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シャドウテイカー ドッグヘッド06

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:5 雄一《ゆういち》が団地に戻ったのは朝の七時前だった。音がしないようにゆっくりとドアを開ける。あくびを噛《か》かみ殺し
(单词翻译:双击或拖选)
 雄一《ゆういち》が団地に戻ったのは朝の七時前だった。
音がしないようにゆっくりとドアを開ける。あくびを噛《か》かみ殺しながら廊下を歩いて行った。葉と裕生の部屋のふすまは両方とも開いていた。
葉の部屋を覗《のぞ》き込むと、廊下に背中を向けて眠っている葉の姿が見えた。寝相があまりよくないせいか、布団《ふとん》をはねのけてしまっている。
(しょうがねえな)
部屋の中に入ってき、布団《ふとん》をかけてやる。振り向くと廊下を挟んで裕生《ひろお》の部屋が見えた。ベッドの上に弟の姿はない。
廊下に戻ったところで、キッチンの方から裕生がひょいと顔を出した。
「あ、お帰り」
「早《はえ》えな」
と、雄一《ゆういち》と一晩どう過ごしたか聞きたくなったが、すぐに思いとどまった。必要なことは言ったし、あとは弟たちが決めればいいことだった。
とにかく眠くて仕方がない。知り合いの家に泊めてもらうつもりだったが、行ってみると不在で、朝まで駅前のファミリーレストランで時間をつぶすはめになった。
雄一はキッチンの前を通り過ぎて居間に入った。裕生もその後ろからついてきた。
「とにかく俺《おれ》ァ寝るわ。お前は学校行くんだろ?」
弟の返事はなかった。振り向くと裕生は制服ではなく着古したジーンズとシャツを着ている。どう見てもこれから学校に行くところではなかった。
「しばらく行くのよそうと思う。ちょっと葉のそばにいようと思って」
「でも、学校ぐらい行った方がいいんじゃねえか? 俺もいるんだしよ」
「兄さんだって大学休みっぱなしじゃないか」
そういやそうだな、と雄一は思った。夏休みが終わってからもう一ヶ月近く経《た》っている。
今までほとんど欠席したことがないので、まだ単位を落とすことにはならないだろうが、休んでいることで誰《だれ》かに心配をかけているかもしれない。
「別に俺のことは構わねーけどな」
「ぼくだって構わないよ。学校なんか」
なにか言い返そうと思ったが、言葉の前に大あくびが出た。
「ま、いっか。とにかく寝るわ」
雄一は和室へのふすまを開ける。背中から裕生が声をかけてきた。
「そういえば、携帯《けいたい》忘れてったよね。夜中に誰かからかかってきてたよ」
確《たし》かに畳の上に携帯が投げっぱなしになっている。拾い上げて着歴を見ると、かけてきたのは恋人の西尾《にしお》夕紀《ゆき》だった。
(後で連絡すっか)
とにかく今は眠くて仕方がなかった。
 裕生と葉が朝食を食べ終えた後も雄一は部屋から出てこなかった。奥の部屋でいびきをかきながら眠り続けていた。
キッチンで洗い物をしている裕生の隣《となり》で、葉が皿を拭《ふ》いていた。ふと目が合うと、彼女はにっこり笑った。
裕生《ひろお》がしばらく学校に行かないと知って、葉《よう》は嬉《うれ》しそうにしているが、裕生は複雑な気持ちだった。裕生は「黒の彼方《かなた》」と話したことを言っていない。葉自身が言った通り、学校に忍び込んだ時の記憶《きおく》はもう消えているようだった。
「後で一緒《いっしょ》に出かけたいんだけど、大丈夫?」
と、裕生は言った。葉はふきんを止めて首をかしげた。
「どこへですか?」
「うん……ちょっと」
この町のどこかに船瀬《ふなせ》智和《ともかず》がいる。幽霊《ゆうれい》病院にいることが一番多いのだが、彼を捜し出して、レインメイカーを呼び出すことが出来ないかを確《たし》かめたかった。もしうまく行けば、階位の中にいるカゲヌシは消え、「黒の彼方」もこの世界で葉に取《と》り憑《つ》いている必要もなくなる。
可能性は低いが、他《ほか》にするべきことを思い付かなかった。
「悪いけど、今はちょっと言えない」
葉に教えればそのまま「黒の彼方」の知ることになってしまう。彼女と離《はな》れたくはないが、船瀬を捜そうとしているのは出来るだけ「黒の彼方」には伏せておきたかった。
「分かりました」
葉は一度皿をテーブルの上に置くと、スカートのポケットを次々と探って、例の手帳を取り出した。今、裕生が言ったことを書くつもりらしい。
その時、電話が鳴った。
裕生は水を止めて、ジーンズの腿《もも》のあたりで手を拭《ふ》きながら居間へ行き、受話器を取った。
「はい、藤牧《ふじまき》です」
相手は無言だった。
「もしもし?」
『…………喜嶋《きじま》ですけど』
反射的に背筋がびしっと伸びた。葉の叔母《おば》の喜嶋ツネコだった。新宿《しんじゅく》で小さなバーを経営している。
「あ、こ、こんにち……」
『おはよう、でしょ』
反射的に時計を見る。まだ九時を少し回ったところだった。
「おはようございます」
と、慌てて言い直す。裕生はツネコが苦手《にがて》だった。ツネコの方も葉と同居している裕生を警戒《けいかい》しており、再三「葉に手を出すな」と厳命《げんめい》していた。
「あの、葉に代わりますか」
『今、あたしの店にあんたの知り合いが来てるんだけど』
吐き捨てるようにツネコは言った。どうやらかなり機嫌《きげん》が悪いらしい。
「……知り合いですか? ぼくの?」
『そう言ってるわよ。今、代わるから』
電話の向こうでかすかに人の動く気配《けはい》がする。続いて、誰《だれ》かの苦しげな息づかいが聞こえてきた。
「もしもし?」
『……裕生《ひろお》ちゃん?』
かすれてはいるが若い女性の声だった。誰なのか思い出すまでに少し時間がかかった。
「天内《あまうち》さん?」
『うん……あたし』
と、天内|茜《あかね》は言った。どうしてツネコの店に茜がいるのだろう。
「昨日《きのう》、携帯《けいたい》にかけたんだけど」
『……携帯』
茜は疲れきった声で繰り返した。
『ごめん。なくしちゃったの……それで裕生ちゃんの電話番号も分からなくなっちゃって。裕生ちゃんを知ってそうな人がいるところって、ここしか思い浮かばなかったから』
そういえば、茜は加賀見《かがみ》へ来たことはない。裕生はにわかに緊張《きんちょう》し始めた。そこまでして連絡を取ろうとしたということは、ただごとではない。
「なにがあったの?」
沈黙《ちんもく》。裕生はごくりと唾《つば》を呑《の》み込んだ。あまり想像したくはなかったが、可能性は一つしか思い浮かばなかった。
「蔵前《くらまえ》に会ったの?」
また沈黙が流れた。本当に電話が繋《つな》がったままなのか、分からなくなるほど長い時間だった。
『会ったよ。北海道《ほっかいどう》で。あいつ、前と全然』
茜はそこで言葉を途切《とぎ》れさせた。よほどショックを受けているらしい。裕生は覚悟を決めた。ぐずぐずしてはいられない。
「葉《よう》と一緒《いっしょ》に今すぐそっちに」
『待って』
と、茜が言った。
『裕生ちゃん一人で来て』
「えっ?」
思わず裕生は聞き返した。
『葉ちゃんには来ないでほしいの。あたしたち、三人|揃《そろ》わない方がいいと思う』
「どういうこと?」
裕生《ひろお》は廊下の方を振り向いた。葉《よう》がキッチンから顔を覗《のぞ》かせて、不思議《ふしぎ》そうに自分の方を見ていた。
『後で説明するから』
なにか深いわけがあるらしい。今、葉と離《はな》れたくないが、まず裕生一人で彼女に会って、事情を聞くのが一番良さそうだった。
「……分かった。とりあえずぼく一人で行くよ」
声を低くして裕生は言った。
『うん……ごめんね。待ってるから』
茜《あかね》がそう言った途端《とたん》、また電話の相手が交代した。
『そういうことだから、早く来なさい。あんた一人でね』
ツネコが氷のように冷たい声で言った。
『この子とあんたがどういう関係なのか、後でじっっっっくり聞かせてもらうから』
「どうって……」
どういう関係でもありません、と言おうとした時には、ぶつっと電話は切れていた。なにかとんでもない誤解をされている気もしたが、それどころではなかった。とにかくここを出なければならない。
裕生は葉の前を通り過ぎて自分の部屋に入り、出かける時に使っているショルダーバッグを掴《つか》んだ。茜の話が頭の中をぐるぐると回っている。廊下に戻ったところで、葉とぶつかりそうになった。
「ぼく、ちょっと出かけてくる。今日中《きょうじゅう》には戻るから」
返事を待たずに玄関で靴を履《は》いた。
「どこへですか?」
葉が裕生の背中に声をかけてくる。答えようとした裕生は、ぎりぎりのところで思いとどまった。葉に話せば「黒の彼方《かなた》」にも知られてしまう。どういう事情か分からないのに、あのカゲヌシに情報を与えたくなかった。
「今はちょっと言えないんだけど……」
ふと、既視感《きしかん》に襲《おそ》われる。先ほども同じような質問をされて、同じような答えをしてしまった。
「ほんとにごめん。とにかくここで待ってて」
そう言い残して、裕生はドアを開けた。
 西尾《にしお》夕紀《ゆき》は加賀見《かがみ》駅の改札を抜けた。
彼女は都心で一人暮らしをしながら女子大に通っている。通りすがりの人が振り返るほどの美貌《びぼう》の持ち主だが、今日は浮かない顔つきだった。
加賀見《かがみ》の町に帰ってきたのは数週間ぶりだった。わざわざ授業を休んでここに来たのは、恋人の藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》に会うためだった。
一ヶ月前、加賀見で立て続けに起こった怪事件に西尾《にしお》家と藤牧家は巻き込まれていた。夕紀《ゆき》の両親《りょうしん》とみちるが一晩自宅で監禁《かんきん》され、次の日に雄一《ゆういち》たちの住む加賀見団地が襲《おそ》われた。どちらの事件も船瀬《ふなせ》千晶《ちあき》という少女が深く関《かか》わっていたらしいが、逮捕《たいほ》される前に警官《けいかん》に射殺されてしまった。彼女には催眠《さいみん》や暗示のような能力が備わっており、その力で他《ほか》の人間を操《あやつ》って事件を起こしたのではないかという話だった。
両親も妹のみちるも入院を余儀《よぎ》なくされ、夕紀は慌てて実家へ戻った。そして、家族が無事退院したのを見届けてから、都心のマンションへと戻った。
雄一も夕紀と同じように都心の大学へ通うために一人暮らしをしているが、もうしばらく家族の様子《ようす》を見ると言って加賀見に残った。しかし、それっきりいつまで経《た》っても加賀見を離《はな》れようとしない。彼の通う都心の大学の授業はとうに始まっている。いつ戻るのか電話で尋《たず》ねても、「そのうちな」という返事が返ってくるだけだった。
不審《ふしん》に思った彼女は、直接会って話すことにしたのだった。
駅舎の前にはタクシー乗り場がある。そこに向かおうとして、ふと彼女は立ち止まった。
(急に訪ねて行ったら迷惑かな)
急にと言っても、昨日《きのう》から何度か携帯《けいたい》にかけているし、メールも送っている。それでも一向《いっこう》に彼から反応はなかった。わざと無視しているのかもしれない。そう思うと、夕紀はますます不安になった。
「西尾|先輩《せんぱい》?」
振り返ると、藤牧|裕生《ひろお》が立っていた。
「あ、裕生くん。偶然だね」
そう言いながら、夕紀は首をかしげた。裕生は制服を着ていない。ここにいるということは、電車に乗ってどこかへ行くつもりなのだろう。
「ねえ、今日《きょう》学校じゃないの」
妹のみちるとは昨日電話で話したが、今日が休みとは言っていなかったと思う。
「ちょっと用事がで出来、出かけなきゃいけなくなったんです」
「どこに行くの?」
一瞬《いっしゅん》、裕生は迷ったようだった。
「新宿《しんじゅく》です。新大久保《しんおおくぼ》の方」
なにしに行くの、と聞きかけたが、さすがにお節介《せっかい》の気がしてきた。高校の部活で面倒《めんどう》を見ていたせいか、なんとなく弟のように扱ってしまいたくなる。
「西尾先輩こそどうしたんですか。今日、平日ですよね」
今度は夕紀が迷う番だった。しかし、自分の質問に裕生は答えてくれたのに、裕生の質問に答えないのも悪い気がした。
「雄一《ゆういち》さんに会いに来たの。最近、連絡取れなかったから」
雄一さん、と言うと裕生《ひろお》は微妙な表情を浮かべた。夕紀《ゆき》の頬《ほお》が紅潮《こうちょう》する。最近、二人きりの時はそう呼んでいるのだが、他《ほか》の人の前で口にしたことはない。
「兄さんならうちにいますよ」
「……会いに行っても大丈夫?」
裕生は困ったように目を伏せる。その態度に夕紀はうろたえた。やっぱり、避けられているのかも——。
「まだ、寝てると思います。徹夜《てつや》したみたいだから」
申《もう》し訳《わけ》なさそうに裕生が言う。彼女はほっと胸をなで下ろした。
「じゃあ、午後になってから行けば大丈夫かな」
「それなら、多分《たぶん》……どうもすいません」
「ううん。わたしが勝手《かって》に来たんだもの」
彼女はちらりと時計を見る。時間もあることだし、一度実家に顔を出しておこうと思った。多分|母親《ははおや》は家にいるはずだ。
「……ぼく、そろそろ行かないと」
と、裕生が言った。
簡単《かんたん》な挨拶《あいさつ》を交わして二人は別れた。急いでいるらしく、裕生は切符の自動|販売機《はんばいき》に向かって走って行った。
(なにしに行くのかしら)
後ろ姿を見送りながら夕紀は心の中でつぶやいた。やっぱり、聞いた方が良かったかもしれない。
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