ふるさとは
海を蒲団《ふとん》のように着ていた。
波打ち際《ぎわ》から顔を出して
女と男が寝ていた。
女と男が寝ていた。
ふとんは静かに村の姿をつつみ
村をいこわせ
あるときは激しく波立ち乱れた。
村をいこわせ
あるときは激しく波立ち乱れた。
村は海から起きてきた。
小高い山に登ると
海の裾は入江の外にひろがり
またその向こうにつづき
巨大な一枚のふとんが
人の暮しをおし包んでいるのが見えた。
海の裾は入江の外にひろがり
またその向こうにつづき
巨大な一枚のふとんが
人の暮しをおし包んでいるのが見えた。
村があり
町があり
都がある
と地図に書かれていたが、
町があり
都がある
と地図に書かれていたが、
ふとんの衿から
顔を出しているのは
みんな男と女のふたつだけだった。
顔を出しているのは
みんな男と女のふたつだけだった。
祖父の姉弟たちは辞世遊びが好きでした。オムカエがくるまでに私の歌をひとつ。そんな気風の古い村が、海のほとりにありました。
こんど、九年前に出した詩集のあと、やっと二冊目を出したわけですが、私のブッキラボウな詩を読んで、
「ムカシの人の歌のほうが、ええようだなあ」
と磊落《らいらく》に笑う、老人たちの声がききたいと思います。
先日、ある会合の席で、前に坐った男性から「石垣さんですか? あなたは石垣さんですね」と声をかけられました。
「古い話ですが、戦地でこんな(と両手の人差指と親指で四角をつくり)ちいさい『くれなゐ』という本に載っている、あなたの詩を読みました」
私は指でつくった四角が解かれると、びっくりしてその人の、こんどは丸い顔の中を目でさぐりました。「僕は小沢です」
すると一枚の写真の中から、豆粒ほどの面影が近づいてきて、目の前の人と重なりました。
「今でも持っています。あの本」
それは、私が投稿していた雑誌の版元が出した、戦地の兵士に送る慰問袋用の小冊子のことでした。
戦地と、銃後と呼ばれた日本内地を結んだ慰問袋の縁で、私はその人と写真のやりとりまでしたのでしょうか? それとも詩の縁から慰問袋を送ったのでしょうか? すっかり忘れてしまったそのこと。その短い詩を思い出すことにします。
こんど、九年前に出した詩集のあと、やっと二冊目を出したわけですが、私のブッキラボウな詩を読んで、
「ムカシの人の歌のほうが、ええようだなあ」
と磊落《らいらく》に笑う、老人たちの声がききたいと思います。
先日、ある会合の席で、前に坐った男性から「石垣さんですか? あなたは石垣さんですね」と声をかけられました。
「古い話ですが、戦地でこんな(と両手の人差指と親指で四角をつくり)ちいさい『くれなゐ』という本に載っている、あなたの詩を読みました」
私は指でつくった四角が解かれると、びっくりしてその人の、こんどは丸い顔の中を目でさぐりました。「僕は小沢です」
すると一枚の写真の中から、豆粒ほどの面影が近づいてきて、目の前の人と重なりました。
「今でも持っています。あの本」
それは、私が投稿していた雑誌の版元が出した、戦地の兵士に送る慰問袋用の小冊子のことでした。
戦地と、銃後と呼ばれた日本内地を結んだ慰問袋の縁で、私はその人と写真のやりとりまでしたのでしょうか? それとも詩の縁から慰問袋を送ったのでしょうか? すっかり忘れてしまったそのこと。その短い詩を思い出すことにします。