日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

ハ長調のポートレート15

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:亜紀ちゃんの「自立」「おい、坂上」 と、午後の仕事が始まるとすぐ、課長の前田が声をかけて来た。「はい、課長」 坂上勝之は
(单词翻译:双击或拖选)
 亜紀ちゃんの「自立」
 
 
「おい、坂上」
 
 と、午後の仕事が始まるとすぐ、課長の前田が声をかけて来た。
 
「はい、課長」
 
 坂上勝之は、開き始めた書類をそのままにして、席を立った。「——何か?」
 
「うん。今夜の会議なんだが」
 
 と、前田は手帳を開いて見ながら、「うっかりして、他の接待とかち合っちまったんだ。すまんが代わりに——」
 
「だめです」
 
 と、勝之はアッサリ言った。
 
「だめ……?」
 
「申し訳ありませんが、今日はどうしても、定時で帰らせていただきます」
 
 勝之の言い方は、穏やかではあったが、頑として譲らないという意志がはっきりとしていた。前田の方は、怒るよりも呆《あつ》気《け》に取られてしまって、
 
「——そうか。じゃ、いい」
 
「よろしく」
 
 勝之は頭を下げて、さっさと席へ戻って行った。
 
 前田は、渋い顔で勝之の方をにらんでいたが、体の具合を悪くした時に、勝之に少々手数をかけたこともあるし、妻もそのことを知っていたし……。ま、借りがあるので、うるさくも言えない、ということだろうか。
 
「全く、今の若い奴は、仕事ってもんを、何だと思ってるんだ」
 
 と、ブツクサ呟《つぶや》きながら、「誰を代わりに出すかな」
 
 と、顎《あご》をなでつつ、課の中を見回した。
 
 机の電話が鳴る。前田は受話器を取った。
 
「前田です」
 
「あの、私です」
 
 田代令子だ。「今、下からかけてます」
 
「そうか。何か用事で?」
 
 前田は少し素気ない口調で言った。社内の愛人からの電話では、特に用心しなくては。
 
「今日は、坂上さんを早く帰してあげてね」
 
「何だと?」
 
 前田は目を丸くした。
 
「ずいぶんお世話になったでしょう」
 
「そりゃ分ってるが……。何だっていうんだ?」
 
「今日はね——」
 
 と、田代令子は言った。
 
 
 
「ちょっと、坂上さん」
 
 まずい、と美由紀は足を止めて舌を出した。
 
 でも、振り向いた時には、もちろんにこやかな笑顔になっていた。
 
「あ、先輩」
 
 クラブの先輩が、しかめっつらをして立っていた。
 
「何よ、今日は出られません、って。どういうこと?」
 
 と、先輩は美由紀の書いたメモを手にしていた。
 
「あの……ちょっと家で大事な用があって」
 
「いくら大事な用か知らないけど、みんな無理して出てるのよ。分ってるんでしょ」
 
「はい」
 
「じゃ、出るわね」
 
 先輩は、美由紀のメモをクシャッと握りつぶした。——美由紀は頬《ほお》を紅潮させた。
 
 負けちゃいないのが、美由紀の性格である。
 
「出られるのなら、初めから出ます」
 
 と、美由紀は、先輩の目を真っ直ぐに見て、言った。「私、そんなにいい加減にクラブのことを考えていません」
 
 先輩はムカッとした様子で、
 
「何よ、その言い方は!」
 
 と、にらみつけた。
 
 二人の視線がぶつかって火花を散らした。
 
 ——学校の廊下である。通りかかった他の生徒たちが、何事かと足を止めて眺めている。
 
 まずい、と美由紀は思った。みんなが見ていては、先輩の方も、ますます意地になるだろう。
 
「今日は、私の姪《めい》っ子の一歳の誕生日なんです。みんなで集まってお祝いしようってことになってるんです。——お願いします。後で何でもやりますから、今日だけは帰らせて下さい」
 
 今の学校では、先生は友だち扱いだが、先輩後輩の関係は厳しい。——美由紀としても、かなりの度胸が必要だった。
 
「誕生日?」
 
 と、先輩が訊き返した。
 
「ええ。満一歳なんです」
 
 何だか、先輩はポカンとしていた。——どうしたのかしら、と美由紀が不思議に思っていると——。
 
「誕生日だ!」
 
 と、先輩が突然飛び上がった。
 
「どうしたんですか?」
 
 と、美由紀が目を丸くする。
 
「今日、私の誕生日なのに!」
 
 と、顔を真っ赤にして、「うちの連中も、みんな忘れてる! 許さないから!」
 
「はあ……」
 
「今日はクラブ中止! 思い切り高いレストランに連れて行かせるんだ!」
 
 堂々と宣言して(?)、先輩は行ってしまった。——美由紀はポカンとして、それを見送っているのだった……。
 
 
 
「さあ、これでよし、と……」
 
 坂上エリは、息をついて、呟《つぶや》いた。
 
 額に手をやると、汗をかいている。——実際午前中から、買物や料理の仕度に、大忙しだったのである。
 
 亜紀ちゃん、満一歳のお誕生日なのだ。
 
 今夜は、家族三人と美由紀、それに夫の両親もやって来て、お祝いをすることになっている。エリが張り切っているのも、当然だろう。
 
 もちろん、主役の亜紀ちゃんは、まだ大したものは食べられないが、一応、可《か》愛《わい》いバースデーケーキも、エリの手作りで、ローソクを一本だけ立てて……。
 
 エリは時計を見た。
 
 ——もうこんな時間!
 
 亜紀ちゃん、起きたかしら? お昼寝しているので、これ幸い、と台所に立っていたのだが……。
 
 そろそろ目を覚ますころだろう。
 
 タオルで手を拭いていると、インタホンが鳴った。
 
「——美由紀です」
 
「あら、早かったのね」
 
 急いで玄関へ出て行く。
 
「クラブの方は、いいの?」
 
「うん。今日はなくなったの、うまい具合に。——わあ、いい匂い!」
 
 と、美由紀は飛びはねそうな勢い。
 
「ちょっとあのお鍋を見ててね。亜紀ちゃんが起きているかどうか見て来るわ」
 
「うん」
 
 エリは、奥の部屋へ入って行ったが——。
 
「亜紀ちゃん!」
 
 と、エリが大声を出すのを聞いて、美由紀は仰天して飛び上がった。
 
 何かあったのか?——まさか!
 
「お義《ね》姉《え》さん! どうしたの!」
 
 と、駆《か》けて行くと、——エリはポカンとして突っ立っているし、亜紀ちゃんは?
 
 いつもの通り、ちょこんと座って——これもいつもの通り、パパを嘆かせているのだが——パパが毎月買って来ている経済誌を、ビリビリ、一ページずつ、感心するほどのていねいさで、破っているのだった。
 
「ワアワア」
 
 と、美由紀の顔を見ると、喜んで手を振る。
 
「ほら、お姉ちゃんが来たぞ! 亜紀ちゃん!」
 
 と、美由紀が、頬っぺたをつっついてやると、亜紀ちゃん、キャッキャッと喜んでいる。
 
「元気そう。——ね、お義姉さん、何をびっくりしてたの?」
 
「え? ああ……」
 
 と、エリは息をついて、「入って来たらね、亜紀ちゃんが雑誌を引きずって、立ってたの」
 
「へえ。それが——」
 
 と、言いかけて目を丸くし、「立ってたの? 本当に?」
 
「うん……。夢でも見たんでなきゃ、本当だわ」
 
 と、エリは言って笑った。
 
 もちろん、一歳の子が立ったり、よちよち歩くというのは珍しい話じゃない。まあ、一歳の子がタップダンスを踊ったら、これは誰でもびっくりするだろうが。
 
 ただ、当の親にとっては、我が子がいつ立ち上がって、いつ歩くか、というのは大問題である。
 
 亜紀ちゃんも、近所の同じくらいの子が次々につかまり立ち歩いたり、すぐにつかまらずに歩いたりしている中、悠然と(?)這《は》い這《は》いを続けていた。
 
 別に、それで深刻に悩むわけではないにしても、エリも、そろそろ立ってくれないかしら、と思っているところだったのである。
 
「やったね!」
 
 と、美由紀はパチンと指を鳴らして、「お兄さんに知らせよう」
 
「オーバーよ。それにもう、会社を出てると思うわ」
 
 と、エリは笑って言った。
 
 
 
 五時のチャイムが鳴ると、勝之はパッと机の上を片付けて、立ち上がった。
 
 帰りに、どこかでシャンパンを買って来てね、と、エリから頼まれている。——急がなきゃ。
 
「じゃ、お先に」
 
 と、帰りかけると、
 
「おい、坂上」
 
 と、前田が呼んだので、勝之はドキッとした。
 
「はい……。課長、何でしょう?」
 
 と、少々用心しながら机の前に立つと、
 
「これを——」
 
 と、前田は机の引出しから、リボンをかけた小さな箱を出して、「娘さんの誕生日祝いだ」
 
 少し、照れた顔だった。
 
「課長」
 
「俺と、田代君からだ」
 
 と、前田は少し声を低くして言った。「もちろん、買ったのは彼女だ」
 
「そうですか……。ありがたく、ちょうだいします」
 
「うん。——田代君は今月で辞めるんだ。故郷へ帰るんだよ」
 
 前田の言葉は、いつになく穏やかだった。「君には礼を言ってくれ、とのことだ」
 
 勝之は、手の中の小さな箱を、そっと握った……。
 
 
 
 そして——。
 
 夜、七時。夕食の席の真ん中には、エリの手作りのバースデーケーキが陣取り、勝之も、美由紀も、勝之の両親も席について、にぎやかにお祝いを——しているはずだったのだが……。
 
 みんな、いやに静かだった。目の前の料理には手もついていない。
 
 エリが、奥の部屋から出て来た。
 
「困ったわ。ぐっすり眠っちゃってるの」
 
 と、弱り果てた様子。
 
「参ったな……」
 
 と、勝之がため息をついた。「ともかく、みんな集まってるんだし……」
 
「でも、起こしたら、泣くだけよ」
 
「昼間、ちゃんと寝かせときゃ良かったんだ」
 
「ええ。——すみません、お義《か》母《あ》さん」
 
「いいのよ。夜は長いわ。もう少し待ちましょう」
 
「ええ……」
 
 エリは、泣きたい気分である。
 
「お兄さん」
 
 と、美由紀が言った。「そんなこと言っちゃ、お義姉さん、可《か》哀《わい》そうよ。これだけの仕度するのが、どんなに大変か分る? ずっと亜紀ちゃんのこと見てたら、こんな用意、できなかったのよ」
 
「そりゃ分ってるよ」
 
「いいのよ、美由紀さん。ありがとう」
 
 と、エリが微《ほほ》笑《え》んだ。
 
「いや、全くだ」
 
 と、坂上康俊が肯《うなず》いて言った。「お祝いといっても、当人にはまだ分らんのだ。大人の都合に、赤ちゃんが合わせてくれんからと言って、文句を言うのは勝手だよ」
 
「そうだそうだ」
 
 と、美由紀が拍手した。
 
「よし。ケーキのローソクは後にして、我々で乾杯しようじゃないか」
 
 グラスにシャンパンが注がれる。美由紀もこれくらいは飲めるのである。
 
「じゃ——亜紀ちゃんの一歳の誕生日を祝って」
 
 と、美由紀が言うと、康俊が、
 
「それだけじゃない。この一年の、エリさんの苦労に感謝して、だな」
 
 と、付け加えた。「子供には、愛情と幸運が必要だ。この家庭には、どっちも充分にある。エリさんのおかげだよ」
 
「そんなこと……」
 
 エリが目に涙を浮かばせて、グラスを取った。
 
「じゃ、乾杯!」
 
「乾杯!」
 
 グラスがチリン、チリンと音をたてて触れ合う。すると——。
 
「ヤア!」
 
 もう一人、加わった。
 
 みんなが振り向くと……。亜紀ちゃんが、部屋のしきいの所に、ニコニコ笑いながら、立っていた。そして、一歩、二歩、覚《おぼ》束《つか》ない足取りながら、歩いて来て、バタッと倒れると、唖《あ》然《ぜん》としているみんなを見上げて、キャッキャ、と笑ったのである。
 
 ——数秒ののち、坂上家の食堂がどんな騒ぎになったか、下の部屋の住人がびっくりして茶碗を取り落とさない内に、幕を閉じることにしよう……。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%