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国盗り物語04

时间: 2020-05-25    进入日语论坛
核心提示:小《こ》 宰《ざい》 相《しょう》 風が強い。(焼くには好都合じゃな)と、松波庄九郎。頭上に月がある。庄九郎はわが影を踏
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小《こ》 宰《ざい》 相《しょう》

 風が強い。
(焼くには好都合じゃな)
と、松波庄九郎。
頭上に月がある。
庄九郎はわが影を踏みつつ、長槍《ながやり》を小わきにかかえ、ゆうゆうと有年備中守の城館に足を入れた。
(存外な)
小造りである。
板ぶきの粗末な屋根で、京の大寺を見なれた庄九郎の眼には、田舎じみて拍子ぬけがした。
(人はおらんか)
おれば突き殺すつもりでいた。わが武芸の試しどころであろう。
(南無妙法蓮華経……)
ついこのあいだまで法《ほっ》華《け》坊主の法蓮房《ほうれんぼう》であった庄九郎は、人などは殺そうともおもわなかった。しかしいまは殺すべきである。わが力をためすためには。——
(おらんか)
ふすまを、びしっ、びしっ、とひらいて行った。
その奥に、金箔《きんぱく》を押した豪華なふすまがあり、磯《いそ》の松が群青《ぐんじょう》でえがかれている。
からっ
とあけると、眼いっぱいに黒々とした板敷がひろがり、そのすみに綾絹《あやぎぬ》の几帳《きちょう》が垂れていた。
(居る、人が。——)
槍の穂でかきあげてみると、たれもおらずただ掻巻《かいまき》にぬくもりが残っていた。女のにおいである。
(なんだ、女か)
そのとき、屋内のあちこちで、庄九郎の手下たちの騒ぎがはじまった。財物を奪いあう声、廊下を駈《か》けちがう足音、杉《すぎ》戸《ど》をこわす物音、それにまじって、つんざくような悲鳴がきこえた。
(女を犯している)
庄九郎は、顔色も変えない。庄九郎の哲学では、女は犯されるために存在するものではないか。
ふと、板敷のすみでものの気配がした。
「たれだ」
と、庄九郎は槍をみじかく構えて板の上をすべって行った。
「あっ」
と物影が立ちあがろうとしたときには、庄九郎が背に手をまわして抱きよせている。
部屋は、暗い。
(児《こ》小姓《ごしょう》か)
とおもい、念のため手を股間にさし入れると、女であった。下腹から恥所にかけて、掌《てのひら》でおおえば溶けそうになるほど柔肉《やわじし》が隆起しているが春草が生《お》いきるまでにはいたっていない。年のころ、十五、六であろう。
「備中守殿の奥方か」
といった。指が、濡《ぬ》れはじめている。
「それとも、側室か」
「…………」
女は、ふるえている。
じつのところ、僧房で成人した庄九郎は、女の秘所にふれたのはいまがはじめてであった。
男色《しゅうどう》は心得ている。寺稚児《ちご》のころは坊主どもに抱かれもしたし、学生《がくしょう》になってからは眉《み》目《め》のよい稚児を抱きもした。恋情ということも恋の駈けひきも、そういうことでは知りぬいていた。いや、その道でも松波庄九郎は達人芸といってよかった。妙覚寺本山のころは、寺に五十人ほどいる稚児たちがみな法蓮房庄九郎に抱かれることを誇りとし、ある者などは焦《こ》がれ死ぬばかりの恋文をよこしたりした。
(この道の芸も情《じょう》も、相手が女であろうが男であろうが、かわることはあるまい。おなじ手《て》管《くだ》、おなじせつなさ、おなじ恨みが、女色にも男色《しゅうどう》にもある)
だが、女は知らない。
奈良屋の後家お万阿《まあ》の身と心を奪ってその巨富を得ようとは志を立てたものの、これほどの庄九郎が、女の秘所に手を触れるのはいまがはじめてであった。庄九郎、抜けめがないようでもかんじんなところで抜けている。
(妙な手ざわりのものじゃな)
庄九郎が知っている男のそれは、前のそれも後ろのものも、いずれもカリリとした筋肉のきびしさを感じさせる。しかし女のそれは、どこまで触れて行っても粘膜でしかない。
(女とは、かようなものであるのか)
庄九郎は、感嘆した。
というより、こういうことも知らずに、奈良屋の後家を蕩《た》らし込もうとはなんという無謀さであったか。
われながら、おかしくなった。智恵で女《・》を知っていたにすぎないのであろう。
「あっ、おゆるしくださりませ」
女は、身もだえた。
「おお、なぜ悶《もだ》える」
坊主あがりの庄九郎にはわからない。
「なぜ悶えるのだ」
疑問は突きとめぬと気のすまぬたち《・・》であった。
「云《い》え」
いえやしない、と、女が気が強ければがな《・・》り《・》たてるであろう。庄九郎の長い指が秘所の内陣にまで触れてしまっている。
女は、唇《くちびる》を噛《か》んでいる。唇から血が流れていた。口惜しいのか。それとも。——いや庄九郎には、まだそこのところがわからなかった。
「どうせよ、というのだ」
「せよ、とは申しておりませぬ。するな、と申しておるのでございます」
と、女はようやく口がきけるようになったらしい。
眼が、きらきらと怒りに燃えている。
「そうか」
庄九郎は、解《と》きはなってやった。
女は、白い脛《はぎ》を動かせて後じさりしながら、
「下《げ》郎《ろう》の身で、わたくしに触れてはなりませぬ」
と、つめたくいった。庄九郎が自分を好《す》いた、とみて、にわかに自信と落ちつきをとりもどしたのであろう。
そういう心の動きは、稚児の道で庄九郎はよく知っている。
びしっ
と女の頬《ほお》をたたいた。
女は、横倒しに倒れた。むざんなことに、頭をはげしく板敷で打ちつけたらしい。
「思いあがるものではない」
と庄九郎はいいながらなんとなくやさしく女を抱きおこしてやった。しかもそのやさしさ、声《こわ》音《ね》まで舐《な》めるようである。女はむしろ、殴打されたよりも、相手のにわかな変化のほうが、衝撃が大きかったであろう。
「女」
と庄九郎はいった。
「おれには志がある。余計な女は抱かぬ。抱けといわれても抱かぬ。そこもと、思いあがって侮《ぶ》蔑《べつ》したゆえ、打擲《ちょうちゃく》を加えた。おれは侮蔑には堪えられぬ男だ。二度とあのような口をきくと、ゆるさぬぞ」
「あっ」
と女が驚きの声をあげた理由は、ばかげている。庄九郎を貴人とおもったのだ。貴人が野盗をつれて押しこんでくるはずがないのだが、女の頭とは、もともと脈絡のつかぬように生まれあがっている。
「あなた様は、何とおおせられます」
「松波庄九郎さ」
「———?」
聞いたことのない名である。
「あっははは、不審なのも当然じゃ。いまは無名である。しかし後に、天下におれがあるということを、どこぞで聞くであろう」
歩きだしてから、ふとふりかえって、
「女、礼をいう」
と、思いだしたようにいった。
礼とは、先刻の一件であろう。坊主あがりの庄九郎は、はじめて女のその場所がどんなものであるかを知った。
(稚児とはちがうな)
あたりまえである。が、知識とはあたりまえのことを眼と手で知ることだ。
学問をした、と庄九郎はおもっている。これだけは、京洛《けいらく》随一の学問寺である妙覚寺本山でも教えてくれなかった。
このときの女、——庄九郎こそ知らなかったが有年備中守の側室で、
「小宰相《こざいしょう》」
とよばれた女である。京から都落ちして姫路の小寺氏に寄食している公卿《くげ》綾小路中納言《あやのこうじちゅうなごん》の娘で、ちかごろ有年備中守の妾《めかけ》として売られてきた。
当節、公卿は娘を売って生きている。

庄九郎は、高欄へ出た。
架木《ほこぎ》(手すり)につかまりながら下をのぞくと、そのまま、崖《がけ》である。
崖は垂直に切りたち、やがて段をなし、さらには裾《すそ》に石垣を積み、ついには街道へ落ちこんでいる。
街道には、赤兵衛が、庄九郎のかわりに指揮している荷駄《にだ》隊が寝支度をしていた。
その荷駄隊。
庄九郎の戦術では、敵への餌《えさ》であった。
(かならず、有年は襲うぞ)
それを待っている。
ただ待っているだけではなく、すでに掠奪《りゃくだつ》に倦《あ》いた手下の牢人《ろうにん》衆に、わら《・・》をかつぎこませていた。
屋内に積ませていた。
(来たっ)
庄九郎は、高欄をたたいた。胸が躍った。かれの合戦の人生はこの瞬間からはじまるのであろう。
街道の東西。
その東西から、
「わああっ」
と鯨波《とき》の声があがって、荷駄を掠奪すべく有年の人数がはさみうちをかけてきたのである。
馬上の者もいる。
長《なが》柄《え》の刃が、薄野《すすきの》の穂みだれのようにかがり火にきらめいた。
(赤兵衛、遁《に》げろ)
庄九郎、心中でどなったが、路上の赤兵衛はさすがに庄九郎の胸三寸を心得ている。
人夫をはげましつつ、山へ駈けのぼる者、敵の人数をかいくぐって、逃げる者、まったく、蜘蛛《くも》の巣袋をやぶって子を散らしたような光景であった。
有年備中守の人数も、殺戮《さつりく》が目的ではない。
奈良屋の荷駄がめあてである。車の上には永楽銭が、叺詰《かますづ》めで積まれている。
「おい」
と、庄九郎はふりかえった。
「館《やかた》に火をかけろ」
「へっ」
と、手下どもが駈け去った。
みな、館じゅうを駈けまわっては、火攻めの急所、急所に炎を噴きあがらせた。
炎は天井《てんじょう》を突きやぶった。
やがて火は板ぶきの屋根を噴きぬき、山風にあおられながら、
轟《ごう》っ
とすさまじい音をたてはじめた。
(図にあたった)
庄九郎は、崖の下をのぞきこんだ。
路上で掠奪にとりかかっていた有年の人数は、山上の火災に動顛《どうてん》した。
もはや、荷駄どころではない。
(素破《すわ》? 夜討か)
とおもったのであろう。この播州《ばんしゅう》と備前境では、年中、小土豪の小ぜりあいが絶えなかったからだ。
有年衆は、路上の荷駄をすてて東へ走り、右衛門坂とよばれる城砦《じょうさい》への山道をのぼりはじめた。
(予測のとおりだ)
庄九郎は身をひるがえして、火炎のなかをくぐった。
途中、ふと気づいて例の板敷の部屋を駈け通った。
火が天井に這《は》い煙がもうもうと渦《うず》をまいて、なかの様子がわからない。
(おらぬ。——)
庭へとびおりた。
柵《さく》を越え、搦手《からめて》の崖にとりついた。
かねての手はずどおり、牢人どもはひと足さきに崖を這いのぼって、すでに崖の上で庄九郎ののぼってくるのを待っている。
庄九郎は、木の根、草、岩角をつかんで、尺一尺、身を持ちあげて行った。
崖のなかごろまできたとき、不意に体が重くなった。ずり落ちそうになった。足をつかんでいる、——誰かが。
「はなせ」
槍は左手にある。それを一たん空に突きあげ、まっすぐに突きおろそうとした。
「待って」
小宰相であった。炎に追われて、ついに崖にとりついたものだろう。
(こいつか)
槍の手を、とめた。
が、庄九郎の右手につかんでいるのは、榊《さかき》の若木である。根は、靱《ねば》くはあるまい。その根に、ふたりの体重がぶらりと吊《つ》られている。
根が切れれば、墜死する。女の命はいい。これから天下を狙《ねら》おうとする松波庄九郎の命が、このまま、その野望とともにこの地上から消え去るではないか。
「女、手をはなせ」
と、庄九郎はいった。
「放して、死ね。おれが法《ほ》華経《けきょう》を念誦《ねんじゅ》してやるゆえ、安んじて死ね。わが唱える法華経の功《く》力《りき》により、お前はたちどころに仏《ぶつ》子《し》となり、淳善地《じゅんぜんち》(寂光浄土)に生《しょう》ずることができるであろう」
「厭《い》やっ」
女は必死でいった。
「松波庄九郎様、もし私を見ごろしにすればあなた様は、地獄に堕《お》ちまするぞ」
「地獄?」
庄九郎は、いった。
「わしは妙法蓮華経(法華経)を念持しているゆえ、地獄にはおちぬ。日蓮という昔の坊主はそう申した。——もっとも」
星を見あげながら、
「わしは日蓮よりえらいゆえ、地獄に堕ちようが堕ちまいが、屁《へ》ともおもっておらぬ」
「放さぬ」
小宰相はますますしがみついてきた。
庄九郎は、閉口した。なまじい、この女とは先刻の「縁」がある。あの「縁」がなく、見知らぬ者ならば、庄九郎は法華経を念誦してやりつつ蹴《け》落《おと》したであろう。かくてありがたい仏国《ぶっこく》土《ど》に生まれかわらせてつかわせたであろう。
しかし、「縁」を持った。
哀憐《あいれん》がかかった。
(おなごとは無用の縁を持たぬことよ。奈良屋の後家のごとく利《り》益《やく》ある縁ならばよいが、金輪際《こんりんざい》、役にもたたぬ縁をもたぬことだ)
庄九郎、一つ学問をした。
「なあ、女、救ってとらせる。ただしおれは後悔しながら、お前を救うのだが、それでも救ってもらいたいか」
「もらいたい」
女は、鬼女のような顔をあげて、いった。
「仏国土に生まれたくはないか」
「ない」
庄九郎は、覚悟した。左手の槍を捨てた。
同時に左手は岩角、右手は榊をつかみつつおそるべき膂力《りょりょく》で、二人分の体をもちあげた。
「女、しっかりつかんでおれ」
「はい」
「名はなんというのだ」
「小宰相」
女も必死で庄九郎の右足にしがみついている。一尺、一尺と、体が上へあがってゆく。眼下は、紅《ぐ》蓮《れん》の地獄である。
「小宰相、おれはそこもとの貌《かお》をよくよく見ておらぬのだが、美しいか」
喋《しゃべ》りながら、息も切らさずに庄九郎は悠々《ゆうゆう》とのぼってゆく。
「姫路でもこの有年の里でも、ひとはわたくしを愛《かな》しいと申しまする」
「それは不幸だ」
庄九郎は断定した。断定のすきな男だ。
「なぜでございます」
「普通《ただ》の容貌《かおだち》にうまれついておれば、かような有年の妾にならずに済み、かように火にも追われずに済み、いまこのように崖をのぼらずとも済む。お前は地獄におる。いや崖の上に這いあがってのちの生涯《しょうがい》も、その美貌《かな》しさゆえに地獄が待っていよう。おれがせっかく法華経の功《く》力《りき》で仏国土へやってやろうと申したのに、お前は聞きわけがない」
「…………」
「小宰相、惜しい運をのがしたな」
からからと笑った。
その笑い声をききつつ、小宰相は、
(なんと、わるい男ではありませぬ)
と、意外な思いをした。
やがて崖の上に這いあがった。
這いあがると、庄九郎は人変りしたように無慈悲になり、
「小宰相、消《う》せろ」
と、足蹴りせんばかりにいった。
「あの、わたくしをつれて行ってはいただけませぬか」
「つけあがるな」
背をみせて歩きだした。歩きながら、庄九郎は考えこんでしまっている。たった一度、女の秘所に手をふれただけで、これだけの徒労をした。女とは、男にとってどういう存在なのであろう。
(女は魔道じゃな)
坊主のころに教わった理屈である。が、十歩もあるかぬうちに、庄九郎は小宰相のことは忘れてしまっていた。
「合戦だ」
と手短くいったとき、あたりから手下の牢人どもがばらばらとあつまってきた。
「敵は右衛門坂をのぼってきている。それを上から突き崩すのだ。人数を大きくみせるために、一切声を出すな。松明《たいまつ》はつけるな」
庄九郎、歩きだした。
聳《そび》えるような長身である。実際の身《み》丈《たけ》はさほどでもないが、牢人どもの眼からは、その影が巨人のようにみえた。
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