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やさしい季節43

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:朝のうた「浩志」 かすかな声に、少しまどろんでいた浩志はふっと目を開けた。 薄暗い病室には、花の匂《にお》いが立ちこめて
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 朝のうた
 
「浩志……」
 かすかな声に、少しまどろんでいた浩志はふっと目を開けた。
 薄暗い病室には、花の匂《にお》いが立ちこめている。
「浩志……」
 弱々しい声は、病室の中だけにも広がる力がないかのようだった。
 浩志はベッドのわきへ行った。
「どうした? 誰《だれ》か呼ぼうか」
「いたのね……」
 ゆかりが、包帯を巻いた手を少し動かした。
「帰っていいのに……」
 と、呟《つぶや》くように言う。
 大きな声を出せないのだ。ゆかりの顔は、包帯でグルグル巻きにされている。目と鼻の所、そして口も開けられるが、頬《ほお》に当てたガーゼがずれるといけないので、ほんのわずかだけ。
「痛いか?」
 と、浩志は訊《き》いた。
「少し……」
 馬《ば》鹿《か》なことを訊いた、と悔やんだ。傷の痛みよりも、ゆかりにとって、顔の火傷《やけど》がどんなにショックだったか。
 手を握りしめることもできない。手の甲にも傷を負っているからである。しかし、そのおかげで、目をやられずにすんだのだ。
「眠ったか?」
「うん」
「——怖かったろう」
 浩志は、ゆかりの、傷ついていない指先にそっと指を触れた。「守ってやれなかった。——すまないな」
 ゆかりは、かすかに頭を横へ動かした。
「話は聞いただろ?」
 と、浩志が続けた。「ちゃんと傷は分からないように治せるって。心配しなくてもいい。元の通りになるよ」
「うん……」
 ゆかりは、じっと浩志を眺めている。
「病院の周囲は大変だ」
 と、浩志は窓の方へ目をやった。「カメラが山ほど並んで、この窓を狙《ねら》ってるからな。カーテンも開けられない」
「もう……朝?」
 と、ゆかりは言った。
「もうじきだ。——事務所の女性が来てくれる。そしたら、ずっとそばについててくれるからな」
「浩志……。ごめんね。仕事、あるのに」
「一番の仕事は、ゆかりの面倒をみることさ」
 と、浩志は微笑《ほほえ》んで言った。
「浩志……。そばにいて」
「ああ、ここにいる」
「一人だと……死んじゃうかもしれない」
 ゆかりの言葉が、浩志の胸に、刃のように切り込んで来た。
「ゆかり……」
 浩志は、ゆかりの上にかがみ込んで、「すまないな。親《おや》父《じ》があんな——」
「浩志……」
「分かってる。怒るなよ。分かってる。だけど……」
 浩志の目から涙が溢《あふ》れ出た。——包帯をして、力なく横たわるゆかりを見ていると、自分がこの子のために何をしてやったか、何がしてやれるか、と考えてしまうのだ。
 父のしたことで浩志が詫《わ》びれば、ゆかりは怒る。——その気持ちが、また浩志には辛いのである。
「泣かないで……」
 ゆかりは少ししっかりした声で言った。「浩志……。いつも私が泣いて、浩志が慰める役だったでしょ。泣かないで。——ねえ」
「うん。——分かってる」
 浩志は、涙をのみ込んで、ゆかりの包帯を巻いた額に、そっと手を当てた。
「ちょっと——廊下を見てくる。誰か見舞いに来てるよ、きっと」
「戻って来る?」
「もちろん」
 浩志は、そっと立ち上がると、病室を出た。
 廊下の椅《い》子《す》に大宮が座って眠っていた。
 浩志は、足音をたてないように気を付けながら、廊下の奥のロビーへと歩いて行った。——ソファに花束が山のように積んである。とても病室へ置ききれないので、ここへ積んであるのだ。
 窓の外は、少しずつ白み始めていた。
 長い、悪夢のような一日が、次の一日に代わろうとしている。
 浩志は、広い窓から、少しずつ白んで来る都会の汚れた空を眺めていた。
「——浩志」
 いつの間に来たのか、邦子が立っていた。
「何だ……。今来たのか?」
「うん」
 邦子は、ジーパン姿で、大きなバッグをさげていた。「女の子の必要な物、持って来た。ゆかりに渡して。別に使わなくたって構わないけど」
「ありがとう」
 浩志は、病室の方へ目をやった。「起きてるよ。会って行くか」
 邦子は首を振って、
「私がゆかりなら、今はまだ会いたくないから……。傷、どう?」
「軽くはない。しかし、時間をかければ、分からないように移植できるだろうと言ってたよ」
「そう」
 邦子は、息をついて、「良かった——って言うのも可哀そうだけど」
「精神的なショックの方が大きいだろう」
 と、浩志は肯《うなず》いて、「立ち直るのに、時間がかかるだろうな」
 邦子は、ゆっくりと首を振って、
「時間だけじゃだめよ」
 と、言った。「心の支えになる人がいなきゃ」
 浩志は、当直の看護婦が欠伸《あくび》しながら通りすぎて行くのを見て、
「君も力になってやれよ。僕もできるだけのことは——」
「いいえ」
 と、邦子は遮った。「私じゃだめ。浩志以外の誰にも、それはできないわ」
「どうして?」
「浩志が、ずっと一緒で、いつも一緒だって——。それが、ゆかりの支えになるのよ」
 浩志は、窓の方へ目をやった。
「浩志……。もう、無理よ。私もゆかりも、浩志のことが好き。浩志も二人を平等に好きでいる……。もう、三人とも子供じゃないのよ。どっちかを選ばなきゃ、浩志」
「邦子。僕は——」
「私はいいの」
 と、邦子は言った。「私は、人生のどんなことでも、演技のために売り渡せる。でも、ゆかりは違うわ。いつも半分は作られたスターだけど、半分は本物の自分。浩志を失ったら、ゆかりはやっていけない」
 浩志はずっと白み行く空を見て、言った。
「あのころ……君ら二人は、双子の姉妹みたいだった。屈託なく笑って、まぶしいようで……。まぶしいくらい明るくて、二人がそっくりに見えた……」
「そう。——でも、光が少し暗くなり始めれば、二人は違うってことが分かってくるのよ」
 邦子は、浩志の方へ歩み寄ると、肩にそっと頭をもたせかけた。
「僕ら三人……。ずっと、あのままでいられると思ってた」
「そうね……。私も、一時はそう信じてた。でも——みんな、大人になって行くわ。それは変わって行くことよ。私たち三人も、変わって行かなくちゃ……」
「邦子——」
「ゆかりは、浩志を縛りたくないと思ってる。特に、傷を負わせたのが父親だからって、その責任を、浩志が感じてることも知ってる。だから、却って浩志を自由にしようとするわ。分かるの、私には。——浩志の役割は、責任感からじゃなく、愛情から、ゆかりを選んだ、って彼女に信じさせること」
 浩志は黙って、邦子の肩を抱いた。二人の顔を、朝の弱い光が白く染めて行く。
「うんと、ゆかりを大事にするのよ。うんと可愛《かわい》がるのよ。——ゆかりが浩志に愛されてるって信じるまで……」
 邦子はそう言って、そっと顔を上げると、「そうしなかったら、私、浩志を許さない」
 と、言った。
「そうだな」
 浩志は、呟くように言った。「ゆかりを選んだ、と——」
「それでいいのよ」
 邦子は、浩志の足下に、バッグを下ろした。「——これ、ゆかりに渡して。また、来るからね」
「うん」
 二人は離れて、向かい合って立った。
「邦子」
 と、浩志は言った。「僕はたぶん君の方を——」
「いけない」
 邦子は、指で浩志の口を押さえた。「言わないで。もう、あなたは選んだのよ。ゆかりを幸せにする義務があるの」
「ああ……。できると思うよ」
「できるよ、浩志なら。——私の愛した人だもの」
 浩志が邦子を、邦子が浩志を、激しく抱きしめた。二人の唇は水を求める乾いた唇のように、互いを求め合った。
 しかし——それはほんの数秒間のことだった。
 邦子は、浩志を押し戻すようにして、
「ゆかりに伝えて」
 と、言った。「三神監督、ゆかりが復帰するまで、待ってるって。そう言ってたって」
「分かった。きっと喜ぶ」
「早く元気になれって言ってね。私の仕事でもあるんだから」
 邦子はそう言って、ちょっと笑った。「じゃあ——また来るね」
「ああ」
 邦子が足早に廊下を歩いて行く。振り向かなかった。浩志がじっと見送っているのを知っていたはずなのだが。いや、だからこそ、振り向かなかったのかもしれない。
 ——病室へ戻ると、ゆかりは、少しまどろんでいる様子だった。痛み止めの注射のせいもあるかもしれない。
 浩志がそばの椅《い》子《す》に座ると、ゆかりは目を開けた。
「私……眠ってた?」
「少しね」
 浩志は、邦子の持って来たバッグを持ち上げて見せ、「——邦子がこれを」
「邦子、来たの?」
「疲れさせるといけないって、帰った。またちょくちょく来るってさ」
「いいのに……。忙しいんだから、邦子も」
「そうだな。そうそう、例の巨匠からの伝言だ」
 浩志の言葉を聞いて、ゆかりの目が輝いた。
「そんなに早く治るかしら? ねえ、どう思う?」
「治るさ。ゆかりは若いんだ。治るんじゃなくて、治すんだ」
 と、浩志は力をこめて言った。
 ゆかりは、大きく息をついた。
 ファンに待たれている。——スターにとって、これほどの栄養源はないのかもしれない。
「僕もついてる。きっと、医者もびっくりするくらいの勢いで回復するさ」
「うん。——浩志。そばにいてくれる?」
「そう言ったろ」
「いつも?」
「ああ、いつもだ」
 ゆかりは、浩志の目をじっと覗《のぞ》き込むようにして、
「いつまでも?」
 と、訊《き》いた。
「いつまでも、だ」
 少し間があった。
「私と……邦子のそばに?」
「ゆかりのそばにだ」
「浩志——」
「黙って。——何も言わなくていい」
 浩志は、そっとゆかりの上にかがみ込んだ。
 小さく震える唇に、浩志の唇が静かに重ねられた。
「——あの」
 と、ドアが開いて、「あ、失礼しました」
 大宮が頭を下げる。
「いいんです」
 と、浩志は体を起こして、「何か?」
「あの……」
 大宮が、言いにくそうに廊下へチラッと目をやる。
 浩志は、立ってドアの方へ歩いて行った。
 廊下へ出ると、後ろに二人の男を従えて、国枝貞夫が立っていた。ついて来た一人は、とてつもなく大きい花束をかかえている。
 浩志は、後ろ手にドアを閉めた。
「見舞いに来たんだ」
 と、国枝貞夫は言った。「どけよ」
「〈面会謝絶〉と書いてあるだろ」
 と、浩志は札を指して、「字が読めないのか」
 後ろの二人がジロッと目を見交わした。
「お前は入ってるじゃないか」
「それがどうした」
 と、浩志は真っ直ぐに国枝貞夫を見《み》据《す》えた。
「お前の親《おや》父《じ》がやったんじゃないか。でかいつらするなよ」
 と、貞夫は唇を歪《ゆが》めて笑うと、浩志を押しのけようとした。
 浩志が身構えると、拳を貞夫の顎《あご》へ叩《たた》き込んだ。手がしびれるほど痛かったが、貞夫の方は仰向けに引っくり返った。
「この野郎——」
 花束を投げ捨てて、二人の男たちが進み出て来る。そこへ、
「待て!」
 と声がして、大宮が点滴のびんを下げておくスタンドを両手で持ち上げ、駆けて来た。
 大宮の剣幕はもの凄《すご》かった。
「やるか! かかって来い! たった二人じゃ何もできないくせしやがって! さあ来い!」
 相手の男たちもたじろぐほどの迫力である。
 殴られた貞夫は、やっと起き上がった。大宮を見て、
「危ない! よせよ!」
 と、あわてて立ち上がる。
「危ない? 決まってるだろ! 人を袋叩きにしたりすりゃ、自分も危ない目に遭うんだ!」
 大宮の声で、看護婦が何人も駆けつけて来た。
「どうしたんです?」
「放っといて下さい! こいつらと決闘するんだ!」
 大宮は歯をむき出して、唸《うな》り声を上げながら突撃した。
「逃げろ!」
 バタバタと足音をたてて、国枝貞夫たちは駆けて行った。
 大宮は、フーッと息をつくと、ペタッとその場に座り込んでしまった。
「大宮さん……」
 浩志は呆《あき》れて、「何て無茶を!」
「いや……僕も同感です」
 そう言うなり、大宮は大の字になって引っくり返ってしまった。
 
「——呆れた奴《やつ》だ」
 と、西脇が苦笑した。「すみません。ちゃんと、通すなと言っといたんですが」
「仕方ありませんよ」
 と、浩志は言った。「大宮さんも、お返しができて良かったでしょう」
「それで失神? 全く、何て奴だ!」
 ベッドのゆかりが、
「見たかった」
 と、悔しがっている。「ビデオにとってない?」
「呑気なこと言うなよ」
 と、浩志は笑って、「命がけだったんだぜ」
 もう、朝になっていた。西脇は、医師が来るのを待っているのだった。
「——容態を聞いて、記者会見しなきゃいかんのです」
 と、西脇は言った。「モーニングショーの生中継もある。まあ、おおよそのところは、ゆうべ聞いていますが」
「きっと、予想以上に回復が早い、ってことになりますよ」
 と、浩志は言った。「それから西脇さん」
「何です?」
「記者会見で、もう一つ、発表していただきたいことがあるんですが」
 浩志はそう言うと、ベッドのそばへ行って、ゆかりの手に、そっと手を重ねた。
 西脇は、その光景を眺めて、ゆっくりと肯《うなず》いた。——笑《え》顔《がお》で、肯いたのだった。
 
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