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赤いこうもり傘14

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:13 ロープウェイ(金曜日)「一緒に行っちゃいけないの?」「だめだめ」「どうして?」「ヘリコプターのレーダーで犯人を追跡す
(单词翻译:双击或拖选)
 13 ロープウェイ(金曜日)
 
 
「一緒に行っちゃいけないの?」
「だめだめ」
「どうして?」
「ヘリコプターのレーダーで犯人を追跡するんだ。場合によっては撃ち合いになるかもしれない」
「じゃ私は何してればいいんですか?」
「部屋でおとなしくしていればいいのさ。それじゃ出かけて来るよ」
「ジェイムス! 気を付けて」
 ジェイムスはちょっとウインクして見せると、ホテルの玄関を出て行った。
 瞳はロビーで時計を見た。九時半だ。犯人の指定して来たのは十一時だが、ヘリコプターがかなり離れた場所に置いてあるので、早目に出かけたのだ。
 ラウンジヘ行ってハムエッグの朝食を取っていると、
「おはよう!」
 と声がして、水島早苗が元気よく歩いて来た。
「おはようございます」
 瞳は冷ややかに言った。
「いかが、元気?」
「ええ」
「そう、よかった」
 と瞳の向かい側へ座り込む。「もうそろそろ出発するんだけど、コーヒーを一杯飲んでおきたくてね」
「お気をつけて」
 ゴンドラから落っこっちゃえ、と心の中で舌を出す。
「ね、ジェイムスってすてきな人でしょ? まあ、あなたなんかまだ若いから、よく分からないでしょうけど……」
 早苗がコーヒーを飲みながら、わざとらしく、「大人の恋のできる女性でないとだめなのよ。あの人と付き合おうと思うとね」
 瞳は頭にきて、
「どういう意味ですか?」
「別に、ただ、ちょっとそう思っただけ」
 とコーヒーをぐっと飲みほし、「さあ、大切な任務を済ませて来ましょう。あなたはもう東京へ戻るんでしょ?」
「いいえ!」
「あら、そう。じゃ後でね」
 瞳はカッカしながら、ハムエッグを平らげると、ロビーに出た。会田が白いボストンバッグを手に、早苗と何やら話をしていた。一億円をもって東京から飛んで来たのだ。それを眺めながら、瞳は口惜しさに唇をかんだ。私が行くはずだったのに……。あの出しゃばり女が。
「そうだわ」
 瞳は、思わず呟いた。あの女一人に行かせてなるものか。瞳は自分の部屋へ駆け戻ると、こうもり傘を持って来た。ちょうど会田と早苗の乗った車がホテルの正面から走り去るところだった。瞳は玄関から飛び出し、待っているタクシーヘ飛び込むと、
「あの車について行って下さい!」
 車は強《ごう》羅《ら》へ出た。ここからケーブルカーで、ロープウェイのある早雲山へと十分ほどで登るのだ。
 すばらしくいい天気で、風が爽《さわ》やかだった。旅行にはいい季節だが、今日は平日のせいか、ケーブルカーもガラ空きである。
 太いワイヤーに引っ張られて、ケーブルカーが急な斜面を上がって行く。この車両は、それ自体が傾けて作ってあり、中は階段状になっている。
 早苗と会田は一台前のケーブルカーで上がっていっている。しかしまだ時間が早い。きっとロープウェイの乗り場で追いつけるだろう。
 早雲山でケーブルカーを降りれば、ロープウェイの乗り場にすぐ連絡している。
 十一時二分前だ。もう早苗は乗り込んでいるだろうか。
 急いで切符を買った。
 瞳は狭い階段を上がりかけて、会田が降りて来るのに気付いた。慌てて物陰に身を隠してやりすごし、階段をかけ上がる。そこはロープウェイの折り返し点で、巨大な歯車が油にまみれながら回転し、外からやってきたゴンドラは、そのままUターンして再び出て行くのである。
 ゴンドラが一つ空中へ送り出されて行くところだった。六十秒の間隔で、すぐに次の箱がやって来るのだ。じっと目をこらすと、二台前のゴンドラに、早苗の姿が見える。
「はい、乗って」
 係員の声で、瞳はゴンドラヘ乗り込んだ。幸い、他に客はいない。瞳の乗ったゴンドラはグラリと一揺れすると、空中へ出て行った。
 ゴンドラは初めのうち、地面からそう高くないあたりを進んで行った。自動車道路がすぐ下を走っていると思うと、山道を行くハイカーたちの姿が手に取るように分かる。
 瞳は、何か犯人の合図らしいものはないかとじっと眼下に目をこらした。
 やがてゴンドラは大涌谷の上へとさしかかる。それまで数十メートル間隔で立っていた支えの鉄塔が、ここは数百メートルにわたって、一本もない。つまり完全に谷の間はワイヤーにぶら下がったままで進んで行くのである。
 荒涼とした雄大な光景が眼下に広がっている。岩だらけの谷底には、方々から湯気が立ち昇り、谷全体が硫黄の色に白っぽく塗り上げられている。湯気の噴き出しているあたりでは、絵の具を落としたように鮮やかな黄色が、陽光にまぶしいほどであった。
 ここは犯人だって出て来られないだろう。
 瞳も、初めてではないが、いつ見ても壮大な景観に見入った。
 何しろ地面からの高さが百三十メートルあるのだ。——ここから落ちたら、などと考えただけで、足がすくむ思いである。
 すれ違うゴンドラから、子供が手を振っているのを見て、瞳も手を振った。
 やがて大涌谷の展望台が近付いて来る。
「やれやれ……」
 ここまでは犯人も現れなかった。大涌谷からゴンドラは山の深い木々を見降ろしながら、次の姥子駅へ向かう。
 瞳がはっとしたのは、ゴンドラが、ちょうど大涌谷駅と姥子駅の中間あたりにさしかかったときだった。
 早苗の乗ったゴンドラが近付いて行く鉄塔の上に人影があった。鉄塔はどれも修理のできるように、ワイヤーのすぐ下が足場になっていて、鉄のはしごで登り降りができる。その足場の所に皮ジャンパーを着て、サングラスをかけた男が待ち受けていて、ゴンドラが近付いて行くと、ハンカチを振った。
 早苗がボストンバッグを手に、ゴンドラがその鉄塔の真上へさしかかるのを待っていた。
 早苗がドアを開いて、ボストンバッグを放り出す。下の男は巧くバッグを抱き止めた。
 瞳は窓から、男の様子を見守った。男はかがみ込んで何か忙しそうに動いている。
「何してるのかしら……?」
 男は鉄塔を素早く降り始めた。その手には布の袋がある。白いボストンバッグは足場に残ったままだ。
「入れかえて行ったんだわ!」
 瞳は、唖《あ》然《ぜん》とした。敵も用心したのだろう。あれではレーダーも役に立たない。
「みすみす一億円くれてやるのもシャクだなあ」
 どうしよう? 瞳は一瞬迷ったが、すぐに決心した。今の男を追いかけてやる。次の鉄塔で飛び降りればいい。大した高さじゃない。
 次の鉄塔はもう目前だった。ためらっている暇はない。ドアを開けて、ゴンドラから身を乗り出す。そして一旦、両手でぶら下がると、足場の真上へさしかかった時、エイッと飛び降りた。二メートルほどの高さで、ショックはあったが、何とか足場の囲いの中へ落ちた。すぐに立ち上がって細いはしごを降りて行く。
 金を持って行った男の姿は、深い木立に遮られて見えなかったが、まだそう離れてはいないはずだ。急げば追いつける。
 はしごを降り切って、駆け出そうとした瞳は、ギクリとして足を止めた。周囲の木立の陰から、皮ジャンパーの男たちが数人、姿を現したのだ。
 しまった、と思った。——相手は五人いた。手に手にナイフやチェーンを持っている。瞳は思い切って正面の相手に突っ込んで行った。一人の投げた棒きれが足にからまり、瞳はうつ伏せに倒れた。起き上がる間もなかった。瞳はどっと上から押さえ込まれてしまった。
 
 どれくらい気を失っていたのか、瞳は体中の刺すような痛みに意識を取り戻した。
「——おい、気がついたようだぜ」
 若い男の声がした。頭を振って目を開く。山荘風の居間らしい部屋だった。長椅子に皮ジャンパーの若者たちが寝そべっているのが目に入った。まだずいぶん若い。みんな二十歳前だろう。
 身動きしようとして、瞳は手足を縛られているのに気付いた。血が通わないので、しびれて感覚が失くなっている。
「まあ、我慢しなよ」
 若者の一人が立ち上がって近寄って来た。まだほとんど童顔といってもいい顔立ちである。
「あなたたちは一体何なの?」
 声が弱々しく震えている。こんなことでどうするの! 瞳は気持ちを引きしめた。
「悪く思うなよ。俺たちも頼まれてやってるだけなんだ」
「おい! しゃべるな!」
 厳しい声が飛んで来た。声の方を見ると、部屋の入り口に、やや年長の若者が立っていた。皮ジャンパー姿は同じだが、年齢は二十三、四というところだろう。ほっそりとして、背が高く、リーダー格らしい落ち着きがある。
「余計なことをしゃべるなと言われてるだろう」
「分かったよ」
 童顔の若者が肩をそびやかして長椅子へ戻った。
「お前も口を開くな、いいか」
 リーダーらしい若者が、瞳の前へ来て言った。瞳はまっすぐその目をにらみ返した。その若者の顔立ちに、瞳はどこか見憶えがあった。——誰だろう? 会ったことがあるのだろうか? どこで見たんだろう?
「痛い目に会いたくなかったら、おとなしくしてるんだ。分かったか」
 と背を向けて行きかける。
「待って! 教えてちょうだい。ヴァイオリンは戻ったの?」
 リーダーの若者は小馬鹿にしたような笑みを浮かべて振り向くと、
「あそこさ」
 と顎《あご》でしゃくって見せた。斜め後ろを振り返ると、ヴァイオリンのケースが十個余り、壁際に無造作に積んである。
「初めから返す気はなかったのね!」
「こっちの知ったことじゃない」
「そうさ」
 他の若者が口を挟んだ。「まだまだ安いって話じゃねえか」
「今、何時なの?」
「夕方の四時さ」
 間もなく、BBC交響楽団の一行は、東京へ発つはずである。ついに楽器は戻らなかった。明日の朝には、演奏会の中止が発表されるだろう。瞳は体中から力が抜けてしまうような気がした。
 いや、まだ諦めてはいけない。ジェイムスが救いに来てくれるかもしれない。——だが、バッグに仕掛けた発信機は何の役にも立たない。広い箱根の山中で、果たして見つけることができるだろうか?
 その時、ドアが開いた。——リーダーの若者がソファから立ち上がって、
「気が付いたぜ、この娘。どうするんだ?」
「さあ……」
 部屋へ入って来ると、水島早苗は笑顔で言った。「どうしようかしら」
 
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