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千里眼61

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:一発必中 猛烈な豪雨と強風のなかを、美由紀はメルセデスのステアリングを切って駆け抜けた。秋葉街道から三二一号線に乗りいれ
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一発必中

 猛烈な豪雨と強風のなかを、美由紀はメルセデスのステアリングを切って駆け抜けた。
秋葉街道から三二一号線に乗りいれ、徐行状態のクルマを次々と追い抜きながら突進する。
ワイパーはほとんど役目を果たしていない。最速にしても、フロントガラスは滝のように流れおちる雨で波打ち、視界を揺るがせつづけている。
カーラジオに耳を傾ける。アナウンサーの声が告げていた。引き続きお伝えします。超大型で、猛烈な台風十一号は現在、愛知県の渥美《あつみ》半島上空から静岡県の遠州|灘《なだ》方面に向かっていて、しだいに速度をあげながら東北東に進路をとっています。午後六時には、御前崎市から駿河《するが》湾に達する見込みです。
ダッシュボードの時刻表示に目を走らせる。もう五時をまわっている。猶予はほとんどない。
基地のゲートに差し掛かった。レインコートを着た隊員が正門受付からでてくる。
美由紀は窓を開けて臨時教官の身分証を提示し、隊員に怒鳴った。「急ぐの。すぐに開けて」
隊員は戸惑ったようすだったが、すぐに受付にとって返した。
遮断機があがる。美由紀はアクセルを吹かして基地内にまっすぐに伸びる道路を直進していった。
滑走路から離着陸の音は聞こえない。この天候ではそれも仕方がない。ベルデンニコフはなにもかも計算済みだった。これだけの規模の台風が、この進路をとるまで、何か月だろうと根気づよく待つつもりだったのだろう。
三百十四万平方メートルの敷地を無駄に駆けまわっている暇はない。美由紀は知り合いがいそうな高射教導隊の宿舎方面に向かった。
宿舎の前に数台のトラックが停車していて、隊員たちが荷の積み下ろし作業をしている。美由紀はそこに横付けするかたちでメルセデスを停め、どしゃ降りの雨のなかに降り立った。
「岬教官」声をかけてきたのは、顔なじみの岩下三等空尉だった。「どうされたんですか。きょうは講習の予定はないでしょう?」
「それどころじゃないの。航空総隊司令部と連絡がとれる? 広門空将は……」
「防衛省で会議のようですよ。さきほど各方面隊に伝えられました。台風が去った地域から、陸自の救難活動の支援と周辺空域のパトロールの強化に努めるようにと……」
「去ってからじゃ遅いのよ。すぐに迎撃戦闘機を離陸させる必要があるの。それも静岡上空に」
「F15をですか? いま暴風域はほぼ日本列島を覆い尽くしている状況ですよ。台風の規模も戦後最大クラスかもしれないといわれてますし、離陸に応じてくれる部隊がいるとは……」
「その台風が来てるから危険なの! 見えないミサイルについては教えたでしょう? 敵の狙いは台風の中心が御前崎市に差し掛かったころに、浜岡原発をトマホークで破壊することなのよ!」
岩下は表情を固くした。「原発……」
「ええ。日本列島のちょうど中央に位置していて、百六十万平方メートルの敷地に沸騰水型の原子炉圧力容器を五基備えてる。巡航ミサイルの核弾頭は軽量小型でも、この原発に直撃すれば水爆並みの六十メガトンの核爆発が起きる。広島の三千倍以上の威力なのよ。中部から関東、近畿までがほぼ消滅する。さらに台風が列島全土に死の灰を撒《ま》き散らし、北海道から九州までの工業都市すべてを放射能汚染してしまう」
「そんな馬鹿な。ミサイルの接近をとらえたら、総理官邸の危機管理センターからのリモート操作で、原発は即座に稼動を停止して……」
「見えないミサイルだって言ってるでしょう。防空網はすべて擦り抜けられてしまうの。命中してきのこ雲があがらない限り、誰も飛来したことに気づかないのよ。すぐに原発の稼動を停めないと……」
「ただちに連絡します」
「どれくらいかかるの?」
「まず基地の上層部の判断を仰ぎ、そこから入間《いるま》の中部航空方面隊司令部へ、さらに府中の航空総隊司令部、防衛省長官から閣僚会議へ……」
「そんなに待てるわけないでしょ! 迎撃戦闘機を飛ばせないのならペトリオットでの迎撃態勢を整えるべきだわ。万が一にでも視認できた場合に撃墜を……」
「巡航ミサイルの接近に対処できる改良済みのペトリオットは、この周辺には配備されてません。海自のイージス艦も、この大荒れの海では自由に航行できないでしょう」
あらゆる事態を想定済みか。美由紀は豪雨のなかで頭をかきむしった。
ふと視線が、トラックから荷下ろしされた緑いろの木箱にとまった。側面に型番が記載されている。
美由紀はそこに近づいていった。長さ百六十センチ、幅と高さは二十センチほどの直方体。ゴルフバッグとほぼ同じ大きさだった。これならクルマに積める。
持ちあげようとすると、ずしりとした重さを両手に感じる。歯を食いしばってそれを保持し、メルセデスへと向かっていった。
「ちょっと」岩下があわてたようすで呼びかけた。「岬教官。どうされるつもりですか」
「ドライブのお供に借りるわね」
「そんな、困りますよ。無許可で装備を基地から持ちだすなんて……」
「わたしの責任でやることよ。査問会議も説教も慣れてるから平気。それから除隊も経験済み」
トランクに木箱を放りこむと、すかさず運転席に乗りこんでエンジンをかけた。
「岬教官!」岩下がクルマの前に飛びだしてきた。「駄目です。降りてください!」
だが美由紀はクルマを急速にバックさせて逃れると、ステアリングを切って後輪を滑らせてターンした。
アクセルを踏みこんで加速する。複数の隊員たちが走って追ってくるのが、ルームミラーに映っていた。
正門が迫る。遮断機は降りていたが、美由紀はかまわず突っこんでいった。鋭く弾《はじ》ける音とともに遮断機を跳ね飛ばし、三二一号線を全速力で東に突っ切る。
ここで敗北などしない。美由紀はその思いを胸にきざみこんだ。この国には、人の数と同じだけの人生と、未来と、希望がある。断じて失わせはしない。百発百中ではなく一発必中、ベルデンニコフはそういった。ならば、こちらも同じ条件で返り討ちにするまでのことだ。
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