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アンバランスな放課後20

时间: 2018-06-26    进入日语论坛
核心提示:20 父の恋人 日曜日、私は昼ごろ、父のマンションを訪ねた。 ゆうべの母の話を、早いところ父に伝えた方がいいと思ったからだ
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20 父の恋人
 
 日曜日、私は昼ごろ、父のマンションを訪ねた。
 ゆうべの母の話を、早いところ父に伝えた方がいいと思ったからだ。
 前もって電話しなかったのは、別に理由があってのことではなかった。ただ、父ならそれで文句も言うまいと分っていたからである。
 チャイムを鳴らしたが、なかなか返事はなかった。——出かけてるのかな。
 もちろん、父がいなくても、出て来たからにはどこかに出かけるつもりではある。
 母は今日、珍しく家にいるということだった。——インタホンから、
「——はい」
 と、いささか眠そうな父の声がした。
「奈々子よ」
 と、言うと、少し間があって、
「何だ。来てるのか、そこに?」
「そりゃそうよ。これ、電話じゃないんだから」
「ああ、そうだな。——あ、ちょっと待ってくれないか」
「うん、いいわよ」
「奈々子、あの……悪いけどな、このマンションの前に、〈M〉って店がある。そこにいてくれないか。昼、まだだろ? 一緒に食べよう」
「分った。〈M〉ね」
「十五分で行く」
「ごゆっくり」
 ——私は、エレベーターで一階までおりた。父の部屋は、マンションの七階である。
〈M〉に入って、紅茶を飲んでいると、十分余りで、父が現われた。
 もちろん、スポーツシャツにスラックスという格好。
「ごめんね。起こした?」
「いや……。ちょっとな」
 父は、息をついて、「——何か食べよう」
 と、言った。
「うん」
 ランチを注文して——ふと私は、何かの匂いに気付いた。これは、香水かしら?
「お父さん」
「うん?」
「今、女の人がいたの、一緒に?」
 父は、ためらってから、
「実は——そうだ」
 と、肯《うなず》いた。
 私は、笑い出してしまった。
「ごめん……。あわてたでしょ。知らなかったんだもん!」
「いや……。照れるもんだな」
 と、父は苦笑した。
「ま、お父さんに恋人いても、おかしくはないよ」
「そう言ってくれると助かる」
「どんな女?」
「いいじゃないか。遊びと割り切っての仲だよ」
 と、父は照れている。
「マンションから出て来るね、きっと。よく見てよう」
 席から、マンションの出入口が、よく見えるのである。
「悪い席だったな」
 と、父はため息をついた。「——同じ職場の女の子さ」
「若い人?」
「二十四かな」
「へえ! お父さんの好みは大体分ってんだけどな」
「おいおい……。何か用事だったのか?」
「そうだ。お母さんのこと」
 ランチを食べながら、ゆうべの母の話を、聞かせてやると、父の表情はかなり深刻になった。
「——子供はまずいな」
「でしょ? だから、念を押しといたんだけど」
「いや、母さんの口ぶりはどうだったか知らないが——もう、そうなってる可能性はあるな」
「そう思う?」
「うん。何もかも信じ切ってる男が相手だ。いくら娘に言われたって、気にしやしないさ」
「そうね……。どうしたらいいかな」
「こうなったら——私が自分で、黒田の奥さんの実家を訪ねてみるしかないな」
「どうするの?」
「向うの家族に話をぶつけてみる。いくら何でも、どこかに身を寄せているなら、その連絡先ぐらいは、実家へ知らせているだろう」
「そうね。——もし、最悪の事態になったら?」
「母さんにはショックだろう。しかし、その時は、早く真実をあばくことだ」
 父はきっぱりと言った。「早ければ早いほどいい」
「同感」
 ——食事を終えて、しばらく私たちは黙っていたが……。
「お父さん」
「何だ?」
「彼女、出て来た?」
「いや——そうか。気が付かなかったな」
「私も。出て来りゃ、気が付くと思うよ」
「まだいるのかな?——起こして来たんだが、また眠っちまったのかもしれない」
「じゃ、どうする?」
 父は肩をすくめて、
「起こすさ。もう帰らないと、彼女もまずいはずだ」
「どうして?」
「今日の夜はお見合いだ」
「——やるね!」
 と言って、私は笑った。
 レストランを出て、私たちは、マンションへ入って行った。
 エレベーターで七階へ上ると、
「——田中さん」
 と、急ぎ足でやって来た男がいる。
「やあ、どうも」
 と、父は挨拶して、「これは娘です。お隣の平《ひら》田《た》さんだ。——どうかしたんですか」
「今……何だかおたくから、叫び声みたいのが聞こえて」
「何ですって?」
「通路へ出てみると、誰か男が飛び出して来たんです。危うく突き飛ばされそうになりましたよ」
「私の部屋から? それは妙だ」
 父は、私の方へ、「ここにいろ」
 と、言って、
「平田さん、一緒に中へ入っていただけますか」
「ええ、構いませんよ」
「実は——女性が一人でいたはずなんです」
「そうですか。じゃ、泥棒でも入って、あの声を……」
 二人が、ドアを開けて入って行く。
 私は、表の通路に立って、待っていた。
 ——どれくらい待っていただろう? 五分か。いや、もっと短かったかもしれない。
 平田という人が出て来ると、自分の部屋へ入って行ってしまう。
 すぐに父が出て来た。難しい顔をしている。
「——どうしたの?」
「えらいことになった」
「というと?」
「彼《ヽ》女《ヽ》が殺されている」
 父の言葉に、私は、息をのんだ。
 ——これが、いわば事件の「前ぶれ」だったことなど、その時の私に分るはずもなかったが……。
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