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やさしい季節22

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:対 面「どうぞ。お待ちしておりました」 そう言われても。 克子は、ホテルNのメインレストランの入り口で、ためらった。とて
(单词翻译:双击或拖选)
 対 面
 
「どうぞ。お待ちしておりました」
 そう言われても……。
 克子は、ホテルNのメインレストランの入り口で、ためらった。とても、ジーパンにセーターという姿で入れる雰囲気ではなかったのである。
 しかし、この旅行に、いちいちワンピースなど持って来ていない。スキーをやって、温泉に入るだけのつもりだったのだ。
「さ、どうぞ」
 マネージャーらしい、タキシード姿の男性に再度促され、克子は思い切ってレストランの中へ足を踏み入れた。
 深々としたカーペットは、ズック靴で踏みつけるのが申しわけないよう。
 レストランは、明るかった。白い雪の照り返しがまぶしいほどで、それを少し色のついた、全面のガラスが和らげている。
 何組かの客が昼食をとっていたが、みんなきちんとスーツやワンピースを着ている。
 克子は、少しうつむき加減に歩いて行った。——何も、来たくて来たわけではない。恵子たち二人が面白がって、半ば強引に克子を押し出したのである。
「こちらでございます」
 奥の個室。ドアを軽くノックして、
「おみえでございます」
 と開けると、克子を通す。
「遅くなって——」
 と言いかけて、克子は言葉をのみ込んでしまった。
「来てくれましたね」
 と黒木翔が立ち上がって、「さあ、そこへ」
「ええ……」
 克子は椅子を引いてもらったが、腰をおろす気になれなかった。
「ああ、こちら、石巻克子さん」
 と、翔が言った。「僕の父です」
 週刊誌のグラビアページをしばしば飾る顔が、そこにあった。
 黒木竜弘は、意外に小柄で、克子をびっくりさせた。
「どうも。——さ、かけて下さい」
 と、克子にもていねいな口をきく。
「どうも……。あの——初めまして。石巻克子です」
 つい、深々と頭を下げてしまう。
「まあ、固苦しいことは抜き。ここはスキー場ですよ。何かアルコールは?——だめですか。じゃ、もう始めてくれ」
 と、黒木竜弘はマネージャーに言った。
「かしこまりました」
 魔法のように、白い服のウエイターが現れ、たちまちナイフ、フォーク、スプーンが整然とセットされる。
「ここのランチは、結構いけるんです」
 と、翔が言うと、父親の方は笑って、
「父親の舌は一切信用せんのでね」
 とナプキンを取って膝に広げた。
 初めのショックからやっと立ち直ると、克子は、黒木竜弘も息子の翔も、セーターとラフなパンツ姿なのに気付いた。
 おそらく、克子がこういう服装だと察して、翔の方で気をつかって合わせてくれたのだろう。——偶然ではない。克子には、よく分かった。
「息子が、色々お世話になって」
 と、黒木竜弘は言った。
「いえ、とんでもない」
 と、克子は何とか当たり前の声を出した。「こちらこそ……。こんな席にまで」
「お顔が拝見したくてね」
 と、黒木竜弘がいたずらっぽく笑った。「翔の奴が惚れた女性ってのは、どんな感じかと」
「父さん」
 と、翔がにらむ。「克子さんが食べられないよ、そうジロジロ見ちゃ」
「しっかりした、輝きのある目だ」
 と、黒木竜弘は言った。「労働の厳しさを知っている。——翔、お前じゃ、この人について行けまい」
「干渉しない約束だぜ」
 と、翔が少しむきになる。
「あの——私は、ただの平凡なOLです」
 と、克子は言った。「仕事のプロとはとても言えません」
 オードヴルが来ると、黒木竜弘は食べ始めながら、言った。
「いいですか。仕事だけできても、顔には疲れしか現れない。あんたは若いが、ずいぶん苦労しているようだ。それが顔を引きしめているんですよ」
 克子は面食らった。初対面の人に、こんなことを言われたのは初めてだ。
「私のことは、あれこれ週刊誌とかで見ているでしょうな。あれが全部嘘とは言わないが、全部本当とも思わんで下さい。——ああ、そのソースはうまいですぞ。パンにつけて食べると」
「好きに食べさせてあげなよ」
 翔は、克子が窮屈な思いをしているだろうと、気をつかってくれている。
「——お忙しいのでしょう」
 と、克子は、父親の方へ訊いた。
「昨日はニューヨークにいました。その三日前にはパリに。スキー場の買収問題でね、現地と話しに行ったんです」
「はあ……」
「それより、あなたのことを知りたい。お勤めはどこです」
 始まった、と克子は思った。
 家族は? 父親は何をしてる? 兄弟は?
 今住んでいる所は? 月収は?
 要するに私を値ぶみするために呼んだのだ。克子は、答えたくないと思った。翔には申しわけないが、少なくとも克子は、この財界の大物に何の借りもないのだから。
 克子は、それでも、自分のために気をつかってくれている翔の気持ちを考えて、答えられるだけのことは答えようと思った。
 勤め先と仕事の内容(といっても、大した仕事をしているわけではないが)を説明すると、黒木竜弘は肯いて、
「いや、妙なことを訊いて申しわけない。——さ、スープをどうぞ。私など、人に会うと、つい仕事のことばかり話したがる。困ったもんです」
 と、笑った。
「高卒ですから。今の仕事では、もうベテランです」
 と、克子は言った。
「そう。今、息子と同じお年だそうですね。とてもそうは見えない」
「父さん」
 と、翔の方は気が気でない様子。
「お一人で住んでおられるのかな?」
「はい。兄も東京におりますけど、一応別々に暮らしています」
 おいしいスープだった。こんな固苦しい気分でなければ、もっとじっくり味わいたいと思った。
「ご両親はご健在ですか」
 と、黒木竜弘が訊く。
「申しわけありませんが、家族のことはあまり答えたくありません」
 と、克子は言った。
 黒木竜弘は、別に気を悪くした様子もなく、
「分かりました。いや、あなたの身許調べをしているわけじゃないのです。息子は息子。そういう主義ですから」
「正直に申し上げて、少し当惑しています。迷惑——というと申しわけないんですけど、息子さんに親切にしていただいて、感謝していますが、まだお会いしたばかりです。こんな風にお父様にまで——」
「いやいや」
 黒木竜弘は首を振って、「何も特別な意味はないんです。もともと、私はゆうべここへ来ることにしてあったので、息子から話を聞いて、ぜひお会いしてみようと思っただけでね」
「はあ……」
 克子は翔を見た。翔の目は、ただひたすらに克子を見つめている。
「翔は、どうやらあなたに一目惚れしたらしい」
 と、黒木竜弘は愉快そうに言った。「あなたは翔のことをどう思います?」
「どう、とおっしゃられても……」
「突然そう訊かれても困るでしょうな。さ、ともかく食事を楽しみませんか」
 人をそらさない、軽妙な語り口だ。
 克子にとっては意外だった。こういう「財界の大物」は、きっと大勢の部下を従えて、ふんぞり返っているのだろう、と思い込んでいたからだ。
 食事の間、会話は専ら黒木竜弘がリードしていた。
 珍しい海外での事業の話など、克子にも面白い話題であった。
 克子を面食らわせたのは、この「大物」が、意外に無邪気な一面を持っていることで、もちろん表では色々ややこしいこともあるだろうが、どうやら新しい事業を手がけることは、彼にとって、まるで子供が新しいオモチャを手に入れるようなものらしいのである。
「——おいしかった」
 と、メインの料理を食べ終えると、克子は正直に言った。
「良かった」
 と、翔がホッとした様子で言った。
「デザートにしよう」
 と、黒木竜弘が言うと、まるでその声が聞こえでもしたかのように、ドアが開いてマネージャーが現れた。
 皿が下げられ、ワゴンにのせた、ケーキやフルーツなどが現れて、克子の目を丸くさせた……。
「——克子さん、といいましたな」
 と、黒木竜弘はシャーベットを食べながら、
「翔の奴は、何しろ気が弱くて、さっぱり女の子にもてんのです」
「父さん!」
「事実だろう。——もし、よろしければ、翔の奴と付き合ってやってくれませんか。もちろん、無理にお願いすることじゃないし、息子が直接申し込めばいいことですが」
 克子は、唖然としていた。
「でも、私のことを何もご存知ありません」
「人を見る目はあるつもりですよ」
 と、黒木竜弘は言った。「あなたは翔が私の息子だということなど、何とも思っていない。——そういう女性は多くないと思います。私はあなたが気に入った」
 克子は、何と答えていいのか、分からなかった。
「後は、翔とあなたの間のことです。父親は口を出しません」
 黒木竜弘は、シャーベットの最後の一口をスプーンですくおうとして、膝の上に落っことした。
「ワッ!——何てとりにくいんだ! スプーンを工夫すべきだな」
 と、文句を言っている。
 克子は、つい笑ってしまった。
「何かおかしいですか?」
「いえ、でも——このレストランも、あなたのものなんでしょう」
 克子の言葉に、
「なるほど。——いや、つい忘れちまうんですよ、ここが自分のものだってことを」
 と言って、黒木竜弘は笑った。
 克子は、食事の終わりになって、やっと気楽に笑うことができた。
 マネージャーがやって来ると、黒木竜弘は、早速スプーンを工夫しろ、と命じたのだった。
 昼食が終わると、黒木竜弘は、
「人と会う約束があるので、失礼」
 と、克子に会釈して立ち上がった。
「ごちそうになって……」
「いや、楽しい食事でした」
 と、黒木竜弘は克子の手を軽く握った。
 大きな、柔らかい手だった。
 ——個室に、翔と二人で残ると、克子はフーッと息を吐き出した。
「疲れましたか」
 と、翔が言った。
「ずっと息を止めてたみたいな気がする」
 と、克子は言った。「びっくりしたわ」
「すみません。父はいつも思い付くとパッとやっちゃう人で」
 克子は、コーヒーをゆっくりと飲みながら、
「——翔君。そう呼んでいい?」
 と、言った。
「ええ」
「私に一目惚れした人なんて、初めてよ。こんなパッとしない女のどこが気に入った?」
「すてきですよ」
「ありがとう。でも……」
 克子は、少し考えてから言った。「私、別に自分が安月給のOLだから、あなたとつり合わないとか、そんなこと考えてるわけじゃないのよ。でも、あなたは大学生だし、勉強しなきゃならないでしょ。私とデートしてる暇なんかないはずよ」
「はっきり言って下さい」
 と、翔は身をのり出した。「僕と付い合いたくないかどうか」
「そうは言わないけど……」
「誰か他に好きな男性が?」
 ——克子は呆れた。
 TVドラマの主人公だって、もう少し言葉に工夫するだろうに。このストレートな訊き方!
「付き合ってる人はいるわ」
 と、克子は言った。「ね、少し時間を置きましょう。あなたも、日がたてば私のことを冷静に見てくれるでしょ」
「でも、断るわけじゃないんですね?」
「まあ……。そうね」
 と、ためらいながら肯く。
「良かった!」
 翔は、子供のように明るい笑顔になった。
 不思議な気持ちがした。克子にとって、この翔のような若者は、初めて見る「人種」である。
 確かに、貧乏OLとは別世界に生きている人間で、たとえ付き合ってみたところで、どうなるものでもないだろうが、その一直線なものの言い方は、爽やかだった。
 たぶん、翔から見ても、克子のようなタイプが珍しいのだろうが、それは克子にとっても同じだ。
 どう考えても、自分がこの若者に恋するようになるとは思えなかったが、未知の世界を覗く楽しさが、そこにはあったのである。
「ともかく、ごちそうになったお礼を言わなきゃね」
 と、克子はホテルのロビーに出ると、言った。
「無理言って、すみません」
 と、黒木翔が楽しそうに言う。
 その屈託のない笑顔。——克子は、自分があんな風に笑ったのは、いつのことだったろうか、と考えていた。
「これ、うちの電話です」
 と、翔がメモを克子に渡す。「もし——会ってもいいって気になったら、かけて下さい」
「私の電話番号は訊かなくていいの?」
「我慢します。とか言って」
 と、いたずらっぽく肩をすくめると、「ちゃんと勤め先を聞きましたから、その気になれば、いつでも調べられます」
「そうか。ずるいぞ」
 と、克子は笑いながら言った。「じゃあ、調べる手間を省いてあげる」
 ホテルのフロントに寄って、メモ用紙に電話番号を書くと、
「はい、これ」
 と、翔へ渡した。
「ありがとう。——誘ってもいいですか、食事くらいだったら」
「その内ね。すぐにはだめよ。正月明けは忙しいし」
 克子は、何となく翔の気持ちについ添ってしまう自分が不思議だった。
 もちろん、この若者と恋を語る気には(少なくとも今のところは)全くなれない。それでいて、電話番号を教え、翔の気持ちを煽るようなことをしている。
 とんでもないことだ。特に、克子には斉木という恋人もいる。もし、翔が、克子と斉木のことを知ったら……。
 でも、きっと翔の方だって、すぐに飽きてしまうだろう。そう。きっと、そうだ。
 ——克子は、自分の中の「二十一歳」が、この若者との対話を楽しんでいるのだ、と感じていた。
 いや、もっと正確に言えば、克子は翔に会って、自分がまだ二十一歳だということを、思い出したのである。
「じゃあ、もう帰るわ、旅館に」
 と、克子は言った。
「残念だな。もう少しいてくれれば……」
「もうちょっと、ってとこで切り上げるのが利口なのよ」
 と、克子は言った。
「じゃ、ホテルの車で送らせます」
 克子も、その親切には甘えることにした。どうせゆうべも乗っているのだ。
「——じゃ、お父様によろしく」
 外へ出て、白い息を吐きながら、克子は翔にそう言った。
「親父があんな風に言うのって、珍しいんですよ」
 と、翔が言った。
「あんな風に、って?」
 と、克子は訊いた。
「会ったばっかりの人に、『気に入った』なんて。本当です。僕、初めてですよ、あんなこと言うのを聞いたの」
「でも、何もご存知ないからよ、私のこと」
 と、克子は言って、「じゃ。色々ありがとう」
 と、ホテルのマイクロバスに乗り込んだ。
 マイクロバスに乗客一人。——何だか落ちつかない。
 バスが走り出し、手を振る翔の姿がたちまち見えなくなる。克子も、もちろん手を振った。
 やれやれ、だわ……。
 座席に座り直すと、克子はため息をついた。
 旅館に戻ったら、他の二人が、質問責めにするだろう。翔の父親に会ったことは、黙っていようと思った。
 下手に黒木竜弘の名前なんか出したら、会社でどんな話になるか分からない。
 それにしても……妙な正月休みになったもんだわ、と克子は思った。
 兄が聞いたら、どう思うだろう?
 晴れた日で、日射しが雪に反射してまぶしい。克子は目を細くして、そのまぶしさを避けた。
 兄さんたちも、今ごろハワイで……。
 そう。向こうは白い砂浜がまぶしいかもしれない。
 ゆかりと兄と。——どうなっているだろう? たぶん、いや、十中八九、兄はゆかりの部屋のドアを叩いてはいまい。
 克子は、ちょっと笑った。
 お兄さんといい、私といい、まだずいぶん若いのに、何てややこしい「恋」をしているんだろう。
 お兄さんは二人の、時代を代表するようなスターに愛されながら、どっちとも「友だち」でいようとする。私は、妻子のある男に恋をして、しかもその妻は夫を見限っている。その私に、大金持ちの坊っちゃんが一目惚れする。
 もし——もし、私が斉木を諦めて、翔と結婚したら?
 考えられない。想像もつかなかった。
 やはり翔は克子から見れば子供でしかなかったのである。——傷つけてはいけない。
 気を付けて。充分に用心して。私の方が、「人生の先輩」なのだから。
 旅館の前でマイクロバスを降りると、窓から見ていたのだろう。武井恵子と長谷川伸子が、玄関へ出て来た。
「ねえねえ、どうだった?」
 と、恵子が勢い込んで訊く。
「別に。お昼を一緒に食べただけ」
 克子は軽くかわして、「帰りの仕度、そろそろしときましょうよ」
 と、言ったのだった……。
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