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本日もセンチメンタル11

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:11 学校は平《へい》穏《おん》なり 教室内は、異様な雰《ふん》囲《い》気《き》だった。 といって、校内暴力、教師と生徒の
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 11 学校は平《へい》穏《おん》なり


 
 教室内は、異様な雰《ふん》囲《い》気《き》だった。
 
 といって、校内暴力、教師と生徒の乱《らん》闘《とう》、対立、といった事《じ》態《たい》が起っているとか、起りそうというわけではない。
 
 ただ——教室内に異質なものが紛《まぎ》れ込《こ》んでいたのだった。
 
 エヘンと咳《せき》払《ばら》いをして、
 
「ああ——その、本日は、ちょっとした事情から、授業参観の方がおりますが」
 
 と、教師が言った。「ま、みんなあまり気にしないように」
 
 気にするな、って言われても……。
 
 何しろ、女子校の教室の一番後ろに、ドッカと頭の禿《は》げ上った中年男が座《すわ》り込んでいるのだから、気にするなという方が無理である。
 
 詩《し》織《おり》はもう沸《ふつ》騰《とう》寸前。——もちろん、教室の後ろの方に陣《じん》取《ど》っているのは、花《はな》八《や》木《ぎ》刑事なのだ。
 
 詩織を監《かん》視《し》すべく、学校の教室にまで押《お》しかけて来た、というわけだった。
 
 詩織が頭に来るのも当然であろう。
 
 やたらむかっ腹《ぱら》を立てているときの詩織には誰《だれ》もかなわない。
 
「ええと」
 
 四時間目、英文法の教師は、若くてナヨナヨした感じの男の先生だったが、「じゃ、この部分、主語と目的語を入れかえて、文章を作ってみましょう。——成《なる》屋《や》君」
 
 みんなが一《いつ》斉《せい》に詩織を見た。詩織は、一分間にほぼ五回の割で、花八木の方を振《ふ》り返ってにらんでいた。
 
 その内には、振り返っても見えなくなっているんじゃないか、と期待していたのだが、どうも花八木の神経も、そう繊《せん》細《さい》にはできていないらしい。
 
「成屋君。——成屋君は?」
 
 と、先生の呼《よ》ぶ声、耳にはもちろん入っていた。
 
 しかし、詩織はカッカしていたのである。何も悪いことしてないのに、どうして刑事に監視されてなきゃいけないのよ!
 
 そして、怒《おこ》るとなると、もう詩織の怒《いか》りは、あらゆるものへ向けられるのである。
 
「成屋君」
 
 と、もう一度先生に呼ばれると、詩織の怒りは頂点に達した。
 
 どうして私があてられなきゃいけないの?
 
 何も悪いことなんかしてないのに!
 
 もう、理《り》屈《くつ》じゃないのである。
 
 詩織は、椅《い》子《す》をけってパッと立ち上ると、
 
「はーい!」
 
 と、馬《ば》鹿《か》でかい声を出した。「何ですか、先生!」
 
 教師の方は、たじたじとなって、
 
「あ、あの——」
 
「呼《よ》んだんでしょ! 呼んだからにゃ、何か用があったんでしょ! だったら言いなさいよ! 何だってのよ!」
 
 段々声のボリュームと周波数は上り続け、クラス中の子が唖《あ》然《ぜん》として、詩織を見つめていた。
 
「い、いや結構です」
 
 と、教師はなだめるように、「どうぞ——お座《すわ》り下さい、はい」
 
「用もないのに、気安く呼ばないでください!」
 
「すみません」
 
 と、教師の方が謝《あやま》っている。
 
 ところで、詩織のいる教室は、校舎の二階。窓《まど》からは、町《まち》中《なか》のこととて、大して広いとも言えない校庭が見《み》下《お》ろせる。
 
 詩織は窓《まど》際《ぎわ》の席ではないので、座っていたのでは校庭に目が行かないのだが、今、立ち上って、座ろうとした拍《ひよう》子《し》に、ふと校庭に目をやると——。
 
 誰《だれ》かが詩織の方に手を振《ふ》っている。
 
「あ!」
 
 と、思わず詩織は声を上げた。
 
 校庭に立って、校舎の方をニコニコしながら見上げているのは、あの啓子だったのである。
 
 花八木も、さすがに刑事で、その詩織の声でハッと立ち上ると、
 
「何だ!」
 
 と、窓際へと駆《か》け寄った。
 
 詩織は、窓の方へ駆《か》けて行くと、
 
「啓《けい》子《こ》さん! 逃《に》げて!」
 
 と、怒《ど》鳴《な》った。
 
「待て!」
 
 と、花八木が怒鳴った。「警《けい》察《さつ》の者だ!」
 
「逃げて!」
 
「待て!」
 
 並《なら》んだ窓から交《こう》互《ご》に怒鳴っているのだから、下にいる啓子の方が呆《あつ》気《け》に取られるのも、無理はない。
 
 と——詩織は、大きな外車が、校庭へ乗り入れて来たのに気付いた。あの車は、確か……。
 
「種《たね》田《だ》よ!」
 
 と、詩織が怒鳴った。「逃げて!」
 
 啓子もハッと振り向く。
 
 外車は、校庭を一気に突《つ》っ切って来た。
 
 走り出した啓子を、急ハンドルを切って追いかける。
 
 校庭は、時ならぬ追いかけっこの場となってしまった。
 
「危《あぶな》い!」
 
 詩織は、とてもじっとしていられなかった。
 
「エイッ!」
 
 とかけ声をかけると、窓から外へ飛び出した。
 
 いや、スーパーマンじゃないから、飛び出したといっても、いったん両手で、窓のへりからぶら下り、手を離《はな》したのである。
 
 ちょうど真下に、種田の車が——。
 
 ドン、という鈍《にぶ》い音と共に、詩織は車の屋根にバウンドして、転《ころが》り落ちた。
 
 幸い、足も痛《いた》めていない。すぐに立ち上って、啓子の方へ、
 
「校舎の中へ!」
 
 と叫《さけ》んだ。「通り抜《ぬ》けるのよ! ついて来て!」
 
「分《わか》ったわ!」
 
 啓子が詩織の指す方向へと走り出す。二人が校舎へ駆《か》け込《こ》むと、
 
「おい! 待て!」
 
 花八木が、やっと詩織の後を追うために、窓のへりに腰《こし》をおろし、飛びおりようとしていた。
 
「何してんの、早く行けば?」
 
 と、そこを添《そえ》子《こ》が突《つ》いたから、
 
「ワーッ!」
 
 と悲《ひ》鳴《めい》を上げつつ、花八木は落っこちた。
 
 ゴーン、という変な音がした。
 
 また種田の車が下にいて、花八木はその屋根へ、頭から落っこちたのである。
 
 いかに丈《じよう》夫《ぶ》な車でも、花八木の石頭にはかなわなかったらしく、屋根はペコンとへこんでしまった。
 
 その代り、花八木も、もちろん気絶してしまったのだが。
 
 
 
「——花《はな》子《こ》が?」
 
 啓子は、詩織の話に青ざめた。
 
「そうなの。—— 申し訳ないわ」
 
 詩織の涙《るい》腺《せん》は、早くも活動の準備を始めていた。
 
 二人して、学校の裏《うら》手《て》から、細い道を右へ左へと駆け抜けて——その辺は、詩織、お手のものである。
 
 やっと、もう大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》、という所まで来たのだったが……。
 
「あなたに頼《たの》まれながら、こんなことになってしまって……」
 
 と、詩織が、今正《まさ》にワーッと泣《な》き出そうとしたとき、
 
「大丈夫!」
 
 と、啓子が、元気のいい声を出した。
 
「——え?」
 
「花子が、もし種田たちに連《つ》れられて行ったのなら、私をあんな風に追い回す必要ないわけだし、それに花子は運の強い子なの」
 
「そう?」
 
「大丈夫! きっと元気にやってるわ」
 
 啓子はポンと詩織の肩《かた》を叩《たた》いた。「ね、あなたも泣かないで、元気出して」
 
「ありがとう……」
 
 どうも妙《みよう》な具合である。
 
「それより、あなたのお宅《たく》に、すっかりご迷《めい》惑《わく》かけちゃったわね。ごめんなさい」
 
「いいのよ、そんなこと」
 
 と、詩織は言った。「でも、啓子さん、あなた、今、どこにいるの?」
 
「友だちの所なの。まだ、色々やらなきゃいけないことが残ってて」
 
「やらなきゃいけないこと?」
 
「うん」
 
 と、啓子は肯《うなず》いて、「二、三人、殺さなきゃいけないのよね」
 
 と言った。
 
 詩織は、ただ目をパチクリさせて、
 
「じゃ、また」
 
 と、手を振《ふ》って立ち去って行く啓子を見送っていたのだった……。
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