返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

記憶の絵79

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:続・巴里の食物梅の木(プリュニエ=魚料理屋)に行くのは大きな楽しみの一つだった。巴里が薄水色の靄の中に沈んで、北の海や、
(单词翻译:双击或拖选)
続・巴里の食物

梅の木(プリュニエ=魚料理屋)に行くのは大きな楽しみの一つだった。巴里が薄水色の靄の中に沈んで、北の海や、地中海の底で、又は巴里の魚料理屋の暗い水槽の中で、黝《くろず》んだ紅い伊勢海老が針のある長い触角を動かし、鯉に似た魚が白い腹や、寺院の屋根瓦に似た灰色の鱗をみせてゆっくりと鰭を動かしている時、古い葡萄酒が、料理店の地下の穴蔵の棚に埃と蜘蛛の巣を被《かぶ》って並んで横たわっている時、私たちはサン・ミッシェルのキャフェで食前酒(アペリチフ)を飲み、ぼろタクシイでプリュニエに行った。絵の額や派手な色彩《いろ》の壁、テカテカ光る床、階段、そんなものが気になって落ちつかないような家ではなくて、薄暗い階段を上ると壁紙の模様もわからない位に燻んだ、飾りのない部屋に入る。窓の外には薄水色の巴里の街が沈んでいる。
いつも一番はじめは生牡蠣で、一|打《ダース》ずつ誂えるが、一打で済んだことはない。誰もがアンコォル、ユンヌ、ドゥウゼエヌ、シルヴプレ、(もう一打)と、黙って立っているギャルソンに言いつけた。地中海の牡蠣は、味は日本のと同じだが、とこぶしをもっと薄く、平たくしたように薄手で、銀座の御木本に飾ってある真珠貝のような形の殼に入っている。表面が燻んだ緑色で、牡のあわびの色に似ている。形態がすっきりしていて綺麗で、歯ごたえがある。酢と、薄紅い葡萄酒を混ぜたのに浸けてたべるのである。生牡蠣を充分たべると次は浅蜊貝入りのピラッフをとる。次はサラドゥ・ロメエヌ。レタスをたてに二つ割りにして切り口を上にして盛り、上に薄切りのトマトと玉葱がごく少し載っていて、酢と油のソースがかかっている。それで終りで、あとは濃い珈琲《キヤフエ》と果物とチイズである。チイズはキャマンベエルや、ロックフォオル、伊太利のゴルゴンゾラ等で、果物の他に胡桃をとる時もある。この献立は誰が発明したのか、はじめにそこへ行った人がギャルソンに相談したのか、大変気が利いていて、お腹にも丁度よかった。大体|階下《した》にある大きな水槽にはいろいろな魚が泳いでいるが、黒鯛のようでもあり、鯉のようでもありで、たしかに判別出来る魚がなく、伊勢海老にそっくりの海老も、たしかに伊勢海老と同じの味だとは信じられない。名をきいたってわからないから、貝が主の献立になったらしい。とにかくこの順序はうまく出来ていて、何度繰返しても飽きなかった。
巴里は料理がいき[#「いき」に傍点]な上に麺麭が素晴しくて、松葉で炊いた越後米の御飯と比べても負けない。まるで水の味がなくて、微かな塩味があり、表面がカリカリに固い。巴里の麺麭の塩の分量は秘密になっていて、よその国に秘密を洩らした麺麭職人はものすごい罰金を取られるという噂がある。私は上等の御飯と干物とか、沢庵・海苔茶づけ。それと巴里の麺麭とチイズと葡萄酒。この二つにかなうものはどこにもないと思っている。三分の一米もある日常用の麺麭(パン・ドゥ・メナァジュ)も素敵だ。私は支那料理もきらいではないが、支那料理にはいきなところがない。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

[查看全部]  相关评论