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大都会02

时间: 2020-04-13    进入日语论坛
核心提示:東京二ヵ月後「どうだ? 少しはよさそうなのが漁《と》れたか?」広壮な社長室のソファーにゆったりと腰を下した盛川達之介は、
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東京——二ヵ月後

「どうだ? 少しはよさそうなのが漁《と》れたか?」
広壮な社長室のソファーにゆったりと腰を下した盛川達之介は、葉巻の灰を銀製の灰皿の中に落としながら言った。
「は、指定校から推薦された学生達だけに受験資格を与え、学力、面接試験共に、一定以上の点数を取った者ばかりを四十人ほど。例年通りでございます」
人事部長の磯原が小腰をかがめながら答えた。
「四十人か……去年より少し多いな」
盛川は上瞼の重そうな目を磯原に向けた。
「はい、本年は家電事業部を拡張いたしますので、その補充の意味もございます」
磯原が揉手をした。新入社員を例年より多く採ったことを咎められたと思ったらしい。もともと、新規採用の人数は盛川が決めたことで、磯原が独断でやったのではないのだが、盛川はよく自分の出した命令を忘れるくせがあったのである。
尊大なワンマン社長によくあるように、すべての命令を自分が発し、その結果が自分の意図したものに超近似値的[#「超近似値的」に傍点]に一致していなければ気にくわなかった。
自分から出した命令でありながら、結果が自分の意図と異なる時は、実に都合よく自分が発令者であったことを忘れ、本気になって怒る。
大企業の社長にあるまじき悪癖であったが、盛川の場合はそれで通った。電気産業界の雄、菱井電業の今日の大は、盛川のこのあく[#「あく」に傍点]の強さと強引な商法に負うところが大きかったからである。
今も、——
〈誰がそんなに大勢、採れと言ったか!?〉
と怒鳴りつけられるのではないかと磯原人事部長はヒヤリとしたものだ。
しかし、今日の盛川は、自分の命令を忘れていなかった。
「よし、そのうちから五人、いつものように適当に[#「適当に」に傍点]選び出して、今週の日曜日、儂《わし》の邸へこさせろ」
「はっ、かしこまりました」
磯原部長は最敬礼をした。
千代田区竹平町のパレスサイドにある菱井電業株式会社、本社屋の社長室でのあるひと時の会話である。
 田園調布の高級住宅街の日曜の午さがりは、町全体が午睡をしているようなものうい静けさに包まれていた。
五月晴れの眩しい空に、風も死んで、すでに夏の陽差しを思わせる強い光が溢れる空間に、鯉幟《こいのぼり》も眠ったように垂れ下がっていた。
遠くで犬の吠えているのがよけい眠気をそそるようである。
しかし、この静かな町に、全く別の世界のような生き生きとした一角があった。
広壮な邸宅群の中でも、ひときわ見事な、樹木というよりは、森に囲まれたといった方が正確な大邸宅の応接室に、若い五人の青年が彼らの若さを象徴するような、生きのいい話題を弾ませていた。
緋のペルシャ絨毯の上のマホガニーの円卓を囲んで五つの深々としたソファー、庭の緑に点々と映えるのは、紅がほのかに混じる豊麗な白牡丹の簇《むら》がりである。
打ち水の爽かな庭石を踏んで表に廻れば、大理石の大きな表札には、盛川達之介と彫《ほ》られてあるはずであった。
言うまでもなく五人は、盛川社長の指示により、磯原部長から選ばれた青年であった。
「四十人の学卒新入社員の中で、俺達五人だけが選ばれて、今日社長邸に招ばれた。この意味が分っているか?」
F大出身の早川修造が興奮したおももちで言った。
「そんなこと、菱井電業の�基礎知識�じゃないか」
努めて感情を圧し殺すような口調で答えたのは、M学院から来た佐藤文男である。だが、彼の顔も選ばれた者の喜悦を隠しきれなかった。
「俺は嬉しい」
卒直に自分の感情を表白したのが、K大出の野沢明だ。
「俺の家は東北の水呑み百姓だ。喰うや喰わずの生活の中から、俺を大学へやってくれたのは、一日も早く一流会社に就職して出世してもらいたかったからだ。君ら都会者には分らんだろうが、俺のような田舎者には一家のいや、一村の期待と夢が賭けられている。アルバイトに明け暮れながらも必死に勉強して、優秀な学業成績を得ようとしたのも、一流会社の入社試験受験資格を得たかったからさ。おかげで俺は首尾よく、一流企業と自他共に目される菱井電業に入社できた。そして、今、また、将来の幹部候補生の条件としてすでに慣習化されている、新入社員の社長邸招待の栄誉に浴したんだ。俺は本当に嬉しい」
いかにも、東北出身者らしい丸々とした頬に少年のような喜びの紅潮がある。
単純で、人の善い男らしい。
「いずれにせよ、俺達五人は幹部候補として選ばれたわけだ。これからはあらゆる面で他の新入社員とは区別される。ジェラシーや反感も相当なもんだぞ。これからは五人ガッチリとスクラム組んで行こうぜ」
分別顔で言ったのはM大から来た淡島英二である。口では協力しようと言いながらも、いかにも小廻りがきき、切れ味がよさそうな、唇のやけに薄く、赤いこの男は、心の中では四人に対して、猛烈なライバル意識を燃やしているにちがいなかった。
早川、佐藤、野沢の三人が淡島の呼びかけに同調するようにうなずいた。
「な、そうだろう?」
淡島は先刻から口をつぐんだままの岩村元信の顔を覗きこんだ。
「あ、うん」
岩村は否定とも肯定ともとれる返事をした。
「俺達は選ばれた仲間なんだからな」
淡島が曖昧な岩村の態度を、自分の都合のよいほうへ解釈した。
「さあ、どうだか?」
淡島はじめ、他の三人は自分の耳を疑った。岩村の言葉が解《げ》せなかったからだ。
「さあ、どうだかと言ったんだ」
「それはどういう意味だ?」
淡島が詰《なじ》るように言った。他の三人も心持ち岩村の方に詰め寄るようにした。
「俺達が選ばれた五人だということがさ」
「それじゃあ、岩村君、君は我々が選ばれた人間とはかぎらないと言うつもりなのか?」
今度は野沢が口を開いた。彼の頬はますます紅くなっていた。
「ま、そういったわけだ」
岩村は素気なく言った。
「しかし、新入社員の中から特に選ばれて社長邸に招待されたのは幹部候補生として認められたことなんだ。このことは菱井電業の不文律のようなもんじゃないか。現に今井家電部長にしたって、家石販売部長にしたって、皆、新入社員時代に特に選ばれて招待された方々だという」
佐藤が唇を尖らした。もともと色の白いうらなりひょうたんのようなこの男は、口を尖らすとキツネのような顔になった。
「さ、そこのところさ」
岩村は他の四人がいきり立つほど、口調を鎮めて、
「俺は何も幹部候補になったことまで否定しちゃいないさ。俺がな、疑問に思うのは特に選ばれて[#「特に選ばれて」に傍点]ということさ。本当に俺達、特に選ばれたのかな?」
「……?」
「おそらく学卒新入者の四十何人かは入社試験の成績順に採ったんだろう。そこまではいいさ。しかし、この五人、入社試験の成績を基準にしてトップから五番目まで、選んだとはどうしても思えない。何故なら、俺は試験でベスト5に入ったと信じるほどうぬぼれてはいないからな。みんなはどうだ? 我こそはベスト5に入ったから選ばれたんだと自信を持って言える奴はいるか?」
四人は顔を見合わせた。
「それにだ、入社試験はとにかくとして、将来の幹部を、屁にもならない学力だけで決めるわけにはいくまい。とすれば、我々五人は何か別の基準で選び出されたことになる」
「別の基準?」
早川が瞳をくるくるさせた。
「そうさ、別の基準さ、コネ、けなみ、健康、容姿、ファイト、経歴、その他にも人間の価値判断の基準はゴマンとある。一体、何だと思う?」
「それらすべてを選考した上でのことだろう」
とふたたび淡島。
「それらすべて? ふん、お笑い草さ」
「それじゃあ一体、何を基準にしたというんだ?」
淡島がいらいらした口調を隠さずに訊いた。利口ぶってはいてもこの男が一番激しやすく、冷めやすいヒステリー性格らしい。
「基準なんて別になかったのさ、誰だってよかったんだ」
「誰だってよかったって!?」
「まあ聞け」
金切り声を上げる淡島を制して、
「企業が何で大学出を採りたがるか知っているか? それはな……学卒者の方が人材に当たる確率がいいからさ。大勢の学卒入社志望者を大ふるいにかけるために、一応入社試験をするが、会社の方だって試験の成績のいい奴が人材だとは思っていないさ。学力なんか企業の中の腕比べにおいてほとんど役に立たない。ただ、確率がいいだけさ、書類選考でざっとふるいにかけ、次に入社試験で中ぶるいにかける。最後に残った何十人かの新入社員の中から、|適  当《アツトランダム》に何人か引っこぬく。他の学卒者には気の毒だが、これが一番能率的なやり方なんだ。企業が大きくなり、人間を歯車の一コマ一コマとして使おうとすれば、人間はどいつもこいつも似たり寄ったりの規格品になる。どいつも同じような人間なら、その人間のレッテルで中身を判断しなければならなくなる。卒業証書はレッテルの一つさ。
次にレッテルが同じだったら、その中からアットランダムに選び出して、最後に自分が真に欲しがる本当の優秀品を掘り当てる。
人間一人一人の個性を尊重して、あらゆる面から多角的に考察して選び出す方が親切であり、外された奴も諦められるだろう。しかし、そんなことをやったら手間が大変だ。企業では人間の選択ですら能率がものをいうのさ。要するに欲しいのは人材で、結果が同じであればらくな手段を選ぶ。別に俺達は特に選ばれたわけじゃあない、他の誰だってよかったのさ。たまたま、クジに当たっただけだ。おめでたいかぎりさ」
岩村は語尾に嘲笑を加えた。彼らの単純さがおかしくてたまらないといったふうに。——
「何! 俺達をおめでたいだと! 岩村君、もう一度言ってみろ」
淡島と佐藤がいきり立った。
「おう、何度でも言うぞ。君らは揃いも揃っておめでたい連中だよ」
「くそ!」
淡島と佐藤の二人が、社長邸であることも忘れて立ち上がった。
「ま、待て、待ってくれ!」
野沢がおろおろ声を出した。早川はただ蒼い顔をして唇を噛みしめているばかりであった。険悪な空気が一座に張りつめた。
その時、扉にノックがあり、こちらの返事も待たずに扉が開けられた。
そこには、——庭の牡丹をそのまま移し変えたような美しくも、豊かな若い娘が、銀盆にコーヒーカップをのせて立っていた。
「まあ、恐いお顔!」
娘はおどけたように入口に立ちすくんでみせた。
細形で背はあまり高くないのに、何と形よく発達した肢体であろう。明るい大きな瞳は青春の喜びと若々しい知性にあふれ、唇はいちごのように赤く小さく、それでいて豊かだった。
岩村はきっと馬鹿のように口をポカンと開けていたにちがいない。そして、他の四人も。
岩村は後になってからその時の自分の様子を想像して(俺としたことが、たかが一人の女に)とくやしさに唇をかむのである。
とにかく、五人は闖入《ちんにゆう》して来たその娘に完全に魅せられた。その時点における娘への心の傾斜は五人共、純粋であったといえる。
五人は瞬時にしてその娘が何者であるか悟った。そうすることにより彼らの心はさらに強く娘に牽引されて行ったのである。
娘の名は盛川美奈子、盛川達之介が目に入れても痛くないほどに可愛がっている末娘にちがいない。
過去、�招待者�の中からさらに選ばれたエリートへ盛川の娘が�降嫁�した前例があるだけに、五人の若者の美奈子に傾きかけた心には、いち早く、打算が忍び入っていた。
となれば娘一人に婿五人、いや、美奈子の対象はあながち彼らだけとはかぎらない。前期の、いや前々期の、そして来年入社して来る�招待者達�も婿の候補に入るかもしれない。
しかし、いずれにせよ、前例に照らして可能性はあるのだ。大菱井電業の幹部としての栄光の座と共に、この美しい�女�にありつけるかもしれぬ候補者の一人として選ばれたことは事実なのだ。
選択の基準がどうあれ、とにかく候補者となった事実に変りはない。
四人は、いや、岩村も含めた五人はたった今の激論も忘れて、銀盆をかかえて立つ盛川美奈子の臈たけた顔を、化石したように見つめていた。
「単純な奴ばかりだな」
盛川達之介はそう言ってから、もういいというふうに手を振った。
はっとかしこまって、テープレコーダーのスイッチを切ったのは磯原部長である。場所は数時間前まで、五人の若者が美奈子としゃべっていた盛川邸の応接室であった。室内にはまだ五人の若者達の熱気が残っているようである。装飾用に仕切られた壁付暖炉の上の置時計そのものが精巧なテープレコーダーになっていた。
盛川が聴き入っていたのは、それが録音した�選ばれたる者�達の会話の一部始終であった。
「だんだん、小粒になりおる」
盛川は不満そうにつぶやいた。
「はっ、申しわけありません」
磯原は自分の人選の不手際を指摘されたと思って恐縮した。しかし、適当に選べと言いつけたのは盛川なのである。
「お前の責任だとは言っておらん、どいつを選んでも変りはないのさ」
盛川はつぶやいてから、同じせりふがテープの中にあったことを思い起こした。
「そうだ、岩村という男、あいつは少し面白そうだ。磯原」
「はっ」
「岩村という新入りに注目しておけ、あるいはものになるかもしれん」
彼は磯原に言い捨てるとそのまま後も見ずに応接間から出て行った。
 同時刻、都心の高台にある一流ホテルのダブルルームのベッドでからみ合っている一組の男女があった。
「どう、私のおしえた通りになさった?」
女は男の胸毛を玩びながら、だるそうに言った。
「うん、おかげさまでな」
男も同様にだるそうに答えた。
「あのお爺さん、今頃、磯原部長と一緒にテープを再生している頃だわ」
「君がおしえてくれなかったら、俺も危く罠にかかるところだったな」
「お礼は高いわよ」
女が悪女めいた笑みを浮かべた。長い髪が豊かな胸のあたりまでまつわっている。一見、痩せた肢体だったが、躰の要所要所は驚くほど肉付きがよい。
「だから、こうやってつきあってる」
「ふん、最初はそちらから接近したくせに。私の躰の中で眠っていた狼を起こしたのは誰なのよ。憎い人」
女は男の躰の一部分を思い切りつねった。
「痛い!」
男は大仰な悲鳴をあげた。本当に痛かったらしい。
「私を社長秘書と知って近づいて来たあなたは、最初からそんな打算があったのね」
女は憎らしそうに言ったが、目は笑っていた。
「でも、打算でも何でもいいの。私はあなたが好き! あなたなしではいられないわ。あなたの欲しい 情《インホメ》  報《ーシヨン》 は何でも上げるから、私を捨てないでちょうだい! 結婚してなんて言わないわ。二号でも三号でもいい、いつまでも貴方のそばにおいて」
女は狂おしく叫ぶと、ふたたび男の躰にしがみついていった。男は女の挑発を逞しく受け止めると、引き裂くような凄じさで女の躰を開いていった。
ベッドカバーをまくり上げ、室内灯《ルームライト》を皓々とつけた中で、無惨なまでに開き切った女体に、男は盛川美奈子の躰をオーバーラップさせていた。
男は岩村元信である。女は竹内悦代、社長秘書であった。
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