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本日もセンチメンタル31

时间: 2018-06-29    进入日语论坛
核心提示:31 詩《し》織《おり》の帰島 今度は、花《はな》八《や》木《ぎ》も迷《まよ》わず、竜《りゆう》崎《ざき》幸《さち》子《こ
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 31 詩《し》織《おり》の帰島
 
 
 今度は、花《はな》八《や》木《ぎ》も迷《まよ》わず、竜《りゆう》崎《ざき》幸《さち》子《こ》の事務所に直通のエレベーターに乗ろうとした。
 
「あの——」
 
 と、受《うけ》付《つけ》嬢《じよう》が呼び止める。「どちら様でいらっしゃいますか」
 
「こちら様だ」
 
 と、花八木は、警《けい》察《さつ》手帳を見せた。
 
「では、お取り次ぎいたしますが——」
 
「必要ない!」
 
 花八木はエレベーターの扉《とびら》が開いていたので、隆《たか》志《し》と一《いつ》緒《しよ》にさっさと乗り込《こ》んだ。
 
「あの——」
 
 と、受付嬢が言いかけた時には、すでに扉が閉《と》じ、エレベーターが上りはじめていた。
 
「困《こま》ったわ……」
 
 と、呟《つぶや》いていると、作業服を着た男がやって来た。
 
「おい、誰《だれ》だい、エレベーターを動かしたのは?」
 
「止める間もなく、乗っちゃったんです」
 
 と、受《うけ》付《つけ》嬢《じよう》が弁解する。
 
「困《こま》るなあ。〈故《こ》障《しよう》中〉って札《ふだ》が目に入らねえのかな」
 
 ゴトン、という音が聞こえて、エレベーターが動いていることを示す矢印の明りが消えた。
 
「見ろ! 途《と》中《ちゆう》で停《とま》っちまった」
 
「どうしましょ?」
 
「しょうがねえな。何人乗ってる?」
 
「二人です」
 
「二人か。——ま、そうすぐにゃ死なねえだろう」
 
 と、その男はのんびりと言った。「少し冷《ひや》汗《あせ》をかくのも、ためになるぜ。この次からは少し用心してエレベーターに乗るようになるだろうしな」
 
「だけど——」
 
「ちょっと昼飯を食ってくらあ。帰ってから修理するよ」
 
 作業服の男は、さっさと行ってしまった。
 
「だけど……大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》なのかしら?」
 
 と、受付嬢が困っていると、
 
「どうしたの?」
 
 と、やって来たのは、当のお竜である。「受付が空《から》よ」
 
「あ、すみません」
 
「お客様がみえたら困るでしょ。ちゃんと座《すわ》ってて」
 
「はい」
 
「あら、故《こ》障《しよう》してんのね」
 
 と、お竜《りゆう》—— 竜崎幸子はエレベーターを見て、「じゃ向うのを使うわ」
 
「あの、実は——」
 
 受付嬢が言いかけるのなど、耳にも入らない様子で、竜崎幸子は、忙《いそが》しげに他《ほか》のエレベーターの方へ歩いて行ってしまった。
 
 受付嬢は、故障して、途《と》中《ちゆう》で停《とま》ってしまっているエレベーターの方を見て、少し迷《まよ》っていたが、
 
「私が直せるわけじゃないんだし」
 
 と、自分に言い聞かせるように言って、ヒョイと肩《かた》をすくめると、受付の方へ戻《もど》って行った。
 
 ちょうど、幸子の子会社の社長がやって来たところで、
 
「あ、いらっしゃいませ!」
 
 と、受付嬢は足を速めた。
 
 エレベーターの中の二人のことは、きれいに頭の中から消えてしまっていた……。
 
 
 
 船《ふな》旅《たび》っていうのもいいもんね。
 
 詩織は、モーターボートの快適なエンジン音を聞きながら、波の上下につれて、ゆったりと持ち上げられる、その独得の快感を味わっていた。
 
 潮《しお》風《かぜ》は快く、陽《ひ》ざしもそう強くはなかった。
 
「今度はクイーン・エリザベス号に乗ろうかしら」
 
 と、大分スケールの違《ちが》う「船旅」のことを考えている。
 
 でも——何てことだろう。こうして呑《のん》気《き》にしているが(当人のせいというよりは、作者のせいだが)、考えてみれば恐《おそ》ろしい事件である。
 
 種《たね》田《だ》に始まって、三《み》船《ふね》和《かず》也《や》、そして緑《みどり》小《こう》路《じ》金《きん》太《た》郎《ろう》……。次々に殺されてしまった。
 
 一体誰《だれ》がやったのか?
 
 緑小路の場合は、あの島の中に犯人がいたはずである。もちろん、詩織もいたわけだが、いくらぼんやりしていることの多い詩織でも、人を刺《さ》したことを忘《わす》れているわけがない。
 
 となると、犯人があの島にいるということになる。このボートでやって来て……。
 
 待てよ。——詩織は考えた。
 
 テストの時ぐらいしか、こんなに真剣に考えることはない。
 
 このボートで、犯人が来たとすれば、あの金太郎は、どうやって島へ来たのか?
 
 熊《くま》にまたがって? それじゃ花八木みたいな答えだ!
 
「そうだわ。緑小路が、このボートでやって来たのかもしれない」
 
 すると、犯人は?
 
 一応、詩織は、目を覚《さ》ました時、あの別《べつ》荘《そう》の中を、誰かいないかと捜《さが》し回っている。その時は、誰もいないように見えたのだが……。
 
 ヘリコプターで来たとすれば、凄《すご》い音がしただろうから、いくら詩織でも、それと分《わか》ったに違《ちが》いない。
 
 すると……。あの別荘のどこかに、隠《かく》れ場所があるのかもしれない。
 
 隠れ場所?——隠れる。啓《けい》子《こ》さんが?
 
 もしかすると、啓子が、あそこに隠れているのかもしれない。
 
「そうだわ、やはり、警《けい》察《さつ》の手に引き渡《わた》す前に、会って事情を聞くべきだわ」
 
 と、公平な精神の持主の詩織は、考えたのだった。
 
 やむを得ない事情がある、と分ったら、啓子をこのボートでアメリカへでも逃《に》がして(!)後は詩織が引き受ける。——これはなかなかドラマチックなパターンである。
 
 詩織は、警官隊に取り囲まれて、機《き》関《かん》銃《じゆう》を撃《う》ちまくりながら、あえない最《さい》期《ご》をとげる、こんなシーンを想像して、ぐっと胸《むね》が迫《せま》り、涙《なみだ》ぐんだ。
 
「私一人が犠《ぎ》牲《せい》になれば、みんなが幸《しあわ》せなんだわ。啓子さんも花《はな》子《こ》ちゃんも、桜《さくら》木《ぎ》さんも、隆《たか》志《し》も……。隆志が何で幸せなのよ! 冗《じよう》談《だん》じゃないわ! 隆志一人を幸せにして、どうして私が死ななきゃならないの? とんでもないわ!」
 
 と、勝手に腹《はら》を立てて、「そうだわ。代りに隆志に死んでもらえばいいんだわ。私の服を着せて、変《へん》装《そう》させて」
 
 めちゃくちゃである。
 
 詩織は決心した。——島へ戻《もど》るのだ!
 
 詩織の決心は、しばしば唐《とう》突《とつ》なのである。
 
 ボートの向きを変えて、詩織は島へ戻ろうと……。
 
「あら」
 
 ——島がない! 「ど、どこへ逃げたのよ! ずるい! そんな卑《ひ》怯《きよう》な!」
 
 要するに、方向も分らず、めちゃくちゃに走って来たので、島がずっと横の方向になっていたのだ。
 
 しかし、詩織もかなり幸運な人間らしく、いい加減に右、左とボートを走らせていると、その内、島の姿《すがた》が、目に入った。
 
「やった!」
 
 と、詩織は小《こ》躍《おど》りして、天に感謝した。
 
 ボートはやがて島に近付いて行ったが……。
 
「どうやって止めるの?」
 
 と、呟《つぶや》いた時、もう島は目の前だった。
 
 このままじゃ衝《しよう》突《とつ》する! 岩が、正面に迫《せま》って来た。
 
「キャーッ! あっちに行って!」
 
 と、詩織は頭をかかえた。
 
 こういう場合、あまり適切な対応とは言えなかったのだが——。
 
 ドカン。ボートはもろに岩にぶつかり、詩織は、哀《あわ》れ海中に没《ぼつ》して、この物語が終ると、やはり作者としても気がとがめる。
 
 詩織は、ボートが岩に乗り上げた弾《はず》みで、投げ出され、頭から海の中へと突《つ》っ込《こ》んだ。
 
 ——やっとこ這《は》い上ると、詩織は、助けに来てくれない隆志を恨《うら》みながら(隆志の方も迷《めい》惑《わく》だろうが)、よろよろと、別《べつ》荘《そう》へと歩いて行った。
 
「—— 失礼します」
 
 と、中へ入って、肩《かた》で息をつきながら、「まず着《き》替《が》えだわ」
 
 と、階段を上ろうとすると、
 
「ワー」
 
 と、声がした。
 
「ん?」
 
 今のは……赤ん坊《ぼう》の声!
 
 詩織は、 声がしたらしい方向—— 台所の方へと歩いて行った。
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