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記憶の絵29

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:犬たち私は全く記憶にない頃から犬と遊んでいたらしい。私の父親は日露戦争に軍医で出征したが、父親が凱旋してから少間《しばら
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犬たち

私は全く記憶にない頃から犬と遊んでいたらしい。私の父親は日露戦争に軍医で出征したが、父親が凱旋してから少間《しばらく》経って一匹の大きな犬が送られて来た。父親が捕虜の将校から託されたのだ。ジャンというその犬は、当時の私より背が高く、耳が大きく毛足の長い、種類はセント・ベルナァル種らしく、白と黒の斑《ぶち》だった。私はよくその犬の首を抱いていたそうだが、覚えていない。次に飼ったのは白と茶の斑の雑種で、名はそのころ漫画にあった犬の名を取って、ポンコだった。ポンコが生んだクロ(黒)チビとチャア(茶)チビという二匹の小犬が、ひところそこらに転がったり、じゃれたり、していたが、或夕方私が花畑に行くと、(家の北側にあった花で一杯の庭)父親が、嵐で倒れた草花を竹を立てては紐で結えつけていたが、つと立ち上ると何かを掴んで地面に投げつけた。黒チビだった。犬の体が地面にぶつかる固い音と同時に、「クヮン」というような声がした。声というより、無意識に脳から出た音のようだった。薄暗い中に長い雄芯に煙っている花魁草《おいらんそう》が、薄紫にぼうぼうと立ち、花も木も灰色に包まれている。塀際は一層暗く、顰めた父親の顔も、暗い影のように、みえた。あまりおどろいたので、次の瞬間どうなったか、全く覚えていない。役所で不愉快なことがあったのか? 母が苦情を言って困らせたのか? 私の母親という人は直情で怒りっぽいので、傍に幼い娘が睡っていようとかまわないで、大きな声でけんかを始めた。それで私は、母が怒る時の、父の不愉快な顔はよく見ていたのである。その夕方の、薄紫に青ざめた花魁草が、薄《すすき》の原のようにぼうぼう、立っている暗い庭に立っていた父の顔はその顔より深刻だった。私の母親はソクラテスの妻と同じ位、父の悪妻として有名だったから、私がこういう弁明を書いても、疑わしい眼で眼鏡をかけ直し、私の文章を何度も見返す人が沢山いると思うが、美人で正直で怒りっぽい、愛すべき母のために、ひと通りは弁明をしておくのである。そのころ父は陸軍省に通っていて、「文学なんというにやけたものをやる片手間で役所の仕事をしている」と、一部の人から言われていたのである。
次に飼ったのは父がメフィと名をつけた茶色で耳の立った鋭い気性の犬。次の犬は結婚後飼ったキャピという大変な弱虫犬だ。往来で他の犬に会うと、向うが何もしないでも尻尾を脚の間に巻きこんで逃げ帰った。次は弟と飼った森《ボワ》である。支那産かなにかのを、秋田だと欺されて買った赤犬だったが、或日突如として鶏を咬み殺したと思うとそれが習性になって、方々から苦情が来て困った。どの犬もそれぞれ犬という名に価する、正直で、忠実な、愛すべき者たちだったが、私が最も好きだったのはポンコだった。彼女は或夜一人で物置に入って、死んだ。
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