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記憶の絵42

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:裁縫糸を指で切って(鋏を使うと糸は針を絶対に通らないのである。歯で噛み切るのは日本式の美人がやると素晴しいが、私には不可
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裁縫

糸を指で切って(鋏を使うと糸は針を絶対に通らないのである。歯で噛み切るのは日本式の美人がやると素晴しいが、私には不可能な芸当である。私には糸切り歯が無いらしい)針を通し、教師の言うような姿勢と手つきで布の中に針をくぐらせるという作業が、私には出来ない。しかも針が導く糸の縫い目の大きさは揃っていて、その小さな縫い目の列は真直ぐでなくてはいけないというのである。
お茶の水の小学校に入って三年目になった四月から、私はこの作業を強制されることになった。
大体、真直ぐ、ということが苦手の子供である。真直ぐに歩けといわれると蛇のように蛇行し、帳面に書く字の列は曲り、定規《じようぎ》をあてて線を引いても、定規そのものが曲り、母親が父親の意見で買い与えた独逸製2Bの鉛筆は定規にぶつかる。ぶつかったな、と思って握り締めた鉛筆を弛めると、線は山のような曲線になる。
そういう私にとって裁縫の時間の運針や、雑巾縫いは苦手中の苦手だった。その上に、柔い皮製の指ぬきには、針の頭が当っても滑らないようにまんべんなく穴があけてあるにも拘らず、私の針は指ぬきの上を滑っては指の甲《こう》にぶつかる。どういうわけか体の出来が完成されてない感じで、胴の骨と、脚の骨との繋ぎ具合もよくないが、皮膚は、もう少し厚くなるところを出来かけで生れたらしくて、サンダルの皮にネルが張ってあっても、一町も行かない内に擦れて皮が剥け、血が出る。血が滲《にじ》む段階になるとそれからさきは歩けないのである。指の甲の皮膚も同様に出来ているから、忽ち穴が出来、破れて血が滲《にじ》む。
哀しみながら縫っていると、涙が汗になって指ににじみ、針はいよいよ動かなくなる。糸と針で布を縫うのには糸のしっぽに結び瘤を作らなくてはならないが、その結び瘤の製造が又ひどくむつかしい。するりするりと糸は瘤にならずに指の間を抜けてしまう。やっきとなってやるとどうしたのか、馬鹿に大きな、でこぼこの、結び瘤の特製が出来る。裁縫の教師は本を見ていることがないから、窓の外に青々と透って、赤ん坊の掌のように何枚かの葉を開き、楽しい五月の空気を呼吸している藤の葉を、そっと羨むことも出来ない。長いお河童の髪が襟首にうるさく、水色木綿の長めの提灯袖の独逸の洋服の胸が汗ばみ、下着の襟が冷たい。
運針は出来るだけ早く仕上げなくてはならない。出来上ると生徒は得意げに席を立って、教師のところへ持って行くのである。放課時間が近づくに従って椅子を後に引く音が方々で、ギイ、ギイ、と鳴る。私の緑色の糸や赤の糸は上り坂になったり下り坂になったり、「ハ」の字になったりして、ゆっくり、のろのろと、進むのである。
裁縫の時間は私にとって、煉獄で、あった。
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