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フルコース夫人の冒険28

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:28 ロ ケ 微妙な天気だった。 晴れもしないが、雨も降らない、という。待っているさやかは苛《いら》々《いら》したが、他の
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 28 ロ ケ
 
 微妙な天気だった。
 晴れもしないが、雨も降らない、という……。待っているさやかは苛《いら》々《いら》したが、他のスタッフは慣れっこのようで、池原洋子ものんびりと本など読んでいる。
 なつきはロケバスの中で眠っていた。——さやかは、改めて母の「度胸」に感心した。
「私なんかより、お母さんの方が、よっぽど役者に向いてるのかもしれないわね」
 と、さやかは、ぶらぶらしながら言った。
 もちろん、言った相手は浩志である。——わざわざ鎌倉まで出て来ているのだ。ご苦労様である。
「でも、やっぱり君の方がすてきだよ」
「まあ、ありがと。気をつかっていただいて」
 と、さやかは言って笑った。
 神社の境内だった。——いつでも、撮影に入れるように、カメラマンや助監督が駆け回っている。
 その数、全部で三十人近いだろうか。
 さやかは、画面の外に、いかに多くの人が隠れているのか、初めて知った。
「——ゆうべね」
 と、さやかは言った。「ふっと考えたんだけど」
「何だい?」
「池原洋子が、あの部屋を借りたとするでしょ? そして、藤原さんの話だと、池原洋子がエレベーターに乗るのを見て、藤原さんは追いかけた、ってわけよね」
「うん」
「そして——あの部屋で死体を見付けた」
「そうなんだろ?」
「でもね。それなら、池原洋子が先に死体を見付けてると思わない?」
 浩志は、ちょっと目をパチクリさせて、
「そうか」
 と、肯《うなず》いた。
「ね? 例の部屋に、先に入っていたのなら、池原洋子が死体を見付けてるはずよ。でも彼女は、そこにいなかったのよ」
「どこにいたんだろう?」
「今まで、それを考えなかったの。でもね、考え出すと妙だな、と思えて」
「もし、死体を見付けたとしたら、スキャンダルになるのを恐《おそ》れて、逃げ出したかもしれないよ」
「うん。私もそう思う。でも、翌日の彼女の様子、全く、変ったところがなかったわ」
「それは——」
「女優だからね、確かに。そう装ってるのかもしれないわ。でも、間の時間とかに、少しは不安そうな様子を見せるんじゃないかしら? いくら何でも、現《ヽ》実《ヽ》の《ヽ》殺人に出くわすことなんて、めったにないでしょ」
「そう年中あったら、大変だ」
「ねえ。——だから、思ったの」
「どういうことだい?」
 さやかは、少し雲の切れかかった空を見上げて、言った。
「池原洋子は、あの部屋まで行かないで戻ったんじゃないか、って」
「気が変って?」
「それとも——」
 さやかは、少し声を低くして、「池原洋子が、あの女を殺したか」
「まさか!」
 と、浩志は目を丸くした。
「もちろん、動機とか、見当もつかないわ」
 と、さやかは肩をすくめた。「でも、可能性はあるじゃない」
「そうだな……」
「それなら、全く普通にしているのも、すべて演技ってことになるし。——ともかく、池原洋子がどこへ消えていたのか、それが一つのポイントじゃないのかな、って思ったんだ」   
「なるほど」
 浩志は、感心したように肯いて、「君は、探偵業もやるのか」
 と、言った。
「からかわないでよ」
 さやかは、少し赤くなった。「——ほら、陽《ひ》が出て来た」
 助監督が、二人の方へ駆けて来た。
「本番行きます!」
「はい!」
 さやかは、元気良く答えたのだった……。
 
 周囲には大勢の見物人が詰めかけていて、その視線が集中している所で、演技をする。——さやかも、さすがに少々あがって、テストで、セリフをトチッたりした。
 しかし、そのうち、周囲に誰がいようと、気にならなくなる。そんな気持になってしまうのが、ロケというものの面白いところなのかもしれなかった。
 ——そのさやかの演技を、なつきは傍《そば》で眺めていた。
「すばらしいな」
 と、藤原が、低い声で言う。
「あの子、度胸がいいわ。我が子ながら、感心しちゃう」
「なつきさんの子ですよ、やっぱり」
「まあ」
 監督の早坂が、
「よし、本番行こう」
 と、言った。
 助監督が、見物人の方へ、
「本番ですから、静かにして下さい!」
 と、怒鳴っている。
「おい、エキストラ出して」
「はーい」
 神社の境内をぶらつく男女、七、八人。
 ゆうべの、あの石塚も、大人《おとな》びた格好でその中に入っている。
「——一人、そっちから歩いて来て。——そう。おい、その三人はひとまとめ」
 助監督が、適当にエキストラを散らしている。
 カメラを覗《のぞ》いていた早坂は、
「——OK。じゃ行こう」
 と、肯いた。
 本番。——ピッと緊張が走る。
「陽《ひ》が射してる。今のうちに行こう」
 レフ板という、大きな反射板で、光をさやかに当てて、カメラが、ゆっくりとレールの上を動く……。
 誰が見ても、奇妙な魅力を持った光景である。
 すると——エキストラにしては何だかむさ苦しい感じの男が、トコトコと境内へ入って来て、
「ちょっと——ちょっと失礼します」
 と、声を上げた。
「カット!」
 早坂が頭に来た様子で「そいつは何だ! つまみ出せ!」
 と、怒鳴った。
「いや、失礼」
 と、その男は、ポケットから手帳を出して、「警察の者です」
 と、言った。
「——刑事さん?」
 なつきは目を丸くして、藤原を見た。
「来ましたね」
 と、藤原が、顔をこわばらせる。
「そうね。——でも、平気な顔をしているのよ」
 なつきの方は、至っておっとりしている。
「いや、失礼。撮影中とは知らなくて」
 と、その中年の刑事は、ノコノコ監督の方へとやって来て、言った。
「ともかく、これがすむまで、笑ってて下さい」
「はあ?」
 刑事がキョトンとしている。
「笑うってのは、見えないところへどかせるってことです」
 と、助監督の一人が説明した。
「ああ、なるほど」
 刑事は肯いて、隅の方へ行った。
 ——一体誰に会いに来たのか?
 なつきもさやかも、好奇心に満ちた目を、その刑事の方へと向けた。
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