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記憶の絵101

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:花火大正十四年の或夏の夕方、どういう気象現象が起ったのだろう。空から庭一面、薔薇色に染まったことがある。染まったというよ
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花火

大正十四年の或夏の夕方、どういう気象現象が起ったのだろう。空から庭一面、薔薇色に染まったことがある。染まったというより、火の色のような濃い薔薇色の中に空も庭も、すっぽりと沈みこんでいるのだ。子供は何処に行っていたのか。子供もいず、女中たちの影もなかった。玄関を飛び出し、門を出てみると道も空も樹々も、目に見える限り濃い薔薇色の世界である。わずかの間に夕暮れが深まったのか、薔薇色はどこか深い、血の色を帯びて、私をもその中に包みこんだ。暗い、重い、だが幸福の火照《ほて》りのような薔薇色である。自分に何かの幸福がくる報らせではないだろうか?私は夢の中にいるようにして、立っていた。
やがて薔薇色が消えて、普段の夕方の色になった時、矢田部達郎が木戸を開けて、入って来た。夫と、子供と、縁側にかけて庭を見ていた私は、薔薇色の消えた、暗い、現実の世界の中で、矢田部達郎の目が白く光るのを見た。無数の蛇を咥えこみ、それを餌《えさ》にして育った鷹のような彼の目は、薔薇色の光の中よりも現実世界の暗がりの方が似合っている。「先刻紅《さつきあか》かったね」矢田部達郎が言った。薔薇色の不思議は目白の一部だけだったのだ。そうしてそれを見たのは、目白|界隈《かいわい》では、そうして私の知っている人間の中では、矢田部達郎と私だけだったのだ。と、私は想った。矢田部達郎は縁側の線香花火の束を見ると子供を見て、「遣《や》ってやろうか」と言い、一番太いのを一本取って、垣根の極《き》わにある花壇の跡の篠竹の尖端《さき》にそれを仕掛けた。傍に来た子供に、(危ない)というように縁側に戻らせておいて、火を点《つ》けると、彼は子供の後《あと》から此方《こつち》へ来る。
と、シュル、シュル、という音がして、大きな黄金色《きんいろ》の火花の塊が非常な勢いで巴形《ともえがた》に廻転したかと思うと、再び前にも劣らぬ勢いで、逆転した。私と|※[#「木/爵から爪を除いたもの」]《ジヤツク》との、二人の大小の子供の目が、暈《ぼんや》りした、幾らかの生気を出して、その黄金色《きんいろ》に廻る火花に、当てられた。
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