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やさしい季節15

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:横 顔 ところで、浩志の方は、この日休暇をとっていたので、昼すぎまでのんびりと寝ていた。 前の晩の、ゆかり、邦子との楽し
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 横 顔
 
 ところで、浩志の方は、この日休暇をとっていたので、昼すぎまでのんびりと寝ていた。
 前の晩の、ゆかり、邦子との楽しい「同窓会」(でもないが、似たようなものだ)のことを思い出しながら、布団の中で寝ているような起きているような、をくり返している内、気が付いたら午後の三時になっていた!
 さすがにびっくりして起き出す。
 顔を洗ったりしている内に、お腹の方もグーグーと空腹を訴え始めた。
 その辺に何か食べに出ようか。せっかくの休暇だが、こうしてぼんやりと過ごすのも、悪い気分じゃない。
 ひげを剃り、アパートを出ようと玄関のドアを開けると、邦子が立っていて、びっくりした。
「——何だ。どうした?」
 と、面食らって、「忘れものでもしたのかい、克子の所に?」
「そうじゃないの」
 邦子は、何となく沈んだ表情だった。「急に仕事が入って……。その途中に寄ったの。——十五分だけ、上がってもいい?」
「ああ、もちろん」
 浩志は、部屋へ邦子を上げると、「今まで寝てたんだ。——何か飲む?」
「いいの」
 邦子は、何となく様子がおかしかった。
「どうかしたのか」
「ゆかりから、電話か何かあった?」
「いや、別に。——どうして?」
 邦子は、ちょっと目を伏せて、
「ゆうべ、プロデューサーに呼ばれたでしょう」
「ああ。何の用事だったんだ?」
 浩志は、邦子の口から、ドラマの出番をカットされたことを聞いて、空腹も忘れて唖然とした。
「しかし、ひどい話じゃないか、そんなこと!」
「ねえ。——プロデューサーの話だと、ゆかりの事務所から、出番が少ないって苦情が来たとか。それで、本筋に関係のない、私の出るエピソードを切ったっていうの」
「まさか!」
「ギャラは払ってくれるんだけど……。でも、あのときは必死で……」
 邦子の目からポロッと大粒の涙が落ちた。
 ほとんど表情を変えずに、涙だけが落ちるのを見て、浩志はいっそう胸が痛かった。何といっても、邦子は演技に命をかけているようなところがあるのだ。
 それを簡単にカットされて、邦子の気持ちは察するに余りあるものがあった……。
「しかし——西脇さんがそんなこと言うかなあ。僕から訊いてみよう」
「いいえ、やめて」
 邦子は急いで首を振って、涙を拭った。
「しかし、事情をはっきり聞いた方がいい。ゆかりだって、気にするよ」
 と、浩志は言った。
「ゆかりは何も知らないと思うわ。知ってて、ゆうべあんなに楽しくやってられない。ゆかり、それほど名優じゃないもの」
 と、邦子は言って笑った。
「しかし……もうどうにもならないのか」
「一方的に通告されただけだもん。こっちの意向なんて、関係なしよ」
「ひどいな、そいつは」
「人気がすべて、の世界ですものね、特にTVは」
 邦子は、ちょっと目を伏せて、そう言うと、
「ごめんね。——浩志にどうしても話しておきたくて」
「しかし、ゆかりが気にするよ」
「でしょうね。でも、どうしようもないわ」
 邦子は、軽く息をつくと、「邪魔してごめんなさい。もう行かなくちゃ」
 邦子は立ち上がって、
「ゆかりに何も言わないでね。お願い」
 浩志は、すっきりしなかった。どうもおかしい。
「邦子。このことは、僕の好きなようにさせてくれ。——いいね」
「浩志——」
「君とゆかりのことを、一番良く知ってるのは誰だ?」
 邦子は、じっと浩志を見つめて、
「浩志よ」
 と、答えた。
「そうだ。だから、ゆかりに話すのも話さないのも、僕に任せてくれ。いいだろ?」
 邦子は、浩志のやさしい眼差しに救われたようだった。
「分かったわ」
 と、肯いて、「浩志に任せる」
「よし。それじゃ、もうこのことは忘れて、次の仕事のことを考えるんだ」
「うん」
 邦子は、やっと明るく肯いた。
 とたんに、浩志のお腹がグーッと鳴る。そのタイミングがあまりに良くて、邦子はふき出してしまった。
「浩志は、ともかくまず、何か食べること!」
「分かったよ。ちょうど食べに出るところだったんだ」
「じゃ、マネージャーの車で、送ってってあげる」
「いいよ。どうせすぐそこだ」
「ううん。一緒に食べよ。ね?」
「だって君は——」
「何とかなるわ、三十分くらいなら。交通渋滞ってのは、こういうときのためにあるのよ」
 邦子の言い方に、浩志も笑ってしまった。
 結局、浩志は、邦子の車に同乗して、近くの駅前の中華料理店に入り、三十分で定食を食べることになったのである。
 邦子の車が走り去るのを見送って、浩志は、さて、と息をついた。
 少し食べ過ぎて、お腹が苦しい。アパートまではちょっと遠いが、歩いた方がお腹もこなれるだろう。
 いい天気なので、歩くのも苦にはならない。駅前まで出たついでに、スーパーへ寄って、普段、買いそびれている物を買い込む。
 電球の換えとか、ゴミを入れるビニール袋とか、なかなか買う機会がないものなのである。
 スーパーの雑貨の所を歩いていると、あれもなかったんだ、これも忘れてた、と思い付いて、結構な荷物になってしまった。
 大きな紙袋は、大して重くはないものの、かさばって持ちにくい。
 少し迷ったが、結局、これをかかえてアパートまで歩くのはかなり面倒だということになり、やはりバスに乗ることにした。
 乗り場のベンチに腰をおろして、バスが来るのを待っていると、
「すみません……」
 と、声がした。
 自分が呼びかけられたとは思わずに、ぼんやりと目の前を通って行く車を眺めていたが……。考えてみると、ベンチに腰かけているのは、自分一人だ。
 顔を向けると、高校生らしい、ブレザー姿の女の子が、遠慮がちに、
「すみません」
 と、くり返した。
「何か?」
「あの……さっき、あの中華のお店で、おそば食べてたんですけど……。原口邦子さんと一緒でしたよね」
「うん。——まあね」
「お知り合いなんですか」
「昔なじみっていうか……。ちょうど、あの子が君ぐらいのころから、友だちでね」
「すてき」
 と、その少女は目を輝かせた。「私、演劇やってるんですけど、原口邦子さんって、憧れなんです。凄くうまいし、セリフ、とってもきれいだし。いつも、指導してくれる先生が、あの人のこと、とってもほめてるんです」
「そう。きっと喜ぶよ、そう聞いたら」
 浩志は、嬉しかった。邦子のように、まだ脇で地味にやっていても、見ている人間は少なくないのだ。
「頑張って下さいって、伝えて下さい。応援してます!」
 と、少女は、笑顔で言った。
「ありがとう」
 浩志は、心から礼を言った。邦子の代わりに、ではない。自分自身のために、礼を言ったのである。
「必ず、伝えるよ」
「お願いします。ごめんなさい、突然」
 と、その少女はピョコンと頭を下げて、足早に立ち去った。
 邦子の話で、やや気の重くなっていた浩志だったが、一人の女学生が、すっかり気分を明るくしてくれた。
 邦子が真面目に努力して、役者の道を進む限り、必ずああいうファンが、ついて来てくれるだろう。
 ただ——浩志が気になっているのは、今度のカットの一件が、邦子とゆかりの間に、影を落としはしないか、ということだ。
 ゆかりが、分かっていてそんなことをする子ではないと知っているから、浩志は実際のところはどうだったのか、はっきりさせた方がいい、と思っていた。あれこれ想像だけで、ものを言っていると、その内、噂が一人歩きしてしまう。
 それは恐ろしいものである。
 バスが来て、浩志は、荷物をかかえて立ち上がった……。
 
 やはり、バスに乗って良かった、と座席で揺られながら、浩志は思っていた。
 これだけの道を、この大きな袋をかかえて歩くのは、楽じゃなかっただろう。
 次のバス停だな——浩志はボタンを押した。
 バスは、少し手前の赤信号で停まった。浩志は何気なく道路へ目をやったが……。
 信号のちょうど反対側、バスとすれ違う向きに、白い外車が停まっていた。——一見したところ、ちょっと普通でない、ヤクザ辺りの乗りそうな雰囲気の車である。
 運転席にいる男は、白のスーツに、サングラスをかけていた。やはり「その筋」の人間の車らしい。
 信号が青になり、バスがゆっくりと動き出した。その白い外車が、滑るような動きで、すれ違って行く。
 浩志の目は、何となくその外車の中へ向けられていた。
 そして——一瞬のことだったが、後ろの座席に座っている男の横顔に、ハッと目をひきつけられた。
 あれは——。しかし、まさか……。
 バスが停まって、扉がシューッと音をたてて開くのにも、浩志は気付かなかった。
「——降りないんですか?」
 運転手の声でハッと我に返ると、
「すみません! 降ります!」
 と、あわててバスから降りる。
 バスが走り去ると、浩志の目は、もう遠ざかってしまった、あの白い外車へと向いた。
 他人の空似ということもある。——もちろんだ。
 あんな車に、父が乗っているわけがない。
 しかし、チラッと見えただけの横顔は、父にそっくりだった。もちろん、よく似た他人だろう。そうに決まっている。
 アパートへと歩きながら、浩志の目は、それでもつい、とっくに見えなくなってはいたが、あの外車が走り去った方へ向くのだった。
 浩志がアパートまで戻って来ると、他の部屋の人たち——ほとんど奥さんたちだが——が、五、六人表で固まって、何やら話し込んでいた。
「今日は」
 と、声をかけると、ピタリと話が止んだ。
 妙な雰囲気で、みんなが一斉に浩志の方を見ている。非難している、という視線ではないが、といって愛想がいいとも言いかねる感じである。
「あの……何かありましたか」
 と、浩志は訊いた。
 浩志は、ゴミ捨てでも廊下の掃除でも、男一人の暮らしにしてはまめにやっている。だから、同じアパートの、特に奥さんたちにも決して受けは悪くないのである。
 まあ、それには浩志が「安土ゆかりの恋人」と報道されたりしたことから来る好奇心も、多分に含まれていたのだろうが。
「石巻さん」
 と、奥さんたちの一人が言った。「今日は会社、お休みなの?」
「休みを取ったんです。久しぶりにのんびりしようと思って」
「そう……。あのね、今しがたお客があったのよ」
「客? 僕にですか。誰だろう」
「それがね——やたら大きな車が停まったと思ったら……。どう見たってヤクザって感じの男が二人降りて来て。私、ちょうど買い物に出るところで、訊かれたの。『石巻って人の部屋は?』って」
 ヤクザが? では、やっぱりさっきの外車が……。
「留守だと分かったら、『戻ったら、ここへ連絡をくれ』って言って、帰ってったわ」
 と、その奥さんが名刺を出す。
「はあ。そりゃすみません、ご迷惑かけて」
 と、浩志は名刺を受け取って言った。
「そんなこと構わないんだけど、何かあったの?」
「いや、見当もつきませんね。——すみませんでした。ここへ連絡してみりゃ、何か分かるでしょうから」
「そうね。でも、気を付けてね。見るからに、おっかない感じだったわ」
「注意します。どうも」
 浩志は足早に階段を上って、自分の部屋へ入ると、息をついた。
 やれやれ……。しかし、一体何だろう? すぐに連想するのは、例の国枝のことだ。
 あの息子が、また何かやり出したのだろうか?
 あの外車に乗っていたのが、本当に父だったのかどうか。——浩志は狐につままれたような気分だった。
 ともかく、買って来た物を戸棚へしまったりして、整理する。こういうことをしていると、気持ちが落ちついて来るのである。
 浩志は、買って来た物を一通り片付けてしまうと、あの名刺を手に取った。
 ヤクザといっても、肩書はどこかの社長だったり、重役だったりする。その名刺の名前にも、全く憶えがない。聞いたことのない会社の「専務」ということになっている。
「大場、か。——誰だろう?」
 ともかく、電話ぐらいしてみないわけにもいくまい。ただ、名刺を置いて行ったのが、この当人だとすると、まだあの外車の中だろう。
 後でかけるか。——今は、西脇と連絡がとりたい。
 浩志は、電話のそばへその名刺を置こうとして、何気なく裏返してみた。目を見開く。
〈ここに世話になってる。会いに来い。将司〉
 走り書きは、父の字に違いない。
 やはり、あの外車に乗っていたのは、父だったのだ!
 父が、なぜヤクザの所に?——浩志には見当もつかなかった。
 ともかく、しばらく待つことにして、浩志は部屋の掃除をした。
 終わると、もう夜である。電話が鳴り出して、ドキッとした。父からだろうか?
「もしもし」
「浩志?」
「ゆかりか」
 ホッと息をつく。
「どうかした?」
 と、ゆかりが不思議そうに訊いた。
「いや、何でもない。僕も、そっちへ連絡しようと思ってたんだ」
 と、浩志が言うと、ゆかりは少し黙っていたが、
「——邦子から聞いた?」
「カットされたことか? うん。さっき、聞いた」
「怒ってたでしょ。私のこと……何か言ってた?」
 浩志は微笑んで、
「代わりに僕を殴って、スッキリしたってさ」
「浩志——」
「冗談だよ。君がやらせたわけじゃないことぐらい、邦子も分かってる」
「当たり前よ! 私、頭に来て、殴り込んでやろうと思った」
 ゆかりの話を聞いて、浩志はやっと納得がいった。
「邦子の方には、君の事務所からの要求だ、と言って来たらしいよ」
 浩志の言葉に、ゆかりはますますカッカ来て、
「何て奴だろ! 今度会ったら、足引っかけて、すっ転ばしてやる」
「落ちつけ。——分かって良かった」
「浩志、まさか、私がそんなことさせたなんて……」
「思うわけないだろ」
 と、浩志は言った。
 確かに、難しいところだった。
 事実を知らせて、邦子の映画の仕事に支障が出ることは避けたい。しかし浩志としては、これが、ゆかりと邦子の間に、しこりとなって残ることが心配だった。
「——分かった」
 と、浩志は少し考えてから、言った。「僕から邦子へ話をしとくよ」
「そう? 本当に、私がやらせたんじゃないって言ってね」
「分かってるよ。心配するな」
 と、浩志はやさしく言った。
 邦子も、事実を知ったら、確かに神崎弥江子に対して腹を立てるだろう。しかし、邦子はその怒りを、もろに見せるほど、子供ではない。
 むしろ、その憤りをバネにして、演技へ熱中できる子である。
 浩志は、だから邦子へ話しても大丈夫と思ったのだった。
「——じゃ、浩志、よろしくね。もう行かなくちゃ、私」
 と、ゆかりは言った。
「ああ。もう、このことは忘れるんだ」
「忘れられやしないわ。あの大女優さん、いつかひどい目にあうわよ、きっと」
 ゆかりの方が、すぐに怒りを顔に出してしまうタイプだ。しかし、ゆかりと神崎弥江子とでは、そう会う機会もあるまい。
 ——浩志は、ゆかりからの電話を切ると、あの名刺を再び手に取って、迷った。
 父のことなど関係ない、と言ってしまえばそれまでだが……。
 少し迷ってから、浩志は受話器を取り、妹の克子の会社へかけてみた。
「——お兄さん、どうしたの?」
「残業か。ゆうべ遅かったのに」
「残業してるときの方が、仕事、はかどるの。うるさい上役がいないからね」
 と、克子は言った。「何か用?」
「うん。ちょっと、親父のことで、妙なことがあったんだ」
「お父さんのこと?」
 浩志の簡単な説明でも、克子を驚かせるには充分である。
「どういうことなの、それ」
「さっぱり分からない。いや、心配させたくなかったんだが、もし、お前の所へも行くと、びっくりするだろうと思ってさ」
「そうね。——でも、お父さん、そんな方面に知り合いがいたの?」
「分からない。ともかく、こっちで連絡して、どういうことなのか、確かめてみる」
「お願い。でも——何にしてもお父さんが勝手にやったことよ。お兄さん、変に係わり合わない方がいい」
「分かってる」
 浩志は、そう言ってから付け加えた。「じゃ、彼氏によろしくな」
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