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大都会14

时间: 2020-04-13    进入日语论坛
核心提示:薬と蛆《うじ》と肉と「何! 大井が睡眠薬を服《の》んだと」渋谷は受話器を握ったまま愕然としてよろめいた。「駄目だ」渋谷夏
(单词翻译:双击或拖选)
薬と蛆《うじ》と肉と

「何! 大井が睡眠薬を服《の》んだと」
渋谷は受話器を握ったまま愕然としてよろめいた。
「駄目だ」
渋谷夏雄は絶望的な目を上げた。血走った目、痛々しいばかりにこけ落ちた頬、油気のないパサパサの髪、えり垢と機械油で真黒に汚れたワイシャツと、その上にじかに纏《まと》った作業衣、彼がどんな三日間を持ったかその様子だけで分った。
公開実験が無惨な失敗に終ってから三日目の朝、星電研中央研究所では技師団の不眠不休のMLT—3再製作業が続けられていた。
星川社長は一言も叱責がましいことは言わなかった。渋谷の腕をかたく信頼していたのである。
再公開さえできれば喪われた信用など直ちに回復できる。今は責任の追及や、事故原因の究明よりも、再公開に向かって総力を結集しなければならなかった。
もっとも、事故の原因はすぐに分った。群衆に蹂躙されてポンコツと化したMLT—3を渋谷が分解した結果、マイクロトライカラーチューブが、従来のポータブル白黒テレビ用の受像機とすげ替えられていたのである。これでは色が出ないのは当然であった。
最終的点検は公開実験日の前夜半、渋谷自身が行ない、何の異常もないことを確かめていた。翌朝、研究所からホテルナゴヤの会場へ運ばれて実験が開始されるまでの時間は、大勢の人目に晒されていたから、すげ替えは渋谷らが研究室から引き取ってから朝までの精々、四、五時間の間に行なわれたものと推定できる。
しかし、研究室には部内者以外は入れない。またよしんば入れたとしても、複雑な部分品のすげ替えは相当高度な電子工学の知識をもっている者でなければできない。否、単なる電子工学の知識に加えてMLT—3に精通している者でなければこの短時間にすげ替えはできない。
とすれば、犯人は部内者、それも渋谷の周囲のごく少数の技師ということになる。
しかし、今の渋谷は犯人の追及を後廻しにしなければならなかった。今はあらゆることにましてMLT—3の再製を優先させなければならない。
しかし、それはもう簡単には再製できないのだ。
まず、従来の白黒型の部品で代用できるかぎりのものは代用する。しかし、天然色《カラー》受像管《キネスコープ》だけは代用できない。
従来の三色受像管《トライカラーチユーブ》は約六十万個の三原色を蛍光体に点状に配置し、三個の電子銃から原色各成分で変化する三本のビームを同時に走査するものであったが、渋谷の開発したものはこれを一本のビームで三原色を制御しようというものであった。
それだけにメカニズムは複雑をきわめる。
ところが、自分の手足たる技師達が実験の翌日から一人欠け、二人欠け、三日目の今朝は一人も出てこない。
もちろん、研究室には他の技師達もいるが、MLT—3の専従技師は自分を含めて四人なのである。
「立花、杉田、大井、何故出てこない!? 俺一人ではできないのだ」
渋谷は絶望と憤怒をこめて呟いた。彼一人でできないことはなかった。しかし、それはたっぷりと時間をかけてのことである。今は急がねばならなかった。遅れれば遅れるだけ星電研の信用はおち、せっかくこれまで、血の滲むようにしてきり拓《ひら》いてきた市場は他社に喰い荒される。
しかし、彼はまだ連日ストップ安をつけている株価のことは知らない。底をつく日を充分に手許に引き寄せてから狙い撃ちしようと、手ぐすねひいて待ち構えている狙撃兵のような買い占めの魔手を知らない。
従って、会社の危急存亡の秋《とき》に出社してこない技師達が、それぞれに単なる怠慢によるものではない理由があるにしても、えりにえってこのピンチにとくやしく思うのである。
立花は実験日翌日から一人息子がインフルエンザから併発した急性肺炎で危篤ということで子供に付きっきりである。杉田は翌々日の夜、こともあろうに赤痢という病名を貼られて強制隔離入院させられ、そして今また、同日の夜、大井が睡眠薬を服みすぎて重態という報を受け取ったのである。
「帰すのではなかった」
渋谷は痛切に悔んだ。実験が失敗に終った日から二日間徹夜したために、翌々日は家に帰りたいという彼らの希望を容れてやったのがいけなかった。
会社が浮くか沈むかの瀬戸際に二日や三日の徹夜が何だ。再公開実験までは研究室に泊まりこんで不眠不休の努力を傾けるべきだ。二晩続いての徹夜に情けをかけたのがいけなかった。
「子供の風邪ぐらいが何だ」
思わず怒鳴ってしまった渋谷も様子を見に行って来た社員から、立花の一人息子が四十度の高熱で血たんすら喀《は》いているという報告を受けて沈黙した。立花の子煩悩は渋谷も知っている。一人息子が死にかけているとなれば立花ならずとも。——
翌日は杉田の赤痢である。町の鮨屋で喰ったすしがいけなかったらしく、悪寒と猛烈な赤痢症状に医師の診察をうけ、赤痢の疑いありとしてその場から有無も言わせず隔離されてしまった。渋谷がどんなに地団太踏んでも、法的な隔離にはどうすることもできない。
同じ夜、追い討ちをかけるように大井が睡眠薬を服んだ。本人が昏睡しているためにはっきりした理由は分らなかったが、どうやら、MLT—3の管理責任を感じてのことらしい。回復までに最短三十六時間かかるという報告を受けては、渋谷はもはや何を言う気力も喪ってしまった。
彼ら三人は終始自分を扶《たす》けてカラーテレビを開発した手足である。その手足をもがれた渋谷は、これからの気の遠くなるような再製作業を一人でやらなければならぬことを知った。
 渋谷が地団太踏んだ前の日、即ち、公開実験の二日後の午後、名古屋駅前のコーヒーショップ、カルネドールで二人の男が話し合っていた。
「これがあんたの精密健康診断書だ。どこにも悪いところはない。特に心臓はアベベなみだそうだ。肝臓や腎臓は鉄のようだとさ。ちっとやそっとの睡眠薬の服みすぎではびくともせんだろう。意を安んじてたっぷりと服んでくれ」
「本当に大丈夫でしょうな?」
話しかけた方が氷のように冷静そのものなのに、話しかけられた方は落ち着きがなく、何かにおびえているようである。
「あんたも臆病だな。これはあんた自身が大阪のH大病院で名前を変えて診てもらった健康診断書じゃないか、そんなにびくびくしなさんな。バルビタールをちょっとよけいに服んでくれればそれでいいんだ。催眠作用が深く持続時間が長いから、ぐっすりといい気持で眠れるよ。四十時間も眠ればきれいさっぱり、小便になって出てしまう。それだけ眠ってくれればこっちの用は充分に果たせる。
あんたはそれだけのことで五十万円のボーナスが入る。きっと、爽快な目覚めだろうぜ」
話し手は薄く笑って、白い錠剤の入った小さな薬ビンをテーブルに置いた。
話しかけられた男はこわごわと眺めていたが、やがて、意を決したようにそれを取り上げてポケットにしまいこんだ。
「五十万はお目覚めになってから差し上げる。自殺をする人間が大金を持っていてはちょっと具合が悪いからな。あんたは渋谷の親衛隊だ。あんたがクスリを服んだらMLT—3の失敗の責任を一身に背負って自殺を企てたと、世間はあんたの責任感の強さを賞讃するだろう。五十万のボーナスは入るし、こんなボロイ話しはないだろうが? 薬が廻った頃に偶然、発見したような顔をして病院へ運んでやるから、分量を少し位、まちがえても構わんぜ、胃洗滌とあんたの鉄の内臓があれば、死のうたって死ぬもんか。じゃあ、話はついたから私は行く。これからあと二人[#「二人」に傍点]、会わなければならん人間があるんでねえ。じゃあ、ぐっすりお寝み[#「ぐっすりお寝み」に傍点]」
男は伝票をテーブルから取って立ち上がった。二人は花岡進と、星電研技師、大井忠であった。
 それから一時間後のこと、——
名古屋の繁華街の一つ広小路通りの裏にそのものずばりの�ワンタッチ�という名前のおさわりバーがある。
薄暗い照明の下で欲望をむき出しにした男達と、すけるようなネグリジェや申し訳程度のショートパンツのホステス達が、淫猥な会話と触感を楽しみながら腐乱死体に湧いた蛆《うじ》のように蠢《うごめ》いている。
そういう蛆の群に混って、自らも虫の一匹となって楽しみながら謎めいた会話を交している二人の男があった。
「法定伝染病とはいえ、赤痢は最も軽い。ちょっと下腹が渋るだけだ。それでも神経質なドクターは隔離してくれる。ま、クレゾール臭いのをがまんすればこんないい保養はない」
「いや、そうおっしゃいますがね、私の身にもなって下さいよ。赤痢菌を故意に服んで避病院行きですわ。あまりぞっとする話じゃない」
「何もコレラやペストになるわけじゃあない。クロマイの二、三粒も服めばすぐ癒る病気だ。それだけの手間であんたは百万入る。星電研でいくら貰っているか知らないが、割の悪い話ではないはずだ。それにあんたは協電の匿名社員なのだ。一円も特別賞与《ボーナス》が出なくとも社命は遂行しなければならないはずだよ」
「分りましたよ。……しかし、赤痢とはね」
「赤痢が一番いいのだ。いかに星電研や渋谷があんたを必要としても、まさか隔離病院まで追ってはこられまい。最少限十八日間、——国家があんたを保護[#「保護」に傍点]してくれるからな」
「えっ、十八日間も!」
「すぐ経つさ。いったん陰性になっても六日経つと再陽転する危険性があるんだ。しかも三回もな。従って十八日間は何がなんでも隔離される。有難いじゃないか」
「そんなら、何故、渋谷に服ませないんですか?」
「案外、馬鹿だな、あんたは。渋谷がタイミングよく赤痢になったらいかに星電研がおっとりしていても、企業の謀略だと正面きって騒ぎ出す。
渋谷が�生き残って�いればこそ謀略の匂いを嗅ぎ取っても、その追及は後廻しにして実験再公開に全力を挙げる。こちらは何も実験を不可能にしなくてもよいのだ、ただほんの四、五日、株価がこちらの�予算�に合うように安くなるまで、遅れるだけでよい。だから渋谷の手足たるあんたに服んでもらうわけだ」
「…………」
「この小ビンの中にはある大学病院で特別培養された赤痢菌が入っている。特製だからよく効くよ。あんたはこれから栄町の花ずしというすし屋に行く。そこですしを鱈腹喰ってから、この特効薬を服むという寸法だ。そのすし屋は明日から営業停止になるだろうが、ちゃんとそれ相応の補償はしてあるから、安心して感染源に店の名前を出してよい。
今、七時三十分、花ずしに行くのが八時半、腹が痛くなるのは明日の朝の予定だ。あんたのアパートのすぐ傍には名古屋中央病院がある。この季節にすしを喰って腹が痛くなったと言えば、どんなヤブでもまず赤痢を疑うよ。明日の十時頃にはあんたはまちがいなく、法定伝染病患者として、国家から強制的に入院隔離されているよ」
男は薄く笑った。故意にルックスを下げた暗い照明の下で、彼の瞳が猫の目のようにきらめいた。
その時、ネグリジェ姿の二人のホステスが、彼らのボックスに嬌声をたてながらやって来た。
「ああら、こちらのお兄さん方、えらい難かしそうな顔しはってどないなお話してはるの?」
男はホステスの席を作るために、身体をずらしながら、
「ビジネスの話だよ、さあ、こっちへ寄った寄った。こちらの方は明日から遠い外国へ出かける。今夜が日本の最後の夜というわけだ。一つ想い出のために大和撫子の躰をたっぷりと触らせてやってくれたまえ」
彼はそう言いながら、素早く自分の指を脇に坐ったホステスのネグリジェの裾にさし入れた。
「いやあん」
ホステスは大仰な悲鳴をたてながらも、男の胸にもたれかかって来た。もう一人の男はその様子を苦々しげに見やりながらグラスを呷《あお》った。二人の男は花岡進と星電研技師杉田明であった。
 杉田明と別れた花岡進はバーの前からタクシーを拾い、名古屋国際ホテルに向かった。
「小原だが、妻《ワイフ》が先に来ているはずだが」
フロントであらかじめ女と打ち合わせておいた偽名を告げると、フロントクラークは|客   名   板《インホメーシヨンラツク》を調べて一個の室番号《ルームナンバー》を教えてくれた。
エレベーターで八階にのぼり、海の底のように静まりかえった廊下を目指す部屋に向かう。クラークの教えてくれた部屋の前で立ち止まった花岡はコールボタンを押した。
部屋の奥でチャイムの音が遠い音楽のように鳴り、微かに人の近づく気配が扉越しに感じられた。
その足音の主こそ�小原の妻�として今夜の情事の相手を勤めるべく、ホテルに先着して花岡を待っている女のはずであった。いや、単なる情事の相手方としてだけではなく、重要な�商談�の相手をも兼ねている。
「どなた?」
「俺だ」
やがてドアチェーンの外される音がして扉が開かれた。と同時に女の厚ぼったい身体が、まるで一かたまりの綿が投げ込まれたように、ドサッと花岡の胸に飛びこんで来た。
「遅かったじゃない」
女の怨む声と共に花岡は強烈に唇を吸われた。
「おいおい、せめて中へ入れてくれよ」
花岡は辟易しながらも、満更でもなさそうな顔つきで女の熱い躰を優しく押しやった。
「ひどい人、私がどんなに時間をやりくりして脱け出して来たかご存知のくせに」
胸も腰も豊か過ぎるほど豊かでありながら、決して肥満を感じさせない、まことに女盛りという形容がぴったりの女だった。
花岡はまつわりつく女をひとまず払いのけてから、
「それで坊やの容態はどうだ?」
と訊いた。
「そんなことどうでもいいじゃないの」
「よくはないさ。坊やの容態いかんで立花の行動がきまる」
「それだったらご心配なく、いい具合に肺炎を併発したわ。立花はつきっきりよ、そのなかから脱け出して来るのがどんなにしんどかったか、解ってくれるわね」
女はまた、身体をすり寄せようとした。
「ま、待て、まさか死にはせんだろうな?」
「そんなこと知らないわ、もし死んだら貴方が殺したも同じことよ」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。君が立花の後妻におさまってからも、相変らず立花が、先妻の遺した一人息子に夢中なのを妬《ねた》んだのは、君じゃなかったか?
何とかしてくれと泣きついたから、俺はちょっと、立花をいじめてやる方法を教えたまでさ。
今、名古屋地区で流行《はや》っている流行性感冒ウイルスAを、二週間位前から子供にちょっとしこむ。小児の場合は抵抗が少ないから感染後三日—五日位で発病する。案の定、一昨日から発病したから子煩悩の立花は半狂乱だ。君がそばにいて子供の風邪がこじれるように工作したから、立花が気がついた時は気管支炎を併発していた。立花は子供のそばにつきっきりだろう。おかげで君は日頃の怨みをはらせるばかりでなく、こうやってたまの逢う瀬を楽しむ時間ができた。何しろ、人妻が夜、脱け出すとなると穏やかではないからな」
「何言ってんのよ、あなたが昼間、逢って下さったら、こんなあくどいまねをしなくもすんだのに」
「あくどい? よせよ。罪もない子供を苛めて苛めて、苛めぬいて、それでもあき足らず、病気にでもしてやりたいと言ったのはどこの誰だっけな」
「あなたには後妻の気持が分るはずないわ。常に先妻と比べてしか見られない女の憎悪がどんなものか」
「いやあ、すまんすまん。しかし、子供は大丈夫だろうな?」
「大丈夫よ、中央病院で院長先生じきじきの治療だわ。それより、ねえ、早くう、私、あまりゆっくりできないのよ。何しろ子供が病気なんですからねえ」
女は鼻をならした。花岡はソファから立ち上がると女の躰に近づき、いきなり和服の裾に手を入れた。女は自分から下半身を開きながら、ベッドに倒れこんだ。女の躰は花岡が先刻、指の先でさんざん玩んで来たワンタッチのホステスのように、しとどに濡れていた。根性は汚なくとも、躰のでき具合は申し分ない女の典型であった。
まず身体を重ねてから帯を解く。この性急で粗暴な交合が二人を異常に興奮させるのであった。
重なり、律動を続けながら次第に女を剥いでいった花岡は、女が早くも快感に眉根を寄せ始めたのを眺めてちょうど、今頃、杉田が中央病院に馳けこみ、大井が眠りかけた頃だと思った。
女は渋谷の右腕といわれる星電研技師立花の後妻、緋佐子であった。
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