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黒い壁20

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:20 逃 走「じゃ、今後の予定はそういうことで」 と、栄江は出版の担当者に言った。「よろしくお願いします」「ご苦労さん」
(单词翻译:双击或拖选)
  20 逃 走
 
「じゃ、今後の予定はそういうことで」
 
 と、栄江は出版の担当者に言った。「よろしくお願いします」
 
「ご苦労さん」
 
 と、もうベテランのその中年の編集者は肯《うなず》いて、「期限を守ってくれるんで助かるよ」
 
「それが取《と》り柄《え》ですもの」
 
 と、栄江は微笑んだ。「それに、マルティンがよくやってくれます」
 
「うん、確かにね」
 
 栄江の傍に、マルティンがおとなしく控えている。体は大きいのに、あまり目立たないのがふしぎだった。
 
「この間、カラオケで歌った、君の演歌は大評判だったぞ」
 
 と、編集者に言われて、
 
「恐れ入ります」
 
 と、マルティンは少し照れている。
 
「じゃ、これで——」
 
 と、栄江が立とうとすると、
 
「そうだ。待っててくれないか」
 
「何かご用が?」
 
「一つね、面白そうな本があってね、詳しいところはよく分らないんで、ザッと読んでみてほしい。いけたら、翻訳したいんだ。今、取ってくる」
 
「はい」
 
 新しい仕事につながるかもしれない。言われる通りにするしかなかった。
 
 応接室で、マルティンと二人になる。
 
「——今日はどうしたんだ?」
 
 と、マルティンが言った。
 
「どう、って?」
 
「今日の約束を延ばすって言って来たから、心配したよ。何かあったのかと思って」
 
「娘がね——ちょっと具合悪くて。それで出るのやめようと思ったのよ」
 
「それで?」
 
「でも、娘が『大丈夫だから、行って』って言うの。『約束を断っちゃだめだよ』って」
 
 と、微笑んで、「子供の方が、ちゃんとしてるわ」
 
「そうか……」
 
 マルティンが手をのばして、栄江の手をつかむ。それを、力をこめて振り切り、
 
「だめよ」
 
「今夜、ぜひ——」
 
「もうだめ」
 
「——どういう意味?」
 
「昨日のことは、いい思い出にして。でも二度とあんなことはないわ」
 
 マルティンは言葉を失った。
 
「誤解しないでね。あなたが悪いんじゃないの。でも、私には仕事がある、美奈がいるの。あなたと、いつまでも続けてはいけないのよ」
 
「よく分らない。——何がまずいんだ?」
 
「さあ……。でも、このままだと、何かとんでもないことが起りそうな気がするの」
 
「とんでもないこと……」
 
 マルティンもまた、考え込んでしまう。
 
「分るでしょ? 仕事の上では、いいパートナーでいたいけど。でも、あなたがそんなことできないと言うのなら、仕方ないわ。あなたの自由にして」
 
 マルティンは、しばらく黙っていたが、
 
「僕は、あなたの役に立つ間は、そばにいる」
 
 と言った。「もし——僕のせいで、あなたに危険なことがあるようなら、去ります」
 
「危険なこと?」
 
 と、マルティンを見て、「何があるっていうの?」
 
「僕にも分らない。ただ——昔の幽霊が、僕を追いかけてくる」
 
 マルティンは真顔で言った。
 
「昔の幽霊?」
 
「そう……。僕がドイツにいたころの……。あの東ドイツの、暗い夜の中にいたころの幽霊だ」
 
「それって、何のこと?」
 
「いや……。いいんだ。忘れてくれ」
 
 マルティンは、何か思い詰めた表情をしていた。
 
 栄江が何か言いかけたとき、ドアが開いて、分厚い原書を手にした編集者が入って来た。
 
 
 
「——今、検査中です」
 
 看護婦にそう言われて、
 
「長くかかりそうですか」
 
 と、利根は訊《き》いた。
 
「たぶん、二、三十分ですむと思いますけどね」
 
「どうも……」
 
 利根は、ホッと息をついた。
 
 病室を覗《のぞ》いて、カール少年のベッドに誰もいないのを見て、一瞬ドキッとしたのである。
 
「美奈ちゃん。僕はちょっと会社へ電話してくる。ここにいてくれるかい?」
 
「うん」
 
「すぐ戻るよ」
 
 利根は病室を出た。
 
 美奈は、カールのベッドのそばの椅子に腰をおろした。
 
 ともかく、まだカールは無事なのだ。
 
「——あんた、あの子の友だちかい?」
 
 隣のベッドのおじさんが言った。
 
「え……。まあ、そうです」
 
 向うは友だちと思っていないだろうけど。
 
「あの子、どこの国の子?」
 
「ドイツ人ですよ」
 
 と、美奈は言った。
 
「ドイツか! てっきりイギリス辺りかと思ってた」
 
 と、そのおじさんは言った。「じゃ、見舞に来てた、でかいのもドイツ人か」
 
 美奈はふと、
 
「でかいの、って……。大柄な男の人ですか、頭の禿《は》げた」
 
「うん、そうそう。でも日本語が上手でね」
 
 美奈は血の気のひくのを感じた。
 
「その男の人……いつごろここへ?」
 
「ついさっきさ。やっぱり、検査って言われて、出てったよ」
 
 ——オットーだ!
 
 オットーが来ている。今、この病院の中にいる。
 
 美奈は立ち上って病室から出た。
 
 利根はまだ戻って来ない。いや、行ったばかりだ。すぐには戻らないだろう。
 
「電話……。どこだろ」
 
 近くでかけようとするだろう。
 
 美奈は急いで廊下を歩いて行った。
 
 少し引込んだ格好で休憩所があり、当然電話がありそうだ。
 
 覗いてみると、二台の公衆電話は、どっちも入院患者が使っていた。
 
 きっと利根もここを覗いて行っただろう。
 
 美奈は、他にないかと歩き出した。
 
 そのとたん、わきから出て来た誰かとぶつかって、美奈は尻もちをついてしまった。
 
「ああ、こりゃごめん」
 
 大きな体が、目の前にあった。
 
「——大丈夫かい?」
 
 と、手を引いて立たせてくれる。
 
 オットーは、美奈を見て、
 
「やあ、君はあのときの……」
 
「どうも」
 
 と、美奈は言った。
 
「カールに会いに来たのか?」
 
「え……。そうですけど……」
 
「今、検査だと言ってたよ」
 
「聞きました」
 
「座って待ってようじゃないか」
 
「あの……ちょっと電話をかけるんで……」
 
「電話? そこにあったよ」
 
「使ってるんです。他の階へ行ってみます。どうも」
 
 急いでオットーから離れる。
 
 階段まで来て振り向くと、オットーの姿はなかった。
 
「どうしよう」
 
 もし、カールが検査から戻って来たら……。
 
 美奈は、必死で利根の姿を捜したが、見付からない。
 
 ——カールのいる病室が見える所まで戻って、オットーがどこかにいないか様子をうかがう。
 
 しかし、忙しく人の行き来する廊下は、いくらオットーが大きいとはいえ、いくらでも姿を隠せる場所だった。
 
 美奈は、汗がにじみ出てくるのを感じて、てのひらをスカートで拭《ぬぐ》った。
 
 
 
 マルティンの携帯電話が鳴った。
 
「——何だろう」
 
 栄江と二人で、出版社のビルを出ようとしているときだった。
 
「もしもし」
 
 と、マルティンは言って、顔がこわばった。
 
 ドイツ語になり、栄江から離れて、ロビーの隅へ行く。
 
 オットーという男だろう。——マルティンの反応が、どこかまともでないものを感じさせて、栄江には気になった。
 
 押し殺した声でしゃべっている。
 
 内容は分らないが、口調からは苛《いら》立《だ》ちと腹立たしさが感じられた。
 
 押し問答の末、マルティンが折れたらしい。
 
 深いため息が出て、電話をしまうと、
 
「——申しわけない。急な用事で」
 
「いいわよ。ここでの用がすんだんだから」
 
「また電話する」
 
「ええ」
 
 マルティンは、足早にビルを出て、一瞬タクシーを拾おうとしたが、道の渋滞を見て、地下鉄の入口へと急いだ。
 
 マルティン……。
 
 ゆうべ、なぜ美奈は「マルティン」と言ったのだろう?
 
 母とマルティンの付合いに怒って、というのとはどこか違う気がする。
 
 栄江は、ほとんど反射的に駆け出していた。そして、地下鉄の入口へと走って行ったのだ……。
 
 
 
 早く。——早く戻って来て。
 
 美奈は、祈るような思いで、廊下の端に立っていた。
 
 オットーの姿も見えないが、どこかにいる。美奈は直感的にそう思っていた。
 
 利根が戻らないので、不安にもなってくる。もしかしてオットーが……。
 
 でも、まさか!
 
 こんなに人がいるんだもの。まさか、こんな所で人を射殺したりしないだろう。
 
「——あのカールって子を待ってるのよね」
 
 と、通りがかった看護婦が声をかけてくれる。
 
「はい」
 
「今、検査終ったから、そのエレベーターで上ってくるわ」
 
「ありがとう……」
 
 美奈はエレベーターの扉の前に行って立った。
 
 少し待つと、チーンと音がして、扉がガラガラと開く。
 
 ストレッチャーにのせられたカールがいた。
 
 すぐに美奈に気付いて、手を上げる。
 
「やあ」
 
 と、美奈は手を振った。
 
 ストレッチャーがエレベーターから押し出されて来る。
 
「いつ来た?」
 
 と、カールが訊く。
 
「さっき。——検査の方は? 辛《つら》かった?」
 
「大したことないよ」
 
 と、カールは強がった。
 
「待ってね」
 
 看護婦がナースステーションへと小走りに急ぐ。
 
「カール」
 
 美奈はカールの方へ身をかがめ、「オットーがいる」
 
 カールが驚いて、
 
「どこに?」
 
「分らないの。でも、きっとどこかに……」
 
 オットーがやって来る。
 
 どこにいたのか、大股に真直ぐやって来る。
 
「逃げろ!」
 
 と、カールは言った。
 
 美奈は、エレベーターの扉が開くのを見た。医者が数人、出てくる。
 
 ——とっさのことで、ほとんど体の方が先に動いていた。
 
 美奈は、扉が閉ろうとしたとき、力をこめて、カールの乗ったストレッチャーを押した。
 
 ガラガラと車輪が音をたて、ストレッチャーがエレベーターの中へ入ると、扉が閉じた。
 
 オットーが、一瞬足を止め、唖《あ》然《ぜん》として美奈を見た。
 
 美奈は駆け出した。
 
「待て!」
 
 オットーが追って来る。
 
 美奈は、〈非常口〉と示されたドアを開け、飛び込んだ。
 
「——キャッ!」
 
 足をとられ、危うく転びそうになる。
 
 美奈は息をのんだ。
 
 そこは——あのトンネルだった。
 
 また来てしまった!
 
 立ちつくす美奈の前に——突然、オットーが現われたのだ。
 
 美奈を追って、あのドアから入ったのだろう。
 
 オットーは、自分がどこにいるのか、わけが分らずキョロキョロしていた。
 
 しかし——すぐに気が付く。そのはずだ。
 
「何だ、これは!」
 
 オットーの右手は拳銃を持っている。
 
「トンネルよ」
 
 と、美奈は言った。「憶《おぼ》えてるでしょ! あなたが人を沢山殺したトンネルよ!」
 
 オットーは怒るよりも混乱している様子である。
 
「どういうことだ!」
 
 オットーの額には汗が光っていた。
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