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アンバランスな放課後41

时间: 2018-06-26    进入日语论坛
核心提示:41 終 末「なるほど。そういう事情だったのか」 刑事は、ゆっくりと肯《うなず》いた。 私は、落ちつかなかった。別に犯人と
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 41 終 末
 
「なるほど。——そういう事情だったのか」
 刑事は、ゆっくりと肯《うなず》いた。
 私は、落ちつかなかった。——別に犯人として捕まっているわけではないにしても、警察で話をするのは、あまり楽しいものではない。
 でも、私は、あまり自分に都合のいいようにねじ曲げたりせずに話ができた、と思っていた。もちろん、それには、一年という時間がたっていたせいもあっただろう。
「あの……彼女には会えますか」
 と、私は言った。
「もう落ちついたと思うよ。待っててくれ」
 と、刑事は席を立つと、部屋から出て行った。
 一人きりになって、ホッと息をつく。やはり緊張していたんだろう。
 ——もうあの色々な出来事から一年たった。
 母は、前より少し老けた感じにはなったが、元気で、最近は美術館巡りが趣味になったようだ。
 父とも、このところよく会っているし、このままいくと、復縁ということにも——と、私は想像している。
 もちろん焦る必要はないわけだが。
 黒田の妻の両親を殺した犯人は、三か月ほど後になって、他の強盗事件で逮捕され、自供した。——黒田の奥さんがどうしたのか、私は知らない。
 今、私は、父の知り合いの人の紹介で入った女子高の三年生。短大にこのまま進むか、それとも、どこか四年制の大学を受けるか、まだ迷っているところだ。
 千恵は、
「受けなさい」
 と、たきつけるけど……。
 千恵とは、もちろん竹沢千恵のこと。何の縁か、千恵も退学して、私と同じ学校へ入って来た。
 会ってびっくり、というところだが、どうも千恵の方では分っていたんじゃないか、と私は思っている。
 でも——あのひどい事件を、みごとに乗り越えた千恵の逞《たくま》しさは、今でも私を励ましてくれている。
 もちろん、千恵とは一年違いでも大の仲良しで、年中一緒である。——これで、大学まで一緒だったら……。
 そんな予感も、正直なところ、しているのだけれど……。
 M女子学院の子とは、もう会うこともなかった。——もちろん、あの出来事を忘れてはいなかったにしても、もう何もかも、終ってしまったことだった……。
 今になって、こんな話をすることになろうとは。
 ドアが開いた。
「——矢神さん」
 と、私は言った。「久しぶりね」
 矢神貴子は、別人のようだった。——もちろん、たった一年でしかないのだから、外見は少しも変らないが、やつれて、ほとんど眠っていない様子だ。
「座って」
 刑事に椅《い》子《す》をすすめられて、矢神貴子は、寒そうに身を震わせながら、座った。
「話は、大体この子から聞いたよ」
 と、刑事は言った。「君が保護してくれと言うのは、分るが、まあ、自分のせいでもあるようだね」
 矢神貴子は私を見た。——一年前の、あの尊大な光は、その目にはなかった。
「有恵さんが?」
 と、私は訊《き》いた。
 矢神貴子は肯《うなず》いた。
「まさか……。あんなことになるなんて……」
 と、呟《つぶや》くように言う。
「有恵さんの彼氏を、あなたが奪ったのね」
「ええ……。人の物っていうものは、何でもほしかったのよ、私」
「でも、それだけじゃなくて、三年生にいじめさせたりして。有恵さんが入院したのは、あなたのせいよ」
「分ってるわ!」
 と、叫ぶような声で、「でも——その時は、知らなかったのよ。他の子が勝手にやったんだわ」
「それは通用しないわよ。いつも、上に立ってるのは、あなただったんだから」
 と、私は言った。
「——今井有恵は、母親がノイローゼで自殺して、その葬儀の席から姿を消しているんだ」
 と、刑事は言った。
「いつのことですか?」
 と、私は訊《き》いた。
「四日前。——今日までに、女の子が二人、殺されている」
 二人とも、矢神貴子の言う通りに動いて、有恵をいじめたりしていた子たちだった。
 有恵が復讐しているのだ。
「怖いのよ……」
 と、矢神貴子は、目を伏せた。
「お父さんが守ってくれるわ」
 と、私は言った。
 矢神貴子は、唇を引きつらせるようにして、笑った。
「あなたや、竹沢千恵のことが後で分って……。父は口もきいてくれないわ」
「でも——」
「ともかく、警察に頼むしかない、と思ったの。有恵から電話がかかって来て……。『会いに行くからね』って。——当り前の、静かなしゃべり方なの。ゾッとしたわ。学校から、ここへ真直ぐに来たの」
「まあ、用心してれば大丈夫。君のお父さんとも電話で話した。ちゃんと、人をつけて、安全なようにする、とおっしゃってたよ」
 と、刑事は言った。「家へ送るよ」
 矢神貴子は、ゆっくりと立ち上った。
 ——警察署の玄関を出て、私は、
「生徒会長になったんでしょ?」
 と、訊《き》いた。
「ええ。でも——」
「でも?」
「白票がね、三分の一もあったのよ」
 そう言って、肩をすくめる。
「そう……」
 刑事が、
「今、パトカーを回してる。——すぐだからね」
 と、言った。
 矢神貴子は、外の空気に触れて、少し気分が良くなったらしい。
 晩秋にしては暖い、よく晴れた日である。
「今度の学校はどう?」
 と、矢神貴子の方から、訊いて来る。
「ええ。のんびりしてるし、楽しいわ。それに選挙もないし」
「私もいないしね」
「そうね」
 矢神貴子が、ちょっと声を立てて笑った。
「——山中さん、どうしてる?」
「久枝? 副会長を、体の具合が悪い、ってやめてね。それ以来、あんまり……」
「悪いの?」
「あなたにすまないと思ってるみたいよ」
「そう」
 矢神貴子は、自分の満足のために、何人もの子を傷つけ、友情を壊して来たのだ。
「分ってるの?」
 と、私は言った。「誰もあなたのこと、愛してなんかいないのよ」
 矢神貴子は、怒った様子もなく、
「たぶんね」
 と、肯《うなず》いた。
 その横顔の寂しさに、私はハッとした。
「——さ、来たよ」
 と、刑事が促す。
 パトカーが停った。
「じゃ——」
 と、私が言うと、矢神貴子は、黙ってパトカーの方へと歩み寄った。
 すると——突然、誰かが走って来るのが見えた。
 髪をふり乱し、コートをひるがえして。
「有恵!」
 と、私は叫んだ。「だめよ!」
 矢神貴子は立ちすくんで、動けなかった。
 刑事が、やっと飛び出そうとしている。
 有恵が鋭く光る刃物を構えて、矢神貴子にぶつかって行った瞬間、私は、矢神貴子の顔に、ふと、ホッとしたような表情が浮ぶのを、見たような気がした……。
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