日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

黒い壁16

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:16 面 影「まあ、若くて回復力がありますから」 と、医師が言った。「しかし、ひと月は入院しないと。途中で無理に動かすと、
(单词翻译:双击或拖选)
 16 面 影
 
「まあ、若くて回復力がありますから」
 
 と、医師が言った。「しかし、ひと月は入院しないと。途中で無理に動かすと、骨が真直ぐつながらないことがあります」
 
「分りました」
 
 利根は医師に礼を言って、「知人から預かった子で、あまりよく知らないのですが」
 
「ま、おとなしくしてますよ、今は」
 
 と、医師は笑って、「我慢強いことは確かですね」
 
 利根は、残業していて、この病院から電話をもらったのである。
 
 美奈に頼まれて名前を出している以上、放ってもおけない。
 
 少し早めに残業を切り上げ、この病院へやって来たところだ。
 
 ——病室の奥のベッドで、少年が雑誌をめくっていた。
 
「失礼」
 
 と、利根は声をかけた。「カール君だね。僕は利根というんだ」
 
 少年が利根を見る。
 
 とても十二歳とは思えない。大人の目をしていた。相手をまず「敵か味方か」に分類する目。
 
 しかし、利根はその少年を見て、なぜか胸をつかれる思いがした。
 
 どこかで、この目を見たことがある、と思ったのである。
 
「美奈ちゃんと同じアパートにいてね」
 
 と、椅子にかけて言った。「君の手術のとき、誰かが君の身許引受人にならなきゃいけないんで、頼まれたんだ」
 
「知ってます」
 
 と、少年は言った。「どうもありがとう」
 
「いやいや、別に大したことじゃない。しかし……君、一人なのか?」
 
「訊《き》かないで」
 
 と、カール少年は言った。「僕のことは放っといて」
 
「そういうわけにもいかないだろ。——誰か身寄りがあれば、呼んであげるよ」
 
「誰もいません」
 
 と、カールは天井を見上げた。
 
「ご両親は?」
 
「死んじゃった」
 
「お二人とも?——事故か何かで?」
 
 カールはしばらく黙っていた。そして、ゆっくりと、
 
「パパは捕まって、どこかで処刑されたって。でも、どこなのか今でも分らない」
 
「分らない?」
 
「まだ、ドイツが一つになる前だったから」
 
 利根は、座り直した。
 
「つまり——君のご両親は東ドイツにいたんだね」
 
「うん」
 
「そして、政府ににらまれるようなことをした……」
 
「馬鹿みたいだ」
 
 と、カールが言った。「あと二、三年、うまくやって生きてたら、殺されることなんかなかったのに」
 
「そうだな……。でも、誰も、あんなことが起るなんて思わなかったんだよ。ベルリンの壁が一夜で壊されるなんて……」
 
 カールの目から急に涙が溢《あふ》れた。
 
「——ごめんよ。何か悪いことを言ったかな?」
 
 と、利根はあわてて言った。
 
「そうじゃないの」
 
 カールは、両手を固く握りしめて、「ママが……」
 
「お母さん?」
 
「ママは……あそこで死んだんだ」
 
「——あそこって?」
 
「〈壁〉だよ」
 
「ベルリンの壁?」
 
「うん。——西へ逃げようとして、撃ち殺されたんだ」
 
 利根の顔から血の気がひいた。
 
 カール少年に残る面影。それは、あの目の前で射殺されてしまった、あの女のものだった……。
 
 
 
「ハルト!」
 
 突然、マルティンがそう叫んで、眠りかけていた栄江はハッと目を覚ました。
 
「マルティン?——マルティン」
 
 マルティンがガバッと起き上った。
 
「——大丈夫?」
 
 栄江は毛布を胸まで引張って、上体を起した。
 
 マルティンは肩で大きく息をつくと、
 
「僕は何か言った?」
 
 と、訊いた。
 
「たぶん……ドイツ語でしょ。夢でも見てた?」
 
 栄江はマルティンの広い背中に手を当てた。
 
「汗かいてるわ」
 
「ええ……。びっくりさせて、ごめん」
 
 マルティンは金髪をかき上げた。
 
「いいのよ。私も、眠っちゃうところだったわ」
 
 と、栄江は言って時計へ目をやった。
 
「九時だわ。——シャワーを浴びて、仕度する」
 
 マルティンは栄江の方へ向くと、肩をつかんで抱き寄せた。
 
「マルティン……。もう……」
 
 唇をふさがれ、栄江は軽く身震いした。
 
 ——時間を忘れてしまいそうだった。
 
 マルティンに抱かれながら、しばしば栄江は、もうこのままどうなってもいい、という気持になった。
 
 これほど、自分が快感に溺《おぼ》れたことはないような気がした。
 
「もう行かないと。美奈が待ってるわ」
 
 言葉は弱々しかった。
 
「もう娘さんは子供じゃない。一人でも大丈夫だよ」
 
「でも——」
 
「泊って行こう。朝まで、こうして離れずにいよう」
 
 力強い腕に抱きすくめられ、押し倒されてしまうと、栄江はもう拒むことはできなかった。
 
 マルティンの重みが、栄江の中から美奈の姿を消してしまった……。
 
 だが——部屋の電話が鳴り出して、二人の間へ割り込んだ。
 
「——誰かしら」
 
「待って」
 
 マルティンは苛《いら》々《いら》と手を伸し、電話を取った。「もしもし」
 
 栄江は、大きく息をついた。
 
 ——これ以上はだめだわ。戻れなくなってしまう。
 
 マルティンが低い声でしゃべっている。ドイツ語だった。
 
 マルティンは、難しい顔で受話器を戻した。
 
「——さっきの方? オットーっていったかしら」
 
 マルティンは肯《うなず》いて、
 
「どうしても話があると言って……。すみません」
 
「いいえ。また会えるわ」
 
 と、栄江は自分からマルティンにキスして、「先にシャワーを使うわ」
 
「ええ、どうぞ」
 
 栄江は、バスローブをまとってベッドを出ると、バスルームへと入った。
 
 鏡の中を覗《のぞ》いて、栄江は驚いた。——これが自分だろうか?
 
 まるで二十歳そこそこの恋する娘のように、顔を上気させ、ごく自然に笑みの浮かぶ自分の姿があった……。
 
 
 
 バーの奥に、オットーの重そうな姿があった。
 
「——いくらでも待つぞ」
 
 オットーがグラスを上げる。
 
「大きな声を出すな」
 
 マルティンは、苦々しげに座った。
 
「ドイツ語でしゃべってりゃ、誰にも分らないさ」
 
 マルティンは、カクテルを注文して、
 
「連絡しない約束だ」
 
 と言った。
 
「分ってる。しかし、食べていかなくちゃな。そうだろう?」
 
 オットーは真顔になって、「——妙なことが起ってる」
 
 と言った。
 
「何のことだ」
 
「あのトンネルのことが、噂《うわさ》になってるんだ。今はまだ、ほんの何人かのことだが、広まると、ジャーナリズムが取り上げるかもしれない。分るか?」
 
「——もう終ったことだ」
 
 と、マルティンは目をそらした。
 
「そうはいかない。僕たちは同罪さ。あのトンネルで、ずいぶん稼いだんだ」
 
 マルティンは、じっとグラスを見つめて、
 
「金なら、あんたにやるほど持っていない」
 
 と言った。
 
「ああ。分ってる。お前は偉い。よく努力して、ここまでやって来た。ドイツ民族の誇りさ」
 
「やめてくれ」
 
 と、首を振る。「もう——何もかも忘れたいんだ。あそこでのことは」
 
「忘れられるもんか」
 
 と、オットーは苦笑した。
 
「忘れようとしてる」
 
「女と寝てか。女は知ってるのか、お前が東ベルリンで何をしてたか」
 
 マルティンはオットーをにらんで、
 
「彼女には何の関係もないんだ。手を出すな!」
 
「分ってるとも。俺の捜してるのは、あのトンネルのことを知ってる連中だ」
 
 マルティンは目をみはって、
 
「オットー……。何をやろうっていうんだ?」
 
「もう、やってるんだ」
 
 オットーは言った。「これが俺の仕事さ」
 
 上着をめくって、オットーは肩から下げたホルスターの拳銃をチラリと覗かせた。
 
 マルティンは青ざめて、
 
「俺には関係ない!」
 
 と、立ち上り、「もう近付くな!」
 
 と叩きつけるように言って、バーから大股に出て行った。
 
 
 
 美奈は、利根の部屋へ行ってみようと思った。
 
 母から電話があったばかりで、三十分は戻って来ないだろう。
 
 急いで部屋を出ると、エレベーターで三階へと下りる。
 
 五階から三階だから、階段でもいいのだが、階段はよく電球が切れていて、暗くて足もとが危い。
 
「帰っててくれるといいけど……」
 
 と、エレベーターの中で呟《つぶや》いた。
 
 三階に着き、美奈は廊下へと出たが——。
 
「——何、これ?」
 
 そこは、暗く、じめじめとした空気の充ちた、見たこともないトンネルの中だった……。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%