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千里眼84

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:パズル その日の昼、美由紀は東京ミッドタウンに向かった。きょうはマルジョレーヌには立ち寄らない。タワーにこそ用がある。大
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パズル

 その日の昼、美由紀は東京ミッドタウンに向かった。きょうはマルジョレーヌには立ち寄らない。タワーにこそ用がある。
大功建設の総裁は、すべてのカードを当てられてしまう『辛亥《しんがい》革命』で敗退した。あんな役が成立するはずがない。
タワーからの監視の目は存続している。三十一階以外に場所を移して。
三十一階のモリスンの窓には、電磁波をはね返すウィンドウフィルムが貼ってあったが、それは望遠鏡による監視とは無関係だった。大使館が見えさえすれば、どのフロアにも監視は移せる。いまはどのフロアだろう。
ロビーに入ると、美由紀はオフィスフロアの会社名一覧が表記してある看板の前に立ち、それをカメラ付き携帯電話で撮影した。これで、どういう会社がどのフロアに入っているかわかる。
それから、エレベーターホール前の受付カウンターに近づいた。
「こんにちは」と受付嬢が応対した。「どの会社に御用でしょうか?」
「それがね、まだわからないの」
「え?」
「社員じゃなくて、ここに出入りしている業者さんだと思うんだけど、うちの店でツケを払っていない人がいてね。ようは、取り立てにきたってことだけど」
「……あいにく、こちらではタワー内の企業への取り次ぎしかできませんので……」
「そこをなんとかお願い。飲食店のツケって、一年で時効になっちゃうの。きょうがその日なのよ」
「まあ。それはお気の毒に……。そのう、どんな業者かわかりますか?」
「詳しい職業はわからないんだけど、このところ急に羽振りがよくなった人なの。郵便集配室にも又吉さんって人がいるでしょ?」
「ああ、あの人……。ほんと、パート同然の立場なのに重役専用の駐車場に高級車停めてるって、噂になってましたわ。どうしてあんなに儲《もう》かるのかって」
「そう。けれど、わたしが用があるのは又吉さんじゃなくて、彼と同じぐらい儲かってる業者さんなの」
「……ひょっとして、布川大輔《ふかわだいすけ》さん? タクシー運転手で、いつもハイヤーをまわしてくる……」
「ああ、そうかも。よくクルマの話してたし」
「ハイヤーで迎えに来たときに、このエレベーターからどこかの会社に入っていって、社長か重役に声をかけてますわね。でも、どの会社の担当かしら。月ごとに担当箇所が変わるみたいだから、いまはどこを受け持っているのかわからないけど……」
「布川さんがどこに勤務しているのかはわかります?」
「ええ」受付嬢はパソコンのキーを叩《たた》いた。「……足立《あだち》区の黒木《くろき》タクシーですわね。取り立てなら、そちらに行かれるのがいいですよ」
「わかりました。どうもありがとう」
美由紀は踵《きびす》をかえしながら、額ににじみだしていた汗をぬぐった。
嘘は苦手だ。自分が相手の嘘を見破ることができるぶんだけ、相手にも同じことが可能ではないかと、いつもひやひやさせられる。
 黒木タクシーは西新井大師《にしあらいだいし》の裏にある、小さな会社だった。古びたプレハブの事務所に屋根なしの駐車場、ハイヤーやタクシーの車両数もごくわずかだ。
美由紀が事務所を訪ねると、受付には誰もいなかった。開け放たれた奥のドアから、麻雀牌《マージヤンぱい》を混ぜあわせる音が聞こえてくる。
昼間から仕事そっちのけで麻雀とは呆《あき》れる。
美由紀はその戸口を入っていった。
雑然とした部屋だ。タバコの煙がもうもうとたちこめている。ジャケットを脱いで椅子の背にかけた運転手たちが、ネクタイを緩めて雀卓を囲んでいた。
意識せずとも、美由紀の目は室内の情報を素早く取りこんでいた。ジャケットの胸にネームプレートがついている。西山、柳田、日比野、村雲の四人。いずれも中年から初老の男性だった。
「すみません」と美由紀が声をかけた。
日比野が顔をあげた。「ああ、配車? ちょっと待って」
「いえ……。布川さんに会いに来たんですけど」
「布川? あいつになんの用?」
「身内なんですけど、早急に伝えたいことがあって……」
柳田が笑いながらいった。「身内? 馬鹿を言いなさんな。あれは独身だし、身寄りはいないはずだよ」
「あ……ええと……身内といっても、わたしは知り合いの友人で……」
「出直してきなよ。なんでも布川のやつ、妙に稼げるようになってから、いろんな女に声をかけられるようになったとか言ってたからな。あんたもそのクチだろ? あいつの財布を狙ってるのなら、もっとうまく近づきな」
西山が口笛を吹いた。「あいかわらずだねえ、布川は。なんでも、客が指定した行き先に、何千円以内で行ってやるよと約束するらしいぜ? 金のあるやつは仕事も道楽半分だな」
男たちはにやにやしていたが、内心布川に対する嫉妬《しつと》が渦巻いているのはあきらかだった。いつの間にか収入を増やしている同僚に、ふだんから羨望《せんぼう》を抱いているのだろう。
やはりわたしは嘘がへただ、美由紀はそう思った。たちどころに見抜かれてしまった。しかし、ここで引き下がるわけにもいかない。
「本当に知り合いなんだけど。みなさんの噂もよく聞いてるし」
「噂?」西山は眉《まゆ》をひそめた。「どんな噂だ」
「よく麻雀をしてるとか……」
村雲が苦笑した。「そりゃ見たまんまだろ」
「いえ。みなさんと勝負したときのことを語ってたわよ」
「ほんとかよ? じゃ、俺らの順位とか知ってるはずだよな? いつも勝つ奴は勝って、負ける奴は負けてばかりなんだが」
「え……?」
西山が村雲を指差した。「いつも優勝すんのはこいつでな。二番は日比野と相場がきまってる」
「へっ」柳田が口もとを歪《ゆが》めて西山を見た。「俺はおまえよりは勝ってるよ」
日比野はタバコを吹かしながら、麻雀牌を雀卓に叩きつけた。「俺ぁ万年最下位でな」
「ポン」と村雲が声をあげた。「トップはいつもおまえだろうが。俺はいつも二番に甘んじる羽目になる」
四人の男たちはそういって顔を見合わせ、下品な笑い声をあげた。
わたしをからかっているつもりなのだろう、と美由紀は思った。
表情から察するに、全員が嘘をついている。一瞬たりとも真実を語った形跡がない。すなわち、彼らの口にしたことにはひとつも本当のことが含まれていない。
美由紀は素早く思考を働かせ、消去法で順位を割りだしていった。日比野は一位、二位、最下位は除外され、三位ということになる。ほかのメンバーも、おのずから順位が確定していく。
あえて冷たい口調で美由紀はいった。「いい加減なことばかりいう人たちね。布川さんもそう言ってたわ。麻雀でよく勝つのは西山さんで、次が柳田さん、その次が日比野さん、村雲さんは負け越してるでしょ。この順位はほぼいつも不動って布川さんに聞いたわ」
ふいに男たちはぎょっとした。
「な、なんだよ」と柳田が苦い顔でつぶやいた。「ほんとに布川さんの知り合いか」
日比野も面食らったようすでいった。「っていうか、つきあってるのかい? あんたみたいな美人が、あんな成金と……」
「失礼なことばかり聞かないでよ。いまどこにいるのか、さっさと教えてくれる?」
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