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赤いこうもり傘07

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:6 公園にて(月曜日〜火曜日)「聞いてくれ」 会田がテープを回した。低い男の声だ。「金は用意したか?」「した。場所と時間
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 6 公園にて(月曜日〜火曜日)
 
「聞いてくれ」
 会田がテープを回した。低い男の声だ。
「金は用意したか?」
「した。場所と時間は?」
 返事をしているのは会田の声である。
「新宿のN公園へ持って来い。今夜、午前一時だ」
「公園のどこだ?」
「中をゆっくり歩き回っていれば、こちらで見つける。見張りなど置くなよ」
「分かっている。こっちの目印は?」
「白いボストンバッグに入れて持つんだ。それから持って来るのは女にしろ」
「女だって? しかし——」
「女だ。分かったな。ただし婦人警官などはだめだぞ。見ればすぐに分かる。少しでも怪しいことがあれば、ヴァイオリンはただの板っきれになって戻る」
 電話は切れた。会田はテープを止めて、
「逆探知はしなかった」
「結構だ。どうせ無駄さ」
 ジェイムスは瞳が話を英語で説明すると、顔をしかめた。
「女か。——大使館の職員を使う他なさそうだな。場所はどんな所だ?」
「巧《うま》い所を選んでるよ」
 会田は口《く》惜《や》しげに、「夜はアベックで満員になる。張り込むのは難しい。もっと人気のない所ならいいのにな」
「向こうには向こうの事情があるさ」
 ジェイムスはニヤリと笑った。
「アベックのふりをして張り込めばいいのに」
 瞳が口を出した。会田は首を振って、
「人手がない。警察の協力は得られないんだ。ここだけで処理しろという命令だ」
「ともかく時間がない。金を持って行く人間を決めよう」
「俺が女装してもむりだろうなあ」
 会田は残念そうに言った。
「熊の毛皮なら似合うかもしれないがね」
 ジェイムスがからかった。「さて、そんなことのできる女性がいるかね?」
「ここの事務に女性はいるが、事情を打ち明けないわけにはいかんし……」
「口外されてはことだな。大使の秘書あたりにいないか?」
「日本では有能な女性秘書は少ないんだ。口を閉じていられるほどのはいないね」
「あの……」
 瞳が口を出した。「よかったら私が……」
「それはだめだ!」
 会田がびっくりして、「君は部外者で、しかも子供だ」
 瞳はむっとして、
「私は事件のことを知ってるし、もう大人です!」
「しかし、危険すぎる」
「いいじゃないか」
 ジェイムスが言った。
「おい!」
「他に適当な女性はいないよ。彼女なら大丈夫だ」
「ええ! 必ず、ちゃんとやってみせます!」
「頼むよ。ただし、犯人を捕らえようとか、尾行しようとか、妙な考えを起こしては困る。いいね?」
「分かりました」
「まあ、その赤いこうもり傘を持って行くぐらいはいいだろうがね。護身用に」
「じゃ、我々はどうするんだ?」
 と会田が訊いた。
「そうだな……。何とか公園に極力近い所で見張る他はあるまい」
「それぞれ公園の出入り口に、乏しい部下を配置しよう。くそっ! もっと人手が使えたらなあ! これじゃ破れた網で魚を取るようなもんだ」
「魚は手だって取れるさ」
 ジェイムスが至って呑《のん》気《き》に言った。
 
 高校生売春から中学生売春。最近では小学生までそんな事件がある。瞳だって人並みにそんな話題に興味があるから、週刊誌などで記事を読むこともある。でも、週刊誌の取り上げ方はいささか大げさで、興味本位だ、と思っていた。実際、そんなことをしている学生なんて、ほんの一部のまた一部で、大部分は自分のように(!)真面目に学校へ通っているんだと信じていた。大体親や兄弟、友だちだっているのに、その目を盗んでそんなことできるわけがない……。
 しかし——しかし、である。この夜、十二時四十分に、右手に赤いこうもり傘、左手に白いボストンバッグを下げて、N公園へ入って行った時、瞳は自分の信念が激しくぐらつくのを感じた。
 いるわいるわ……。ほの暗い街灯の下、ずらりと並んだベンチは、まだ若いアベックが鈴なりといっていいほどの盛況ぶりだ。よくもこれだけ集まるものだと呆れてしまった。
 しかし、のんびり見物している暇はないのである。瞳はボストンバッグをしっかり握り直した。手に汗がにじんでいる。別にアベックを見たからではない。何しろ中身は一億円である! 札束を入れる手伝いをしながら、思わず額の汗を拭《ぬぐ》ったものだ。
 瞳は目立つように、明るいクリーム色のセーター、オレンジ色のパンタロン、それにいざというとき走れるように、軽いキャンパスシューズをはいている。
 ゆっくりと公園の砂利道を進みながら、胸元のペンダントに軽く触れてみる。何の変哲もないペンダントだが、小型マイクになっているのだ。
「聞こえるかね?」
 いきなり耳もとで声がして、飛び上がりそうになる。——あ、そうだ、イヤリングに受信機が仕掛けてあるんだっけ。
「は、はい、聞こえます」
「もっと小さな声で」
 ジェイムスの声がした。「囁《ささや》くぐらいで、十分聞こえる。耳が痛くなっちまうよ」
「分かりました」
「そう、それでいい。どうだね、様子は?」
「今の所、何も」
「まだ少し時間が早い。ゆっくり歩いていてくれ」
「はい」
 瞳の胸が次第に鼓動を早める。身代金の運搬なんて初めてだし——当たり前のことだが——、ジェイムスに言われていたものの、もし犯人が暴力でも振るおうとすれば、このこうもり傘で叩きのめしてやろうと秘かに考えていたのだから、それも無理からぬことだったが、そればかりでもない。
 何しろ、両側に並んだアベックたちへ、この中に犯人がいるかもしれないと思いつつチラチラと目を走らせて行くのだが、目に入るのが凄い光景ばかり。肩を抱き寄せたり、手を握り合ったりなんて、おとなしいのは一組もなくて、抱き合い、キスしているのはまだいい方で、ブラウスのボタンを外して胸元ヘ手を入れていたり、スカートがまくれ上がって太ももも露《あら》わなのも目につく。
 周囲がやっているので、みんなお互い大胆になってしまうのだろうが、ハアハア荒い息づかい、甘えるような笑い声……もう瞳は公園の中心まで着かないうちに、いい加減くたびれてしまった。
 公園の中央には噴水が七色の照明に照らされて美しい幻想的なバレエを踊っている。
「中央の噴水に来ました」
 瞳は囁いた。
「よし、そこで一時になるまで少し座っていてくれ」
「はい……」
 困っちゃったな。座っててくれったって、ベンチはみんなアベックで一杯。噴水の周囲は 水しぶきが夜風に乗って飛んで来るし、こっちの様子も知らないで、座ってろなんて!
 空いたベンチを捜して、空しくあちこちうろうろしてから、瞳は諦《あきら》めて、植え込みの前の芝生ヘハンカチを敷いて腰を降ろした。腕時計を見ると、十二時五十分だった。油断なくあたりに気を配っているうち、瞳はとんでもない場所に座ってしまったことに気付いた。後ろの植え込みの陰で何やらゴソゴソ音がすると思ったら、どこやらのアベックが、さすがに人前ではできかねるようなことをやっているらしいのだ。極力無視していたが、そのうち、女の喘ぐ声が段々高くなって来て、瞳はいたたまれなくなってしまった。
「どこか他を捜そう……」
 と立ち上がって、腹立ちまぎれに、植え込みの方へ、「もうちょっと静かにしてよ!」
 と言ってやると、歩き出そうとした。
「待ちなよ!」
 声に振り向くと、植え込みの陰から、高校生らしい娘が立ち上がった。セーラー服姿である。——何てことだろう!
「何か用?」
 瞳はツンとして訊いた。
「今、何て言ったのさ?」
「少し静かにしろって言ったのよ」
「フン、もてないからって嫉《や》いてやがるんだね」
 これは相当の不良だな、と瞳は思った。男の方が立ち上がった。これは大学生らしい。やはり学生服の、それも柔道でもやっていそうな大男だ。
「何か文句あるのかい?」
 と女学生がしつこく絡んで来る。瞳は胸がムカついたが、今は、こんな連中と喧嘩してはいられない。
「勝手にしなさい。失礼するわ」
 とくるっと背を向けて歩き出した。三歩と行かないうちに、突然凄い力で後ろから抱きつかれた。
「何するのよ!」
 馬鹿力で、男は瞳をかかえ上げると、植え込みの陰へ放り出した。はね起きようとするところへ、巨体がどさっとのしかかって来る。
「やめて!」
 叫ぼうとするのを、女学生の方が瞳の顔にハンカチを押し当てて口をふさぐ。
「さあ、やっちまいな! 構やしないよ」
 男の手が瞳のセーターをたくし上げる。瞳は必死で、女学生の顔のあたりに見当をつけ、拳《こぶし》を振り回した。ガツンと手応えがあって、
「痛えっ!」
 女学生が仰向けに倒れる。瞳は大男の片手を引っつかむと、思い切りかみついた。
「ワッ!」
 堪《たま》らずうめいて、男の力がゆるんだのを見て、瞳は力一杯、体をねじった。フェンシングで鍛えた体のばねである。大男が横倒しに転がった。はね起きた瞳は植え込みを飛び越し、落ちていたこうもり傘をつかんだ。——さあ来い!
 女学生の方が形相も凄まじく追って来る。
「こいつ!」
 つかみかかって来るのをやりすごして足を払うと、相手は地べたへ転がった。立ち上がろうとするところへ、鋭い突きが決まって、女学生は気を失って倒れた。植え込みを押し分けて男の方が現れると、瞳は身構えた。その時、どこから現れたのか、ジェイムスが間に割って入ったと思うと、強烈なパンチが飛んで、あの大男が完全に三十センチも躍り上がって、のびてしまった。
「大丈夫か?」
「ええ……」
 瞳は肩で息をしながら、「すみません……」
「様子がおかしいんで飛んで来たんだ」
 ジェイムスも走って来たせいか、息を切らしている。「——ボストンバッグは?」
「さっき抱きつかれた時、ここに落として——」
 瞳は見回してハッとした。バッグがない!
「ないわ! 傘は落ちてたのに」
 ジェイムスは胸のネクタイピンヘ、
「誰かがバッグを持ち去ったぞ! 見張るんだ!」
 ジェイムスは瞳の腕を取って、「さ、捜そう。遠くへ行くはずはない!」
 瞳とジェイムスは急ぎ足で公園の中を歩き回った。
「——いない」
「外へ出たんでしょうか?」
 そこへ会田の声がした。
「ジェイムス、どうだ?」
「そっちは?」
「誰《だれ》も出て来ないよ」
「よし、それならまだ中だ。植え込みの陰や木の間を捜すんだ!」
 二人は隈なく植え込みの後ろや小径の奥まで捜し回った。しかし見つかるのはアベックばかり。
「だめだ。夜中だし、これ以上捜しても無駄だろう」
「どうするんですの?」
「出口を徹底的に見張るんだ。朝までにはきっと出て来る」
 二人は公園を出て車へ戻った。
「すみません」
 瞳はすっかりしょげていた。「私が、あんな騒ぎを起こしたばっかりに……」
「いいさ。君の身の安全の方が大切だ。こっちも悪かったんだよ」
「でも……」
「きっとバッグを持って出て来るさ」
 しかし徹夜の見張りも空《むな》しかった。それらしい荷物を持った人間は出て来なかったし、明るくなってから全員で公園の中を捜し回ったが、ついに白いバッグは見つからなかったのだ。
 大使館へ戻った一行を待っていたのは、犯人からの新しい要求だった。
「妙な奴らを張り込ませやがったな。……一億円は罰金としていただいておく。……あと一億円用意しろ。支払い方法はまた連絡する」
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