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酒を愛する男の酒21

时间: 2020-05-25    进入日语论坛
核心提示:牡丹《ぼたん》に唐獅子《からじし》、竹に虎ひと月ばかり、池田弥三郎先生を銀座で見かけなかった。慶応義塾にもストが波及して
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牡丹《ぼたん》に唐獅子《からじし》、竹に虎

ひと月ばかり、池田弥三郎先生を銀座で見かけなかった。慶応義塾にもストが波及して、先生は銀座に足をのばすどころではなかったのである。
私は先生にお願いする仕事のことで三田の研究室へうかがった。
三田山上のキャンパスは初冬の陽ざしの中に、銀杏《いちよう》の葉が舞っていた。三時の約束を十五分ばかり遅れて、白壁と赤レンガのツートンカラーの新館まで行くと、中から池田先生が出てこられた。
「迎えに出たところ。どうです、この建物、いささかマンション風……」
文学部長の部屋は、小ぢんまりして、それでも応接用のテーブルもあった。
「近ごろどうです?」
この�近ごろどうです�は、しばらく銀座に無沙汰しているけど、銀座は? 常連の人たちは? そしてホステス諸姉は? という意味が含まれている。
「塾にも三派系がいましてね、このところ渦中の人なんで……でもおかげでストだけは解決したけど。痩《や》せたでしょう、四・五キロ痩せちゃった」
ほんの一カ月ばかりお目にかからないのに、たしかに先生はスマートになった。
部屋の北側の窓越しに木の梢《こずえ》がみえた。
「お隣りさんはなんですか?」
「イタリー大使館」
知らないの? というような顔をされる。その|イタリーの庭《ヽヽヽヽヽヽ》は、かつての三田の山をそのままにのこして、雑木の中に常緑樹の大木まで生い茂っていた。
窓近く南天桐が赤い実をつけていて、その実を食べに来た野鳥の影がしきりに動いた。ちょっと大型なのはヒヨドリであろう。
「久しぶりに、たまった原稿を書いてみたんだけど、調子が出なくてね。あとで読みかえしても、さっぱり面白くない」
「やはり、ツァラトゥストラは山にこもるだけではいけません。街に降りてゆくことも大切なんではないですか?」
と申し上げて、仕事の打合わせを兼ねて一献かたむける約束をして、その日は研究室を辞した。
二の酉《とり》が過ぎたというのに、ばかに暖かい日がつづいた。私は研究室を再び訪れた。夕暮近い三田のキャンパスには、学生たちがベンチにすわり、また三、四人がかたまって立ち話をしたり、いかにも平和であった。この日は約束の時間どおりであったのに、先生は、新館の受付の部屋で待っておられた。
「部屋にいると雑誌社から電話がかかってきてネ。NHKの顧問をやっているでしょ。紅白歌合戦の出場者が決ったんだけど、発表前に知りたがる」
と苦笑された。
「苦労が多いですね。ところでピンキーとキラーズは紅組でっか? 白組でっか?」
「ピンキラは紅」
先生と並んでキャンパスを歩きだすと、ちょっと目礼して通り過ぎる学生、笑いかけるように顔を和める女子学生……まことに気持がよい。池田先生の人柄なのか、塾生の躾《しつけ》の良さなのか……と思っていると、四人連れの学生に向って先生が声をかけた。
「オイ、こんな時間になんだ?」
「講義があったんだよ!」
と一人がぶっきら棒に答えた。声の主は池田先生のご子息であった。
私たちは、紀尾井町の福田家でしめじの椀や百合《ゆり》根の八寸をつつきながら、盃を傾けるうちに次第にいつもの|あの《ヽヽ》調子になっていった。仕事の打合わせはしばしば脱線して中断する。いや、この脱線が仕事なのである? いや、脱線こそ貴重である……と思いはじめる頃には、
「向うに見える提灯《ちようちん》は?」
「たしかに宗任《むねとう》」
が、
「向うに見える宗任は?」
「たしかに提灯」
ぐらいになってきた。
池田先生はたいへんな博覧強記の方である。稗田阿礼《ひえだのあれ》か藤原|不比等《ふひと》である。『古事記』『万葉集』にさかのぼり、天平をさまよって、一足とびに子供の頃の回想譜になったりする。江戸っ子教授の楽しさである。話が百人一首からいろは歌留多になった。もっと理におちた、あたりまえで馬鹿馬鹿しい新いろは歌留多をつくろうということになる。先《ま》ず、手本は先生から、
「犬も歩けばくたびれる」
では�ろ�はと私が受けて、
「論より角材、はどうでしょうか?」
「身につまされるね。理におちすぎるよ。論より角帽、くらいにしましょうか」
理におちたあたりまえが苦しい世の中である。
「それより先生、牡丹に唐獅子やってくださいよ」
「またかい? かならずやれっていうんだから。今晩は一回だけだよ。——隠居さんの御殿は築地さん、山谷浅草根津谷中、夜中に起こすは何用じゃ、猛蛇に食われてこんな傷、傷にメンコうち独楽《こま》まわし、廻しがあって床《とこ》の番、牡丹に唐獅子竹に虎、虎をふまえた和唐内、内藤さまは下り藤、富士見西行後向き、むきみはまぐりばかはしら、柱は二階とえんの下、デンデン太鼓に笙《しよう》の笛、えん魔はお盆とお正月、勝頼さまは武田菱、菱もち三月花祭、祭マントに山車屋台《だしやたい》、鯛に鰹《かつお》に蛸《たこ》まぐろ、ロンドン異国の大港、登山するのはお富士山、三遍まわってたばこにしょ、正直正太夫伊勢のこと、琴に三味線笛太鼓、太閤《たいこう》さまは関白じゃ、白蛇の出るのは柳島、縞のさいふに五十両、五郎十郎曽我兄弟、鏡台針箱|莨盆《たばこぼん》、坊やはいい子だねんねしな、品川女郎衆は十文メ、十文メの鉄砲玉、玉屋は花火の大元祖、相場のお金がドンチャンチャン、ととちゃんかかちゃん四文おくれ、おくれが過ぎたらお正月、お正月の宝船、船に乗るのは七福神、神功皇后|武内《たけのうち》、梅松桜は菅原で、ワラでたばねたなげ島田、島田金谷は大井川、可愛けりゃこそ神田から通う、通う深草百夜の情、酒に肴《さかな》は六百出しゃままよ、ままよ三度笠横てにかぶり、かぶり振るのは相模《さがみ》の女、女やもめに花が咲く、咲いた桜に何故駒つなぐ、つなぐかもじに大象とまる……」
このへんでトメに致しましょう。
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