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本日もセンチメンタル22

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:22 コーヒーのシャワー 詩《し》織《おり》は、啓子が〈女《おんな》吸《きゆう》血《けつ》鬼《き》〉の役をやっているお化《
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 22 コーヒーのシャワー
 
 
 詩《し》織《おり》は、啓子が〈女《おんな》吸《きゆう》血《けつ》鬼《き》〉の役をやっているお化《ば》け屋《や》敷《しき》から、やっと花《はな》八《や》木《ぎ》刑事を引っ張り出した。
 
「ああ怖《こわ》かった! ねえ、刑事さん」
 
 と、少しオーバーに花八木にもたれかかって見せたりして、「もう二度とこんな所、来たくないわ」
 
「何だ、さっきは大好きなようなこと、言ってたじゃないか」
 
「そ、そうでした?」
 
「怪《あや》しいぞ。さては、ここから私を引き離《はな》す気だな」
 
 花八木の言葉に、詩織はドキッとした。
 
「そんなの、考え過ぎです!」
 
「あわてるところを見ると、ますます怪しい。——そうか! 読めたぞ!」
 
 花八木は、ちょっと見《み》得《え》を切って、「問題の娘《むすめ》が、このお化け屋敷でアルバイトをやっているのだな? たぶん、お岩《いわ》さんとか女吸血鬼とか」
 
 これには詩織も焦《あせ》った。まさか花八木のカンが、ここまで鋭《するど》いとは、思ってもみなかったのだ。
 
 どうしよう? 花八木をのして気絶させ、スルメにするか——いや、イカじゃなかったんだ。啓子が逃《に》げのびるまで、何とか花八木を引き止めなくては。
 
 場合によっては、殺してでも——なんて、詩織が物《ぶつ》騒《そう》なことを考えていると、花八木がワハハ、と笑って、
 
「そんなことがあるわけがないな。それじゃまるで小説だ。おい、どこかで何か食おう。腹《はら》が減った」
 
 詩織はホッとしながらガックリ来た。ま、花八木に関する認識を改める必要がなかったというのは、結構なことである。
 
 さっき、お昼をたっぷり食べたばかりじゃないの、と思ったが、ここは素直に、
 
「そうね。私もそう思ってたんです」
 
 と言った。
 
 詩織たちは、ホットドッグやコーヒーを売っているカウンターの方へとやって来た。
 
「ここは私が払《はら》おう」
 
 と、花八木が珍《めずら》しいことを言い出した。
 
「でも——」
 
「心配するな」
 
 と、花八木は胸《むね》を張って、「さあ、いくつでも食べていいぞ」
 
 いくつでも、ったってね……。ホットドッグやらハンバーガーを、二つも三つも食べられやしない。
 
「私、飲物だけでいいです」
 
 と、詩織は言った。「ともかく、列に並《なら》ばないと」
 
「うむ。では私にホットドッグを二つとコーラを買って来てくれ」
 
 何よ、要するに人に並んで買わせよう、ってんじゃないの!——飲物一《いつ》杯《ぱい》じゃ合わないわ。
 
 そうグチりつつ、詩織は列の後ろについた。何しろ凄《すご》い人出なので、カウンターの前も長《ちよう》蛇《だ》の列——というのは少々オーバーかもしれないが、まあ十分や十五分は待たされそうだった。
 
「ええと……何にしようかな」
 
 珍しく花八木がおごるというのだから、できるだけ高いものにしてやろう、と思った。
 
 しかし——渡《わた》されたのは千《せん》円《えん》札《さつ》一《いち》枚《まい》で、花八木のホットドッグとコーラの分を引くと、結局、詩織の分はコーラかアイスコーヒーぐらいしか買えない計算になるのだった。
 
 ま、いいや。
 
 それにしても——花八木と一《いつ》旦《たん》はここを出なきゃ。そして、ここが閉《し》まってから、もう一度、啓子と話をするのだ。
 
 啓子が一体誰《だれ》を殺そうとしているのか。詩織は不安だった。
 
 そうだわ、こんな所に呑《のん》気《き》に並《なら》んでる場合じゃない! でも、並んでるんだけど……。
 
 あと三人くらいで、順番が回って来る、という時だった。
 
「おい、アイスコーヒー七つ!」
 
 と、突《とつ》然《ぜん》前の方へ割り込んだ男がいる。
 
「ちょっと! 並んでくれよ」
 
 と、ヒョロリとした学生らしい男の子が文句を言うと、
 
「うるせえ!」
 
 白いスーツのその「割り込み男」がジロッとにらんで、「文句があるのか!」
 
 と、凄《すご》んだ。
 
「い、いえ——どうぞ」
 
 男の子が、二、三歩後ずさりする。
 
 それも無理はないので、何しろ相手は見るからにおっかないヤクザである。しかし……。どこかで見たような、と詩織は首をかしげた。
 
「早くしろ! 親分が待っておいでなんだ!」
 
 せかされて、カウンターの中のバイトの女の子も、焦《あせ》っている。
 
 詩織は周囲を見回した。——と、まぶしく光を反《はん》射《しや》しているもの……。
 
「あ!」
 
 反射していたのは、白いスーツの丸《まる》坊《ぼう》主《ず》だった。
 
 三《み》船《ふね》だ! 詩織の所へ押《お》しかけて来て家具を壊《こわ》し、家を引っくり返そうとした連中である。
 
 あの時は、手下も三人だけだったが、今日《きよう》は、ズラリ五人も揃《そろ》えている。いや、今、アイスコーヒーを買っているのを加えると六人だ。
 
「おい、盆《ぼん》にのせろ!」
 
 七つも手で持てるわけがない。
 
「あの……お盆、ないんですけど」
 
 と、バイトの女の子が言うと、
 
「じゃ、お前が一《いつ》緒《しよ》に運んで来い」
 
「は、はい……」
 
 可《か》哀《わい》そうに!——詩織は震《ふる》え上っているその女の子を見て、つい同情してしまった。
 
 同情すると、後先も考えずに行動するのが詩織のくせである。
 
「私、持ってあげるわ」
 
 と、進み出た。
 
「ほう、感心だな」
 
 と、男が言った。「よし、俺《おれ》が二つ持つから、お前、五つ持て」
 
 そんな不公平な!——しかし、意地になった詩織は、両手でアイスコーヒーの紙コップを五つ、ギュッと挟《はさ》むようにして持つと、男の後をついて行った。
 
 三船は、木かげのベンチにドカッと腰《こし》をおろしている。
 
「——親分、アイスコーヒーです」
 
「遅《おそ》いじゃねえか! 早くよこせ」
 
「はい」
 
 詩織は、三船の方へ、紙コップを一つ差し出そうとしたが……。五つも持っていて、その内の一つを差し出すというのは、非常にむずかしいのである。
 
 おっとっと……。
 
 ツルッ、と手がすべった。アッと思った時には、アイスコーヒーの紙コップは次々に詩織の手の中から飛び出して——もろに三船の頭からコーヒーが降《ふ》り注《そそ》いだのである。
 
 ——やばい! 詩織は、青ざめた。
 
 三船は、ツルツルの頭を、さらに光らせて、じっと座《すわ》っていた。
 
「——あ、こいつ!」
 
 と、子分の一人が詩織に気付いた。「あの家の小《こ》娘《むすめ》だ!」
 
「そうか……」
 
 三船がギュッと拳《こぶし》を固める。「——いい度《ど》胸《きよう》だな」
 
「あ、あの——ごめんなさい」
 
 詩織としても、相手はともかく、コーヒーを頭からかけてしまったことは反省していたのである。
 
「わざとやったとしか思えねえな」
 
 気が付くと、三船の子分たちが、グルッと詩織を取り囲んでいる。さすがに詩織も焦《あせ》った。
 
 花八木は? すぐそばにいるはずなのに!
 
「私に何かしたら、すぐ近くに刑事さんがいるのよ!」
 
 と、詩織が言った。
 
「そうか。じゃ、呼《よ》んでみろ」
 
「刑事さん! 花八木さん!」
 
 と、詩織は叫《さけ》んだ。
 
 たちまち花八木が駆《か》けつけて——は来なかった。なぜか、一向に返事がない。
 
「どうやら、風をくらって逃《に》げたらしいぜ」
 
 と、子分の一人が笑った。
 
 もう! 肝《かん》心《じん》の時になるといないんだから!
 
「このスーツ、どうしてくれる?」
 
 と、三船が言った。
 
 白いスーツが、コーヒーの色で、ぶちの犬みたいになっちゃっているのだ。
 
「クリーニングに出せば、落ちると思いますけど」
 
 と、詩織は言った。
 
「面《おも》白《しろ》い。お前も一《いつ》緒《しよ》に洗《せん》濯《たく》機《き》に放り込んでやろうか。おい、こいつをひねっちまえ」
 
 簡《かん》単《たん》にひねられてたまるか!
 
 詩織は思い切って、正面の三船に体当りした。
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