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黒い壁09

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:9 トンネル 長くは居られなかった。 思いの他、その駅は遠く、またその〈ホーム〉も駅から遠かったのである。 説子との待ち
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 9 トンネル
 
 長くは居られなかった。
 
 思いの他、その駅は遠く、またその〈ホーム〉も駅から遠かったのである。
 
 ——説子との待ち合せに、少し遅れてしまうかもしれない。
 
 ロビーのソファで待つ間、利根は明るく日の射し込む窓から、芝生をゆっくりと散歩する老人たちを眺めた。
 
 一人で杖をついて歩く者、手を引かれて歩く者、車椅子を押してもらう者……。
 
 どれもゆっくりとした動きで、ここでは時間の流れ方が違っているようだった。
 
「——どうも」
 
 と、声がして、振り向くと、ガウン姿の老婦人が、一歩ずつ踏みしめるようにしてやって来た。
 
 白髪の、この人が?——記憶の中の顔と、それは一致しなかった。
 
「あの……野川卓也君のお母様ですか」
 
 と、利根は立ち上って言った。
 
「そうですが……」
 
「私は大学で一緒だった利根という者です。ご記憶にないと思いますが」
 
 老婦人の目が見開かれて、
 
「まあ! 利根さん。利根貞男さんね」
 
 利根はびっくりした。
 
「憶《おぼ》えていて下さったんですか」
 
「もちろん! うちでよくご飯を食べて行ったわ」
 
 と、ソファに座って、「何てよく食べる人かと呆《あき》れたもんだわ」
 
「いや、若かったですから」
 
 利根も、やっとその笑顔に、かつての面影を見出した。
 
「——主人は亡くなって、私もね、一人でいるのもつまらないし、ここが空いていたんで入ったの。ここで死ぬことになるでしょうね」
 
 七十歳ぐらいだろうか、見た目は老けていても、言葉も表情も若々しいものがあった。
 
「突然お邪魔してすみません」
 
「いえいえ。退屈ですもの。お客は大歓迎よ」
 
「実は——同じ大学で一年下だった永井という男が、ちょっと色々あって、問題を起したんです。姿をくらまして、行方が分らないままでして」
 
「あの人? 奥さんを撃ち殺したっていう……」
 
「ご存知でしたか」
 
「手配の写真を見て、どこかで見たことがあると思ってたの。永井って姓もね」
 
 大したものだ。——利根は舌を巻いた。
 
「それで、もしかしたら、卓也君が何か知らないかと思って。——確か、一緒にドイツへ行っていたんです」
 
「卓也が……」
 
「ええ、卓也君に連絡を取りたいと思ったんですが、居場所が分らなくて。ご存知でしょうか」
 
 ふしぎな表情で、老母は利根を見ていたが、
 
「ご存知ないのね」
 
 と、静かに言った。「卓也は死にました」
 
 ——利根は、いつの間にか自分が、
 
「いつですか?」
 
 と訊《き》いているのを、ぼんやりと分っていた。
 
「もう……半年になりますね」
 
 半年。——半年?
 
 利根は笑い出しそうになった。
 
 そんな馬鹿な! 僕はついこの間、野川に会ったんですよ。そしておみやげに、時代遅れの〈ベルリンの壁〉をもらったんですよ!
 
 しかし、何も言わなかった。
 
「呆《あつ》気《け》なくね、本当に」
 
 と、老いた母親は言った。「そのとき、私も髪がいっぺんに白くなったんですよ」
 
 その白い髪に、柔らかな日射しが当って、まるで雪のように輝いて見えた。
 
 
 
「——遅い!」
 
 説子は目をつり上げていたが、本気で怒っているわけではなかった。
 
 今日、利根がどこへ行ったか、ちゃんと知っていたからだ。
 
「——会えたの?」
 
 と訊《き》くと、利根は、
 
「うん」
 
 と肯いた。
 
「そう。それで、分ったの、野川さんのいる所?」
 
「いや、分らなかった」
 
「そう……」
 
「遅れてすまない。——出かけよう」
 
 もちろん、説子にも異存はない。
 
 日曜日の午後、待ち合せた二人は、結婚式場を捜しに歩くことにしていたのである。
 
「初めはどこへ行く?」
 
 と、説子は言った。
 
「君が決めてくれ。地下鉄の乗り方は、君の方が得意だろ」
 
 説子は、実のところ、どこからどこへどう回るか、ちゃんと計画を立てていた。
 
「じゃ、二時間で五つ回りましょ」
 
「そんなに回れるのかい?」
 
「途中、気に入った所があれば、詳しく見せてもらうのよ。予約の状況も聞いてからね」
 
 二人は、まず地下鉄へと向った。
 
 ——説子は、利根がどこかふさぎがちなことに気付いていた。
 
 確かに、あの白いコートの女が目の前で射殺されたという奇妙な事件に始まって、旧友が妻を殺して行方をくらます。しかも、その妻の死体を発見したのが利根自身なのだから、気がふさぐのも当然だ。
 
 でも説子は、それ以上のことを考えるにはあまりに幸せだった。
 
「——私、あなたの部屋へ行けばいい?」
 
 と、地下通路を歩きながら、説子は訊いた。
 
「うん?——ああ、今夜?」
 
「違うわよ」
 
 と、説子は笑って、「結婚したら、ってこと!」
 
「そうか、何だ。——もちろん、あそこで二人は充分暮せる。三人でもね」
 
「そうね」
 
 説子は微笑んだ。「もう少し待ってね。三人か二人か、分るわ」
 
 利根は、説子の手を握った。
 
 説子は少しびっくりした。人目のある所で、こんな風に手をつなぐなんて、したことがない。
 
 当り前の恋人のような、そんなことが、今の説子には嬉《うれ》しかった。
 
 ——式場巡りは、三つめまでは時間通りに運んだ。
 
 四つめの式場は、小規模なホテルだったが、係の女性の感じがいいことと、ちょうどひと月後の週末がキャンセルで空いていたこと。それは魅力的な状況だった。
 
「式場をごらんになりますか?」
 
 と、係の女性に言われて、説子はためらわず、
 
「ぜひ」
 
 と肯いていた。
 
 ——小さなチャペルだったが、ステンドグラスがきれいで、バージン・ロードに七色の光を落としている。
 
「とてもすてき」
 
 説子は正面に立って言った。「——どう?」
 
「うん……」
 
 利根は、小さく肯いて、「悪くないんじゃないか」
 
「一か月後が空いてるって、それ……巡り合せだわ」
 
 本当は「運命だわ」と言いたかったのだが、少し照れてやめた。
 
「じゃあ、ここで予約を入れて行こう」
 
「ええ」
 
 仮の予約、ということで、説子が書類に記入する。
 
「ちょっと、化粧室を」
 
 と、利根が立ち上った。
 
「出られて左の奥です」
 
 と、係の女性が言った。「あ、ここへ、ご住所とお電話番号を……」
 
 
 
 利根は、化粧室で手を洗い、鏡の中の自分を見つめた。
 
「おかしくなんかない」
 
 そうだ。——あの母親の記憶違いだろう。
 
 いや、野川は本当は死んでいないのかもしれない。死んだのは別の人間で……。
 
 もし、あの野川が「生きた人間でなかった」としたら、説子もそれを見ているということだ。
 
 そんなことがあるのだろうか。
 
 利根は顔を冷たい水で洗って、ハンカチで拭《ぬぐ》った。
 
 ——今は説子が幸せに浸っているのだ。何も言い出さずにおこう。
 
 利根は、化粧室を出た。
 
 目の前に、暗いトンネルがあった。
 
 何だ、これは?
 
 振り返ると、化粧室は消えて、そのトンネルが背後にも続いていた。
 
 ひんやりとした空気が触れる。——地下道だろうか。水の滴り落ちる音が、あちこちからシンコペーションのようにずれて聞こえてくる。
 
 ここは何だろう?
 
 そっと手を触れると、ヌルヌルと泥のような土の層がある。
 
 高さは二メートルくらいか。人が一人なら充分に通れるトンネルである。
 
 明りが、ずっと先の方から射していて、それが利根の足下も照らしていた。
 
 どこへつながってるんだ?——大体、どうして突然こんな所に?
 
 しかし、利根はもうさほど驚かなかった。これも幻なのだ、きっと、幻影なのだ。
 
 ゆっくりと進んでみる。——明りの方へと。
 
 そこには出口か何かがあるはずだ。
 
 足下は水たまりが至る所にあって、どうしても靴の中に水が入ってくる。少しすると諦《あきら》めて、水たまりなど気にしないで歩くことにした。
 
 トンネルはゆるくカーブしていて、先まで見通せない。
 
 しかし、いくら行っても、出口は見えて来ないのだった。
 
 そのとき——背後で叫び声が上った。
 
 振り向くと、トンネルの中を何人もの足音が駆けて来る。
 
 暗いトンネルを必死に駆けてくるのは誰だ?
 
 すると——明りの中に、駆けてくる男女の姿が浮かび上った。
 
 若い金髪の男と、茶色い髪の女。男が女の手を引いて、走ってくる。
 
 その後から、初老の紳士が、孫かと思える小さな子を抱いて駆けてくる。その後に、太った婦人が息を切らし、喘《あえ》ぎながら続く。
 
 どれも外国人——ヨーロッパの人間だろうと利根は思った。見た印象だけにすぎないが。
 
 利根はトンネルの壁へ身を寄せた。——走ってくる人々には、利根の方が存在しないらしく、誰もが利根の目の前を駆け抜けて行った。
 
 その後からも家族らしい男女と子供たち。結局、十四、五人が駆け抜けて行った。
 
 そしてその後から、トンネルの中に響き渡る犬の咆《ほう》哮《こう》。そして足音が近付いて来た。
 
 ——軍用犬だ。
 
 激しく吠《ほ》え立てながら、あの人々を追って行く。そして、兵士たち。
 
 機関銃を手にした兵士が十人近く、犬たちの後から駆けて行った。
 
 何ごとだ?——一体これは……。
 
 突然、トンネルの中に銃声が響いた。
 
 悲鳴と子供の泣き声。——機関銃の連続する発射音が、その叫び声を消して行った。
 
 利根は走り出した。
 
 我を忘れて、銃声と叫び声の方へと駆けて行った。
 
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