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キャンパスは深夜営業16

时间: 2018-06-26    进入日语论坛
核心提示:16 ついに殺人「いい気持ね!」 と、平田千代子は言った。「そうですね」 良二の声は、ともすれば、開けた窓から吹き込んで来
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16 ついに殺人
 
「いい気持ね!」
 と、平田千代子は言った。
「そうですね……」
 良二の声は、ともすれば、開けた窓から吹き込んで来る風に、かき消されてしまいそうだった。
「最高だわ!」
「でもスピードは最高でない方が……」
「え? 何か言った?」
「別に」
 ——千代子が、これほどスピード狂だとは、思ってもいなかったのである。
 レンタカーだというのに、どう見ても制限速度の倍は出ている感じだ。
 一体、知香の奴《やつ》、本当について来てるんだろうか。
「後ろを気にしてるの?」
 と訊かれて、良二は、あわてて、
「いえ——あの、白バイでもいると、まずいから」
「大丈夫! そういう点、私はね、ツイてるの。絶対捕まらないように生れついてるんだから」
 と、千代子は大《おお》見《み》得《え》を切った。
 確かに、良二もそういう奴を知っている。年中、違法駐車とか、スピード違反、一方通行を逆に抜けたり、なんて無茶をやるくせに、捕まったことがない、という男がいる。
 一方で、いつも真《ま》面《じ》目《め》なのに、たまたまどうしようもなくて、五分間車を置いといたら、レッカーで持って行かれたとか……。
 良二が、もし車を運転したら、きっと、後の方だろう。
「——どうだった?」
 少しスピードが落ちて、普通の声でも聞こえるようになった。
「え?」
「夕ご飯。気に入った?」
「え、ええ、そりゃもう!」
 良二なんか、まちがっても食べられない、高級フランス料理である。
「良かったわ! あそこ、通の間でも評判がいいのよ」
「素人にもいいです」
 良二の言葉に、千代子は楽しげに笑った。——大《だい》分《ぶ》ワインが入っている。
 飲酒運転で捕まったら、ただじゃすむまい、と思った。
 良二は、道の矢印を見て、
「帰らないんですか?」
 と、訊《き》いた。
「当り前よ」
「じゃ、どこへ——」
「分ってるでしょ。——ホテル」
「でも……。ご主人がいるのに」
「いなきゃ、ホテルに行かなくたっていいんだわ」
「そりゃそうですね」
 変なことに感心している。——頼むよ、知香、ちゃんとついて来てくれよ。
「いつものなじみの所があるの」
 いつも? ——つまり、年中こんなこと、やってるわけだ。
「奥さん……」
「何も訊かないで」
 と、千代子が遮って、「私たちが身の上を語り合ったって、どうなるってもんでもないでしょ?」
「そりゃまあ……」
「じゃ、ここはただ、楽しむことだけを考えましょ。——ヤッホー!」
 ぐんとスピードが上る。良二は、危うく引っくり返りそうになった。
 
 ドアを開けると——何だかほとんど冗談のような、派手な部屋だった。
「こんなにキンキラだから、じめじめしてなくていいのよ」
 千代子は、ホッと息をついて、「じゃ、時間をむだにしないように」
 いきなり抱きつかれて、良二は、危うく転びそうになった。
 二人は、やたらにでかいベッドの上に、一緒に倒れ込んだ。
「あ、あの——」
 と、良二は焦って、「ちょっと、その——シャワーを……」
「後でいいわよ」
「でも汗をかいて……」
「汗の匂《にお》いって好き」
 と、千代子はさっさと良二の服のボタンを外し始めた。
「あ、あの——でも、僕はサッパリしてる方がいいんです」
「そう? じゃ、早くしてね。待ってるから!」
「わ、分りました」
 ひとまずホッとして、バスルームへ入ったものの……。
 どうなるんだ? ——この後、千代子が一人でシャワーを浴びるのならともかく、良二だけ、ということになると、もし知香が来ても、ドアも開けてやれない。
 といって——あの様子じゃ、千代子は、良二が出て来たとたんに食らいついて来そうである。
「参ったな……」
 ともかく良二はシャワーを浴びることにした。ボケッとしていても仕方ない。
 しかし——どうすりゃいいんだ?
 本気で千代子の相手をする気にはとてもなれない。だからといって、ここまで来ておいて、
「気が変りました」
 じゃ済まないだろうし……。
 ——シャワーをできるだけ長引かせていたら、のぼせてしまった。
 諦《あきら》めた良二は、バスローブを着て、恐る恐る、ドアを開けた……。
「——ワッ!」
 目の前にヌッと誰かの顔が出たので、思わず声を上げる。
「——良かった!」
 知香だったのだ。「そこにいたのね」
「君……」
「部屋が分んなくなって、手間取ったのよ、つい」
「だけど、助かったよ! どうしようかと思ってたんだ」
「服を着て」
「うん」
 良二は急いで服を着て、バスルームから出た。
「急いで」
「でも——あの奥さんは?」
「遅かったのよ」
「遅かった?」
「見て」
 知香が指さす。——床に、千代子がうつ伏せに倒れていた。
 その首に、紐《ひも》が巻きついていた。
 良二は目を丸くした。
「これ……死んでるの?」
「もちろんよ」
 そう言われても、とても現実とは思えない。
「でも——誰がやったんだ?」
「分らないわ」
 と、知香は首を振った。「あなたがバスルームへ入って、私がここを見付けて来るまでの、ほんのわずかの間よ」
「でも……。僕には何も聞こえなかった」
「シャワーの音がしてりゃ、聞こえないわよ。早く!」
 と、知香はせかした。
「どうするの?」
「逃げるのよ!」
「でも——」
「犯人はきっと、あなたを殺人犯に仕立てるつもりよ」
「僕を?」
「だから急いで! 警察が駆けつけて来るわ」
「わ、分った!」
 二人は、部屋から飛び出して行った。
 ——間一髪というところだったろう。
 知香の運転する車が、ホテル街を出ると、パトカーとすれ違った。
「あれかな?」
「たぶんね」
「——何てこった! どうして奥さんを殺したんだろう?」
「犯人が誰かにもよるわね」
「だって——平田先生だよ。決まってるじゃないか」
「そうかしら?」
「だって……」
「そう単純じゃなさそうよ、この事件は」
 と、知香は言った。
「今だって、ちっとも単純じゃない」
 良二は、思わずそう呟《つぶや》いた。
 それから、やっと気が付いた。夫人の車の色がいつしか黒に変っていたことに。
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