕生の頬《ほお》をくすぐっている。彼は吸い寄せられるように自分の唇を近づけていった。
もう少しで二人の唇が重なろうとした瞬間《しゅんかん》、かすかに唸《うな》り声が聞こえた。まるではるか彼方《かなた》から聞こえる獣《けもの》の遠吠《とおぼ》えのようだった。
はっと裕生は我《われ》に返る。それは葉の喉《のど》の奥から洩《も》れる声だった。
裕生は葉から体を引《ひ》き離《はな》すと、弾《はじ》かれるように立ち上がった。背筋に冷たい汗が流れている。怪訝《けげん》そうに葉は裕生を見上げた。
「……どうしたんですか?」
先ほどまでとは表情や声に微妙な違いがある。その目に浮かんでいる冷たい嘲《あざけ》りの色を裕生は見逃さなかった。
「お前は雛咲《ひなさき》葉じゃない」
裕生はかすれた声で言った。
「『黒の彼方』だな」
葉の口元に酷薄《こくはく》な笑《え》みが浮かんだ。
「よく気づきましたね」
葉の口を借りたカゲヌシが言った。相変わらずベンチに座ったままだったが、口を開くたびにぴくりと肩を震《ふる》わせている。
「どういうことなんだよ」
と、裕生は言った。契約者が名前を呼ばない限り、カゲヌシは封じ込められたままのはずだ。
「わたしの力は徐々《じょじょ》に大きくなっています……この娘の自我《じが》はやがて消えます。わたしを縛《しば》りつける『契約』も壊《こわ》れかかっている」
葉——「黒の彼方」は精神を集中するように目を閉じ、ふと口を開いた。
「黒のかな……」
しかし、その言葉は途中で立ち消えになる。どうやら、最後まで唱《とな》えることが出来ないらしい。相手は口元に苦笑を浮かべた。
「さすがに、まだわたしの意思でわたしの『本体』を出現させることは出来ませんね。契約者の意志が介在しなければ」
裕生《ひろお》はほっと息をついた。
「じゃ、ぼくが葉《よう》の名前を呼べば目を覚ますんだな」
一瞬《いっしゅん》、相手は沈黙《ちんもく》する。
「そうです。あなたとこの娘との間に交わされた『契約』のようなものですから。それもやがては途切《とぎ》れるでしょうが」
裕生はこのまま話を聞き続けるべきか、葉の名前を呼んで目覚めさせるべきか迷っていた。「黒の彼方《かなた》」が裕生にとって有利なことを話すはずがない。なにかの企《たくら》みがあるに違いなかった。このカゲヌシは彼を強く憎んでいる。
しかし、その企みがなんにせよ、話を聞かなければ対策の立てようがなかった。
「……どういう意味だよ?」
「さっき本人が言っていたように、この娘の脳内には、大きな記憶《きおく》の区画のいくつかがさほど侵されずに残っています。一つはわたしに関すること。それに付随するあの物語のこと。そして、その作者であるあなたのこと。大まかに言えば、これらはわたしに関係する記憶です。だから残っているとも言える」
裕生はやりきれない思いだった。葉が裕生のことを憶《おぼ》えているのは、『黒の彼方』のついでだと言われている気がした。
「この娘が『本体』を呼び出せば呼び出すほど、わたしの支配力は増す……この娘の記憶の欠落はより速くなる。次に消えるのはあなたに関する記憶でしょうね」
唇を噛《か》みしめたまま、裕生は相手をじっと見つめていた。膝《ひざ》の上に投げ出された右手には、まだ先ほどの手帳が握られていた。
「自分を忘れられたくなければ、なるべくわたしを呼び出さないようになさい。もう他《ほか》のカゲヌシにわたしをぶつけて、共倒れを狙《ねら》うなどということは考えないことです……それに、あなた方の生命も意味もなく危険にさらされる」
(なにが言いたいんだろう)
確《たし》かにそれが危険だということは、わざわざ念を押されるまでもなく裕生にも分かっている。わざわざ念を押すことが、このカゲヌシにとってなんの得になるのだろう。
「黒の彼方」の真意は分からなかったが、ふと裕生はまったく別のことに気づいた。葉の体は先ほどからほとんど身動き一つしていない。
「……喋《しゃべ》るだけなんだな」
と、裕生は確認《かくにん》するように言った。葉の頬《ほお》がかすかに歪《ゆが》んだ。
「お前の力が強くなってきてるのは本当だけど、まだ契約はちゃんと生きてる。今は大したことが出来るわけじゃない。葉《よう》を少しの間眠らせて喋《しゃべ》れるだけなんだ。その体を動かすことも出来ないんだろ?」
相手はなにも言わなかった。おそらく、当たってるからだろう。
「お前の力がまだ不完全ってことは分かった。もう話を聞かなくてもいい」
裕生《ひろお》は葉の名前を呼ぶそぶりを見せる。急《せ》かして相手に要点を喋らせるつもりだった。もし喋らなかったとしても、その時は本当に葉を起こせばいいだけの話だ。
相手は小さく舌打ちをした。
「急かさなくてもわたしの方から消えますよ。ただ、わたしの言ったことをお忘れなく。手を組む相手を間違えると命取りになりますよ」
彼女は目を閉じると、力が抜けたように背中をベンチに預けた。
「葉!」
びくっと彼女は体を震《ふる》わせる。そして、再び目を開けて裕生を見上げる。もう普段《ふだん》の彼女に戻っていた。
「わたし……どうしてました?」
「ちょっとうとうとしてたんだよ。起こしたら悪いと思ったけど、風邪《かぜ》引くかもしれないから」
葉は顔を赤くしながら立ち上がった。裕生は「黒の彼方《かなた》」の話の内容について考えていた。結局、「手を組む相手を間違えるな」と言いたかったらしい。そう言った時の様子《ようす》が気になっていた。まるで手を組んではいけない危険な相手が、本当にどこかにいるかのような——。
「どうかしました?」
葉が上目遣《うわめづか》いに裕生を見ている。そういえば、さっきキスしかけていたのを思い出して恥ずかしくなった。どうかしていたのではないかと思う。
そもそも、葉と「黒の彼方」はいつも一緒《いっしょ》にいる——さっきのようなことをする気にはもうなれそうもなかった。
「なんでもない。そろそろ行こうか」
と、裕生は言った。
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