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なつかしい芸人たち33

时间: 2020-04-08    进入日语论坛
核心提示:あこがれのターキー    水《みず》の江瀧子《えたきこ》のこと昭和初年は映画の黄金時代であるとともに、レビューの黄金時代
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あこがれのターキー
    —水《みず》の江瀧子《えたきこ》のこと—

昭和初年は映画の黄金時代であるとともに、レビューの黄金時代でもあった。特に日本独特なのは少女歌劇。多分、はじめは温泉場の余興の域を出なかったのだろうが、なんだか不思議に発展して、ひところは葦原《あしはら》・小夜《さよ》VSターキー・オリエで天下を二分する人気となった。
因《ちなみ》に少女歌劇というのは戦前の名称で、現今は宝塚、松竹ともにこの名称を使っていない。戦後、児童福祉法というのができて、これはこれで益する部分もあったが、芸の世界に関しては致命傷ともいえるものになった。昔は本当の少女の時分に入団し(ターキーは十三歳で入団したという)たのだが、福祉法によって年齢制限が生じる。宝塚など、高校を出て歌劇団の学校に入り、卒業して雪組だの花組だのに編入され、だんだん役がつき、人気も出はじめ、スターになるころには二十代後半、オールドミスの年齢となってしまう。昔、映画女優の苗床といわれたのが、今はもう見返られない。代表的スターは三十歳前後ということになってオバさんレビューになってしまう。
したがって、松竹の場合、はじめは松竹楽劇部、途中から松竹少女歌劇のSSK、戦後は松竹歌劇団でSKDということになる。
囲碁や将棋なんて小学生のころからやっているのに、芸人は駄目《だめ》。
もうひとつ、世界的にスペクタクルレビューが不振なのは、人件費があがって人間を洪水《こうずい》のように使えなくなったことだ。逆にいえば、踊り子が極安のギャラで犠牲になることの上に成立していたジャンルだともいえよう。例を出すと、昭和八年ごろ、同じ浅草で働いていたエノケンの月給が千円(これはかなりの家が一軒買える)、ターキーの月給が百円。普通の踊り子たちの月給が十円から三十円くらい。
 さて、そのターキー水の江瀧子であるが、入団したとき貰《もら》った芸名が東路《あずまじ》道代で、当時百人一首から名をとった宝塚に対抗して、万葉集から宣伝部がつけたという。ところが水の江たき子という名を貰った子が、いやだといって、名前をとりかえてくれという。
「アラ、いいわよ」
ととりかえっこした。さっぱりした気性のターキーらしいが、運というものはわからない。東路道代では、はたして大物になっていたかどうか。
ところで、私はごく幼いころから、実物を知らず、広告でその顔と肢体《したい》を見覚えていたころから(明治チョコレートの士官姿の広告などは、現今の同社の広告の感じとほとんど変わっていない)なんとなくファンだった。
美人じゃないし、色っぽくもない。ただ、実にどうも、好感度が満点で、世の中にこれほど嫌《いや》みのない顔というものがほかにあろうか。私が幼稚園に通っていたころの記憶としてたしかに残っている。
ターキーの住居が、生家にわりと近い牛込弁天町と誰かに教わって、弁天公園に毎日遊びに行き、ターキーが通りかからないかと思ったりしたのもこのころだ。もっとも後年知ったが、この時分テキは四谷左門町に住んでいたらしい。
ターキーの最盛期がこのころで、私は完全におくれてきた男だ。小学校の五、六年生から中学にかけて、一人で浅草をうろつくことを覚えて、東洋一というバカ大きい国際劇場の三階の大衆席で、豆粒のようなターキーを何度か観《み》た。
彼女は肩幅が狭くてスマートだった。遠目にそれだけしかわからなかったはずだが、そのえくぼまで手にとるように観たつもりになっていた。ちょっと肩を揺するように早足で登場し、笑顔、澄まし顔、舌の廻《まわ》りのわるいセリフ、一つ一つの所作にドッと沸き、サバサバした明るさが場内に満ちる。なにしろ彼女は、実質は女性だが女っぽいアクがほとんどなかった。そうして男役だが男っぽいアクという奴《やつ》もない。玩具《おもちや》の兵隊のようで、娘さんたちにとって実に理想的な中性的偶像だったろう。男装の麗人といわれるスターは皆その条件を備えているようで案外そうでない。女か、男か、どちらかの要素が勝っていて、肉体がともなってしまう。
�ターキー�というファン雑誌が山積みされた古本屋をみつけ、日参して立読みしたのもそのころだ。水の江会というファン組織は二万人余といわれ、当初はパンフレット風だったが、週刊誌判の立派な雑誌になって七、八年は続いたのではなかろうか。ファン誌として下品でなく、唯珊太郎という人が編集長で、学生か学生OBと覚《おぼ》しき数人の男性編集子が居《お》り、この連中のモダン幇間《ほうかん》ぶりがスマートな効果をあげていて、ターキーの日常なども嫌みなくスケッチされていた。この雑誌を読みふけって、「アチシ(私)——」というターキーのイントネーションも覚えたし、うどん好きのことも知った。晦日初枝というママ代りの姉さんや早稲田の学生だった明《あきら》兄さんのスマートボーイぶりなど、すべて知ったような気分になって、それでターキーに対する親愛感が倍加したのかもしれない。明さんに召集が来た夜の様子など、記事で読んだだけなのに、ときどき眼《め》にしたような錯覚におちいる。
今、資料を見ると私が三階席から豆粒のようなターキーを見たのは昭和十五年の�東京踊り�らしい。以後、川路竜子《かわじりゆうこ》、南里枝に代表される時期から熱心に見はじめるが、戦時色が濃くなってレビューも先細りになる。
ターキーが私にとって間近になったのは、劇団たんぽぽを結成して丸の内邦楽座に出たころからだ。SSKを退団したのは、直接には男装禁止のお触れが出たためだと思う。以後、水谷八重子の芸術座に客演したりするが、入場料の高い東劇だったため私は未見。ターキー自身の記憶によると「魅力はあるが、おそろしく拙《まず》い女優」と劇評で叩《たた》かれたという。
ターキーはもともと、容姿一〇〇、踊り七〇、唄《うた》ゼロといわれ、セリフも舌足らずだった。本人も唄はいつも半分照れていたようだったが、私はあの音痴風の歌唱が好きだ。あばたもえくぼではなくて、唄に限らず不完全なところがいい。不完全さが魅力になるかどうか、それがスターかそうでないかの境目だ。
劇団たんぽぽは、当初はSSKのOBがほとんどで、藤田繁以下の男性舞踊手や歌手が数人参加した程度の変形少女歌劇で、男役が欠如しているのだからパッとしなかったが、たしか四回目公演の、�おしゃべり村�(穂積純太郎作)がヒットして劇団の方向も定《き》まったようだ。
これは狼《おおかみ》少年を娘にしてゴーゴリの検察官を加えたようなミュージカルだったが、娘役ではあるものの〈明るくて孤独〉というツボにはまっており、ターキーも楽しそうに演《や》っていた。
以後、�ユウラシアン�とか南方を舞台にしたものでターキーの持っているエキゾチシズムを活《い》かしたり、むずかしいタレントをうまく使っているなと思っていたら、劇団代表の兼松廉吉氏が懐刀《ふところがたな》 兼愛人だった由《よし》で、企画だけでなく役者集めにも熱が入っており、戦時下|唯一《ゆいいつ》の安定した劇団になった。
その戦争末期の二、三年が、私にとっては非常に長い。この間、劇団たんぽぽの公演を欠かさずのぞき、ターキーの雰囲気《ふんいき》に一人で浸りこんだような気分になるのが楽しみだった。八王子松竹のせまい楽屋に腹這《はらば》いになってリンゴをかじっていたターキーが、今でも夢に出てきたりする。私には年増《としま》のおばさんに見えたが彼女は一九一五年生まれだから、このころ三十歳ぐらいか。
 戦後はインフレで劇団活動も苦しくなり、安手のレビュー映画に出たり、世間的には精彩がなかったが、それでも時おり国際劇場のレビューで男役などやると大受けしたりした。たしか、引退公演を二度やったと思う。引退と銘打った公演が大入りで、やめられず、何年か後にまた引退した。
それから映画のプロデューサーをやるかたわら�ジェスチャー�などのTVタレントで、年輪を加えながら長持ちしたのはご存じの通り。
戦後、私は芝居の客席から遠ざかってしまったが、水の江瀧子については、老《ふ》けようが落ち目になろうが、不思議な親密感を勝手に抱き続けて遠くから眺《なが》めていた。子供のころに身体《からだ》の中にひそんでしまったものはなかなか消えない。
私は、ずっと、水の江瀧子のように恵まれた一生を送る人はめったに居ないだろうと思ってきた。男運には恵まれていないが、あれだけの拍手に埋まり、後にも先にも彼女を超えるレビュースターはなく、七十代まで現役であのサバサバした明るさを保持しているのが凄《すご》い。凄いというよりラッキーだ。
そう思っていたら、降って湧《わ》いたように三浦和義《みうらかずよし》の事件で、白黒はともかく、この事件が彼女に与えた苦しみは計り知れないだろう。これだから人生は困るので、全勝も居ない、全敗も居ない、どこかで幸不幸のバランスがとれてしまうようなところがある。
せめて誰か一人くらい、いいことずくめで幸せに死んでいってほしいもので、私はターキーこそ、その人だと思っていたのだ。それでこそ私のアイドールだったのだが。
召集で中国に行ったというモダンボーイの明さんの、老いて苦渋に満ちた顔を新聞で見たとき、私は書架をひっかきまわして、昔の�ターキー�誌を探した。永遠に傷つかない表情の若いターキーの顔を見ようとしたが、どこに行ったか、雑誌が消え失《う》せている。
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