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シャドウテイカー ドッグヘッド09

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:第二章 「ドッグヘッド」1 天内《あまうち》茜《あかね》はそのバス停に一人降り立った。彼女は明るい色の髪《かみ》を長く伸
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第二章 「ドッグヘッド」

 天内《あまうち》茜《あかね》はそのバス停に一人降り立った。
彼女は明るい色の髪《かみ》を長く伸ばし、赤いミニのワンピースの上に襟《えり》のあるジャケットを羽織《はお》っている。走り去って行くバスをちらりと見送って、彼女は背筋を伸ばして歩き出した。
太陽は西の空に傾きかけていた。もっと早く来るつもりだったが、最初乗るはずだったバスがこの近くで事故を起こしたとかで、時間が遅れてしまった。
この時期の北海道《ほっかいどう》の日射《ひざ》しは、東京《とうきょう》とあまり変わらない気がする。ただ、時折吹く風は驚《おどろ》くほど冷たかった。彼女は北海道の道南に位置する小さな町にやって来ている。
何軒か先に小さな教会の尖塔《せんとう》が見える。そこがこの旅の目的地だった。
茜がこの近くに住んでいる親戚《しんせき》の連絡を受けたのは二日ほど前のことだった。車で教会の前を通りかかった時、窓に人影《ひとかげ》のようなものが見えたという。そこは連続殺人犯の蔵前《くらまえ》司《つかさ》が生まれ育った家だった。
(蔵前はきっと生まれ故郷に戻る)
以前から茜はそう確信《かくしん》していた。蔵前にとって「家」と呼べるのは実家の教会以外には存在しないはずだ。蔵前にとっても茜にとってもこの土地がすべての始まりの場所だった。
教会の隣家《りんか》の前で彼女は立ち止まる。そこはかつて茜が子供の頃《ころ》に住んでいた家だった。遠い昔、彼女と蔵前は隣《となり》の家に住む幼馴染《おさななじ》みだった。
フェンス越しに中を覗《のぞ》き込むと芝生《しばふ》の庭があり、その奥に大きな窓が見える。彼女が住んでいる頃とは違って、窓には白いレースのカーテンがかかっていた。
(住んでる人、いるんだ)
淡《あわ》い日の光を浴びた芝生の上で、首輪《くびわ》を付けた白い犬がサッカーボールにじゃれついていた。灰色《はいいろ》の髪《かみ》をした初老の男が、窓の向こうの縁側《えんがわ》で安楽椅子《あんらくいす》に腰かけて自分の飼い犬を眺めている。レースのカーテンに遮《さえぎ》られてはっきり見えないが、うとうと眠っているのかもしれない。
幸せな午後の光景だった。茜は体を引きはがすようにフェンスから離《はな》れて、再び歩き出した。
教会は子供の頃の記憶《きおく》よりも一回り小さく見えた。古い木造の二階建てで、長年の雨風にさらされているせいか、白く塗られていたペンキはすっかり剥《は》げ、どの窓も土埃《つちぼこり》で曇《くも》っている。
石段を三段ほど上がったところに観音開《かんのんびら》きの扉《とびら》がある。彼女は肩からかけたポーチを押さえつけるようにぎゅっと掴《つか》んだ。ポーチは奇妙に重たげにふくらんでいた。
(あたしは家族のカタキを討《う》ちに来たんだ)
彼女は自分に言い聞かせた。
蔵前《くらまえ》のカゲヌシ・アブサロムが生きているかもしれない、と聞いた時、茜《あかね》はちらりと裕生《ひろお》が自分に嘘《うそ》をついているのかもしれないと思った。アブサロムが生きていたとすれば、カゲヌシを失った茜が敵討《かたきう》ちをするのは一層|難《むずか》しくなる。
もっとも、裕生がそんな嘘をつくはずもない。しかし、彼が茜に復讐《ふくしゅう》を思いとどまらせようとしているのは確《たし》かだった。彼女は耳を貸さない風《ふう》を装っていたが、内心では決意が揺らいでしまいそうで恐ろしかった。そのせいか、最近ではあまり自分から連絡を取らないようになってきていた。
茜は扉《とびら》の前に立った。昔に比べるとこれも縮《ちぢ》んだような気がする。本当に同じ場所なのか、疑いたくなるほどだった。もちろん、建物が小さくなったわけではない。茜があの頃《ころ》のような子供ではなくなっただけだ。
扉に鍵《かぎ》はかかっていない。彼女は建物の中へ入った。
「……あ」
そこには昔のままの礼拝堂があった。奥の壁《かべ》には十字架が飾られ、講壇《こうだん》には説教卓が据えられている。すぐそばの会衆席の椅子《いす》に目を近づけると、埃《ほこり》一つ落ちていなかった。建物の外見に反して、中はきれいに掃き清められている。誰《だれ》かが最近ここに入り込んだのは間違いない。
茜は木の床《ゆか》を踏んで講壇の方へ進んだ。子供の頃の日曜《にちよう》礼拝《れいはい》の記憶《きおく》が蘇《よみがえ》る。一番前の席に座って、お尻《しり》が痛くなるのを我慢《がまん》しながら牧師の説教を聞いていたものだ。蔵前|司《つかさ》の父は信者たちから慕《した》われていた。その息子の司がまさか何十人もの人間を手にかける殺人鬼になろうとは、誰も思ってもいなかったはずだ。
茜は講壇の脇《わき》のドアを開ける。今はなにもない小さな小部屋で、その隅《すみ》には二階へ上がる階段がある。両側の壁《かべ》に軽く指を触れながら、彼女は急な階段を上がって行った。
二階の廊下には北向きの小さな窓があるだけで、昼間だというのに薄暗《うすぐら》かった。窓の反対側にはドアがいくつか並んでいる。
一番奥のドアだけが来る者を誘《いざな》うように半開きになっていた。確《たし》か、そこがかつての蔵前の部屋だったはずだ。
茜の動悸《どうき》が速くなり始めた。彼女は立ち止まってしばし耳を澄《す》ませた。家の中からはなんの物音も聞こえない。かすかに隣家《りんか》で遊んでいた子犬の鳴き声が聞こえるだけだった。しかし、この建物には何者かの気配《けはい》を感じる。それは先ほどここに入った時よりも強くなっていた。
彼女はポーチを開けた——口径の小さな護身用《ごしんよう》のオートマチックが入っている。何人もの知り合いを辿《たど》って違法で手に入れたものだった。弾丸は装填《そうてん》されている分だけで、試し撃《う》ちをする余裕はなかった。教えられた通り、安全装置を外《はず》してスライドを引く。乾いた金属音が家中に響《ひび》き渡った気がした。
慎重に廊下を進み、ドアの隙間《すきま》から部屋の中を覗《のぞ》き込んだ。薄暗《うすぐら》い廊下とはうって変わって、午後の日射《ひざ》しに満ちた明るい部屋だった。家具はなにも残っていない。出窓から入り込んだ光が、床《ゆか》の中央を四角く切り取っている。
茜《あかね》は部屋の中に入り、その光の上に立って周囲を見回す。部屋の隅にクローゼットがあった。
「……え?」
床の上に点々と赤黒い染みのようなものが落ちていた。それは彼女の立っているあたりからまっすぐに部屋を横切って、クローゼットの前で消えていた。
それは血だった。
いつの間にか口の中がからからに乾いていた。茜はクローゼットの扉《とびら》に向けて拳銃《けんじゅう》を構えながら、一歩ずつ前へ進んで行った。扉の手前で彼女は足を止める。
拳銃を持っていない左手で扉を勢いよく開けた。
「うっ」
食《く》い縛《しば》った歯の間から思わず声が洩《も》れた。クローゼットの中の床にも壁《かべ》にもべっとりと赤黒い血がこびり付いている。まだ完全に乾ききっていなかった。
(この部屋で、誰《だれ》かかが殺されたんだ)
部屋の真ん中で傷を負い、このクローゼットまで追いつめられてとどめを刺されたのだろう。死体が忽然《こつぜん》と消えているのは、カゲヌシが食ったからに違いない。
(アブサロム)
裕生《ひろお》の言う通りだった。あのカゲヌシは生きている。茜《あかね》は銃を手にしたままドアを振り返った。ここにいれば、蔵前《くらまえ》も戻ってくるはずだ。
茜の肩が小刻みに震《ふる》え始めた。恐怖と期待と歓喜が同時に胸の中で荒れ狂う。
もうすぐあいつに会える。家族を殺したあいつに。他《ほか》にもあいつはたくさんの人を殺してきた。ここでもまだ人を殺して——。
「……誰《だれ》なんだろう」
と、茜はつぶやいた。ここは空き家だった。ということは、今までそうしてきたように、外からこの家へ犠牲者《ぎせいしゃ》を連れてきたはずだ。一体どこから連れてきたのだろう?
クローゼットの血だまりの中に、男物のサンダルの片方がべったりと貼《は》り付いていた。茜は膝《ひざ》を折って、おそるおそる目を近づける。
血に染まってはいるが、ごく普通の安物のサンダルだった。いかにも隣近所《となりきんじょ》に履《は》いて出かけるような——。
彼女は立ち上がって振り向いた。いつの間にか隣家《りんか》から犬の鳴き声が聞こえなくなっている。茜はぎくしゃくした足取りで出窓へ向かった。
ガラス越しに隣家の庭を見下ろすことができた。いつの間にか、隣家の男は縁側《えんがわ》から庭に出ており、茜のいる場所から背を向けるようにうずくまっていた。
白いシャツを着た背中を見た瞬間《しゅんかん》、茜はふとあり得ない既視感《きしかん》に襲《おそ》われた。前にもあの庭にはあんな風《ふう》にうずくまっている男がいて、それをここから誰かが見下ろしていたはずだと思った。彼女自身がこの窓から外を見たことなどないはずなのに、なぜかその光景をくっきりと思い浮かべることが出来る気がした。
男の灰色《はいいろ》の髪《かみ》がふわりとそよぐ。その顔がゆっくりとこちらを振り返った時、茜はようやくその男が老人でないことに気づいた。頬《ほお》がこけ、目も落ちくぼんでいるが、その顔は見覚えのある若い男のものだった。
「蔵前……」
一瞬のうちに茜はすべてを理解した。あのクローゼットの大量の血。あれはあの家の住人の血だ。蔵前がいることに気づいて、この部屋まで来てしまったに違いない。
蔵前は立ち上がりざまに、彼女のいる窓に向かってなにかを放り投げた。それは黒い影《かげ》となって見る間に迫ってくる。体をよじりながら顔をかばった瞬間、窓ガラスを突き破って部屋の中に飛び込んできた。
その物体は彼女の肩をかすめて床《ゆか》の上で跳《は》ね返り、反対側の壁《かべ》にぶつかって停止した。
「きゃあっ」
思わず茜が悲鳴を上げた。それは血に染まった白い犬の生首だった。半ば飛び出した眼球が物言いたげに彼女の方を見つめていた。
「天内《あまうち》、茜《あかね》!」
突然、鼓膜が震《ふる》えるほどの大声が聞こえた。まるではるか彼方《かなた》に向かって叫んでいるかのようだった。茜は体を隠しながら、目だけを出して窓の外を見る。その途端《とたん》、彼女は吐き気を催《もよお》しそうになった。
立ち上がった蔵前《くらまえ》の全身は赤く染まっていた。右手には犬の胴体を掴《つか》んでぶら下げている。別人のようにやせ細ったその体は病人のようだった。しかし、顔には満面の笑《え》みを浮かべていた。
(前と違う)
茜はみぞおちのあたりに冷たい氷を押し付けられた気がした。単にアブサロムが生きていたというだけではない。想像もつかないことがこの男に起こり、以前と違う存在に生まれ変わった気がした。
「蔵前!」
茜は叫びながら銃を窓の外に向ける。それは攻撃《こうげき》のためというよりも、全身を呑《の》み込んでしまいそうな恐怖を抑え込むためだった。
銃口に気づいた蔵前は笑顔《えがお》のままで大きく目を見開いた。茜は反射的に引き金を絞りそうになる——その刹那《せつな》、蔵前は空を仰いで、太く低い声で絶叫し始めた。
「……えっ」
彼女は呆然《ぼうぜん》と立ちすくむ。その声はいつまでも経《た》っても途切《とぎ》れなかった。やがて、茜はそれが笑い声だと気づいた。
この男は笑っている、と思った途端、茜の体を落雷のように直観《ちょっかん》が突き抜けた。逃げなければいけない。ここであの男と向き合っていてはいけない。今すぐこの場を離《はな》れなければいけない——。
しかし、その時にはもう蔵前は走り出していた。やつれきった外見にもかかわらず、その動きは信じられないほど敏捷《びんしょう》だった。フェンスを跳《と》び越えて教会の敷地《しきち》に入り、茜の視界から消えた。次の瞬間《しゅんかん》、一階で扉《とびら》の開く音が聞こえた。あっという間に階下を足音が走り抜け、階段を駆け上がり、茜のいる部屋へ近づいてきた。
彼女は凍り付いたように動けなくなっていた。血まみれの蔵前が部屋のドアを開け放った時、ようやく我《われ》に返って銃を構え直した。しかし、引き金を引くことは出来なかった。既《すで》に蔵前は彼女の目の前に迫っていた。
唐突《とうとつ》に蔵前の顔が視界を覆《おお》い尽くし——それから、気を失った。
 目を開けた時には、既に日が暮れかけていた。茜は先ほどと同じ部屋でうつぶせに倒れている。床《ゆか》の上に散らばった無数のガラスが鈍《にぶ》く光っていた。
彼女は体を動かそうとして、ようやく自分が後ろ手に縛《しば》られていることに気づいた。
(……なんでまだ殺されてないんだろう)
ほとんど驚《おどろ》きに近い気持ちだった。部屋の隅《すみ》にはまだ例の犬の首が転がっている。ちょうど彼女と目を合わせているかのようだった。両目はかっと見開かれたままで、開いた口からは赤い舌がだらりと垂れ下がっている。
茜《あかね》はそれが自分の末路《まつろ》のような気がした。
(でも、きっとこれから殺されるんだ)
彼女は再び目を閉じる。蔵前《くらまえ》は茜たちに殺意を抱いているはずだし、温情をかけるような性格など持ち合わせていない。おそらくはなぶり殺しにでもするつもりだろう。
(裕生《ひろお》ちゃんたちに迷惑かからないようにしなきゃ)
自分が死んだ後、間違いなく狙《ねら》われるのはあの二人だった。ひょっとすると茜を生かしているのも、裕生たちのことを聞き出すためなのかもしれない。
その時は舌を噛《か》んででも死のうと思った。一度覚悟を決めると、恐怖心はどこかへ消えていた。
視界の外からざりっとガラスを踏む音が聞こえた。彼女は眠ったふりをすることにした。足音は彼女の顔のすぐそばで止まった。むせるような血の臭《にお》いが漂ってくる。茜はつい眉《まゆ》をしかめた。
「天内《あまうち》茜」
頭上から老人のようにしゃがれた声が降ってきた。
「報《むく》いを受けてもらう、と前にも言ったね?」
来るべきものが来たらしい。ようやく彼女は目を開けた。どうせ殺されるとしても、どんな風《ふう》に死ぬのか分からないまま死ぬのは嫌《いや》だった。
蔵前は茜のすぐそばに跪《ひぎまず》いて、冷ややかに彼女を見下ろしていた。先ほどのような不気味な笑顔《えがお》は影《かげ》を潜《ひそ》めている。ただ、大きく見開いた両目が夕闇《ゆうやみ》の中でぎらぎら輝《かがや》いていた。
「……だからなに?」
「君にはもうすぐ死んでもらう」
「そう」
彼女は目を逸《そ》らした。そんなことをわざわざ言うために、目を覚ますのを待っていたのだろうか。
「ぼくは新しいアブサロムを手に入れた」
茜は聞き流すつもりでいたが、ふとその言葉が引っかかった。
「新しいアブサロム?」
思わず聞き返していた。確《たし》か裕生の話では、前のアブサロム——人間型のカゲヌシが生きている可能性があるということだったはずだ。
「あんたのカゲヌシは死んでないんじゃなかったの?」
その途端《とたん》、蔵前《くらまえ》の目がすっと細くなった。
「誰《だれ》からそれを聞いた?」
いけない、と茜《あかね》は思った。船瀬《ふなせ》というカゲヌシの契約者が、裕生《ひろお》と会っていることを蔵前は知らないのだ。
彼女は体を固くする。これ以上追求されたらどうしようと思った瞬間《しゅんかん》、蔵前が再び異様な笑い声を上げた。哄笑《こうしょう》というよりは獣《けもの》の遠吠《とおぼ》えを思わせた。
ひとしきりその発作が過ぎ去った後で、蔵前は言った。
「まあ、いい。どうせ分かることだからね」
茜はほっと力を抜いた。
「そう。確《たし》かに前のアブサロムも生きている。その上で新しいカゲヌシも手に入れたんだ」
彼女は不審《ふしん》を抱いた。それが本当なら、蔵前は複数のカゲヌシを持っていることになる。
「そんなこと……出来るの?」
「出来るさ。ぼくにはその資格があった。最強のカゲヌシを手に入れたんだ」
「最強のカゲヌシ……」
茜は口の中でつぶやいていた。それがどういうものか、想像も出来なかった。
「そう。ぼくの新しいアブサロム。名前は……」
蔵前は部屋の隅《すみ》に転がった犬の首を見つめていた。
「『アブサロム・ドッグヘッド』。そう名乗っておこうか」
なにそれ、と茜は心の中でつぶやいた。
「ここで君を殺すのは簡単《かんたん》だが、それもつまらない。どうせいつでも殺すことが出来るからね。できれば他《ほか》の二人も一緒《いっしょ》に死ぬところが見たい」
と、蔵前は淡々《たんたん》と言った。
「だから君に案内を頼もうと思う」
茜はかっとなった。
「冗談《じょうだん》でしょ? あたしがそんなこと」
「しなければ、無差別に人間を殺す。何千、いや何万人もの人間が死ぬ……今のぼくにはその力がある」
茜はぐっと詰まった。こういう条件を出されるとは思っていなかった。もし彼女が拒絶して死を選んだとしても、蔵前はやはり今言ったことを実行するだろう。
「特にあの『同族食い』の契約者を呼び出してほしい。彼女が主犯、ということになるだろうから」
そして、独り言のように付け加えた。
「まあ、あの黒犬は今のぼくたちには会いたがらないかもしれないけどね」
(なんのこと?)
と、茜《あかね》は思った。「黒の彼方《かなた》」のことを言っているのだろうか。
蔵前《くらまえ》は茜の背中に手を伸ばし、両手の縛《いまし》めを解いた。
「場所は東京《とうきょう》がいい。ぼくと君がこの前会った場所……東桜《とうおう》大学の中庭にしよう。三日以内に他《ほか》の二人をあそこに連れてくることだ」
茜はこわばった腕をゆっくりと動かして、床《ゆか》から体を起こした。
ふと、右足の太腿《ふともも》に違和感を覚えて、スカート越しに自分の足を見下ろした。
「あたしの足になにかした?」
「君はもうぼくのものだからね。そこにぼくの刻印を押しておいた」
蔵前は茜に背を向けて歩き出した。
「じゃあまた、近いうちに」
しゃがれた声で蔵前は言い、部屋から出て行った。足音が遠ざかって行く。やがて、一階の礼拝堂の扉《とびら》を開け閉めする音が聞こえて、完全に静かになった。
茜は一人取り残された。考えなければならないことが山ほどあった。しかし、その前にゆっくりとスカートをまくっていった。右脚に残していったという「刻印」が気になっていた。暗がりの中で、茜の白い脚が露《あら》わになる。
彼女は大きく目を見開いた。
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