日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

ハ長調のポートレート08

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:亜紀子様のご入浴 亜紀子は、お風呂が大好きである。 赤ん坊によっては、お風呂をいやがって泣く子もいるのだが、亜紀子は一度
(单词翻译:双击或拖选)
 亜紀子様のご入浴
 
 
 亜紀子は、お風呂が大好きである。
 
 赤ん坊によっては、お風呂をいやがって泣く子もいるのだが、亜紀子は一度も泣いたことがない。
 
 むしろ、お風呂に入ると、喜んで泣きやんでしまうくらいである。
 
 お風呂へ入れるのは、原則として、パパ——すなわち坂上勝之の役と決まっている。もちろん、仕事で帰りが遅くなった時は、ママのエリが入れるのだ。
 
 勝之が、初めて亜紀子をお風呂に入れた時には、おっかなびっくりで、のぼせてしまったものだ。
 
 何しろ、ちょっと乱暴に扱ったら壊れるんじゃないか、と心配になる。
 
 しかし、やはり赤ん坊を風呂に入れるのは、男の方が向いてるんじゃないか。慣れて来ると、勝之はそう思うようになった。
 
 頭を左手で受け止めるように持って、体をお湯につけ、右手でそっと体を洗ってやる。
 
 ——すると亜紀子は、気持ち良さそうに目をつぶって、その内スヤスヤと眠ってしまうのだった。
 
 勝之が、
 
「おーい、すんだよ」
 
 と、声をかけると、
 
「はい」
 
 と、エリがお風呂場へ入って来て、亜紀子を受け取る。
 
 バスタオルでくるんで、後はエリの役目だ。
 
 勝之は、やっとホッとして、一人湯船につかるのだった……。
 
 男の方が、お風呂に入れるのに向いているというのは、一つにはもちろん力があるからで、まあそんなにまだ重たくないとしても、やはり赤ん坊の方も安心する。
 
 それと、左手で頭を支えながら、親指と中指で、両方の耳を、お湯が入らないように押さえるのだが、ママがやると、手が小さいので、ちょっと指が届かないのである。
 
 しかし——勝之が、できるだけ亜紀子をお風呂に入れるようにしているのは、実は勝之自身のためだったかもしれない。
 
 エリは、昼間もずっと亜紀子と一緒だが、勝之の方は、夜になって帰ってから、やっと亜紀子とご対面だ。
 
 何しろ朝、出勤のころには、亜紀子はぐっすりおやすみである。
 
 だから、
 
「俺の顔を忘れるんじゃないか」
 
 という心配もあった。
 
 それはともかく、亜紀子をお風呂に入れて、気持ちよさそうにスヤスヤと眠り始める亜紀子を見ていると、勝之は、つくづく我が子への愛情を確かめられるのだ——と言ってはキザだろうか?
 
 しかし、ともかく勝之が、亜紀子をお風呂に入れることを、帰りに同僚と一杯やることより、よっぽど楽しいと思っていることは確かだった……。
 
 
 
「おい、大丈夫か?」
 
 朝、勝之は玄関を出ようとして、エリに訊いた。
 
「ええ」
 
 エリが肯《うなず》く。
 
「でも——何だか顔色が良くないみたいだぞ」
 
 ゆうべから、エリは少し風邪気味なのだ。
 
「大丈夫よ。却《かえ》って、寝たらだめなの。こんな時は、忙しく駆《か》け回っている方がいいのよ、その内、ケロッとしちゃうわ」
 
 と、エリは微《ほほ》笑《え》んだ。
 
「それならいいけど——無理するなよ」
 
「ええ」
 
 エリはサンダルをはいて、「行ってらっしゃい」
 
「行って来るよ」
 
 ——ドアを閉めると、エリはチェーンをかけようとした。
 
 ヒョイとドアが開く。
 
「ああ、びっくりした!」
 
「今日は、早く帰るようにするからな」
 
「はいはい。じゃ、楽しみに待ってるわ」
 
 と、エリは笑顔で言ったのだが……。
 
 正直なところ、頭痛もして、確かに風邪を引いていると分っていた。
 
 しかし、熱っぽくはない。
 
 熱さえ出なければ、大丈夫だろう、とエリは思っていた。こんなこと、時々あるんだもの……。
 
「さ、頑張って!」
 
 と、エリは自分に言い聞かせるように言った。
 
 
 
「坂上さん、少しは赤ちゃんの面倒もみてるの?」
 
 勝之は、少し古手の女子社員にそう訊かれて、
 
「少しはね」
 
 と、肯いた。「もちろんおしめもかえるんだよ」
 
「不器用そうだけど」
 
「今は簡単になってるからな。それに、お風呂はたいてい僕が入れる」
 
「へえ、偉いのね」
 
 と、ちょっと見直した、という顔になる。
 
「いや、あんな楽しいもの、女房にやらせる気がしないね。僕の独占だ」
 
「オーバーねえ」
 
 と、相手は笑う。
 
「しかし、しょせん男は赤ん坊を自分で産むわけにはいかないんだからさ。父親としては、ああやって風呂へ入れてやる時に、一番、我が子を身近に感じるんだよ」
 
 と、勝之は言った。
 
「なるほどね。でも、女の子でしょ? 大きくなって来たら、その内、パパとじゃいやだって言い出すわよ」
 
「そうか……。そうだなあ」
 
 と、勝之は本気で心配(!)し始めた。
 
 電話が鳴った。
 
「——はい、坂上です。——あ、これはどうも!——は?」
 
 勝之は、一瞬、返事をためらった。「——いや、かしこまりました。——は、結構です。——では、お待ち申し上げております」
 
「——何なの?」
 
 電話を切って、勝之は、
 
「大阪のお得意さんだよ。上京して来て、今夜はヒマだから、付合えってさ」
 
「仕方ないわね、仕事じゃ」
 
「うん……」
 
「何か用事だったの?」
 
「いや……。子供を風呂へ入れてやるつもりだったのに」
 
「まあ」
 
 と、その女子社員は笑い出してしまった。
 
 勝之は家に電話を入れた。——もう四時だ。もう少し早く分っていれば……。
 
 
 
「そう。分ったわ。——いいわよ。お仕事でしょ。——ええ、私は大丈夫よ」
 
 エリは、夫からの電話を切って、息をついた。
 
 実のところ、エリは気分が悪くて横になっていたのである。少し熱も出て来たようだった。
 
 夫が帰れないというのでは仕方がない。
 
 何とか起きましょ。
 
「フア」
 
 と、亜紀子がママに向かって、プラスチックの三角の積木を投げつけた。
 
「こら!」
 
 と、エリはにらんだが、笑い出して、「元気ねえ、亜紀ちゃんは。あなたが元気でいてくれて、助かるわ」
 
 そろそろ半年を過ぎて、亜紀子が母親から受け継いだ免《めん》疫《えき》も切れてくる。これから寒くなるし、用心しなくてはならない。
 
 立ち上がったエリは少しめまいがして、柱につかまり、目を閉じた。
 
 玄関のチャイムが鳴った。——誰か来た。
 
 しかし、インターホンまで駆けて行く元気がなかった。
 
「——お義《ね》姉《え》さん。私」
 
 勝之の妹、美由紀だ。良かった!
 
「ごめんなさい、突然来ちゃって」
 
 セーラー服の学校帰り。美由紀は、玄関で靴を脱いだ。
 
「いいのよ。今日、あの人、遅くなるって」
 
「そう、別にいいの。兄貴に用事じゃないのよ。ただ、亜紀ちゃんの顔を——お義姉さん! どうしたの?」
 
 居間へ入ってから、美由紀がびっくりして言った。
 
「どうって?」
 
「顔色悪い。——青白いよ」
 
「ちょっと風邪気味なの」
 
「寝てなきゃ! 私がやるわ、亜紀ちゃんのミルクぐらいなら」
 
 美由紀は張り切って、「任せといて!」
 
 と、腕まくりした。
 
 天の助け、というのもオーバーかもしれないが、正直なところ、エリは美由紀が来てくれてホッとした。
 
 美由紀にすすめられて、医者へ行き、注射を一本打ってもらって薬をもらい、帰って来ると、亜紀子は美由紀に抱かれて、眠っていた。
 
「——気分はどう?」
 
「ありがとう。注射が効いたみたい」
 
 と、エリは言った。「今寝ると、なかなか夜、眠らないかもしれないわ」
 
「でも、寝るな、とも言えないしね」
 
「そうよ。——お風呂へ入れられれば、ぐっすり寝ると思うんだけど」
 
「お風呂好きだもんね」
 
「でも——私一人で入れると、こっちが湯ざめしちゃって……」
 
「だめよ、風邪引いてるのに」
 
 と、美由紀が言った。「ひどくなったら困るでしょ」
 
「そうね」
 
 と、エリは肯いた。「晩ご飯、何か取りましょうか」
 
「うん。おそばでいい。——兄さん帰って来るまで、いてあげるわ」
 
 申し訳ないとは思ったが、エリも今一つ気分がすぐれないので、美由紀に頼ることにした。
 
「——そうだ」
 
 と、美由紀が言った。
 
「どうしたの?」
 
「私が、亜紀ちゃんをお風呂に入れてあげる!」
 
「ええ?」
 
「だって、お湯に入れて、洗ってあげればいいんでしょ?」
 
「そりゃそうだけど……」
 
「大丈夫。落っことさないわ」
 
「そんなことじゃないの。疲れるわよ、やっぱり」
 
「でも、やるわ。——ね、やらせて」
 
 美由紀に熱心に言われて、エリも承知した。
 
 何といっても、その方が亜紀子も眠るし、それにエリも、いつもの通り亜紀子を拭いてやるだけでいいわけだ。
 
「じゃ、いい?」
 
 と、エリは言った。
 
「はい、どうぞ」
 
 先にお風呂に入った美由紀は、戸を開けて亜紀子を受け取った。「わあい、スベスベしてるんだ、亜紀ちゃんの肌って」
 
「そうよ。——じゃ、呼んでね、ここにいるから」
 
「任せとけって」
 
 エリから説明してもらって、美由紀もやり方は分っている。
 
「さ、お姉ちゃんと一緒に入ろうね。——あんないかついパパと入るより、お姉ちゃんの方がよっぽどいいよ」
 
 勝手なことを言っている。
 
 エリが、お風呂場の前でバスタオルを手に立っていると、玄関で、ドタドタッと音がして、
 
「おい帰ったぞ!」
 
 と、勝之が息を切って、やって来た。
 
「あなた!」
 
「亜紀は?」
 
「今、お風呂に——」
 
「一人で?」
 
「まさか! 美由紀ちゃんよ」
 
「あいつが入れてるのか? 危ないじゃないか!」
 
「大丈夫よ。ちゃんと説明して——」
 
 と、お風呂で、
 
「キャッ!」
 
 と声が上がった。
 
「どうした!」
 
 勝之が、戸を開けると、
 
「お兄さん! 帰ってたの?」
 
 美由紀が、両手で亜紀子を捧げ持つようにして、自分が頭までびしょ濡《ぬ》れになって、目をパチクリさせている。
 
「足をすべらせたの。でも、大丈夫! 亜紀ちゃんは高く持ち上げたから」
 
「まあ、大変ね」
 
 と、エリが笑った。「じゃ、こっちへ」
 
「うん。——お兄さん! 向こうに行ってよ!」
 
「あ、はいはい」
 
 妹は一七だ。勝之は後ろを向いてやった。
 
 せっかく、お得意に謝ってまで帰って来たのに。——勝之は不満だった。
 
 畜生、明日はきっと早く帰って来て、亜紀子を風呂へ入れてやる!
 
 坂上家は、差し当たり、至って平和なのである……。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%