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悪魔を追い詰めろ!11

时间: 2018-06-26    进入日语论坛
核心提示:11 棺《ひつぎ》の窓 冷たい雨だった。 けれども、厚子にとっては天気などどうでもいい。大体、外が雨かどうかなんて、気付き
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11 棺《ひつぎ》の窓
 
 冷たい雨だった。
 けれども、厚子にとっては天気などどうでもいい。大体、外が雨かどうかなんて、気付きもしない。
 靖子の葬儀は、もちろんこぢんまりと行われた。そう知り合いもないし、喪主は厚子で親戚《 しんせき》などもいない。
 それではあんまり寂しい、というので、紀子の両親が厚子の後ろに座っていてくれた。
 紀子は初めの内隣に座っていてくれたが、意外に大勢の人が焼香に来ると、
「受付の方を見てくる」
 と言って立って行った。
「あの子ったら、途中で席を立ったりして」
 と、母の由利が文句を言っている。
 でも、もちろん厚子には気にならなかった。──今はたぶん、何も感じないのだろう。
 母が死んだと聞いて泣いたが、本当に悲しいのはこれから後かもしれない。
 殺されたというので、母の遺体はなかなか戻って来なかった。お葬式も、ずいぶん遅れたので、何となく実感がなくなってしまったのかもしれない。
「あ、大久保先生」
 と、厚子は言った。
「気の毒だったね」
 と、大久保は焼香した後、厚子の方へ来て、「気を落すなよ。学校じゃ君の来るのを待ってるぞ」
「はい」
 大久保の言葉が嬉《 うれ》しかった。
「──間近は?」
「紀子さんですか? たぶん受付の方だと思いますけど」
「そうか。見かけなかったが……。じゃ、後でな」
「はい」
 と、厚子は頭を下げた。
 ──大久保は外へ出た。
 野田が仕切っているので、そう広くはないが、立派なお寺である。
「大久保」
 と呼ばれて、振り向く。
「あ、先輩」
 真田がやって来たところだった。
「同じ犯人か?」
 と、真田は小声で言った。
「まず間違いないでしょう」
 と、大久保は肯《 うなず》いた。
「警察も何をしてるのかな。──ともかく他人事じゃない。お焼香してくるよ」
「ええ、お願いしますよ」
 と、大久保は言った。
 大久保は紀子の姿を捜してキョロキョロしていたが──。
 コツン。小さな石が頭に当った。
「いてっ!」
 と振り向くと、紀子が木のかげから手招きしている。
「──おい、何だ」
「しっ」
 紀子は大久保の手をつかんで引張った。
「──全く、お前のやることは分らん」
 大久保は寺の裏側へ出て、紀子が足を止めると言った。
「その内、分るようになりますよ、先生も大人になれば」
「言うことが逆だ」
 足音がした。大久保は振り向くと、
「あ、どうも」
 と、野田に会釈した。
「どうだい?」
「ええ、大勢みえてるわ」
 と、紀子は言った。「あなたも座ってればいいのに」
「俺は表に出ない方がいいんだ」
 と、野田は首を振った。「例の警官だが、まだ意識が戻らないらしいぜ」
「気の毒に。──何か言われた?」
「いや、別に。しかし、後が怖いね」
 と、野田が肩をすくめる。「せいぜい日ごろの行いを良くしとくさ」
「犯人を捕まえて突き出せば? 見直してくれるわ」
「見直してもらっても困る。こっちはできるだけ目立たないのが一番だ。それに犯人なんて、分りもしないのにどうやって捕まえるんだ?」
「分ってるもん」
 野田と大久保が顔を見合せた。
「──分ってる? 本当か?」
「ええ、もちろん」
「どうして分った」
「聞いたの。靖子さんから」
「──いつだ? 意識の戻ったときがあったのか」
「死《ヽ》ん《ヽ》だ《ヽ》後《ヽ》」
 紀子の言葉に、野田はむくれて、
「相棒を馬鹿にしてるのか?」
 と言った。「──おい」
「しっ。いいの」
 と、紀子が野田にウインクして見せる。
 少し間があって、野田は小声で、
「誰かが立ち聞きしてたぞ」
「分ってる。それでいいの」
 と、紀子は肯いた。「さ、犯人が来るのを待ちましょ」
 
「──どうしたんですか?」
 と、厚子は車から出て訊《 き》いた。
 いざ出棺となって、白木の棺が霊《 れい》 柩《 きゅう》 車《 しゃ》に入れられたのだが、一向に車が走り出さないのである。
「──いや、申しわけありません」
 と、葬儀社の男が汗を拭《 ふ》いて、 「車が故障のようで……。すぐ別の車をこっちへ寄こしますので」
「君、困るよ」
 と、紀子の父が顔をしかめる。
「何ともはや……」
「しょうがないわよ」
 と、紀子が言った。「じゃ、お手数ですけど、棺を一旦お寺の方へ戻して」
「はい、すぐに」
 葬儀社の社員たちが急いで棺を寺の中へ戻す。
「──どうしたらいいのかしら」
 と、母の写真を抱えた厚子が戸惑っている。
「ついて来て」
 と、紀子は言った。「お父さん、写真を持ってて」
「俺《 おれ》が?」
 呆気《あつけ》に取られている父へ写真を押しつけ、紀子は厚子の手を引いて、お寺のわきへ回った。
「紀子さん……」
「しっ。──窓から忍び込むくらいのこと、できるでしょ」
「忍び込む?」
「そう。──そっとね」
 二人は、窓からお寺の中へ入った。
 もうすっかり片付けてしまっているので、白木の棺は奥の部屋に置かれていた。
「隠れて見てよう」
 と、紀子が小声で言って、厚子の肩をつかむ。
「何を──」
「しっ。来たみたい」
 足音がした。──二人だ。
「おい、あるぞ」
 と、男の声がした。
「確かに?」
 女の声がして……。「中を見た?」
「見ちゃいないさ。しかし──」
「本当に死んでるのかどうか。もし、死んだって発表しただけなら──」
「まさか!」
「あの女は、あんたのことを知ってるのよ。もし、証言されたらおしまい」
「開けてみるのか?──気が進まねえ」
「大丈夫。顔の所だけ窓がついてるでしょ」
 ──二人は、そっと棺に近付いた。
「おい……。やめようぜ。確かに殺したんだ。間違いねえよ」
 と、男が言った。
「念には念よ」
 女の方が近付いて棺の窓をそっと開け覗《 のぞ》き込んで、
「──確かにあの女ね」
 と、肯く。
「分ったろ? さ、行こう」
 と、男が促したとき、
「キャッ!」
 女が飛び上って尻《 しり》もちをついてしまった。
「おい! 人が来るぞ」
 と、男があわてて女を抱き起こすと、
「目を──目を開けた!」
 女は真っ青になっている。
「何だと?」
「目を開けて、私を見たわ!」
「馬鹿な!」
 突然、打ちつけたはずの棺の蓋《 ふた》がガタッと音をたててずれると、床へ落ちて、大きな音をたてた。
「おい……」
 男の方も青ざめている。
 棺の中から、ゆっくりと金山靖子が起き上った。
「お母さん!」
 厚子が思わず叫ぶ。
「逃げろ!」
 と、男が女の手をつかんで逃げ出そうとしたが──。
「そうはいかないぜ」
 と、野田が二人の前に現われた。
「先輩」
 と、大久保も出て来た。「──ひどいことをしたもんですね」
「大久保……」
 と、真田は愕《がく》然《ぜん》として、 「引っかけやがったな!」
 女が──相沢京子がヘナヘナと座り込んでしまう。
 紀子は、呆然としている厚子の肩を叩《 たた》いて、
「ごめんね。本当のことを言うと、犯人を引っかけられないから」
「じゃ……お母さん、助かったの?」
「寝心地はあんまり良くないわね」
 と、靖子が棺からゆっくりと出て来る。
「靖子──」
 と、真田が言った。「すまん……」
「あなたは意志の弱い人だから……」
 と、靖子は言った。「でも、奥さんを死なせるなんて……」
「こいつにそそのかされたんだ! そうなんだ、この京子が──」
「何よ、男らしくない!」
 相沢京子が真田をにらんで、「私のためなら何でもやるって言ったくせに!」
「確かにやりましたね」
 と、紀子が言った。「真田さん。女のせいにはできませんよ。あんなひどいことをしておいて」
 真田が上着の内側へ手を入れる。
「危いぞ!」
 野田が飛びかかった。二人が床の上でもつれ合って、銃声が響いた。
「野田さん!」
 と、紀子が駆け寄る。
「大丈夫。──かすり傷だ」
 野田が左手を押えて立ち上る。真田は、ぐったりと動かなかった。そして、胸にじわじわと血が広がって行った。
 人が大勢駆けつけて来る。
 そして、誰もが唖《 あ》 然《 ぜん》として立ちすくんだ。
 ──当然だろう。
 死んだはずの靖子が厚子と抱き合っていて、真田が銃を手に倒れている。そして、相沢京子は床に座り込んで泣いている。
 どうしたって、一言や二言じゃ説明できない場面であった。
 
「──真田は、充江さんが覚醒剤を使っているのに気付いて、誰が売っているのか、調べようとしたんです」
 と、紀子は言った。「そして相沢京子と会って、二人は気が合い、恋人同士になった」
「相沢京子の方も、倉田信子を何とか見返してやりたいと思ってたらしい」
 と、野田が言った。「いつも召使同然に使われて、憎んでいたんだ。それで、真田と二人で、倉田信子のやっていた仕《ヽ》事《ヽ》を奪ってやろうとした」
 野田のオフィスである。
 大久保と、金山厚子が話を聞いていた。
「充江が薬に溺《 おぼ》れていくのは、真田にとっちゃ幸いだった。望み通り、充江は死に、真田は自由になると同時に、倉田信子の失敗だと組織の方へ思わせた。──ま、組織から見りゃ、誰がやってもいい。相沢京子の頼みを聞いて、その代り倉田信子の始末は自分でやれ、と言われた」
 厚子が息をついて、
「お母さんが、あんな男と仲良くしてたなんて」
「一人で寂しいときってのはあるものさ」
 と、野田が言った。「確かに、真田は気が弱い男だったんだろう。──だから恐ろしくて、人を殺したりしてしまうのさ」
「あのコーラのことは?」
 と、厚子が訊いた。
「真田が持っていたのを、お母さんがケースに間違って入れてしまったのよ」
 と、紀子が言った。「それを知って、真田はお母さんの口をふさごうとした」
「それも何度もな」
 と、野田が首を振って、「ひどい奴だ」
「でも、厚子さん。お母さんって運の強い人だわ。きっと長生きするわよ」
 と、紀子が言うと、
「長生きしてもらわなきゃ!」
 と、厚子は張り切って言った。「孫の面倒、みてもらうんだから」
 紀子がふき出した。
 ──大久保と厚子が帰って行くと、紀子は野田の方へ、
「ありがとう」
 と、頭を下げた。
「何だ、気味が悪い」
「失礼ね」
 と、紀子は笑って言った。
「しかし、お前もな、俺にまであの女が生きてることを隠すことはないだろ」
 と、野田がむくれる。「相棒なのに」
「MとN?──そうね。ごめんなさい。でも、後で迷惑がかかると……」
「お前は気のつかい過ぎだ」
 野田は、インタホンのスイッチに触れて、「あの日、これを聞けた連中の中で、あの団地で薬を売ってる奴が分ったよ。しかし、警察へ突き出すわけにゃいかない。──分ってくれ」
「うん」
「その代り、あの団地じゃ、もう商売はできんさ。相沢京子がしゃべっちまってるからな」
「でも、他の所で売るんでしょうね」
「ああ。どうしてあんなものを欲しがるのか」
 と、野田は首を振って、「孤独な人間が多いのかもしれんな」
「人間って弱いわ。そうでしょ? そこにつけ込むのは卑《 ひ》怯《 きよう》よ」
「ああ。──お前のそういう所が好きだ」
 紀子は、ちょっと頬《 ほお》を染めた。
「やれやれ……。俺もお前も、よく生きてるもんだ」
「本当。──明日にも殺されたって、おかしくないね」
 と、紀子は言った。「でも後悔しない。そうなっても。黙って見過してれば、きっと一生後悔するもの」
 野田は立ち上ると、机を回って紀子の前に立ち、
「死なせやしない。──お前のことは、ちゃんと言い含めてある」
「でも……」
「ただし、その都合で、俺の恋人ってことにしてあるけどな」
「そうか。──ま、許してやる」
 と言って紀子は笑い、「十七の女の子が、いいのかな、こんな口きいて」
「今さら何だ」
「今さら、ね。──本当だ」
 紀子は、立ち上って、野田にキスした。
 そこへドアが開いて、
「あ、ごめんなさい」
 と、アケミが顔を出して言った。
 紀子はパッと離れて、
「あ、あの──目にゴミが入って」
 と、あわてて鞄《 かばん》を抱えると、 「明日、テストなの! じゃ!」
 と、風のように飛び出して行った。
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