リンドウ
はじめて阿蘇の中央火口丘の一つの中岳にいった時、印象は強烈の一語に尽きる。大爆発をして、ロープウエイ駅が被害を受け、観光客に死者が出たのは、私がいって半年たっていなかったと思う。浅間山や三原山の噴火口の縁を歩いて中をのぞき、真紅の炎の立っているのを見たことがあるが、中岳は噴煙が轟音を発して、盛り上がり盛り上がり、風のままに自分の方へも押しよせてくるので、その縁に立っても、とても炎を観ることができなかった。
北海道の十勝岳にも、大爆発して死者の出たあとに登ったのだが、この時も噴煙が、轟音と共に風になびき、噴煙が全身をつつんで恐ろしく、やはり炎を見ることができなかった。十勝岳の前に中岳にいったので、大地が生きていると感じたのは、中岳がはじめてである。
それから数年後の秋、|長者原《ちようじやばる》から久住山の一七八七メートルに登り、眼の前に雄大な阿蘇火山を観て、今度は是非歩いて登りたいと思った。
つい最近の秋、地獄温泉に泊まって、やはり中央火口丘の一つの烏帽子岳の一三三七メートルを目指したが、前夜から風邪気味で、全身がだるい私は途中まで。北斜面にひろがる草千里の草紅葉に見とれ、東西一六キロ、南北二四キロ、周囲一二〇キロに及ぶという、火口原のものすごい|許《ばか》りの大きさに、改めて眼を見張った。時は十月、足許にウマノアシガタやツクシフウロが咲き残り、花の終わったスミレがある。もしかして阿蘇に多いというキスミレではないか、これがその名の発祥のもとのヒゴタイではないかと稜線を下って来たが、リンドウの多いのにびっくり。頂上から下りて来た仲間と、九五四メートルの寄生火山の米塚に登った。ここにもリンドウがいっぱいで、熊本県の県花はリンドウであったことを思い出した。オヤマリンドウや、エゾリンドウとちがって、私たちがまだ東京に武蔵野の面影が残っていた頃、雑木林の中でよく見かけたリンドウである。今度は春にいって、阿蘇の草原に咲くというフクジュソウを見つけたい。
北海道の十勝岳にも、大爆発して死者の出たあとに登ったのだが、この時も噴煙が、轟音と共に風になびき、噴煙が全身をつつんで恐ろしく、やはり炎を見ることができなかった。十勝岳の前に中岳にいったので、大地が生きていると感じたのは、中岳がはじめてである。
それから数年後の秋、|長者原《ちようじやばる》から久住山の一七八七メートルに登り、眼の前に雄大な阿蘇火山を観て、今度は是非歩いて登りたいと思った。
つい最近の秋、地獄温泉に泊まって、やはり中央火口丘の一つの烏帽子岳の一三三七メートルを目指したが、前夜から風邪気味で、全身がだるい私は途中まで。北斜面にひろがる草千里の草紅葉に見とれ、東西一六キロ、南北二四キロ、周囲一二〇キロに及ぶという、火口原のものすごい|許《ばか》りの大きさに、改めて眼を見張った。時は十月、足許にウマノアシガタやツクシフウロが咲き残り、花の終わったスミレがある。もしかして阿蘇に多いというキスミレではないか、これがその名の発祥のもとのヒゴタイではないかと稜線を下って来たが、リンドウの多いのにびっくり。頂上から下りて来た仲間と、九五四メートルの寄生火山の米塚に登った。ここにもリンドウがいっぱいで、熊本県の県花はリンドウであったことを思い出した。オヤマリンドウや、エゾリンドウとちがって、私たちがまだ東京に武蔵野の面影が残っていた頃、雑木林の中でよく見かけたリンドウである。今度は春にいって、阿蘇の草原に咲くというフクジュソウを見つけたい。