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千里眼201

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:青酸カリ 氏神高校国は、国民の就寝時刻を午後九時にさだめている。すでに全校の教室は消灯し、生徒たちはそれぞれの教室で寝静
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青酸カリ

 氏神高校国は、国民の就寝時刻を午後九時にさだめている。
すでに全校の教室は消灯し、生徒たちはそれぞれの教室で寝静まっている。机を合わせてベッド代わりにして、その上に毛布を敷いて寝ることが許されている立場の者と、上着かジャージにくるまって床にゴロ寝する者の二極化が進んでいる。平等を重んじるクラスではそれら二者が日ごとに交代するシステムになっていると聞くが、いずれにしても各クラスの統治官の裁量によって決定されることだ。ここに自由はない。
三年C組の岸辺和道《きしべかずみち》は、唐突に訪れたこの状況にただ呆然《ぼうぜん》とするばかりだった。
女子生徒が泣いていたり、男子生徒のなかにも暴言を吐いて抵抗の意志をしめす者がいるかと思いきや、実際に菊池の校内アナウンスが流れる段になると、誰もが驚くほどの従順さをしめして行動する。刃向かう者は誰もいない。
それは、マラソン大会で仲間たちがみんな『ゆっくり走ろうぜ』と言っておきながら、本番になるとスタートから結構飛ばすという不条理な状況に似ていた。
どうしてこんな状況でも周りに合わせようとするのか。いきなり親元から切り離されてこの校舎に閉じこめられて、不本意でないというのか。
面倒は御免だった。さっさと脱走して家に帰り着く、それだけがいまの望みだ。そのためには手段を選んでいる場合ではない。
岸辺は、友達の安土祐樹《あづちゆうき》を連れだって教室を抜けだし、暗い廊下に歩を進めた。
「やばいって」安土は、すっかり怖気《おじけ》づいたようすでささやきかけてきた。「行政庁の見張りは一時間ごとに来るらしいぜ? 外にも監視が立ってるらしいし、逃げられっこない」
「だまれ」岸辺は前進しながらいった。「なにが行政庁だ。こんなとこに一分たりともいられるかよ。俺は家に帰ってメシを食う。ゲームもするしDVDも観る。ベッドでぐっすり眠れるし、明日からは実質的に登校も不可能なわけだから、休みの日がつづくことになる。平日に休めるんだぜ? こんなおいしいことがあるか」
「だけどよ……。みんなで決めたことだし……」
「どこがだ。少なくとも俺は賛成してねえ」
「けど、どうする? 走って逃げようたって、校庭にでりゃすぐバレるぜ?」
「それなら心配ねえ。ほら、これだよ」と岸辺はポケットからビンを出してみせた。
「おい……そいつは……」
「工業高校ってもんは便利だよな。溶接工の実習室にこんなものまで置いてある。この薬品の成分、何か知ってるか?」
「知ってるけどよ……。青酸カリなんて何に使う? まさか……」
「俺たちゃ生きるか死ぬかの瀬戸際だぜ? どんなことをしようが正当防衛だろ」
「……何日かはみんなに調子をあわせて、ようすを見たほうが……」
「馬鹿いえ。俺は共同作業や集団生活が嫌いなんだよ」
岸辺はA組の前で足をとめた。
就寝時は、男女ごとに教室が分かれている。ここではA組とB組の男子生徒が寝ていて、隣のB組ではそれらの女子生徒が眠りについている。
A組の教室のなかに、足をしのばせながら侵入した。
呑気《のんき》にいびきをかいている者がいる。こんなふうにたちまち全寮制の学校に変わっても、適応できる人間がいるとは信じがたかった。いったいどんな神経をしているのか。
目当ての男は床に寝ていた。小柄でやや太りぎみのその生徒、今中雄三《いまなかゆうぞう》の額を叩《たた》いて、岸辺は小声で話しかけた。「おい雄三。起きろよ」
今中はぼんやりと目を開けた。
「あ……。岸辺君。な、なに……?」
いかにも鈍そうな、寝起きの返事。岸辺は苛立った。いつものことながら、こいつのトロさに付きあうには強烈な忍耐を強いられる。
「ちょっと外にでろ。話がある」
「駄目だよ……。朝まで廊下に出ちゃいけない規則で……」
「知るか。さっさと起きろ。ほら」
周りの何人かが声を聞きつけたらしく、身体を起こした。岸辺は人差し指を口もとにあてて、静かにするようにうながした。
どうせA組とB組の男子は腰抜けばかりだ。チクる勇気のあるやつなんか皆無に等しい。
廊下にでると、岸辺と安土はさっそくいつものポジションについた。今中の正面に岸辺が立ち、安土は背後にまわる。
「雄三」岸辺はビンを今中の鼻先に突きつけた。「おまえ、いまから生徒会の役員連中のところに行って、パンにこれをかけてこい」
「え……」今中は怯《おび》えた顔でつぶやいた。「これ……青酸カリ?」
「見りゃわかるだろ。生徒会の奴ら、職員室にいるから、気づかれないように忍びこめ」
「生徒会……じゃなくて、行政庁だよ」
岸辺のなかに憤りがこみあげた。
「なんだと。なめてんじゃねえぞ、なにが行政庁だ。俺らにわかった口をきくつもりか? もう俺らは怖くねえってのか。その行政庁が守ってくれるからか?」
「そんなこと、言ってないよ……」
「俺らに楯《たて》突く気かよ?」
「そうじゃないし……」
「なら、この薬品を持ってさっさと職員室に行け」
「……やだよ。そんなことできない」
「命令が聞けねえってのかよ。駅前のスーパーでも何度も万引きしたろ。万引き坊主」
「あれは……岸辺君がやれって言ったから……」
「おまえが勝手にやったんだよ。俺らのせいにすんな。通報されてえのか?」
と、今中が黙って見かえしてきた。
その反抗的なまなざしを、岸辺は初めて目にした。
通報できるものならしてみろ、そんなふうに瞳《ひとみ》が語りかけてくる。
今中は、こちらの権力が揺らぎつつあることを認識している。
生意気な坊主めが。岸辺は怒りにかられて、今中をこぶしで殴った。
今中は床に突っ伏した。すぐさま、岸辺は今中の横っ腹を蹴《け》った。安土も同じ行動をとる。ふたりで今中を蹴る。いつものことだった。いや、普段よりずっと力が入る。
岸辺は今中の髪をつかみ、顔をあげさせた。
ひいひいと泣く今中の声が神経を逆撫《さかな》でする。情けない奴だ。こんな奴がいる高校に自分も生徒として通っているという事実が、余計に腹立たしさを助長する。
「てめえ。いい気になんなよ。拒否するつもりなら、このビンの中身をてめえが飲め」
「やめろよ……」今中は震える声でいった。「いじめは行政庁の規則で禁止だって、菊池君が言ってたじゃないか……」
猛然とした怒りが岸辺のなかに燃えあがった。
いじめ。その事実が半ば公然化していたものの、今中の口からその言葉が発せられたことはなかった。岸辺も言わなかった。安土も同様だ。
世間のいう、程度の低い『いじめ』という現象と、自分たちの行いは同一ではない、そうみなすことにしていた。実際は同じかもしれないが、それを認めることに意味があるとは思わない。だから認めない。岸辺はそう心にきめていた。
こんなつまらない高校に入らざるをえなかった自分、それ以前に中学校で教師と同級生に爪弾《つまはじ》きにされ、孤立させられ、嘲笑《ちようしよう》を受けた自分。世の中は間違っている。俺もそんな世の被害者のひとりだ。負の状況にある以上、こちらは本能の赴くままに行動してやる。実利はなくとも、少なくともすっきりとするという効果があるなら、ためらわずに実行する。今中のような奴を見下し、成敗することは自分の務めだ。そこに自分の存在意義がたしかめられるのだ。
一貫した理屈なのか、混沌《こんとん》とした思考なのか判断がつきかねる。それでも岸辺は、自分を疑おうとはしなかった。俺は頭にきている。だからこのクソ坊主を蹴る。それ以外に説明などいらない。理由など必要ない。
「ほら」岸辺は蓋《ふた》を外したビンの口を、今中の顔に近づけた。「飲めよ」
「い……嫌だよ」
「飲めってんだ!」
岸辺は今中の口を無理やり開かせ、そこにビンの口をねじこんだ。ビンを傾けると、今中はブハッと液体を吐きだした。
「汚ねえな!」安土が怒鳴った。
「だが」岸辺はいった。「何滴ぶんか飲み下しただけでも致死量だぜ? おまえ、もう終わりだな。クソ坊主」
今中は青い顔をして、その場に崩れ落ち、仰《あお》向けに寝転がった。ぜいぜいと苦しげに呼吸している。
安土が不安そうに岸辺に告げてきた。「おい……。いくらなんでもやばくねえか」
「どこがだよ。さすがに死人が出たら、生徒会の奴らもビビリが入って、こんなわけのわからねえ独立国家ごっこも終わるだろ。正義ってのはこのことだ。さっさとずらかろうぜ」
ところがそのとき、廊下の明かりがふいに点灯した。
一瞬、まばゆさに目がくらむ。岸辺はたじろぎながら立ちすくんだ。
視界に入ったものに焦点が合ったとき、岸辺はぎょっとした。
生徒会役員、いや行政庁幹部だったか、北原沙織と幡野雪絵のほか、治安部隊の連中がずらりと顔を揃えている。
「あ……」岸辺は後ずさった。「あの、これは……」
沙織はつかつかと歩み寄ってきて、岸辺の手からビンを奪った。
冷ややかな目つきをしながら沙織はいった。「友達に飲み物を分け与えるとは感心ね。あなたも飲んだら?」
「いや。それは……」
「飲みなさいよ。早く。飲めっての!」
治安部隊が岸辺の背後にまわった。気づいたときには、安土ともども両腕を固定され、羽交い絞めにされていた。
「なんだよこれ!」安土は悲鳴をあげていた。「やめてくれよ。俺にそんなもの……。岸辺、なんとかしてくれよ!」
「なんとかって……。冗談だろ、やめろよ。よしてくれよ!」
それなりの美人として知られていた北原沙織の本性を、岸辺は垣間《かいま》見た気がした。
悪魔だ。夜叉《やしや》だ。不敵な微笑を浮かべながら、氷のように冷たい目でこちらをじっと見つめ、ビンを口もとに捻《ね》じこんでくる。
「飲みなさいよ!」沙織が怒鳴った。「さっさと飲みくだせ!」
その勢いに押され、瞬時に岸辺はごくりと液体を飲みくだしてしまった。
激しくむせて、嘔吐《おうと》しながら、岸辺はその場にうずくまった。
安土も同様に青酸カリを飲まされ、苦しみあえぎながら床にのたうちまわっている。
地獄だ。こんなものは地獄にほかならない。
動物のように呻《うめ》きながら、涙が自然に溢《あふ》れてくる。岸辺は焼けそうな痛みを放つ胸を押さえて、転げまわった。
沙織がじっとこちらを見下ろす。「どう? 気分は?」
「死ぬ」岸辺は絶望の響きを帯びた自分の声をきいた。「死ぬう……」
「ふん」沙織はあきれたように鼻を鳴らした。「工業科じゃなく普通科の生徒だったにしても、知識がなさすぎね」
雪絵がクリップボードに目を落としながらいう。「三Cの岸辺和道、安土祐樹。どちらも化学の成績はクラスでも最下位グループね。ずさんな犯行もうなずけるわね」
意味がわからず、岸辺はつぶやいた。「なに……?」
「岸辺」沙織はいった。「青酸カリの致死量はたった二百ミリグラム。その毒性は細胞の呼吸を停止させる働きがある。青酸カリが水に溶けCNになると、金属イオンと結合するため、酵素のなかの鉄と一緒になってしまうからよ。大脳の細胞が停止すると昏睡《こんすい》状態に陥る。それから呼吸中枢も麻痺《まひ》する。あなた、まだ息できてるんじゃなくて? 二百ミリグラム以上飲んだのに、おかしいと思わない?」
「え……。それって……」
「実習室の青酸カリは蓋をしないで放置されることが多くて、炭酸カリに変質して毒性が失われてしまってる。そんなことも知らない人間は氏神高校国において知性を提供する立場にはならない。しかも、労働者としても反社会的で使いものにならないなんてね。必要のない人間だわ。独房に入れておいて」
岸辺は唖然《あぜん》としていた。
安土とともに、首の後ろをつかまれ、廊下をひきずられながら連行される。その自分の現状だけは認識できていた。
だが、そこに至るまでの状況は、充分に把握できていない。
なぜ俺は罰せられることになったのだろう。必要ないとまで言われた。俺は、世に不必要な人間だ、そう断じられた。
やっぱり、そうだったのか。その思いだけが頭をかすめた。それ以上は、なにも考えられなかった。こうなるべくしてなった、諦《あきら》めとともにそう感じた。
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