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フルコース夫人の冒険24

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:24 七階の問題「やあ」 ポンと肩を叩《たた》いたのが、さやか。叩かれたのは、財前浩志だった。「来たのか」 と、浩志はホッ
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 24 七階の問題
 
「やあ」
 ポンと肩を叩《たた》いたのが、さやか。叩かれたのは、財前浩志だった。
「来たのか」
 と、浩志はホッとした様子で.「そろそろ引き上げようかと思ってた」
「来てたのか」
 と、さやかは言い返した。「待ってたくせに。強がるんじゃないの」
「誰を?」
「私に会いたかったんでしょ」
 浩志は笑って、
「凄《すご》い自信だな」
「不必要にへり下らないだけ」
 さやかは、母が財前令子を知人に紹介して回っているのを見ていた。
「——お袋、楽しそうだよ」
 と、浩志は言った。
「いいじゃない。すてきよ、とても」
「うん」
 浩志は、ちょっと背筋を伸ばして、「——僕は?」
「あなたがどうしたの?」
「いや、何でもない」
 さやかは、フフ、と笑った。
「外に出ようよ」
 と、さやかは浩志の腕を取った。
「え?」
「庭があるわよ」
「でも、お袋が——」
「うちの母と一緒よ。大丈夫」
「うん……」
「それとも、お花、見てる?」
「いや。外に行こう」
「そう!」
 二人は、宴会場のわきのドアから、表に出た。
 日本庭園が、ほのかに青白い灯《ひ》に照らされて、なかなかロマンチックな雰囲気。
「——少し涼しくなったね」
 と、さやかは言った。「歩こうよ、ね」
「うん……」
「気が進まない?」
「そんなことないけど……」
 浩志は不思議そうに、「君、退屈じゃないのか」
「あのねえ」
 と、さやかは言った。「退屈するには、もっと時間がたたないと」
 浩志は笑った。——軽くて、明るい笑いだった……。
 
 藤原は、ホテルになつきとさやかを送り届けて、一《いつ》旦《たん》はそのまま帰ろうかと思ったのだが、どうせ食事もしなくてはならないし、と思い直し、車を駐車場へ入れた。
 マンションへ帰ると、またあの、名前も分らない娘と二人になる。——藤原は、何とも気が重かった。
 しかも、あの娘が、なかなか魅力的で、毎夜藤原のベッドへ入って来る。それを、藤原もまた拒まない、というのだから……。
 他人のせいにはできないのだが。
「——さて、何か簡単に食って行こうかな」
 藤原はロビーに出て、コーヒーハウスの方へと歩き出した。
 すると、すれ違った若いOLらしい二人連れが、
「池原洋子ね」
 と言っているのが耳に入って、おや、と思った。
「そう、今の人、きっとそうよ」
「似てたもんね」
「サングラスなんかかけちゃって、間違いないわよ」
 藤原は、少し足を速めた。——池原洋子がここに?
 エレベーターの前まで来て、藤原は足を止めた。正に、池原洋子がエレベーターに乗り込むところだったのだ。
 どうしてこのホテルに……。
 見ていると、エレベーターは七階で停った。他に客はいない様子だったし、エレベーターはそれからまた下へ下り始めたから、七階で降りたのだろう。
 男か? こんな時期に!
 しかし、池原洋子は、カメラマンが狙《ねら》っている時期だからといって、男と会うのを控えるなんて殊勝な女ではない。
 まあ、それだけスターとしても、自信があり、スキャンダルなど気にしない、と言っていられるのだろうが……。
 しかし、問題は彼女でなく、相手の方だ。
 中沢竜一郎も、ここへ来ているのだろうか?
 藤原は気になって、ロビーを見回した。もしこれから中沢竜一郎が来るとしたら、どこからだろう?
 カメラマンが狙っているのは、中沢も知っている。
 正面ロビーから入って来る度胸はあるまい。すると、宴会場入口?
 いや、自分のように、駐車場から、上って来ることも考えられる。
 もちろん、池原洋子が後から来たという可能性もあるが、もし彼女が先だったら?
 ルームナンバーは、チェックインするまで分らない。だから、彼女が先なら、部屋へ入ってから電話する。——どこへ?
 このホテルの中で、待っている所……。
「バーか」
 藤原は、一階下のバーへと、階段を駆け下りて行った。
「——ありがとうございました」
 と、声がして、バーから出て来たのは、確かに中沢竜一郎だった!
 藤原は苦笑いした。
 サングラスなんかかけて! あれじゃ、人目につくばかりだ。
 エレベーターに乗ろうとする中沢へ、藤原は声をかけようとしたが……。
「失礼いたします」
 宴会場が近いので、空のコップやグラスを山とのせたワゴンが通って、藤原は、あわててわきへよけた。
 ワゴンが通過した時には、もう中沢はエレベーターで上に行ってしまっていた……。
「しまった!」
 舌打ちして、藤原は悔しがったが……。
「そうだ」
 駐車場からのエレベーターは、客室用とは別なので、四階の結婚式場までしか行かない。
 当然、中沢は七階へ行くのだろうから、四階で降りて、他のエレベーターに乗りかえることになる。
 間に合うかもしれないぞ。
 藤原は、客室用のエレベーターへと駆け出して行った。
 
「——あら」
 と、さやかは言った。
「ごめん」
 と、浩志が言った。
「え?」
「いや……。悪かった」
 さやかは、少しポカンとしていたが、
「ああ。——今のこと? いいの。それでびっくりしたんじゃないの」
「あ、そう」
 浩志は、ちょっとがっくり来た様子だった。
 ほの暗い庭園の小《こ》径《みち》で、ふと立ち止まり、キスしたのだが……。
 さやかも、何となく、映画の撮影でもしているみたいで、さして実感はなかったのである。
「どうしたんだい?」
「今、あの廊下を、走ってったの、藤原さんだわ」
 ガラスばりの廊下が、庭の方からはよく見える。そこを、藤原らしい男が駆けて行ったのだ。
「確かに藤原さんよ」
「藤原って、あの——」
「マネージャーさん。どうしたのかな」
「急用だったんだろ」
「行ってみよう。ね、一緒に来てよ」
「どこへ?」
「私が知ってるわけないでしょ」
 さやかは、浩志の手を引いて駆け出した。
「おい!——僕は心臓が悪い——おい!」
 文句を言いつつ、浩志は仕方なく、さやかと一緒に駆け出していた。
 さやかは、廊下へ入ると、藤原の走って行った方へ、小走りに急いだ。
「エレベーターだわ」
 藤原が乗って、扉が閉まるのが、チラッと見えた。さやかは、息を弾ませて、
「間に合わなかった!」
「——どこへ行ったんだ?」
「見てて」
 階数表示の明りは、1、2、3……と動いて、〈7〉で停った。
「七階で停ったな」
「七階ね。——何なのかしら」
「関係ないだろ、君とは」
「でも……。気になるわ。あの走り方、ただごとじゃなかった」
「七階って客室だろ」
「どの部屋か分らないけど……。行ってみるわ、ともかく」
 さやかは、上りボタンを押した。
 浩志が、ちょっと笑った。
「何よ」
「いや——君の行動力が羨《うらや》ましくてさ」
 さやかは、浩志の腕をつかんで、
「付き合わせてやる」
 と、言った。
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