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千里眼204

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:貨幣経済とは 白々と夜が明けた。氏神高校国の建国以来、初めての朝陽が昇った。五十嵐聡はすぐに起きだして、教室をでた。生徒
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貨幣経済とは

 白々と夜が明けた。氏神高校国の建国以来、初めての朝陽が昇った。
五十嵐聡はすぐに起きだして、教室をでた。生徒たちも一部はすでに活動を開始している。掃除をしている者もいるし、各教室に配られた備品の点検作業をしている者もいる。ただし、ほとんどは行政庁統治官かその補佐ばかりだった。一般の生徒、いや国民らは、まだ眠ったままのようだ。
隣りの教室にいる小沢知世が気になる。女子生徒とは分かれて寝るのが決まりだ。
きのうの晩、女子生徒のすすり泣く声が聞こえていた。それも夜半すぎには途絶えたように思う。沈黙のなかで眠りについた五十嵐は、ふしぎとこの朝を迎えるのが当然のことのように感じていた。建国という名目での籠城《ろうじよう》、その一員に加わっていること、果たさねばならない義務、すべてが。
使命などという重いものを感じているわけではない。いつの間にかこうなっていた、そしてやらざるをえなくなっていた。
いつか戦争が起きたら、否応《いやおう》なくそこに巻きこまれるのだろう。意識しないうちに銃を持ち、軍服を着せられて、戦地に駆りだされるのだろう。ぼんやりとそう感じる日々もあった。予想とはかなり異なった状況ではあるが、非日常的な環境はふいにやってきた。僕はそこに適応を求められているのだ、五十嵐はひとり静かに思った。
無人島に取り残されても、人は唐突に取り乱したり精神の異常をきたすことはなく、どんな環境にあっても適応的に生きていけると言ったのは、保健体育の教師の鱒沢《ますざわ》だったか。雨で体育の授業がつぶれた日、教室で保健の教科書を片手に鱒沢はたどたどしくそう告げた。
あの男は、体力自慢なばかりで頭のほうは働くとは思えなかった。実際、教科書を数多くの箇所で読み間違えていた。しかし、生徒は誰も異議を唱えなかった。腕力に自信があるゴリラは怒らせないにかぎる。
鱒沢というのは元不良少年だったことを自慢げに鼻にかける輩《やから》で、五十嵐が苦手とする教師のひとりでもあった。彼の面目がつぶれるというだけでも、この籠城を維持するだけの充分な理由になりうる。そんなふうに思う自分がいた。
校庭の外から、スピーカーで呼びかける声がする。きみたちのお母さん、お父さんは心配しています。できることなら、大人を信用し、もういちど話し合いの機会を持ってほしい。誰もが待ち続けています……。
廊下の洗面台の前で、石森と出くわした。石森は上着を脱いで顔を洗っていた。
「おはよ」と五十嵐はそっけなく声をかけた。
「ああ。おはよう」石森はタオルで首すじをぬぐいながらいった。「あの声、日の出とともに始まったな。やっぱ夜は、近隣住民に配慮してるのかな」
「そうだろうな。国境の向こうからの声。まるで朝鮮半島だね」
「プロパガンダが混じっているかも。ぜんぶ本気にしないほうがいいな」
「……だな」五十嵐は憂鬱《ゆううつ》な気分でいった。「両親が心配してるなんて……」
石森がたずねるような顔でこちらを見た。五十嵐は視線を逸《そ》らした。
他人に同情してほしいなんて思っていない。それに、石森とはそれほど親しい間柄でもない。
と、長島高穂がぶらりとやってきた。「おっはよう、おふたりさん。まだ寝ぼけてるのか」
五十嵐は面食らった。長島はもう上着をきちんと身につけて、手にしたサインペンを何本も流しに置き、水をかけるという作業に従事している。
「なにやってるんだい?」と五十嵐はきいた。
「これか? サインペンってのはな、底の部分が開くんだよ。歯でガリっとやればな。で、なかは空洞。インクが切れたなら、きれいに洗って、また墨汁でもなんでも入れておきゃ使えるようになる。ペンの先から液体が染みだすだけっていう構造だからな」
石森が面食らったようすでつぶやいた。「よく朝っぱらから働けるね」
「なんだ、知らねえのか? 労働に応じて通貨みたいなものが給与される決まりになったんだぜ」
「通貨?」と五十嵐は長島に聞きかえした。
「国っていえば金があるだろ。単位はウジガミールだってさ。十ウジガミールで新しい毛布がゲットできるってよ」
「一ウジガミールは……日本円に換算するといくらなの?」
「それがな、俺たちゃもう日本人じゃないんだから、そんな基準で考えるなってさ。ここでの生活を通じて、物の価値の基準が決まる。その基準も流動的なものだってな。レア物は早めに入手しといたほうがいいぜ」
「ここの水道代は?」
「そんなものは……公共経費だろ」
そのとき、校内アナウンスが響きわたった。
幡野雪絵の声が告げる。「三年の統治官および補佐はただちに行政庁第二本部に出頭してください」
「ええと」石森が頭をかいた。「第二本部って……」
「旧視聴覚教室」長島が五十嵐を見つめてきた。「だろ?」
「そう。行こうか」五十嵐は歩きだした。
ああ、いこう。ぶつぶつとつぶやきながら、石森と長島もついてきた。
無人島でも適応的に生きられる、か。あながち間違いでもなさそうだ。こんな風変わりな事態であっても、誰もが順応し始めている。
なにが自分たちのやる気につながっているのだろう。わからない。積極的だという実感もない。
それでも、足を踏みだすのは苦ではなかった。やらなきゃいけないことがある。そう思えるだけでも楽になる。理由は不明だが、五十嵐はたしかにそう感じていた。
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