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千里眼195

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:タイムレース 依然として名古屋駅周辺の道路は封鎖されたも同然だった。事故を起こした車両数だけでも数百台にのぼるだろう。あ
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タイムレース

 依然として名古屋駅周辺の道路は封鎖されたも同然だった。
事故を起こした車両数だけでも数百台にのぼるだろう。あちこちに火の手があがっている。消防車すら、それら火災現場にまで達することができないありさまだ。
美由紀は駅の太閣《たいこう》通口に停めておいたリッターバイク、カワサキZRX1100に乗って、渋滞の道をすり抜けて名古屋高速道路に乗り、小牧《こまき》方面に向かった。
本当は現場に留《とど》まって警察に事情を説明したいところだが、やむをえなかった。ここで時間を浪費するわけにはいかない。
警視庁が今回の事態に関して協力を求めてきたとき、爆発物についての詳細な図面を見せてもらった。時限式発火で少量の火薬による爆発で、直径三十センチほどのプラスチック製球体を破裂させる、ただそれだけの仕組みだ。爆発力はきわめて小さく、すなわち爆発そのものが周囲に被害を及ぼすことを目的としているわけではない。球体に入っている生物化学兵器を散布するための爆弾なのだ。
五十嵐哲治は校舎内の酸素を減少させることを目的に、それが可能な化学物質の混合体を球体にいれ、仕掛けたと考えられる。彼のことだ、全校生徒に効果が及ぶように物質の量と散布場所を細かく計算し割りだしているに違いない。
小牧インターチェンジで下りて、名古屋空港方面に向かって走った。このままバイクで岐阜を目指しても、間に合うものではない。それなら、移動時間を短縮できる足を借りるまでのことだ。
名古屋空港に隣接する小牧基地のゲートへと直進する。平野だけに見通しがよく、ゲートの警備についている隊員もすでにこちらに気づいたようすで、小屋の外にでている。
面倒ね、と美由紀はつぶやいた。この基地には知り合いがほとんどいない。事情を説明するにも骨が折れる。
そう思ったとき、美由紀がとった行動は速度を緩めるのではなく、逆に速めることだった。
スロットルを全開にしてエンジンを吹かし、ゲートに突進する。隊員が顔をひきつらせて身構えた。
あわてているみたいね、美由紀は内心そう思った。隊員は、侵入者を阻止するためのマニュアル通りには動けていない。ゲートの脇に充分すぎるほどの隙がある。
美由紀は遠慮なくその隙を突いた。ウィリー走行で前輪を跳ね上げて、ゲート手前のスロープで跳躍し、柵《さく》の最も低いところを飛び越えた。
着地の衝撃を全身で受けとめる。バランスを失うことはなかった。
たちまち警笛が鳴り響いたが、基地全体まで警報が行き届くまではまだ時間があるだろう。美由紀は広大な基地内をバイクで駆け抜けていった。平時だけに隊員の数も少ない。百里《ひやくり》に比べれば、ずいぶんとのんびりしたものだった。
陸上自衛隊の戦闘ヘリ、アパッチがヘリポートの脇に見える。たぶん明野《あけの》駐屯地から飛んできたのだろう。メインローターが外されている。大規模なメンテナンスを必要としているらしいが、そこにもてきぱきとした動きはない。自衛隊基地とはここまで、緩慢なものだっただろうか。
しかし、そんな基地にあっても、滑走路前のエプロンに限っては備え万全の機体が存在していた。
これからタキシングに入るであろう第六航空団、三〇六飛行隊のF15J。一見して整備を終えたばかりだとわかる。|車輪止め《チヨーク》は外してあった。
テニスコート一面ぶんほどもあるその巨大な機体の下に、バイクを停める。
整備の隊員は、まだ遠方でぽかんとこちらを見ているだけだった。
機体側面の梯子《ラダー》を登り、コックピットに身を躍らせたころ、ようやく若い隊員が駆け寄ってきた。
「すみません。そのう……フライトジャケットは?」
バイクのつなぎを身につけて戦闘機に乗るのは初めてだ。美由紀は思わず苦笑した。「ごめん。忘れちゃった」
「忘れたって……? 失礼ですが、今川《いまがわ》二尉は?」
「さあ。そんな人がパイロットなの? 若い人?」
「今年着任したばかりで、二十八だと聞きましたが……」
「ふうん、わたしと同じね。ここって横に公園があって、夜のファイナルアプローチが難しそう。今川さんって人はじょうずに着陸できてる?」
「ええ……まあ、ふだんは問題なく……」
「そう。じゃ、同い年のわたしも負けられないわね」
「はぁ? 負けられないって、なにをですか。ちょっと。あなた隊員じゃないんでしょう? どこから入ったんですか。すぐに降りて……」
それ以上は聞こえなかった。キャノピーを閉じたからだった。またお馴染《なじ》みの個室に戻った、美由紀はそう感じた。
計器類をざっと眺め渡す。操縦|桿《かん》、エジェクションハンドル、ハーネスを確認。マスターアームスイッチ、オフ。燃料パネルをセット、フラップのスイッチをアップ。
隊員がキャノピーを叩《たた》き、なにか叫んでいる。
そこにいれば、とりあえずいまは安全だろう。エンジンが作動するときにインテイク周辺にいれば、大変なことになる。
エンジンのマスタースイッチをオンにした。JFSスイッチオン、スロットルの右エンジン接続スイッチを手前に引く。
轟音《ごうおん》が身体を揺さぶった。エンジンの回転三十パーセント、わずかに戻して十八パーセントのアイドル位置に固定。左エンジンも同じく調整をする。
無線、高度計、姿勢指示器をセット、レーダースコープをオン。航法コントロールをINSにセット。スイッチをいれて翼を拡張する。
ステアリングスイッチをノーマルからマニューバモードに切り替え、ゆっくりと動きだす。隊員はあわてて飛び降りた。
呆然《ぼうぜん》とする隊員を尻目《しりめ》に、二十ノットで前進していく。滑走路に進入した。
そのとき、警報が鳴り響いたのがキャノピーを通して耳に届いた。
やっと緊急事態だと悟ったか。きょうを教訓に、今後はこの基地もぴりぴりしたムードに包まれることだろう。
トリム位置、フラップ離陸ポジションよし。ピトー管ヒーター、エンジンアンチアイスをオン。BIT灯オフ。
エンジン点火。
轟音とともに身体が前方に押しだされる。アフターバーナーがひとつずつ点火し、五段階に加速していく。すさまじい推進力に身体がシートに圧着する。
フルアフターバーナーに達した。百二十ノット。
身体が浮きあがるのを感じる。視界には雲に覆われた空が広がった。
クイックにローテーションしてギアとフラップを戻す。昇降計の上昇ピッチを六十度に保ち、雲を突き抜けて太陽の下に踊りでた。
まばゆい陽射しのなかで操縦桿を前に倒し、吐き気をともなうほどのGに抗《あらが》いながら水平飛行に移る。
方位を確認して機首を北に向ける。なんの障害もない空を行けば、岐阜はもう目と鼻の先にある。
ゆっくりと高度をさげていき、濃尾《のうび》平野の天然の地図を目で確認する。木曾《きそ》川と長良《ながら》川がいい目印になっていた。
岐阜基地は氏神高校にきわめて近い。強制的に着陸して学校に直行するのが最短のルートだ。むろん、いままで以上にこっぴどく叱られることだろう。有罪になり、刑務所に入れられるかもしれない。
それでもかまわなかった。大勢の生徒たちの運命がかかっている。
時計に目を走らせる。ちょうどいま正午になるところだ。
岐阜基地が見えた。
氏神高校はそこから南南西、果てしなく広がる田地のなかにある。
地上が見えやすいように機体を傾けつつ、許されるかぎりの高度にまで降りた。
これより低く飛べば衝撃波で建物の窓ガラスが割れる、ぎりぎりの高度だ。むろん轟音は地上に響き渡っているだろう。
氏神高校、三棟の鉄筋コンクリートの校舎がみえる。その上空をかすめ飛んでいく。
だが、接近中に、美由紀の動体視力が奇妙な光景をとらえた。
ひとけのない学校周辺、門の外のあぜ道に、大勢の人々が集まっている。
色とりどりの服を着ているところをみると、生徒ではなさそうだ。
大人たちのようだった。保護者、もしくは教師か。手持ち無沙汰《ぶさた》そうにみえるが、なにをしているのだろう。
と、その直後、校舎に隣接する体育館に、青白い閃光《せんこう》が走った。
一瞬、ときが止まったようだった。
美由紀は高校上空を飛び去ってから、呆然と青空を見つめた。
つぶやきのように漏れた自分の声がきこえる。「そんな……」
爆発が起きた。
間に合わなかった。
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