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やさしい季節13

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:旧 友「乾杯!」 グラスがガチャガチャと音をたてる。 およそ「優雅さ」とはほど遠い音だったが、今は誰も「優雅」を装う必要
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 旧 友
 
「乾杯!」
 グラスがガチャガチャと音をたてる。
 およそ「優雅さ」とはほど遠い音だったが、今は誰も「優雅」を装う必要などなかった。古い友人たちばかりなのだ。
「ああ、いいなあ、マネージャーなしの外出って!」
 ゆかりがビールを一気に半分ほど飲んで、フーッと息をつくと、言った。
「心配してない?」
 と、邦子が訊く。「私の同じオフィスのマネージャー、心配性なの。『何かあったら』、『何かあったら』っていつも言ってるから、『たら』さん、ってあだ名なのよ」
「私の方は慣れてんじゃない? 時々行方不明になるからね」
 と、ゆかりは澄ましている。
「おいおい」
 と、浩志が苦笑して、「もうやめてくれよ、姿を消すのは」
 みんなが一斉に笑った。
「お兄さん! このお鍋、運んで」
 と、台所で克子が呼ぶ。
「おっ、今行く」
「手伝うわよ、克子ちゃん」
 と、邦子が腰を浮かすと、
「いいのいいの。私にも、ちっとは料理ができるってところを見せてやんないとね」
 克子が、振り返って言った。「二人とも、のんびり座ってて」
 浩志が大きな鍋を、両手で持って来る。
「どいたどいた! 危ないぞ!」
「お兄さん、気を付けてよ。お二人とも、女優さんなんですからね」
 ——ここは、克子のアパートである。
 もちろんアパートの住人の誰も、この部屋に安土ゆかりと原口邦子が来ているなんて、考えてもいないだろう。
 本当に、まれなことだが——二人のオフの日がたまたま重なったので、その前夜、こうしてここへ集まることにしたのだ。いくら遅くまでしゃべっていてもいい。
 浩志も、明日は会社を休むことにして、届を出して来ていた。克子はそういうわけにいかないようだが、いくら遅くまでしゃべっていても、ちゃんと起きられる性格だ。
「——ごめんね、克子ちゃん」
 と、邦子が言った。「もし、三神監督から突然連絡でも入ったら、って言われて、ここの電話、マネージャーに教えて来ちゃった」
「構やしないわ。私にお声はかかんないだろうしね」
 克子は、電気釜を持って来た。「——さて、久しぶりに使ったけど、うまく炊けたかなあ」
「大丈夫さ。——おい、買って来たもの、出さなくていいのか?」
「あ、いけない」
 浩志が、また立ち上がって、大きな皿を出して来ると、買って来た焼き鳥を並べる。
「女が三人いて、男は浩志一人なのにね」
 と、ゆかりが愉快そうに言った。「一番パッと動くのは浩志だね」
「慣れてるのさ」
 と、浩志は言った。
「でもね、克子ちゃん、ここの番号、絶対極秘って言ってあるからね」
 と、邦子が念を押す。「その点は大丈夫よ、うちのマネージャー」
「分かってるって。——あ、ほど良く炊けてる!」
 と、克子が手を打つ。
「当たり前だ。自動炊飯器だぞ」
 浩志が冷やかすと、
「うるさいわね」
 と、克子が兄をにらんだ。
「それより——これ、あっためるのか?」
「うん。電子レンジ。分かる?」
「馬鹿にするな。——あれ、どこを押すんだ?」
「やるわよ」
 と、克子が立って来る。
「じゃ、ご飯は浩志からよそってあげよう」
 ゆかりが、浩志の茶碗(一応ここにも一つ置いてある)を取り上げる。
 ふと、浩志は昔の日々を思い出していた。高校生のころの、あの遠い昔……。いつもこんな風にはしゃいでいた。
 抑えても、抑えても、「若さ」が溢れて来るとでもいうように。
 しかし——もちろん、この四人の誰もが、昔のままではない。
 邦子が、マネージャーにここの電話番号を教えなくてはならなかったように、ゆかりもまた、このアパートの外で、「用心棒」が待機していて、帰りは送って行くことになっている。
 もちろん、またゆかりに国枝の手が伸びないかと心配してのことである。
 しかし、できることなら、この二人のささやかな「友情の宴」を、誰にも邪魔させたくない、と浩志は思った。
 克子にしても——そう、克子だって、昔の「克子ちゃん」ではない。
 克子の付き合っている男について、浩志は未だに何も訊かずにいる。いい加減な遊びのできるタイプではない妹のことをよく知っているだけに、浩志としては訊くのが辛いのだ。
 その点、ちっとも変わってないのは俺だけかな、などと浩志は考えたりしていた。
「——おいしい、これ」
 と、鍋をつつきながら、ゆかりが目を白黒させている。「でも、熱い!」
「当たり前だろ。ゆっくり食べろよ」
「でも……急いで食べるくせがついちゃってる」
「そうよね」
 と、邦子もゆかりに同調する。「ロケのときのお弁当なんて、ひどいときは毎日同じ。見ただけでいやになっちゃう」
 と、邦子は鍋をつつきながら言った。
「ねえ。まさか現実がそんなもんだなんて、見てる人は思ってもいないだろうけど」
 ゆかりはそう言って笑った。
「この前、TVの二時間ドラマに二、三日だけ出たのね。そのときのお弁当なんて、犬や猫も食べないような、ひどいのでね。さすがにみんな一口食べたら、やめちゃったの。そしたら、プロデューサーが来て、そのお弁当を見て、『何だこれは!』って怒鳴ったのよ。あ、少しましなものでも出してくれるのかな、と思ったら、そのプロデューサー、『こんな高い弁当、誰が買って来た!』ですって。——みんな、唖然」
 浩志は、首を振って、
「表だけ華やかだから、そんなことがあるって聞くと、何だか気が重いね」
 と、言った。
「そうねえ、やっぱり人間だと思ってないんじゃないかな、タレントのことを。そういう人って一杯いる」
 と、ゆかりが肯く。
「楽じゃないわね」
 と、克子が言った。「邦子さん、おかわり?」
「あ、いただくわ」
「うんと食べて。凄く沢山炊いちゃったから」
「——タレントやってて、何か得なことってあるのかなあって思うわ、ときどき」
 と、ゆかりは言った。「顔だけは知られてるから、一人で遊びにも行けないし、世間の人は、大儲けしてると思ってるし……。それに、好きなように恋もできないしね」
「あら、結構やってるんでしょ、ゆかり」
「苦労してるわよ。わざわざ車で何時間もかかるホテルへ出かけたり。翌朝仕事入ってたりすると、ゆっくり眠るわけにもいかないしね」
「奥さんのいる人と、食事とかしただけで〈不倫〉って騒がれて。——損よね、本当に」
 邦子の言葉を聞いて、克子がちょっと目を伏せる。浩志は、ちゃんとそれに気付いていた。
「それでもやめられない、何かがあるんじゃないのか?」
「うん」
 邦子は肯く。「カメラが回ってるときの、ゾクゾクする感じとか、舞台に立って、何百人の目を自分の肌で感じてるときとか……。あの瞬間のためにやってるんだな、って思うわ」
「私は、キャーッて騒がれるのが快感」
 と、ゆかりはあっさりしている。「有名になるって、無名でいるよりはましよ。何てったって、きれいになるしね」
 確かにそうだ、と浩志は思った。
 いつも誰かに見られている。その意識が、驚くほどスターを「スターらしく」させる。
 ゆかりも邦子もそうだ。
「でも、二人とも凄いわよ」
 と、克子が言った。「夢を持ってて、それをちゃんと現実のものにしたんだもの」
「浩志のおかげ。——本当だよ」
 と、ゆかりは言った。
「よせよ。友だちなら当たり前さ。——さあ、もっと食べろよ」
「うん」
 四人は、またにぎやかに鍋をつついた。電話が鳴り出して、克子が急いで出た。
「はい。——あ、どうも」
 声が低くなり、克子は浩志たちの方へ背を向けた。「——うん。——今、友だちが来ててね。——そうなの。明日、連絡とれる?」
 ゆかりたちは、克子の話に注意を向けていないようだったが、浩志はつい、そっちを聞いてしまう。
 話し方から言って、あの男からかかって来たのだろう、と見当がつく。もちろん、気付かないふりをしていたのだが。
 克子は電話を終えて戻ると、
「さ、もうひと頑張りだ!」
 と、はしを取り上げた。
「へえ、そんなことがあったの」
 と、ゆかりが言った。
 みんな、満腹になって、思い思いに寝そべったり、腹這いになったりしている。
 何の話からか、浩志たちの父がやって来たことが話題になったのである。
「今、どこにいるの?」
 と、邦子が言った。
「知らないわ。知りたいとも思わない」
 克子は肩をすくめた。「コーヒー、いれようか」
「そうだな」
 克子が台所へ立って行く。
 コーヒーの豆をひいていると、また電話が鳴り出した。
「俺が出る」
 浩志が出てみると、邦子のマネージャーからである。
「——ごめん」
 と、邦子が替わる。「もしもし。——うん、そろそろね。何かあったの?——え?」
 邦子の顔が少し固くなった。
「それって——。うん。——分かったわ。詳しいことはあとで聞く。じゃ、迎えに来てくれる?——待ってる」
 ゆかりが、寝そべったまま、
「どうかしたの?」
 と、訊いた。
「この間のスペシャルのプロデューサーが、至急会いたいって。何だろう」
 と、邦子が首をかしげた。
「あの番組? 私が頼んで出てもらった」
 と、ゆかりが訊くと、
「そう。短いけど、やりがいのある役だったわ」
 と、邦子は微笑んだ。
「凄かったよ、邦子。どうしてあんなお芝居ができるの?」
「さあね。後になると、ああすりゃ良かった、こうしときゃ良かった、って思うんだけど」
「で、何の用か分かんないの?」
「うん……」
 邦子は、少し不安そうだ。
「きっと、びっくりしてんじゃないの、邦子のお芝居に。他の仕事の話かもよ」
 と、ゆかりが言うと、邦子は首を振って、
「マネージャーの話だと、あんまりいい話じゃないみたい、って。あの人、そういう点、敏感なの。ともかく会って来なきゃ」
「すぐ帰るかい?」
「迎えに来てくれるから。でも、一時間はかかると思うわ」
 と、邦子は言った。「心配しててもしょうがない。コーヒー、ゆっくりいただいてくから」
 しかし、邦子の顔からは、すぐに笑みが消えた。——たぶん、今の電話で、何か聞いているのだ。
 ただ、この場の雰囲気に水をさすのがいやなので、黙っているだけだろう。邦子はそういう気のつかい方をする子である。
「ゆかり、今は恋人いるの?」
 と、邦子が話題を変えた。
「特にこれ、っていうのはね。面倒くさくなっちゃって。それに最近怖いじゃない、エイズとか」
「深刻ね」
 と、邦子は膝を立てて、抱え込むようにすると、「私って、忙しくなると、誰かに夢中になるの。たいていそう。——映画が始まったら、何か起こりそうな予感がある」
「邦子はいいね。浩志に迷惑もかけないし」
 と、ゆかりは笑った。「克子ちゃんは? 恋人、いないの」
「え?」
 克子は、一瞬ドキッとした様子だった。「恋人ねえ……。お兄さんが先に片付いてくれないとね」
「おいおい、何だよ」
 と、浩志も笑って、「ごみじゃないぞ、片付けるなよ」
「浩志みたいな、すてきなお兄さんがそばにいると、男を選ぶ目も厳しくなるね」
 と、ゆかりは言った。
「別に、そんなことないけど」
 克子は澄まして、「お兄さんの方が大変でしょ。何しろ、スター二人と、この美しい妹に囲まれてるんだから」
 みんなが大笑いした。和やかそのものの空気だった。
「さ、片付けよう!」
 と、邦子が言った。「ゆかり、ちゃんと片付けて帰ろうね」
「あ、いいのよ、私とお兄さんでやるから」
 と、克子が止めたが、
「ううん。やりたいの。ね、やらせて。四人でワッとやった方が、終わるのも早いし」
「そうよ。やろう、一緒に」
 と、ゆかりも立ち上がる。「浩志は座ってなさい」
「そうそう。いつも世話になってるから、そのお礼」
 浩志も、ここは二人の言う通りにすることにした。
 克子と三人、狭い台所でぶつかりそうになりながら、お皿や茶碗を洗っているのを見ていると、浩志はつくづく思うのだった。あの二人が、いかに「当たり前の生活」から遠ざかってしまっているか。
 ある程度やむを得ないことだとしても、決して二人はそれを望んでいたわけではないということを、浩志は痛いほどに感じたのだった……。
 ——邦子のマネージャーが迎えに来て、ゆかりも、
「いつまでも、用心棒さんを表に立たしとくのも、申し訳ないね」
 というわけで、帰ることになった。
「じゃあ、また」
「機会をみて、またやろう」
 と、浩志は、二人を外まで送って行った。
 ——二台の車が走り去って行くと、浩志は、外気の冷たさに初めて気付いて、身震いした。
 克子の部屋へ戻ると、
「帰った?」
 と、克子が新聞を広げている。
「うん。——お前、大変だったな」
「いいわよ。久しぶりで楽しかった」
 と、克子は言った。「まるで昔に戻ったみたいだった。——もちろん、二人とも、格段にきれいになったけど」
「中身は変わらないさ」
「そうよね。いつまでも、あのままでいてほしいなあ……」
 克子は、ちょっと遠くを見る目つきになって、「お兄さん、泊まってく?」
「いや、お前、明日は会社だろ? 早く寝た方がいいぞ」
 と、浩志は言って、欠伸をした。「楽しい夜だったな」
「うん」
 克子が肯く。「——お兄さん」
「何だ?」
「私……恋人、いるの」
 浩志は座り直して、
「そうか」
 と、言った。
「その内——いつか会ってもらうからね。今は、ちょっとだめだけど」
 克子は、目を伏せて、そう言った。
「だめ? どうして今は会わせてくれないんだ?」
 と、浩志は訊いた。
「まだ——はっきり、どうなるって決まったわけじゃないの。だから……」
 と、克子は曖昧に言った。
「分かった。こっちはいつでも暇さ。お前の恋人なんだから、好きなときに連れて来い」
「ありがとう」
 克子は兄を、めったに見ない目つき——少し潤んだ眼差しで、見た。
「珍しいこと言うなよ。雪が降る」
 と、浩志は言ってやった……。
 
 自分のアパートへ戻ると、ちょうど電話が鳴っていた。
「——はい」
 と、出てみると、
「あら、浩志さん、帰ってらしたの」
 父の妻、法子である。
「今、帰ったところです」
 と、浩志は言った。「何かご用ですか」
「お父様、そちらじゃないんですか?」
「父はいません。克子の所にも」
「じゃ、どこに?」
「さあ。——何でも、頼れる知り合いがいると言って、出て行ったきりです」
「そう。別に捜してもいらっしゃらないわけね」
「父も子供じゃありませんからね」
 と、浩志は言って、「どうしてあなたが気になさるんです、父のことを?」
 皮肉のつもりだが、通じたかどうか。
「いえね、弟の所に、電話があったらしいんです。何だか、えらく上機嫌で、好きなことをして暮らしてる、と言ってたとか。で、どうしたんだろうと思って、気になって」
「そうですか……。僕には見当もつきませんがね」
「じゃ、結構です。遅くにごめんなさい」
「いいえ」
 浩志は電話を切った。
 法子と話した後は、手を洗いたくなる。
 それにしても——父はどこにいるんだろう? ああいう性格で、親しい友人など、いたとは思えない。
 いや、父があの家や土地を持っていたときには、それなりに付き合う相手もいた。何といっても、あの町では旧家の一つである。
 しかし、東京へ出て来てしまったら。しかも、何もかも失って……。
 一体誰が父の面倒をみてくれているのだろうか?
 まあ、こっちとしては気にすることもない。世話した分の請求書でも回って来ない限りは。
 あの法子の口調は、父にそんな「金のある」知り合いがいたのかしら、と気にしていた。
 浩志は、一人で笑い出していた。金の匂いには敏感な人間がいるものなのだ。
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