日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

インペリアル20

时间: 2018-06-26    进入日语论坛
核心提示: 20 怒り 私鉄の電車で三十分。駅からの徒歩で十五分。さらに余裕を見た二十分。 丸々一時間も、松原は早く着いてしまったの
(单词翻译:双击或拖选)
  20 怒り
 
 私鉄の電車で三十分。駅からの徒歩で十五分。——さらに余裕を見た二十分。
 
 丸々一時間も、松原は早く着いてしまったのである。
 
 やれやれ……。
 
 松原は、足を止めた。——会社は休みを取って、時間がある。
 
 しかし、全く知らないホールなので、念のために早く出て来たのだが、いくら何でも、こうも順調に着いてしまうとは思わなかったのだ。
 
 ホールの場所も確かめたが、もちろん開いていない。開場は三十分前だ。
 
「どうするかな」
 
 駅前に戻って、松原は周囲を見渡した。
 
 新しい駅で、駅前もまるでオモチャのようにカラフルに可愛い。真新しい住宅や団地、マンションが高台に並んでいる。
 
 コンサートは午後三時から、という変則的な時間だった。主婦が終演後に帰宅して、夕食の作れる時間、ということなのだそうだ。しかし、宏美の話ではチケットも八割方捌《は》けているという。無名のカルテットとしては上出来である。
 
 松原も、多美子と一緒にいる間、大勢の若い演奏家たちが、自分でリサイタルのチケットを苦労して売っているのを見て、同情していたものだ。
 
 ろくに音程もとれないポピュラー歌手が何万人もの客を集めて、必死で腕を磨いて来たピアニストが、たかだか四、五百人の客を呼べないのだから……。
 
 しかし、そんなグチをこぼしていても仕方ない。
 
 朝から宏美は出かけ、松原は早苗を宏美の母の所へ預けて来た。当然、娘の演奏を聞きたいだろうが、早苗を預かる方が大切、と割り切ったようで、上機嫌だった。
 
 昼食を——というか、朝昼兼用だが——軽くしかとっていないので、少しお腹が空いて来た。食事のできる所、と見回すと、スーパーマーケットのビルがある。中にレストランぐらい入っているだろう。
 
 デパート風の造りで、中は小さい子を連れた母親で溢《あふ》れている。
 
 食堂も行ってみたが、子連れのせいでにぎやかなこと……。逃げ出して、結局、売場の奥のティールームが比較的静かだということを発見した。
 
 サンドイッチとコーヒー。
 
 まあ、しばらくはもつだろう。若者ではないのだから。
 
 ガラス張りの店内は、表の明りがまぶしいほど射《さ》し込んでくる。
 
 目を細くして、表の風景を眺める。
 
〈ホテル〉というネオンが——もちろん今は光っていない——ビルの向うに覗《のぞ》いていた。
 
 車で入って、一時間とか二時間とか休憩して出てくる、あまり表通りにはないホテルの一つである。
 
 松原は、少し微笑を浮かべて、運ばれて来た真黒なコーヒーをそっと飲んだ。味は、見かけほど悪くない。
 
 ——ああいうホテルに、宏美と入ったことがある。もちろん、多美子の目を盗んで会っていたころのことで、わずかな時間に、お互い、貪《むさぼ》るように抱き合ったものだ。
 
 宏美はよく泣いた。——松原に妻を裏切らせ、自分は師を裏切っている、という思いのせいだったろう。
 
 今は、遠い昔のことのような気がする。正直なところ、松原は宏美が本当について来てくれるとは信じていなかったのだ。結婚してみれば、やはり「年齢の差」に失望し、幻滅して、去って行くのではないか、と……。
 
 早苗が生れ、宏美が乳を含ませているのを見て、松原は時々、目《め》頭《がしら》を熱くしたものだ。中年男の感傷か。しかし、その涙を、恥ずかしいとは思わなかった。
 
「——どうぞ」
 
 サンドイッチが来て、思ったよりはいい味だった。松原は、今夜、宏美と二人で夕食をとろう、と思った。祝福してやるべきだ。たとえこれきりでステージに立たないとしても——自分と結婚するために、宏美が捨てたあまりに多くのものを考えたら、「ドヴォルザーク」に嫉《しつ》妬《と》しても始まるまい……。
 
 あの〈ホテル〉の駐車場の出入口が、ちょうど松原の位置から見えている。そこから車が一台、ゆっくりと出て来て、こっちへ曲って来た。
 
 このスーパーのわきの通りへ入ってくると、松原がすぐ下に見下ろす信号の手前で、道の端へ寄せて停る。
 
 そして——車から、宏美が降りて来たのである。
 
 松原は、無意識にサンドイッチをかみしめていた。
 
 宏美……。間違いなく宏美だ。服も、見覚えがある。いや、ちゃんと顔も見える距離なのである。
 
 宏美は電話をかけに車を出たらしい。すぐに戻ると、車は走り去って行った。
 
 ——今井君。今井君がね……。
 
 宏美はよくそう話して笑った。太ってるの、若いくせにね。
 
 松原は、今井という男を弁護してやったものだ。そのみと一緒にいたら、やけ食いして太るさ。
 
 宏美は愉《たの》しげに笑った。——愉しげに。
 
 今、あのホテルで、宏美は今井と愉しげに笑って来たのだろう。この馬鹿な亭主のことを……。
 
 松原は、とっくに空になったカップから、幻のコーヒーを飲みつづけていた。
 
 
 
「やあ、来てくれたの?」
 
 今井が、会場の前に、由利を見て、嬉しそうに声をかけた。
 
「ええ。招待状、姉さんとこからせしめてね。宏美さん」
 
「久しぶりね」
 
 と、衣《い》裳《しよう》を入れた大きな袋を手に、宏美はやって来た。「何だか、きれいになって」
 
「みんなそう言うの」
 
 と、大げさに、「以前は、よっぽどひどかったのね」
 
「入りましょう。楽屋へ来てよ」
 
「いいの?」
 
「構わないわ、開場まで三十分以上あるし」
 
 由利は、今井たちと一緒に〈楽屋口〉から入って行った。
 
「緊張よ」
 
 と、宏美は言った。「人前で弾くの、何年ぶりだろう」
 
「旦那様は来るの?」
 
 宏美は、ちょっと目をそらして、
 
「そのはずよ」
 
 と言った。「今井君。他の人たちに、由利さんを紹介してあげて」
 
「あ、本当に……気にしないで。適当にやってるから」
 
 今井以外は、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、全部女性である。今井が、
 
「影崎多美子さんの娘さんだよ」
 
 と紹介すると、一瞬、声が洩《も》れた。
 
 由利は、久しぶりにこの感覚を味わったのだった。
 
「——さ、少し合せとくか。ピアノはもういいって」
 
 弦の音が、ホールに響く。
 
 由利は、ステージから空の客席を眺め回した。客のいないステージは怖くない。怖いのは何百、何千の「眼」である。
 
「もう少し椅子、退《さ》げる?」
 
「ピアノが入ったら、左右へ広がるだろ。もうちょっと近付けて……」
 
「譜面台は?」
 
「あるはずだよ」
 
 色々な言葉が飛び交う。——少しずつ、緊張が増していくのが、聞いていて分ってくる。それは、快く張りつめた糸のようで、弾けば美しく鳴り響くかと思えた。
 
 宏美は、後半のドヴォルザークの五重奏曲のために、今はステージの隅へ寄せてあるグランドピアノに向って、軽く指ならしをしている。調律は、うまくできているようだ。
 
「由利さん、弾く?」
 
 と、宏美が振り向く。
 
「とんでもない」
 
「でも、出るんでしょ、そのみさんのリサイタルに」
 
「惨めな引き立て役」
 
 と、由利は笑って言った。
 
 宏美が、ピアノを弾く手を止めた。
 
「あなた」
 
 由利は、父がステージに出てくるのを見て、ちょっと意外な気がした。
 
「もう来たの。早かったのね」
 
 と、宏美が立って行く。
 
「ああ。早すぎたよ」
 
 由利は、父の様子がおかしいことに気付いていた。——何かあったのだ。
 
「あ、どうも」
 
 と、今井がヴァイオリンを椅子に置いて、やってくる。「今井です」
 
「ここにいても仕方ないでしょ。客席に座っていたら?」
 
「宏美。荷物を持って来い。帰るんだ」
 
 当惑が、ステージの上を走った。
 
「帰るって……」
 
「理由は分ってるはずだ」
 
 と、松原は言って、「今井君には、少なくともな」
 
 本気だ、と由利は悟った。
 
「お父さん——」
 
「由利。お前には関係ない」
 
 と、松原は遮って、「君らが、駅の近くのホテルから車で出てくるのを、見ていた」
 
 宏美がサッと青ざめ、身を震わせた。
 
「あなた……」
 
「君がピアノに夢中になって、僕のことを忘れるのなら、諦めもする。しかし、この男と会うのが目的でこんなことをしているのなら——」
 
「違うわ。そうじゃない。ただ……」
 
「ただ? 何なんだ?」
 
 松原は、厳しく問い詰めるように言った。そして、同様に棒立ちになっている今井の方へ、
 
「妻を連れて帰る。文句があるかね」
 
 と、言った。
 
「松原さん……。僕の責任です。ただ、コンサートはもう中止できないんです」
 
「私の知ったことじゃない」
 
 松原は、宏美の腕をつかんで、「行こう」
 
 と促した。
 
「待って下さい」
 
 今井が、松原の肩に手をかけた。
 
「手を離せ!」
 
 由利は、父がこれほど怒りをあらわにするのを、初めて見た。——宏美と今井が?
 
 何てこと!
 
「貴様は——」
 
 松原が、今井の胸ぐらをつかんだ。
 
「やめて!」
 
 宏美が二人を引き離そうとした。「やめて、あなた!」
 
「どけ!」
 
 二人の男がもみ合ってよろけた。宏美が、それに押される格好で、タタッと後ずさった。
 
「危い!」
 
 由利は叫んだ。——宏美が、ステージから落ちるのが見えた。
 
「宏美さん!」
 
 由利は駆け出した。
 
 
 
「——骨がやられてるかもしれない」
 
 と、由利は言った。「何てことしたの」
 
 ステージから、松原と今井が見下ろしている。三人の弦の女性たちも、呆《ぼう》然《ぜん》と眺めているばかりだった。
 
 宏美は、床に座り込んで、左腕の痛みに、顔をしかめていた。赤く、はれ上っている。
 
「医者へ連れて行くわ」
 
 と、由利は立ち上った。
 
「私が送って行く」
 
 と、松原がステージから降りる。
 
「お父さん——」
 
「由利。こんなことになるとは思わなかったんだ」
 
「ええ。分ってるわ」
 
 由利は今井の方へ向いて、「今井さん。自分のしたことが分ってる?」
 
 と、厳しく言った。
 
「ああ……」
 
 今井は、しゃがみ込んだ。何を言っていいかも分らない様子だ。
 
「——ねえ」
 
 と、チェロの女性が言った。「どうするの? あと二十分で開場よ」
 
 今井は、ぼんやりしているばかりだ。
 
 宏美はやっと立ち上ると、
 
「由利さん……。代りに弾いてくれない?」
 
 と、弱々しい声で言った。
 
「私は無理。弾いたこともないわ」
 
「そう……。この腕じゃ……」
 
 しかし、今井も、とても演奏できる状態ではない。誰もが途方にくれていた。
 
 足音が——コツコツとステージ上へ出て来た。
 
 由利は、目を疑った。
 
「お姉さん」
 
 そのみが、今井のそばまでやってくると、
 
「立って」
 
 と、言った。「第一ヴァイオリンがそれでつとまるの?」
 
「そのみ……」
 
「ピアノは私が弾くわ」
 
「お姉さん……」
 
「大体憶えてる。できると思うわ」
 
 そのみはきびきびと言って、「後半でしょ?」
 
 弦の女性たちが、黙って肯く。
 
「リハーサル室にピアノが二台ある? じゃ由利。弦のパートを弾いて。曖《あい》昧《まい》な所だけでいい」
 
「分った」
 
 と、由利は肯いた。
 
「そのみ。——すまん」
 
 と、松原がステージの下から言った。
 
「話は後。お金を払ってチケットを買ったお客さんたちが待ってるのよ。その人たちには浮気も夫婦喧嘩も関係ない。今井君。あんたがしっかりしないでどうするの」
 
 そのみは大きく見えた。一人で、ステージを圧するようだ。
 
 母に似ている。——由利は、そのみを見て、そう思った。まるで母が若返って、そこに立っているかのようだ。
 
 今井は、背筋を伸ばして真《まつ》直《す》ぐに立つと、
 
「じゃ、誰かホールの人に連絡して。貼《はり》紙《がみ》を出してもらおう。ピアニストの交替だ」
 
 と、しっかりした声で言った。
 
「私が行くわ」
 
 チェロの女性が、楽器を床に寝かせて、足早に袖《そで》へ向かう。
 
「名前の字を間違えないでね」
 
 と、そのみが後ろから声をかけ、ふっとその場の空気が和んだ。
 
「お父さん、宏美さんを病院に」
 
 と、由利は言った。
 
「うん。分った」
 
 松原は、宏美の肩に手をかけると、「痛むか」
 
 と、訊いた。
 
「そうでもないわ……」
 
 宏美の言葉は、「あなたの痛みほどじゃない」と言っているように聞こえた。
 
「由利。練習」
 
 と、そのみがぶっきらぼうに言った。
 
「はいはい」
 
 由利は何となく嬉しくなった。——どうなるかと思った瞬間が過ぎて、今、コンサートだけが、目の前に迫っている。
 
 由利は急いで姉について袖へさがって行った……。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%