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記憶の絵56

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:カフェ・プランタン帝劇から、真暗な中にお堀端の柳が仄《ほの》かに見え、その後《うしろ》にお堀の水が暗く、黒く沈んでいる外
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カフェ・プランタン

帝劇から、真暗な中にお堀端の柳が仄《ほの》かに見え、その後《うしろ》にお堀の水が暗く、黒く沈んでいる外に出た、真白な帽子のお化けのような子供と、黒い、長いマントォの下から出た仙台平の袴をシュル、シュル鳴らし、黒檀《こくたん》の太い洋杖《ステツキ》を突いた男との二人連れは、日比谷公園の角を曲って銀座に出た。ここにも暗い中に柳が暈《ぼんや》りと立ち並び、土や雨に湿った木煉瓦《もくれんが》の舗道が続いている。明治の銀座は暗く、店々の黄金《きん》色の電灯の光が洩れ、微《かす》かな、だが厳然としたといってもいい位の、確りした西欧文明の香《にお》いが、商店の中に、人々の服装《なり》に、誰かが|隠し《ポケツト》に入れている外国煙草やパイプに、居据《いすわ》っていて、カルダン、プレタポルテ、オォトゥ・クウチュウル、なんて言う広告文句のバカ騒ぎと一緒に入って来る(巴里の流行)なんかではない、ほんものの西洋文明が、あった。神経のある、西洋のわかる人々だけが西洋のものをたべ、舶来|唐物《とうぶつ》を身につけていた傾向があったからだ。一方、明治になる前の江戸的なものも、これ又厳然と残って、根を浚われないでいた。田村屋の唐棧縞の浴衣《ゆかた》、さのやの足袋、菊秀の切り出しや、鏡花の出刃打ちが持つような出刃、そういう老舗《しにせ》がひっそりと栄えていて、くさやの干物で夕飯をたべた老舗の旦那がカフェ・パウリスタや、メゾン鴻の巣で珈琲をのみ、外国煙草をふかす、という感じだった。銀座から話がはみ出すが、不忍池は上野の山の下に鈍い銀色に光り、蓮番人の古びた小舟がもやっている池は夏になるとガワガワと重なり合う蓮の葉で一杯になり、上野の杜の明け烏が鳴きわたる前に、薄紅と白との蓮の花の開く幽《かす》かな音がした。フランス人が涙の木といっている柳がこの池のまわりにも立っていて、冬は焦茶色の木になり、面白い形に折れた蓮の茎や、蓮の実と一緒に素晴しい風景を造り出していた。
さて黒マントの男と白い帽子のお化けのような幼女とはカフェ・プランタンに入った。卓子《テエブル》について、白い帽子と白い毛皮の小さな肩かけとマッフをとって貰った私は明るい店の中を見た。帝劇にいた黒い蜂の群はここにも群がっていた。劇場の中では、憧憬と熱情を内にひそめて、しんと鎮まっていた彼らは、ここでは透徹った黒い翅をブンブンふるわせて、喋り、笑っている。劇場で黙っていた若ものにも、カフェでがやがやしている若ものにも、異様なほどの熱気が孕んでいて、それが幼い私にも電気のように伝わった。やがて運ばれて来た珈琲の茶碗を私は父親がミルクと砂糖を入れるや否や口へもって行った。珈琲がはじめての私は父親がミルクや砂糖を入れたのをみてよほど美味《うま》いものだと思ったのだ。父親が「お茉莉、熱いぞ」と言ったのも間に合わなかった。すると手もとが狂って、熱い珈琲が胸にかかった。父親は私をつれて店の奥へいって、ボオイに絞ったナフキンを貰い、着物の胸を拭いてくれたが、驚いた私の頭の中は「ボルクマン」の舞台の恐怖と母に怒られる不安とがすっかり入れ交ってしまった。どっちも恐怖である。
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