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イブのおくれ毛79

时间: 2020-06-20    进入日语论坛
核心提示:轡 一 文 字私が前の回で紫式部には王朝のカモカがいたと書くと、「そんなヘンなこと考えないで下さい、大天才の式部は石山寺の
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轡 一 文 字

私が前の回で紫式部には王朝のカモカがいたと書くと、
「そんなヘンなこと考えないで下さい、大天才の式部は石山寺の月を見つつ、『源氏物語』の構想を練り、心しずかに世紀の大文学を女の手一つで書きあげたのです」
と怒られる向きがあった。
しかし、私としては、むろん紫式部一人で書き上げたのは肯定するが、毎晩、式部サンの家に、「カモカのおっちゃん酒さげて やってきました おむらさん」
というおっちゃんがいた、と思う方がたのしいのである。(紫式部だからおむらさんだ)
かつ、式部サンは、すでに夫の藤原宣孝に死別し、一人娘の賢子チャンを女手一つで育てている。そこへ、王朝のカモカのおっちゃんが「あーそびーましょ」と来る。
式部サンはやおら筆を措いて、賢子チャンに、
「お酒の用意してよ」
などという。
賢子チャン(何とよんだのか今ではよくわからない。好き好きによまれたい)は、さながら佐藤愛子氏における令嬢、響子チャンのごとき存在である。
ハッキリいわせてもらうなら、愚母賢|娘《じよう》というところである。
「またあのエッチなおっちゃん来たのォ」
と潔癖な少女は美しい眉をしかめ、手早く用意して、二階の勉強部屋といいたいが、王朝貴族の邸宅に二階はない、廊下を伝って西の対なんぞへ避難してしまう。
(あんなぐうたらな酒飲みのおっちゃんと、うちのママはよくつき合ってるわねえ)
などと、乙女心にママのおろかさを軽蔑している。
そうとは知らぬ王朝のカモカ氏は、うれしそうに酒の燗をつけつつ、鼻唄なんぞ唄う。
ここはセーターやポロシャツというわけにいかん、狩衣《かりぎぬ》に指貫《さしぬき》なんぞいう服装、ナマズひげくらいあって、下っぱ貴族の地下《じげ》の人、一向ぱっと冴えん奴。しかし気がのんびりとしていて、それを苦にもせず、いつも酒を飲んでりゃ極楽。それに折々、式部サンの所へ「今晩は、あーそびーましょ」なんて来られれば、無上のたのしみという欲のない御仁なのだ。
カモカのおっちゃんは、昔も今も、ふしぎなところがあり、世俗のコマゴマとしたことは何も知らぬ。
一方、式部サンは女性だから女性週刊誌なんか見ている。誰それが誰それと離婚したとか、三角関係だとか、ようく知っていて、興味しんしん、デビ夫人とジャクリーヌ夫人の張り合いなんかに好奇心を持っている。そうして、世俗にうといおっちゃんをバカにしている。たとえば、国賓が訪日される。式部サンは女のこととて、国賓やおえら方に関心多大であるが、おっちゃんは「国賓の名さえ知らずに年暮れぬ」、なんで女はそう見たがるかと呆れる。しかし珍しもの好きは女の常、国際ホテル・鴻臚館《こうろかん》の屋上にへんぽんとはためくユニオンジャック、といいたいが、平安朝の昔にエリザベス女王は居られない。唐人や高麗人だろうが、式部サンは沿道で旗振って送迎したく思う。
ひとめ見たく思う。
見て話のタネとしたく思う。
関心のない人間なんて考えられない。
「おっちゃん見なかったの? なんで!? せっかく関西へ来はったのに」
とバカにする。
カモカのおっちゃんはナマズひげをしごき、狩衣の袖をたくしあげて、酒をちびちび飲み、
「見て何か、トクになることでもあるかね?」
「やさしそうな国賓の笑い顔やったわ!」
「そうかねえ。ワシは気の毒でならんがねえ。人が見てると笑いとう無《の》うても笑うて見せなあかん。礼儀やと思うてつくり笑いしはる、気の毒やさかい、なるべく寄りつかんようにしてあげるのが、迎える方の礼儀です」
などという。考え方がかいもくちがう。
式部サンは、光源氏を理想の男と思い、女から見て都合よく書く。浮気なんかせず、バクチせず、大酒飲みでなく、ただ一人の女性だけを大事にする。しかし、そう書くと、「源氏物語」は短編で終ってしまう。原型の「源氏物語」は、短編であったのだ。
おっちゃんはセセラ笑い、
「そんな気色《きしよく》わるい男おりますかいな。吐く息吸う息に浮気するのが男。若い女がよう見えて、お婆ンもわるうない。肥っちょには肥っちょのよさがあり、痩せがたには痩せがたの美がある。目うつりしてどれもこれも、よう見えるのが男いうもんです」
「そんなことない」
と式部サンはすぐいう。
この人、男のいうことに何でもすぐ反対する人。
「そんなことないて、男のことが、あんたら女にわかるわけない。ワシャ本なんかよんだことないけど、オナゴの書く男ほど気色わるいもんおりまへん。どだい男いうもんがあんたらオナゴにはようわかっとらん」
「そうかなァ」
「男いうもんは、しょせん、二つの性質を持っとるだけ。なんぞもうけさしてもらお、思うて権勢のあるところへ群れつどう、これ一。オナゴを見れば、ハンコを捺《お》したいと思う、これ二つ」
「ハンコって何のハンコですか」
式部サンは、ナマズひげのカモカのおっちゃんに酒をつぎつつ、つい釣られて聞く。
「男のハンコです。轡《くつわ》一文字のハンコ」
「轡十文字というのは聞いたことがあるけどねえ」
「集印帳、スタンプ帳というのがありますな、つまりあれが男の趣味」
「へんな趣味」
といいつつ、式部サンはしぜんとおっちゃんに影響され、それを作品に書く。おっちゃんに啓蒙されるところが大なのである。すなわち光源氏は浮気男であり、集印趣味がある故に、のち六条院という広壮な邸宅に今までの愛人情婦をみなあつめるのである。
そうして式部サンの書いた作品は後世に残ったが、轡一文字コレクション趣味を示唆し、式部サンを開眼させたカモカのおっちゃんは、後世に残らないのである。
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