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もめん随筆11

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:芥川さんのこと内田百〓先生に連れられて、婦人速記者のKさんと一しよに田端の芥川さんのお宅へ伺ふと、玄関のくつぬぎの上にう
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芥川さんのこと

内田百〓先生に連れられて、婦人速記者のKさんと一しよに田端の芥川さんのお宅へ伺ふと、玄関のくつぬぎの上にうす藤色に銀鼠のかかつた鼻緒の新しい駒下駄が一足、こちら向きにそろへてあつた。そしてその傍に派手な緒のすがつたぢかばきがもう一足、おなじやうに行儀よくそろへてあつた。
二階のお客間へ通されると先客があつて、しかしその人達も又別の先客のためにその部屋で待たされてゐるらしかつた。若い洋服のハイカラ人が二人、あとから聞くと一人は小笠原プロダクシヨンの小笠原さんであつた。女の人が一人、眸の大きなはつとする程美しい人で、やせぎすの肩がすこしいかつて見えた。何となく葉山三千子さんではないかと思つたらやはりさうであつた。三人は一かたまりになつて土佐犬がどうとか闘犬の話をしてをられたやうである。訪問先きで主人の居ない部屋に知らぬ人達と長い間坐つてゐるのは、お医者さんの待合室で顔見知りの知らない人と向きあつてゐるのとおなじやうでへんに気づまりな、足の裏がむづがゆいやうな心地である。内田先生は一人皆から遠く離れて、床の間の横の壁際にぽつんと一脚忘れもののやうに置かれてある古びた籐椅子に、深ぶかと腰をおろしてぢつと身動きもしないで居られる。べつに何を考へるといふ事もなくぼんやりとして居られたのかも知れないが、こちらの片隅に坐つてもぞもぞとしてゐる者の眼からは、四辺のざはめきを睥睨してゐるかの如く見えるのである。
あたたかい春の風が、樹の多い庭から吹いてきて折折座敷の中を横切つていつた。「木蓮や、塀のそとふく俄風といふのはどうです。……」私はさつき駒込の通りで、一陣の突風におもてをそむけながらその風の中で内田先生の云はれた言葉を思ひ出した。何処かの邸の塀のそとであつた。あの時あんなに気軽るであつたお方が、いまはまるで中学生を叱る先生のやうにむうつと押黙つて居られるのである。私はつぎ穂のない心地がした。
「こはいよ。——こはいねえ」
芥川さんがつかつかと上つてきて、部屋の中へ一あし踏み入れたと思ふと忽ちその先を閾のそとへひいてすこしのけぞるやうな形になつて云はれた。刻んだやうに細おもての芥川さんが、すらりとした姿でつと足をひいてきまつた形は、私にふと桜間金太郎氏の舞台をおもひ出させた。——そんな聯想をおこさせる程長く、芥川さんはそのままの姿勢で云はれるのである。
「こはいよ。さうやつてそんなところでぢつとして、眼ばかり光らしてゐられるとこはいねえ。……まつたく怖いよ」
私は芥川さんがふざけてゐるのかしらと考へた。内田先生がいくら籐椅子の上でむつつりとしてをられても、不機嫌とおもふばかりでべつに怖くは感じられなかつたので、芥川さんの云はれる怖いといふ言葉が私には飲みこめなかつたのである。内田先生はそれに応酬して何と云はれたか、多分口の中で言葉にはならぬ返事をされたのではないかと思ふ。私にはかへつて内田先生の方がびつくりした顔附きをされたやうに見受けられた。
若い三人の先客に向ひ、芥川さんはその、怖いよのつづきの元気のいい声で話をされた。何か紹介状のやうなものを書かれたやうであつた。さうしてそのお客さん方が帰つてしまはれると芥川さんは私達を階下のお座敷の方へ誘はれた。
一しよに席を起つて賑やかに笑ひながら廊下へ出たところで、私はひとりおくれて、多分芥川さんは甘いものがお好きなのだらうと考へて持参した長門の木の芽田楽を取り出すと、軽く一揖されたまま通りすぎる事とばかり思つてゐた芥川さんは、突然私とおなじやうに縁側に膝をつき、それからその板の間に両手をついて鄭重に礼を云はれるのである。余りにも律儀な御挨拶に私はかへつてまごついてしまひ、今迄の元気のいいさも無雑作らしい芥川さんとは急に別の人の心地がするのであつた。
「失敬しちやつた。実は白蓮さんがきてゐたんだよ、——女中さんを連れてね」
階下の離れの座敷に落着くと、だが芥川さんは以前通りの元気のいい声ですぐさう云はれた。そのお座敷につい今し方まで白蓮さんが坐つてをられたらしかつた。私はそれでは白蓮さんと芥川さんは女中さんの世話までされる程家庭的にお親しいのかと思つたが、そのうちだんだん気がつくとさうではなくて、白蓮さんはひとり歩きをなさらず、女中さんを連れてたづねて来られたといふ話らしかつた。玄関のくつぬぎに揃へてあつた二足の下駄が私のあたまにひらめいた。芥川さんがわざわざ白蓮さんがとくり返される口ぶりに、何となく何かありさうな心地がして、私はすぐと持ちまへの好奇心で話のつづきを待つたけれども、内田先生は一向に気乗りのしない顔つきでさうですかとただ一ことお愛想らしく答へたきりである。気がついたやうに芥川さんはふと口をつぐまれ、話をかへてこちらの用事を話題にされた。
「漱石先生の逸話でしたね。逸話はまゐつたなあ」
「しかし何かあると思ふけれど」
「それや話はあるよ、……いろいろあるけれどね」
芥川さんはちよつと遠いところを見るやうな眼つきをされた。と思ふとすぐさつきからの威勢のいい声で「まあぽつぽつ思ひ出してゆかう。君も今日はゆつくりしていいのだらう」
Kさんがさらさらと紙の音をたてて速記の用意をした。私のところで本屋をはじめる事になり、それについては漱石先生の逸話集を出版してはどうかといふ計画があつて芥川さんをおたづねしたのもその用事のためなのである。——ちよつと待つた、と芥川さんは時どき速記者の手許をのぞきこむやうにして声をかけた。
「ここから先きは書いては困るのだよ。……いいですか、書かないで下さいよ」
気のせゐか、書いてはいけないといふ話をされる時、一層溌剌と芥川さんの言葉の調子に熱意がこもるやうに感じられた。私は芥川さんの語られる一言半句も聞きもらすまいと、ぢつと息をつめてゐた。書けない話はどれも面白かつた。だがそれにしても芥川さんはなぜ書いてはいけぬといふ事を、口ではかまはず話されるのであらうか。……ふしぎに思へたその疑問もいまとなれば、芥川さんはそれとなく内田先生に告げたい事を、よそ事になぞらへて話されたのではなかつたかと思ひあたりもするのである。
いつのまにかあかりがついて、日がすつかり暮れてしまつた。ふとうしろを振り返ると思ひがけない壁際の掃出窓のやうなところから、ぼうつと黄いろい光がさしてゐる。私は何となくびくつとし、ああ驚いたと我知らず声を出すと、
「お隣りの灯ですよ。香取先生のうちのあかりがこつちへさしてくるんだ」
そして芥川さんは私の驚いた事をさも愉快げに「びつくりしたでせう。ひよつと振り向いてあれを見ると、誰だつて驚くからね」
その時分内田先生に何処からか二千円といふお金子《か ね》のはいる話があつた。いよいよそのお金子のはいる前夜、内田先生は私の家で遅くなり、到頭皆で話し明かした。何なりと好きなものを買つてあげる、何がよいか考へてお置きなさいといふ話から、その二千円を何に使はうと皆で寄つて考へた。さうだ、ひとつ芥川を驚かしてやらうかなと内田先生が云ひ出した。東京市中の郵便局を片端から歩いて廿円づつ貯金をする、二千円でちやうど百冊の通帳が出来るからそれを持つて芥川さんのところへ行き、何にも云はず黙つて芥川さんの眼の前にその通帳を積んで見せる。
「芥川は変な顔をして通帳をあけて見るでせう、廿円と書いてありますね。それを閉ぢて次ぎのをあけて見る、それも廿円。その次ぎをあけて見る、又廿円。あけてもあけても廿円で、芥川きつと半分も見ないうちに蒼白な顔になつて、ちよつととか何とか云つてそのまま裏口から消えてしまふにちがひない。愉快だな」
聞いてゐるうちに面白くつてをかしくつてその場の様子が見えるやうで、私はお腹の痛くなる程笑つた。けれども芥川さんが驚いて裏口から逃げ出すといふ事はすこし信じられない心地がした。それつぽつちの悪戯で顔色かへて逃げ出すなどありさうもない気がしたのである。私は芥川さんといふお方に、それまでにただ一度よりお眼にかかつた事がなく、だから何にもわからなかつた。
——びつくりしたでせう、誰だつて驚くからねと愉快げに云はれた芥川さんの甲高い笑ひ声を耳にとらへた刹那、私ははつと内田先生の通帳を思ひ出し、何となくあつといふ気もちがした。芥川さんの笑ひ声にどこか調子のはづれたやうな、ふしぎな響がこもつてゐるやうに私には聞えたのである。
あんまり遅くなつてしまつて、時分どきになつたけれどとひとり心の底で気を揉んでゐるうちに、いつの間に云はれたのか私達の眼の前に大きなうなぎ丼と小皿ものが運ばれた。芥川さんは御自分の膝の前にまぐろのおさしみと麦酒をならべ、このおさしみは半分君に提供するよと内田先生に麦酒をつぎながら云はれるのである。私達の御馳走はちやんとちやぶ台の上にのつてゐるのだけれど、芥川さんのおさしみは畳の上にぢかに置いてあつて、おさしみをはさんで口へ運ぶお箸の先きから、時どき醤油の雫がしたたつて畳の上に赤黒いしみをつくつた。文章の上から考へてゐた芥川さんはひどく潔癖なお方であつて、身の周囲の事なども塵一つないやうにきちんとして居られる事とばかり思つてゐた私には、そんな風に畳を汚して平気でゐる芥川さんが、何となく気がかりな、へんな気もちがされてならない。変といへば芥川さんは、夢の中で見る色彩は紅と緑が一ばん鮮やかだと何心なく云つた私の言葉をすぐとらへて、
「さうでせう、ちやんと色が見えるでせう。——でもそれは変なんだ、あなたももう変なのですよ」
ずばりと切るやうにさう云はれた。
芥川さんは点点と畳のしみをふやしながら、ぐいぐいといふ風にいくらでも麦酒を飲まれた。威勢よくまるで水でも飲むやうにがぶがぶと飲まれるのだが、なぜかその飲み方がおいしく飲んでゐるやうには、——楽しさうには見えなかつた。
「そんなに飲んでいいのか知ら」
内田先生が気づかはしさうに注意した。
「いいんだよ、大丈夫だよ、——此頃は飲めるのだ」
昂然と肩を張るやうにして答へる芥川さんの、コツプを持つ手がぶるぶると小刻みにふるへてゐる。いくら飲んでも一向に酔はれるけしきなく、ただ一すぢ紅い絹の糸を濡らしてすつと刷いたやうに、まぶたの上にほのかな紅の色のにじんでゐるのがかへつてお顔の色の蒼さを深めて、ぢつと見てゐると何となく肌が寒くなつてくるやうなふしぎな感じを与へられるのである。そのくせ話ぶりは何処までも快活な芥川さんで、夏目先生の奥さんがたしか長唄のお稽古をしてをられた事もあるといふ話に、まるで中学生のやうに眼を光らせ、あの奥さんが三味線を三味線をと激しい笑ひにむせびながら、
「三味線の畳をゐざる夜寒かな。——それやきつと三味線の方でゐざつていつたにちがひないよ」
そんな諧謔も弄される。
小穴さんと堀辰雄さんがつぎつぎに見えられて一座はますます賑やかに、芥川さんと内田先生の話のやりとりはちやうど小学生がじやん拳ぽんのグーチヨキパアをするやうに、私などにはとてもわからぬ程ぱつぱつぱつと速かつた。臍がどうとか尻尾がどうとかどちらが何を云はれたのかまるでおぼえがないけれども、何かの拍子で座を起つた内田先生の後姿を障子のそとへ見送りながら、芥川さんはいまいましいといふ顔つきで、
「あの先生には臍がないんだよ、だから、臍の話をするとあんな妙な顔をするのだ。——しかしその代りあれには尻尾があるんだよ。怖いねえ」
芥川さんはつづけて「見つけたり蛙に臍のなき事を。内田百〓には臍がないのさ」
愚直な私は傍からおづおづと、
「それはいま芥川さんがおつくりになつたのでせうか」とおたづねした。
「いえ」と答へながらちらりと上眼づかひに私を見た芥川さんの眼の色に、いぢめつ子がからかふやうな、はつとさせる光があつた。
「芭蕉の句です」
ほんたうに芭蕉の句なのかそれとも一茶の句なのかやつぱり芥川さんの即興であつたのか、私は誰にもたづねて見ないからいまだにそれを知らないでゐる。
更けて静かな屋敷町の帰りに、ひつそりとした丁字の匂ひをかぎながら、私は思ひ切つて内田先生に、芥川さんはどうかしていらつしやるのではないでせうかと云つて見た。なぜ? とおだやかな先生の声が私の不安を打ち消した。「そんな事はありますまい」
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