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記憶の絵38

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:鴎外夫人夏、子供に飲ませる麦湯が父親の衛生思想によって喧しくて、前の日の麦湯が薬鑵の底に一滴でも残っていると忽ち腐敗する
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鴎外夫人

夏、子供に飲ませる麦湯が父親の衛生思想によって喧しくて、前の日の麦湯が薬鑵の底に一滴でも残っていると忽ち腐敗するから、熱湯でゆすいでよく乾いてからその日の分を入れろ、というさわぎ。又冷蔵庫から何かを出し入れする時、ぐずぐずしていてはいけない、意味なく開けてはいけない、等々大変だったが、父親は人から感じ悪く思われることは全部母親にやらせる主義だったので(主義でもないが、彼は気が弱くて、人が厭な顔をするのを見るのがいやなのである)女中たちは麦湯のことでもすべて喧しいのは母親だと思っていた。父親は女中が傍へ行って何か言う時なぞ、やさしく微笑して(フン、フン)と言っているからだ。祖母も女の人は殆ど持っている狡《ずる》さで、女中たちにも上手にしていたから、おやさしいご隠居様、おやさしい旦那様に、可怕い奥様だった。新聞や雑誌の編輯者なぞに何かを断る時も、父親は母親に断らせた。その上に凄い美人で、愛嬌がちっともなく、ものの言い方は切り口上で、言い廻しも、言葉の飾りもなく、ぶっきら棒に断るから、断られた人には、父親は厭がっていないのに、奥さんが出しゃばって来て断るように見え、中にはにくらしいと思って一生覚えているというような感じの人もあったらしい。又母親は感情を隠さない人なので、意地の悪いような人には言い方も一層ツンケンした。男に生れて、殿様にでもなればよかったろうが、女で、奥さんという位置では一寸まずいのである。殿様でもひょっとすると信長的で、明智光秀に殺されたかも知れない。
母親という人は(女の意地悪)というものが全くない人だったが、その代り、先方が冗談に紛らせて、上手に皮肉や悪口を言うと、カッと怒って、自分の方は歯に衣《きぬ》着せずにやり返した。それだから、先方は悪くないことになって、母親は悪ものになった。皮肉を言うようなことのない人に対しては困る位お人好しだった。出刃庖丁を横に咥え、藍弁慶の着物の、はな[#「はな」に傍点]色(赤みのある紺)の裾を高く端折り、白縮緬の腰巻を出したお人好しである。お人好しだから、見たところは妲妃《だつき》のお百でも、ほんとうは父親と同様、人がやっつけられた顔を見ることが苦痛だったようで、よその家に行くと、そこの家の人の厭がることには触れない。たとえばそこの家で長男は栄転し、三男は落第しているというような場合、必ず長男について話して、三男のことには触れないのである。私が離婚をした時、女の客は座るや否や(茉莉子さんはどうなさいまして)と訊くので母親は弱っていた。これはなにもそういう女の人たちが特別悪いのではないので、母親の方が特別らしい。特別な人というものは損なものである。その上彼女は不運なことに鴎外夫人だった。文豪で善良、父性愛の権化の鴎外、の巨像の光にさえぎられていいところは少しもみえなくなってしまった。
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