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千里眼199

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:処刑の真実 午後四時をまわった。陽が傾きかけている。スーツに着替えた岬美由紀は、憂鬱《ゆううつ》な気分で氏神高校の目と鼻
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処刑の真実

 午後四時をまわった。陽が傾きかけている。
スーツに着替えた岬美由紀は、憂鬱《ゆううつ》な気分で氏神高校の目と鼻の先にある�待機所�の外にたたずんでいた。
�待機所�とは、学校の敷地周辺の田畑のなかに取り急ぎ建てられた三つのプレハブ棟を指す。警察や生徒の保護者が地主に頭を下げにいって、土地の使用許可を取りつけるやいなや、業者がすばやく着工。わずか数時間で完成に至った。
いまだ無数の警察車両が取り巻く氏神高校を眺めることのできるこれらプレハブ棟は、警察の前線基地ともいうべき捜査本部と、記者会見場が設けられた報道関係者の詰め所、そして美由紀がずっと軟禁状態となっていたこの保護者らの詰め所の三つに分かれていた。ほかに、岐阜基地から出向してきた陸上自衛隊第三四八施設中隊のテントがある。
そのテントから歩を進めてきた沖原周蔵《おきはらしゆうぞう》二等陸佐が渋い顔でいった。「岬。予想はついていると思うが、航空自衛隊の上層部は怒りに我を忘れて、戦争でも始めかねないほどだ。ま、それは冗談だが、幕僚長の頭に血が昇っているのはたしかのようだな」
「すみません……。すべてわたしの責任です」
「防衛大臣も、要撃戦闘機はレンタカーじゃないとわめき散らしてたらしいぞ。きみも岐阜基地に着陸してから、絞られたとは思うが……私としても、感心できるような行為じゃないな」
「はい。しばらく身柄を拘束されてもおかしくない状況でした。反省してます……」
沖原は咳ばらいした。「とはいえ、情状酌量の余地があることは防衛省も認めている。あの学校の生徒たちが危険に晒《さら》されてたんだ、誰でも駆けつけたくなるのが人情ってもんだ。百里基地のほうでは、今回のような事態は初めてじゃないとそっけない態度をとる者もいるようだ。たしか少し前に、航空祭のゲスト機だったミグ25を飛ばした元幹部自衛官がいたと聞いたが……」
「……お察しのとおりです」
「本当かよ。あきれた人間だな、きみは。自衛隊の装備はきみの私物じゃないぞ」
「わかってます。でも……」
さっと手をあげて、沖原は美由紀の弁明を制した。「まあいい。きみが勝手に飛ばしたF15Jにしろ、名古屋駅周辺の惨憺《さんたん》たるありさまにしろ、事情が事情だけにやむをえないとする声もあがっているからな。ただし、警察の取り調べにはすなおに応じろ。それに、この件については最後まできちんと責任を果たせ。一匹狼は気取るなよ」
「わかりました。どうもいろいろ、申し訳ありませんでした」美由紀は深々と頭をさげた。
硬い顔のまま、沖原は立ち去りかけた。
だが、美由紀にはどうも気になることがあった。「あのう、すみません。ひとつだけお伺いしたいんですが」
「なんだ?」
「岐阜基地に降りたとき、滑走路周辺に緊急車両らしきものが見えませんでした。連絡なしに接近し、着陸を試みる機体があれば、それなりの対処法があると思いますが……。それから、小牧基地でも妙に警備が手薄でした。ゲートを越えたら、F15Jが待機するエプロンまで、ほとんど障害らしきものもなく……」
「無断でゲートを越えるほうが問題だろ? きみが自衛隊にいたころは、たしかにもっと警戒厳重だったな。しかし、このところ過剰な警備は内部の人間からも疎ましがられるようになった。こんな世の中だ、無茶をしてまで基地に侵入しようとする輩《やから》はいない。きみ以外はな」
「はあ……。沖原さん、こんな世の中って、どんな世の中でしょうか?」
沖原はじれったそうに首すじを掻《か》いた。「平々凡々、控えめで厳か、国民総中流階級。常識だろ。よくわからなければ、新聞でも読んだらどうだ」
「……そうですね。どうもお手数をおかけしました」
美由紀がもういちど頭をさげると、沖原は歩き去っていった。
腑《ふ》に落ちない気分だった。
国民総中流階級。ひさしぶりに聞いた表現のようにも思える。それはずっと昔のこと、美由紀にとっては幼少のころの一般常識だったと記憶している。
けれども、現代の社会はたしかにそんなふうに表現されることが適切に思える。
いつから世の中は変わったのだろう。貧富の差が拡大し、格差社会と呼ばれる世になっていたはずなのに。いつの間に時代は元に戻ったのだろうか。
しばらく考えたが、結論めいたものは見いだせなかった。
美由紀は歩きだした。世の動向を気にかけるよりも、いまは解決の糸口を見つけねばならない問題がある。
待機所のひとつに足を踏みいれ、衝立《ついたて》に囲まれた一角に歩を進める。
そこは簡易的に設けられた医務室だった。
看護師の世話になってベッドに寝かされているのは、綾葺涼子という、氏神高校の女性教師だった。
綾葺はぼんやりとした目でこちらを見た。「あなたは……?」
「臨床心理士の岬です。よろしく」美由紀はベッドの傍らに腰を下ろした。
「あ……。岬先生……。あの、いま、学校が……」
「落ち着いてください、状況はわかっています。ショックでしたでしょうね。生徒がリンチされる現場をまのあたりにしたなんて……」
ふいに涼子の目に涙が浮かんだ。「わたしが……わたしがいけなかったんです。わたしは学校を……教師という仕事をなめていた。いい加減な指導しかしてこなかったし、いつも自分のことしか考えなかったし……。自殺するって相談を受けても、内心笑い飛ばしたりして……。わたしなんか教師にふさわしくない。教師になんか……」
「興奮しないで。いまは自分を責めるべきじゃありません」
その涼子の反応が、すなおな反省の弁でないことに美由紀は気づいていた。これは適応機制における合理化と退行にほかならない。自分を貶《おとし》めた物言いをすることで、責めを受けることから逃れようとする本能の働きだ。
「綾葺先生。ひとつずつ、ゆっくりと想起していきましょう。どうしてあなたたち教師は、揃って学校の外に出たんですか?」
「東急の……新しい線路ができるから、その説明会があるとかで……。プリントがまわってきたから。よくできてて、誰も疑いは持たなかった」
看護師が一枚の紙を差しだしてきた。「これです」
美由紀はその紙片に目を落とした。
もっともらしい文面だ。だが……。
「これ、東急という企業の説明欄に間違いがありますね。ほら、ここです。|自由ヶ丘《じゆうがおか》駅とあるけど、正しくは自由が丘駅です。東急は助詞の『が』を略字にはしないきまりです」
涼子は困惑ぎみにつぶやいた。「そんなの……。岐阜に住んでるわたしたちには、わかりっこないし……」
「そうですね。このプリントを作成した人物も同様ってことです。本物っぽく見せてはいるけど、徹底できてはいない」
「いったい誰が……。生徒ですか?」
「いえ。都内のことに疎い大人でしょう」
「誰なんですか? 岬先生はご存じなんですか?」
美由紀は口をつぐんだ。
この書類を作成したのは、五十嵐哲治とみてまず間違いない。爆弾が爆発する前に教師たちを外に誘いだし、生徒たちだけを体育館に集めたのだ。
だが、その事実をつたえるわけにはいかなかった。酸素濃度を低下させる爆発物についての情報は、捜査中ゆえ機密扱いになっている。
「ひとつだけいえることは」と美由紀は告げた。「生徒たちは酸素欠乏症になり、前頭葉の脳細胞が機能を失ったことから、今回の行為に及んだという見方が有力だということです。ただし、どうにも理解できないこともあります」
「なんですか?」
「前頭葉が働かなくなれば、人は動物に退化するといわれてますが……。その動物の群れにしては、生徒たちの行動は知性に支えられたものです。無慈悲な行為に及びながらも、それによって大人たちが強制突入してくることを防ぎえている。決して動物的な粗暴さや凶暴さをのぞかせているわけじゃないと思うんです」
「でもわたし、見たんですよ。D組の北原沙織が……布にくるまって、国旗掲揚塔から落とされて……」
「ええ、状況は聞きました。どうか落ち着いて」
「五人の男子生徒たちは、表情ひとつ変えずにリンチを実行したんです。終わったあとも、行進のような足どりで校舎の玄関口に戻って……。手前の下駄箱の前に並んで、うわばきに履き替えるんです。下駄箱の蓋《ふた》が横一列、すべて開けられて、一糸乱れぬ動きでうわばきを取りだして……なにかに憑《つ》かれているとしか……」
妙に思い、美由紀はきいた。「すべて開けられた? 綾葺先生、それほんとですか?」
「ほんとよ。機械みたいに無駄がないと感じたから、はっきり記憶に残ってる」
「あのう……さっき、テレビ局のカメラがズームレンズで玄関付近を撮影してたんです。放送でそれを見たんですが、下駄箱はひとつにつき、横に六つ、縦に八つでした」
「そんなの、見間違いじゃありません? 岬先生はうちの学校に来たことはないんでしょう?」
「そうですけど、間違ってはいないはずです。ひとクラスの人数がどれだけいるか気がかりで、下駄箱が映ったときにしっかりと観察したから……。綾葺先生。五人の男子生徒って言いましたよね? 下駄箱の前に並んで同時に開けたなら、ひとつ余るでしょう?」
「……だけど……いえ、たしかに見たのよ。ぜんぶ開いたの。気持ち悪い光景だったし、目に焼きついてる。ぜったい間違いじゃない。わたしは嘘なんかついてない。ほかの先生方も見てるし……」
「ええ。あなたが嘘をついていないことはわかってる。お顔を見ればわかるから」
涼子は意味がわからないようすで、きょとんとして見かえしてきた。
美由紀は推論を口にした。「最初の人数を見間違えていたのでは? 五人じゃなく六人の男子生徒だったのでは?」
「……いいえ。それも違う。五人が布を持って校舎から出てきた。間違ってない」
「変ですね。……その男子生徒が誰かわかりましたか?」
「それがさっぱり……全員が小柄で、帽子を深く被《かぶ》っていて、無個性で……」
「布というのは視聴覚室の遮光カーテンだったそうですが、それを五人ないし六人で運んできたんですね?」
「五人よ。折りたたんだカーテンを校舎から運びだしてきたの」
「それで北原沙織さんをくるんだ、と……。無理やりにですか?」
「いいえ。北原さんは、ただ立ちつくしているだけだった。広げられた布が、北原さんの頭上からすっぽりとかぶせられて、男子生徒らが布の端を持って周りを走り、ミイラのように巻いていったのよ。そのあいだ、北原さんは無抵抗で……」
「国旗掲揚塔に吊《つ》るされ、落とされたあと、彼女の怪我の状態を見ましたか?」
「いえ。わたし、そこで失神してしまったし……。でも血が広がっていくのが見えた……」
看護師が告げてきた。「ほかの教師の話では、女生徒は布に巻かれたまま校舎内に運ばれたそうです」
ふうん、と美由紀は腕組みをした。「それじゃ、すべては偽装の可能性もあるってことね」
涼子は目を見張った。「偽装? どういうこと?」
「リンチというか粛清というか、とにかく女子生徒が無残な目に遭ったと見せかけるためのパフォーマンスだったってことです。男子生徒らはみんな小柄で、教師たちにも誰なのかわからないぐらいに帽子を深く被っていた。もし彼らが持ちだしてきた布のなかに、学ランの上着とズボン、それに帽子がおさまっていたら? 布をすっぽりと被せられた時点で、女子生徒はそれらに着替えることができる。そして、トマトケチャップの入ったビニール袋が、布のなかに用意されていたんでしょう」
「トリックだったってこと?」
「そう。大きな布をひとりの人間に巻きつけるなんて作業は、誰もが布の下に潜ったり這《は》いだしたりで、どたばたとしたものになる。女子生徒が着替えて外にでるのは造作もない。血糊《ちのり》袋を布でくるんだにすぎない物体を国旗掲揚塔で引き揚げて、落下させただけ。そちらに気を取られているから、男子生徒がひとり増えていることに気づく人間は、まずもっていない」
涼子は唖然《あぜん》とした面持ちで美由紀を見つめた。「そんなこと……ありえない。常軌を逸してる」
「いえ。生徒らがいきなり残虐行為を実行したというよりは、信じられる仮説だと思います」
「それって、いったいどういう……。なんのために……?」
「さあ、ね。まだなにもわからない……」
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